古い建物ほど地震時に大きな被害を受けます。古くても地震に強い建物はありますが例外的で、基本的には新しいものほど強い傾向にあります。
建物を新築する際は現行の耐震基準を満足する必要がありますが、建築基準法が改正されるたびに要求性能は高くなってきました。古い建物と今の建物とでは守るべき耐震基準のレベルが全く違います。
建築基準法は「守るべき最低限の基準」を示しているので、建築年代が分かればその建物が有する耐震性能の下限値を知ることができます。耐震改修が必要かどうか、立て直したほうがいいのかの貴重な判断材料になります。
ここでは木造住宅の耐震基準の変遷を見てみましょう。建築年代によりどのくらい耐震性能が違うかということとともに、耐震工学がまだまだ不完全であることがわかります。
最後にわかりやすいよう一覧にしていますので、手っ取り早く知りたい方はそちらをご覧ください。
- 市街地建築物法:大正9(1920)年
- 建築基準法制定:昭和25(1950)年
- 建築基準法改正①:昭和34(1959)年
- 建築基準法改正②:昭和46(1971)年
- 建築基準法改正③:新耐震基準、昭和56(1981)年
- 建築基準法改正④:新・新耐震基準、平成12(2000)年
- 改正総まとめ
市街地建築物法:大正9(1920)年
日本での建築に関する最初の法律が『市街地建築物法』です。木造については高さ50尺以下、階数3階以下という制限が設けられました。
しかし、防火と衛生の規定が主目的であり、耐震に関しては「木造3階建てには筋かいをいれる」ということしか規定されていませんでした。また、どれだけの量を入れるかも規定がありませんでした。
大正12(1923)年に関東大震災が起こると、その翌年に市街地建築物法は改正されました。耐震関連の基準が追加され、木造建物には筋かいの設置が義務付けられましたが、量的な規定は相変わらずありませんでした。
しかもこの法律、「市街地」というだけあって対象は東京などの6大都市限定でした。地方都市や農村には一切適用されません。
しかも戦時中は耐震関連の規定が免除されていたようです。「大工さんの勘」によって建てられていた時代がまだまだ続いていたと言えます。
建築基準法制定:昭和25(1950)年
戦後『建築基準法』が制定されることで国内全ての建物を対象とする法律ができました。
昭和23(1948)年の福井地震の調査結果をもとに、木造建物に必要な壁の量が数字として具体的に示されています。現代にまで続く「壁量計算」の始まりです。
しかし、現在の基準と比べると半分程度の量です。また、セメントや鋼材が高価だったこともあり、基礎や部材の接合部の強度もかなり劣るものと思われます。
建築基準法改正①:昭和34(1959)年
制定から9年、一回目の法改正が行われました。
これまでは重力のように常に作用する力(長期)と地震のように短い時間しか作用しない力(短期)とで同じだけの余裕度を持たせた設計をしていましたが、合理的でないとして変更しています。その代わり、設計時に想定する地震の力を大きくしてバランスを取っています。
木造建物については必要な壁の量が改定され、旧基準の1.5倍程度まで増えました。現在の基準と比べるとまだ少ないとはいえ、大幅な増加です。
また、耐震要素である「木ずり壁」の扱いが大きく変わっています。耐震要素の強さを表す「壁倍率」がこれまでの3倍、あるいは6倍になりました。
実験などによる裏付けがあったのかもしれませんが、法律の改正前は耐震性が低いという評価だった建物が、法律を改正しただけで耐震性が高い建物に変わるというのも奇妙な話です。
建築基準法改正②:昭和46(1971)年
昭和43(1968)年の十勝沖地震を受けて、二回目の法改正が行われました。
この時は壁量の規定に変更はありません。せん断補強筋の規定など、鉄筋コンクリート造に関するものが主でした。
木造に関するものとしては基礎の記述が変更されています。「一体のコンクリート造または鉄筋コンクリート造の布基礎」とすることが規定されました。
いまや鉄筋の入っていない普通のコンクリートの使用は建築基準法違反ですが、当時はようやく基礎が石からコンクリートへと変わったものと思われます。
建築基準法改正③:新耐震基準、昭和56(1981)年
昭和53(1978)年の宮城県沖地震を受けて、三回目の法改正が行われました。おおむね10年ごとに見直されていることになります。
耐震設計法の抜本的な見直しが行われ、「中小地震では建物を損傷させない、大地震では人命を保護する」という考え方が導入されました。必要な壁の量が改定され、現在と同じ値になっています。
大幅に耐震性能が向上したことから、この改正以前の建物を「旧耐震」、これ以降の建物を「新耐震」と呼びます。新耐震の建物の場合、耐震改修を行う際に補助金の対象とならないことが多いです。
また、耐震要素の評価(壁倍率)が軒並み引き下げられています。「必要な壁の量の増加」に加えて「壁倍率の引き下げ」により、改正前に比べ実際に必要な壁の量はさらに増えることになります。
特に昭和34年の改正で大幅に評価が引き上げられた「木ずり壁」は1/3倍の評価となり、元の水準に戻されました。これまでとは壁倍率の評価方法が変わったためですが、それにしても振れ幅が大きいです。
法律に何と書いてあろうが、すでにある建物の本当の耐震性は変化しません。構造設計者は法律の文言とその裏にあるデータをよく理解しないといけません。
ちなみに、軽い屋根の平屋だけは必要な壁の量が減っています。ただし、壁倍率の引き下げを考慮すると改正前より建物は強くなります。
建築基準法改正④:新・新耐震基準、平成12(2000)年
平成7(1995)年の兵庫県南部地震を受けて、四回目の法改正が行われました。新耐震の建物は相対的に被害が少なかったため、必要な壁の量の改定はありません。
その代わり、以下の3つの項目が追加されました。
基礎が強くなり、耐力壁がバランスよく配置され、柱が抜けないよう接合金物も強くなります。壁の量は増えていませんが、「新・新耐震」と呼ばれることもあります。
実際、2016年の熊本地震でも新・新耐震の建物は被害が少なかったです。震度7が二回という過去に例を見ない地震でしたが、過去の大地震とは違い建築基準法の改正には至りませんでした。
なお、これまで耐力壁は地震の力の2/3しか負担しておらず、残りの1/3は間仕切壁などの耐力壁以外の要素が負担していると考えていました。実大建物で実験すると、どうやら耐力壁以外も結構効果があるということがわかっていたからです。
しかしそれでは本当に1/3を負担できるか不確定な部分が大きいので、地震力のすべてを耐力壁が負担するということに変更しました。確かにそのほうが安心です。
「では必要な壁の量は1.5倍にならないとおかしいのではないか」という疑問が生まれるところですが、「壁の強さを一律1.5倍にする」ということで乗り切っています。地震の力が1.5倍、壁の強さも1.5倍、結果として壁の量を増やす必要はありません。
なんだか学者や役所が数字をいじくって変なことをしているように思えなくもありませんが、ちゃんと根拠はあるようです。ここらへんは別の機会に紹介したいと思います。
改正総まとめ
大地震のたびに建築基準法は改正されてきました。要求水準はどんどん上がってきており今後も変わらないとは言えませんが、これまでの流れを整理・理解しておくことは重要でしょう。
必要壁量の変遷、建設時期による検討項目の違いを一覧にしておきます。参考にしてください。
なお、品確法の住宅表示制度での耐震等級を取得している住宅は現行の建築基準法以上の検討が行われています。