バッコ博士の構造塾

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コンクリートのひび割れは当たり前?マンションも戸建住宅も

念願の新居を購入し、ウキウキした気分の入居の日、建物にひび割れが入っているのを見つけたらどうしましょう。

 

□■□疑問■□■

コンクリートの壁や基礎をよく見てみると、そこかしこにひび割れが入っています。強度や耐久性に悪影響はないのでしょうか。

 

□■□回答■□■

悪影響があるものもありますし、ないものもあります。設計や施工のミスによって生じたものもあれば、コンクリートの特性上仕方がないものもあります。どうしても気になるという方は専門家に相談したほうがいいでしょう。

コンクリートのひび割れに関しては、非常によく整備された情報が簡単に検索できます。ここでは、構造設計者から見たひび割れについてお話します。

 

 

なぜ「鉄筋」コンクリートか

「圧縮に強く、引っ張りに弱いコンクリートを鉄筋で補強をする」、よく見られる鉄筋コンクリート造の説明ですが、まさにその通りです。しかし、もう一言追加しておきたいことがあります。「だから、コンクリートがひび割れても影響はありません」と。

 

建物には重力であれ地震力であれ、様々な力が作用します。その力は、ある部分を引っ張り、ある部分を圧縮します。

 

「鉄筋」コンクリートが発明される前は、引っ張る力が生じないよう建物形状を工夫したり、非常に厚い部材にすることで若干であれば引っ張る力に耐えられるようにしたりしました。

 

だから昔のコンクリート造の建物はドーム形状であったり、壁が異様に分厚かったりします。素晴らしい建築もたくさん残っていますが、設計の自由度が現代と比べて著しく低かったこともうかがえます。

 

それほどコンクリートにとって「引っ張る力」というのは大きな弱点でした。しかし「鉄筋」による補強というアイディア以降、コンクリートはこの弱点から解放されることになります。

 

鉄筋コンクリート造といっても、その大半はコンクリートです。鉄筋が通常よりも多く入った柱であっても、鉄筋が占める割合は3%程度です。鉄筋の強さは、通常のコンクリートの圧縮に対する強さの10倍、引っ張りに対しては100倍以上になります。わずかな割合であっても十分な補強効果があります。

 

しかし、コンクリートがひび割れる前は、断面積が圧倒的に大きいコンクリートが力の大部分を負担します。そのため、鉄筋の補強効果はコンクリートがひび割れた後に本格的に発揮されるのです。

 

「引っ張る力は鉄筋が負担する」ということはすなわち「ひび割れても仕方がない」という設計を行っていることと等価なのです。

 

構造設計時に見込まれるひび割れ

ひび割れは建物の美観や耐久性を損ねる場合があります。施主や意匠設計者の意向を酌んで、ひび割れの制御を行うことも構造設計者の重要な仕事です。

 

ひび割れの誘導

ひび割れは、ほぼ避けようがない現象です。コンクリートはどうしても乾燥により収縮してしまうため、地面に固定されている限りはどこかが引っ張られてしまうのです。

 

特に柱のすぐ傍の外壁は要注意です。柱部分と壁部分で断面が急激に変化するため、力が集中して割れやすい部分です。そのため、壁にあえて弱い部分をつくり、ひび割れが入る位置を限定します。

 

「ひび割れ誘発目地」と呼ばれるもので、部分的に壁を薄くしています。施工後しばらくすると、そこにひび割れが高い確率で入ります。ひび割れが入ったのを確認してからそこをコンクリートで埋めてしまえば、景観上も性能上もまったく問題ありません。

 

特殊な材料を使用することでコンクリートの収縮を低減させることは可能です。鉄筋を大量に設置することでひび割れが入りにくくなります。しかし、ひび割れを狙った個所に入れることにより、安価で確実に対処できるのです。

 

ひび割れ幅の制御

重力に対し、鉄筋が許容できる限界まで目一杯力を負担させるような設計にすると、その部材には幅0.3mm程度のひび割れが生じることになります。逆の言い方をすると、ひび割れ幅を0.3mm程度に抑えられるよう、鉄筋が許容できる限界値を設定したということです。

 

0.3mmというのは、雨水の侵入等による鉄筋の劣化がそれほど生じないであろう数値です。これ以上のひび割れ幅は、建物にいろいろと悪影響を及ぼします。もちろん、ひび割れ幅が小さいに越したことはありません。

 

外部に接するような部材であれば「鉄筋を増やしてひび割れ幅を0.2mm以下にしよう」、人目につく部分だから「断面を大きくしてひび割れが入りにくくしよう」といった対応をします。

 

いずれにせよ、ひび割れが入ることを前提として対応を行うことで問題が生じにくくなります。ひび割れが入らないようにいろいろな制限を課すと、コストが増加するばかりでなく、魅力のない建物になってしまいます。

 

ひび割れを見つけたら

ひび割れの全てが悪ではありません。とても気になることはわかりますが、構造設計者としては折り込み済みかもしれません。楽観的過ぎるのも問題ですが、過度に気にかけないようにしましょう。

 

検索をかければかなり詳細な情報が出てきます。多くの場合は不安が解消されるでしょう。あるいは適切な対応がわかるでしょう。いずれにせよ不安があれば専門家に相談するのが一番です。

 

ひび割れに関して検索をかけると、ハウスメーカーや工務店と揉めている事例が多く見受けられます。十分な信頼関係が築けていれば「こういうものか」と納得することができますが、不信感がある場合は全て言い訳に聞こえるでしょう。

 

もちろん設計ミス、施工ミスはあります。契約前は都合のいいことばかり言って、悪いことにはあまり触れないものです。事前に十分に確認を行い、納得できてから契約するようにしましょう。