鉄筋コンクリートとは「鉄筋」と「コンクリート」を組み合わせた複合材料です。木や鉄のような単一の材料ではないため、複雑な特性を示します。
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また、その組み合わせ方にはいろいろなルールがあります。最低限入れなくてはならない鉄筋の量や、鉄筋とコンクリートの位置関係など、細かに決まっています。
それは、鉄筋単独、あるいはコンクリート単独では欠点のある弱い材料だからです。欠点を補うためには、両者を適切に組み合わせる必要があります。
今回は鉄筋の位置に関する規定である「かぶり厚さ」について見てみましょう。
かぶり厚さとは
鉄筋コンクリート造の建物では、コンクリートの構造体の中に鉄筋が埋め込まれています。外部に鉄筋が露出していることはありません。
このとき、鉄筋の外側からコンクリート表面までの最短距離を「かぶり厚さ」と言います。鉄筋の中心からではないことに注意が必要です。
かぶり厚さを確保する一番の目的は、鉄筋を錆から守ることです。コンクリートは強アルカリのため、鉄筋が酸に侵されることがないのです。
しかし、コンクリートは二酸化炭素と反応することで徐々にアルカリ性を失っていきます。これを「中性化」と言い、この中性化が内部の鉄筋まで達すると鉄筋が錆び出すことになります。
もし錆が発生すると、材料の特性が変わることで鉄筋自体が弱くなってしまいます。また、錆による鉄筋の膨張によって表面のコンクリートを剥がしてしまうこともあります。
コンクリートの中性化は表面から徐々に進行するので、かぶり厚さをしっかり確保することで鉄筋が錆び出すのを遅らせることができます。
かぶり厚さの規定
かぶり厚さはどこでも一律ではありません。使用する部位や使用条件によって細かく規定されています。
部位による違い
RC造(鉄筋コンクリート造)では基礎、床、柱、梁、その他全ての構造体が鉄筋コンクリートにより造られます。そして、その部位ごとに必要となるかぶり厚さは違います。
一番かぶり厚さが小さくていいのは地震の力を負担しない部材です。床や雑壁が該当し、最低でも20mm以上のかぶり厚さが必要です。
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次は柱、梁、耐震壁です。これらの部材は地震の力を負担するため、耐震性を確保するために重要な部材です。かぶり厚さは30mm以上ですが、土と接する場合は40mm以上となります。
建物の基礎は最もかぶり厚さが必要となる部位で、最低でも60mm以上となっています。
使用状況による違い
その部材が屋内にあるか屋外にあるかでも必要となるかぶり厚さは変化します。風雨に晒される屋外の方が厳しい状況になるということでしょう。
ただ、中性化は二酸化炭素によって進行しますが、二酸化炭素の濃度は屋内の方が高いです。そのため、必ずしも屋外の方が中性化に対して厳しい状況になるとは限りません。
屋内・屋外の違いだけでなく、土と接するかどうかでもかぶり厚さは違います。
土の成分はどうなっているかわかりません。もしかしたら比較的強い酸性を帯びている可能性もあります。そのため基礎のかぶりは大きくなっているのです。
施工誤差を含んだ数値
建築基準法に規定されているのは最低限の値です。つまり、それより1mmでも鉄筋が外側に寄ってしまうと基準を外れることになってしまいます。
しかし実際に工事現場を見学すれば、そんなmm単位の精度を期待できるような作業環境でないことがわかります。
鉄筋の重量は、ものによっては一本20kgを超えます。縦横複雑に交差するような個所もあり、それを一本一本手作業で配置していくのはとても骨が折れます。
そこで、施工による誤差が多少出ても基準を外れないよう、10mm余裕を持って設計を行います。これを「設計かぶり厚さ」と言います。
錆防止以外の効果
もし、錆の問題が無ければかぶり厚さは気にしなくてもいいのでしょうか。例えば、ステンレスのように錆びない補強材料を使用すれば、かぶり厚さをもっと小さくできるでしょうか。
答えはNoです。かぶり厚さを確保しなくてはならない別の理由があるからです。
先にも述べたように、鉄筋コンクリートは鉄筋とコンクリートの複合材料です。両者がうまく一体化するには条件があります。
一体化するということは、鉄筋とコンクリートの間で力を伝達できなくてはいけません。その際、鉄筋のかぶり厚さが小さいとコンクリートが剥がれてしまうのです。
特に使用する鉄筋が太いとその程度が大きいので、細い鉄筋に比べてかぶり厚さをしっかりと確保しなくてはなりません。錆を防止するために必要なかぶり厚さよりも大きくなることもあります。
かぶり厚さが大きいことで生じる問題
ここまで読まれた方は「かぶり厚さはできるだけ大きい方がいい」と思われたかもしれません。
しかし、何事にも適正値というものがあり、大きければいいとは限りません。かぶり厚さが大きくなることによる弊害について説明します。
耐力低下
コンクリートは引っ張られる力に弱いため、鉄筋により補強されています。
柱や梁が曲がるとき、断面の外側に近いところほど大きく力を負担します。そのため、鉄筋はできるだけ外側に入れた方が効果的です。
ほとんどの構造設計者はギリギリまでかぶり厚さを小さくし、鉄筋が有効に働くようにしています。
ひび割れ幅の増大
コンクリートのひび割れは建物の耐久性を低下させることがあり、できるだけ避けたい事象です。
ひび割れはコンクリートが引っ張られることで生じますが、ひび割れの進展を止められるのは鉄筋です。コンクリートが負担できない引っ張る力を、鉄筋が負担してくれるからです。
ひび割れは部材の表面から内側に向かって進展します。そのため、鉄筋が外側にあるほど早めにひび割れを止めることができます。
耐久性を高めるためにかぶり厚さを大きくしたつもりが、逆にひび割れ幅を大きくして耐久性を低下させることにもなりかねません。
部材サイズ
建築デザイン上、「薄い床」や「細い柱」が求められる場合があります。
どんな部材であっても、鉄筋を使用しない「ただのコンクリート造」というのは法律上認められていません。そのため、薄くても細くても、絶対に鉄筋を入れる必要があります。
その場合、最小の部材サイズはかぶり厚さによって決まってしまいます。最小のかぶり厚さよりも大きめに確保したいと構造設計者が「我がまま」を言うと、意匠設計者は困ってしまいます。
建物は構造だけでできているわけではないので、デザインとの折り合いをつけた設計も必要です。