バッコ博士の構造塾

建物の安全性について本当のプロが綴る構造に特化したブログ

読者からの相談事例②:「この家どう思います?」

家の耐震性というのは通常、日常生活の中で感じることはできません。いざ地震や台風といった災害が起こったときに初めてわかるものです。

 

「どうせわからないのだから」と気にすることなく過ごせる方もいる一方、「本当のところはどうなのだろうか」と不安になる方もいます。

 

自身や家族の命にかかわることですから、一度気になってしまうとなかなか頭から離れないのでしょう。そのためか、「この家は大丈夫ですか?」「この家をどう思いますか?」といった漠然とした質問が寄せられることも多いです。

 

ここではあえてこの漠然とした質問に関する回答をしてみましょう。

 

 

この家は大丈夫か?

いきなりですが、まず初めに言っておきます。

 

これから家を新築しようとしているのであれば「あなたの家は大丈夫です」。

 

どこの工務店・ハウスメーカーで、どんな材料で、どんな構法で、どんな間取りで家を建てようと、基本的に地震によって人命が損なわれる可能性は低いです。

 

調べれば調べるほど不安を煽るような情報が出てくると思います。でも安心してください。

 

完璧ではないにしても、現行の建築基準はなかなかよくできていると思います。決められたルールに従ってさえいれば、構造に関する知識が無くてもそれなりの耐震性を確保することができます。

 

この家をどう思うか?

ここでもいきなりですが、こう言って差し支えないでしょう。

 

おそらく「最高とまでは言えませんが、そんなに悪くないでしょう」。

 

もちろん現行の建築基準法を守っているのは最低条件ですが、規定をクリアしてさえいればその時点で「そんなに悪く」ありません。やはり被害が出るのは基準を満たしていない古い建物です。

 

しかし「最高」、つまり「改善点が無い」ということもあり得ません。できればここに壁を入れたかった、二階の柱の位置をずらしたかった、制振装置を入れたかった、というようにいくらでも「より耐震性を高める方法」は挙げられます。

 

プランが正方形で、1階と2階の壁や柱の位置が全て一致していて、壁がやたらに多い家、というのが耐震性からすれば最高ということになります。ただ、それが住む人にとっての最高の家ということにはなりませんよね。

 

家づくりに関して言えば、構造設計者の役割は「ここを少し変えるだけで耐震性がこんなにも上がりますよ」という提案・アドバイスをすることだと思います。耐震性だけでなく、トータルとしての家の価値の最大化です。

 

そのためにも、プランが固まったあとではなく、その前の段階で構造設計者に参画してもらいましょう。すべてが決まってしまった後にできることは限られてしまいます。

問い合わせ

 

「具体的に」この家をどう思うか?

「この家どうですか?」と相談される家は基本的に建築基準法の規定を満たしているので、すでに書いたように大きな問題はありません。とはいえ、もし自分の家だったらこうするよな、という部分が少なからずあります。

そんなに窓は必要ですか?

「窓は多ければ多いほど、大きければ大きいほどいい」とでも言わんばかりに窓を設けている家があります。確かに開放感は出るでしょう。

 

ただ、家具の配置がしづらかったり、断熱性能が低下したりします。また、耐震性も下がってしまいます。そんなに窓は必要でしょうか。

 

なにも「窓をやめて壁にしてしまえ」と言っているのではありません。「壁量計算」という簡易な方法では考慮されませんが、掃き出し窓を腰窓にするだけで耐震性は高まります

壁量計算がよくわかる

 

図面を重ねて見てみましたか?

建物の上下階のバランスというのは重要です。しかし「バランス」というのは感覚的なもので、経験がないとなかなか判断が難しいものでもあります。

 

そこでぜひ試してみてほしいのが、「1階の図面と2階の図面を重ねて、電灯で透かしてみる」ことです。パッと見て、「柱や壁の位置がそれなりに上下階で一致しているかな」という印象であれば、そうバランスも悪くない可能性が高いです。

 

好き勝手にプランニングすると1階と2階にある柱と壁の位置がほとんど重ならないということもあると思います。意識しすぎるのも大変ですが、思い出したときにはやってみてください。

 

何もしないより耐震性が高まる可能性が高いです。

 

建築年代

これまで新築の話ばかりしてきたので、すでに住んでいる家について知りたい方に向けても少し書いておきます。

 

建物の耐震性の一般的な傾向を判断するのにもっとも便利なのが「建築年代」です。「その家がいつ建てられたのか」ということがわかれば「最低限このくらいの性能があるな」という当たりがつきます。

 

建築基準法はこれまで大きな地震があるたびに改正され、より厳しい基準を設定してきました。そのため新しい建物ほど耐震性が高くなる傾向にあります。

耐震基準の変遷

 

建築年代の一番大きな区切りとして1981年があります。1981年5月以前を「旧耐震」、1981年6月以降を「新耐震」と言って区別しています。

 

「新耐震」であれば基本的に人命が損なわれる可能性は低いです。耐震補強の補助金は基本的に「旧耐震」に対して出されていることからもそれがうかがえます。

RC造マンションの耐震補強

木造住宅の耐震補強

 

また、2000年以降の建築であれば「新耐震」よりも新しい「新・新耐震」と呼ばれたりもします。壁の配置や金物の仕様が改善されており、2016年の熊本地震でも「新耐震」に比べて被害が抑えられており、地震後もそのまま住み続けられるものが大半でした。

熊本地震の被害状況から考える木造住宅の耐震性

 

これから新築する場合は必然的に「新・新耐震」となります。どこの誰がどう建ててもある程度安心して住まうことができます。

 

1981年以前に建てられた家にお住まいの方は一度耐震診断をしてもらうことをお勧めします。