バッコ博士の構造塾

建物の安全性について本当のプロが綴る構造に特化したブログ

残留変位・残留変形とは?制振・免震建物の応答に与える影響

針金をほんの少しだけ曲げてから手を離すと、針金は元に戻ります。しかし、グイっと曲げてしまうと、手を離しても元に戻らなくなります。 建物の場合も同様で、小さな地震の後では元に戻ったとしても、大きな地震の後では元に戻らないことがあります。変形し…

最小二乗法の計算:公式の導出と手計算でできる簡単な例題

実験や計測によってたくさんのデータが得られます。得られたデータを適切に処理することで特性や傾向が理解できるようになります。 「このデータ、右肩上がりの傾向があるな」というような時に、それを近似できるような関数を求めたくなりますね。適当にエイ…

静的・動的とは?実験・解析・設計における使い分け

老朽化したビルや橋が崩れ落ちた、という海外のニュースを稀に目にします。いろいろと原因はあるのでしょうが、構造物が「重力」に耐えられなかったということです。 ミシミシと音がしただとか、外装材が落下しただとか、その前兆の様なものはありますが、基…

ポアソン比はこう使う!せん断変形と免震ゴムの理解に必須の知識

ゴムでできたブロックを上から押すと、グニッと縦方向に潰れます。そして、横方向にはグニッとはらみ出します。 逆にブロックをつまんで上に引っ張ると、グイっと縦方向に伸びます。そして、横方向にはグイっとお腹が引っ込んだようになります。 押すと膨ら…

ハウスメーカーの耐震性ランキングは無意味:素人にわかれば苦労は無い

家を建てる際、何を優先するかは人それぞれですが、予算に余裕がある人ほど「耐震性」を重視する傾向があるそうです。 地元の工務店ではなくハウスメーカーに依頼する人は予算が高い場合が多いので、結果として耐震性重視の人が多くなります。 当然ハウスメ…

ブレース構造がわかる:大切なのは角度と座屈と接合部

建物を構成する骨組のうち、地面と垂直な部材が「柱」、水平な部材が「梁」です。そして、垂直でも水平でもなく、斜めになっているのが「ブレース(=筋違:すじかい)」です。 ブレースにより地震や風の力に抵抗する構造形式を「ブレース構造」と言います。…

木造住宅購入前に知っておきたい耐震性に関する3つの基本

どうせ家を買うなら地震に強い家がいい、そう考える人も多いです。 ただ、建物を外から眺めていても耐震性が高いかどうかはわかりません。営業担当者に聞いたところで物件のよい点しか言いませんし、本質を理解しているわけでもありません。 では、どうすれ…

マンションの耐震等級:なぜ耐震等級2・3が少ないのか

建物の耐震性を表す指標として「耐震等級」があります。耐震等級は1から3まであり、3が最高評価です。 耐震等級1は現行の建築基準を満たす耐震性を有していることを示しており、耐震等級2ではその1.25倍、耐震等級3では1.5倍の強さを有していることになりま…

座屈がわかる:座屈の種類と座屈荷重・座屈長さの基本を押さえる

通常、ある物体に横から力を加えると横に変形し、縦から力を加えると縦に変形します。 なんだか当たり前のような気もしますが、そうとも限りません。ある条件の下では、縦に押したのに横に曲がってしまうということが起こります。 プラスチックの定規や細長…

ハウスメーカーの実大振動実験から各社の耐震性はわかるのか?

日本には世界最大の「振動台」であるE-ディフェンスがあります。日々いろいろな試験体が運び込まれ、実験が繰り返されています。 E-ディフェンスでは過去に発生した地震動を再現することができます。兵庫県南部地震や熊本地震、東北地方太平洋沖地震であって…

ボイドスラブ(中空スラブ)がよくわかる:その性能と設計と施工

建物の床板(スラブ)は、梁と呼ばれる水平な部材の上に乗っかっています。 梁が支えてくれるおかげで、床自身はあまり厚みがなくても床が抜けたり、たわみが大きくなったりすることはありません。しかし、梁と梁の間隔が広くなり過ぎると床板を厚くせざるを…

剛床とは?剛床仮定は構造計算・構造設計の基礎の基礎

地震に強い建物を造るには、柱や壁をバランスよく配置することが重要です。ただ、いくら柱や壁だけを強くしてもうまくいかないことがあります。 建物の重量の大半は屋根や床に集中しています。そして、地震の力は各部の重量に比例します。 屋根や床に生じた…

塑性断面係数と全塑性モーメント:H形鋼ではなぜ変化が小さいか

建築の力学では、他の分野ではあまり積極的に取り扱わない「非弾性」の範囲についても考える必要があります。 非弾性とは、ある材料を引っ張った後、力を抜いても元の状態まで戻らなくなる状態を指します。材料の特性が変わるため、非弾性を取り扱うにはそれ…

マンションと一戸建ての耐震性能比較:本当に地震に強いのはどっち?

結婚や子供の誕生、その他人生の節目を迎えると、自分の家を購入するかどうか検討する人が増えます。 昔から「賃貸が得か、購入が得か」の議論は尽きませんが、購入するとしたら「マンションか、一戸建てか」というのも大きなテーマです。 結局、どちらの問…

仕口ダンパーとは?お手軽に導入できる制振装置の代表格

地震や強風による建物の揺れのエネルギーを吸収し、揺れ幅を低減する装置を制振ダンパー、あるいは制振装置と呼びます。 戸建て住宅用の小型のものから超高層ビルにも使用できる大型のものまで、いろいろなサイズがあります。最近の大手ハウスメーカーの注文…

鉄筋のかぶり厚さとは?厚ければ厚いほどいいとは限らない

鉄筋コンクリートとは「鉄筋」と「コンクリート」を組み合わせた複合材料です。木や鉄のような単一の材料ではないため、複雑な特性を示します。 RC造がよくわかる:構造設計一級建築士&コンクリート主任技士が解説 また、その組み合わせ方にはいろいろなル…

層間変形角・層間変位がよくわかる:その意味と計算方法と制限値

どんなに硬いものでも、力を加えれば変形します。建物も例外ではなく、物を置いたり風が吹いたりすれば、それに応じて揺れたり変形したりしています。 ただその程度が小さいため、普段生活している分にはあまり気づかないだけです。歩道橋の真ん中で立ち止ま…

壁量計算がよくわかる:4分割法の意味と構造計算との違い

2階建ての木造住宅のほとんどは「構造計算」をせずに建てられている、と言うと驚かれるでしょうか。建設業界ではよく知られていることですが、一般的にはあまり知られていないようです。 とはいえ最近は簡単になんでも検索できるので、住宅購入を検討された…

地震後の通電火災はこれで防げる!スイッチ断ボールは信頼性抜群

今ではめっきり聞かなくなくなりましたが、日本人の怖いものと言えば「地震、雷、火事、親父」でした。地震大国日本では、やはり地震が一番怖かったようです。 そのせいか、「地震に強い家に住みたい」、「絶対に壊れない家にしてください」という要望をよく…

免震レトロフィットとは:最も効果のある耐震補強工法

1981年以前に建てられた建物は、現行の耐震基準に適合していない可能性があります。2016年の熊本地震では、建設年が1981年以前か以後かで建物の倒壊率に大きな差がありました。 建物の耐震性を向上させるには耐震改修を行うしかありません。しかし、実際に工…

談合はなぜなくならない?建設業・ゼネコンとは切っても切れないその理由

一昔前の建設業を取り扱う小説では必ず題材にされる「談合」。建設業と言えば談合、というイメージすらありました。 現在は規制の強化により、その数は大幅に減りました。とはいえ、「どうせまだやってるんでしょ」という印象はぬぐい切れていません。 実際…

弾性・非弾性・弾塑性とは?設計の際に欠かせない視点

建築物の骨組となる部分は主として木、コンクリート、鉄で造られています。地震に対して安全な建物を造るには、これらの材料の特性をよく知っておく必要があります。 材料の最も一般的な特性として「剛性(硬さ)」と「強度(強さ)」があります。建物を変形…

KYBの免震・制振装置のデータ改竄:構造設計者が思うこと

2018年10月、KYBとその子会社のカヤバマシナリーが「免震用オイルダンパー」および「制振用オイルダンパー」の検査データを改竄していることが明らかになりました。 横浜での杭打ちデータ不正、東洋ゴム工業の免震装置データ不正と建築業界で不祥事が続いて…

構造計算とは?真面目に計算した建物ほど弱くなる不思議

世界各地で地震が起きると、その規模に比べて被害が大きいことに驚きます。 地方では技術者が関与していない建物がたくさんありますが、その大半が瓦礫の山に変わります。しっかりと建物を造っていれば助かった命がたくさんあったでしょう。 その点、日本で…

建築学科に入ってよかったこと、建築士になってよかったこと

ゼネコンに技術系で入社する人の大半が建築系か土木系の学科を卒業しています。 両学科は工学部に属していますが、他の機械や電気、情報工学といった学科とは少し趣が違います。特に建築学科は工学部っぽくない要素が強いです。 建築学科を卒業し建設業に就…

SRC造がよくわかる:S造・RC造との違いと耐震性・耐久性

一昔前の高層マンションでは、鉄骨鉄筋コンクリート造(SRC)を採用するケースが多く見られました。近年は新築ではあまり見なくなりましたが、中古マンション市場ではいくつも出回っています。 ただ、鉄骨造(S造)や鉄筋コンクリート造(RC造)の建物に比べ…

二階リビングだけじゃない:耐震性の高い間取りとは

東北地方太平洋沖地震以降、日本各地で地震が頻発しています。住宅を建てる際に、耐震性を気にする方も増えているようです。 これから建てられる家は全て、現行の建築基準法の規定以上の耐震性を有することになります。近年の地震被害の状況から見て、人命保…

制震テープの効果は?構造設計のプロが本当の性能を徹底解説

世の中にはいろいろな種類の制振ダンパーが出回っていますが、その中でも異彩を放っているのが「制震テープ」です。 制震テープ単体では制振ダンパーとは呼べません。耐力壁にこのテープを貼り付けることで、ただの耐震の壁が制振の壁へと変化するのです。 …

小屋裏収納(ロフト)と中間階収納(蔵):耐震性が高いのはのどちら?

敷地ごとに建てられる建物の面積は決まっています。各部屋の面積は大きく取りたいけれど、収納もたくさんほしい、多くの人が悩むところです。 そんな悩みを解決してくれるのが「小屋裏収納」や「中間階収納」です。天井高1400mm以下の空間は床面積に算入され…

長周期地震動階級とは?超高層ビルへの影響を考慮した新しい指標

地震の大きさを測る指標はいろいろあります。地震の加速度や速度、マグニチュードなど、巨大地震発生後には多様な数値がメディアを賑わせることになります。 その中でも、「震度」が一番馴染みのある指標ではないでしょうか。他の指標と違い、物理的な意味よ…