バッコ博士の構造塾

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自分でできる木造住宅の耐震補強:DIYで命を守れるか

1981年以前の建物は、現行の耐震基準を満たしていない「既存不適格」の物件が多くあります。また、2016年の熊本地震では2000年以降の最新の基準を満たした建物でも倒壊した事例があります。

 

□■□疑問■□■

自分で木造住宅の耐震補強をしたいと思っています。なにか注意すべき点はあるでしょうか。

 

□■□回答■□■

木造住宅の耐震性は耐力壁や筋違の多寡で決まります。しかし、新たに壁や筋違を設けるのは簡単なことではありませんし、単に部材を追加しただけでは耐震性は向上しません。本当にその部材まで地震の力を伝えることができるか、部材が負担する力を基礎・地盤に伝えることができるかという検証が必要です。

建築士や工務店に頼らずに補強を行いたい場合は、もっと簡易な方法で済ませた方がいいでしょう。しかし、簡易になる分、耐震性の向上の度合いが小さくなることは理解しておきましょう。

 

 

木造住宅の耐震性

木造住宅を新築する際、建築基準法に定められた耐震性を有するようにしなくてはなりません。その最も簡単な検証方法は「壁量計算」と言われるもので、文字通り「壁の量がどれだけあるか」を確認します。

 

より精度の高い検証方法として「構造計算」がありますが、ほとんどの木造住宅では壁量計算のみ行われています。構造計算は専用の解析ソフトを用いて行うため手間とコストがかかりますが、壁量計算は電卓1つあれば簡単に行える検証です。

木造住宅に構造計算は必要か?計算よりも大事なこと

 

これは「木造住宅は壁の量さえ確保しておけば耐震性に問題ない(場合が多い)」ということを意味しています。事実、壁量計算で耐震性を検証した建物であっても、2000年以降の新しい建物は大地震に対してもほとんど倒壊していません。

 

古い建物であっても壁の量が十分にあれば耐震性は確保されています。ただし、見た目にしっかりとした壁であっても、実際に地震の力に耐えられる壁であるとは限りませんので注意が必要です。

 

耐震性の有無はとにかく壁の量で決まります。もし現状で壁の量が確保できていないなら、壁を新設して壁の量を増やす、これが耐震補強の基本になります。

 

耐震補強のコスト

日本木造住宅耐震補強事業者協同組合の行ったアンケートによると、平成18年4月から27年6月の耐震補強工事の工事費の平均は約150万円、中央値は約130万円だったそうです。

 

補強工事の内容としては、そのほとんどが壁の補強です。外側から補強するには外装材を剥がすなど大変なため、内側から工事する場合が多いです。他にも、壁の補強に合わせた基礎の補強工事や、屋根を軽量な材に葺き替える工事もあります。

 

家族の安全のため、大切な資産を守るため、そう考えるとこれだけのコストをかけてでもやる価値があるのかもしれません。しかし、決して安い金額ではありません。耐震診断をして望ましくない結果が出ても、補強工事に踏み切れない家庭が多いのも頷けます。

 

当然お金もかかりますが、工事自体を負担に感じる人もいます。大半が室内側からの工事になるので、何日間も家の中で工事が行われることになります。多少なりとも我慢が必要になるでしょう。

 

これだけの手間暇とお金をかけて、建物が使いやすくなるわけではありませんし、きれいになるわけでもありません。むしろ使いにくくなる場合もあります。

 

お金だけでなく、いろいろなものを犠牲にして得られるものは、この先起こるかどうかわからない地震に対する安全性だけです。耐震補強工事が進まない理由がよくわかります。

 

耐力壁新設時の注意点

新築時に高い耐震性を有するように設計するのはさして難しいことではありません。しかし今ある建物を補強するとなると、いろいろな制約の中での設計となり、難易度は高くなります。

 

基本的に木造住宅は壁さえあれば強くなるわけですが、そうではない場合もあります。下手な補強をすると逆に耐震性を下げてしまうという悲惨な結果になります。

 

「壁を補強する・追加する」ということは、そこに新たに硬くて強い部材ができるということです。硬くて強い部材はその分大きな力を負担することができるわけですが、力を負担するにはそこまで力を伝達する必要があります。

建物の力の流れを把握する:せん断・軸・曲げによる応力の伝達

 

新しく設置された壁に接続する床、梁、柱には補強前よりも大きな力を負担しなくてはならなくなります。周辺の部材に対して過度な補強を行うと、補強した部位の周辺から壊れ出すことになりかねません。

 

また、基礎も同様です。壁から伝わってくる力が大きくなれば、基礎も補強してやらなくてはいけません。基礎は鉄筋コンクリートでできているため、木造の部材に比べて補強も大変です。

 

新築では強くて硬い部分に力を集中させるような設計もあり得ますが、こと耐震補強に関しては力を分散させるような設計の方が適していると言えます。元々の建物が弱いから補強をしているのであり、力が集中する部分を作ってしてしまうと建物が耐えられなくなってしまいます。

 

壁を全体的に足すことができればいいですが、実際には部分的に成らざるを得ないでしょう。元々の部材との硬さと強さのバランスに注意して補強計画を立てなくてはなりません。

 

自分でできる耐震補強

よほど知識や経験のある方でないと「自分で壁を増設しよう」とは思わないと思いますし、仮に思いついてもやらない方がいい場合が多いと思います。もっと簡単にできて、それなりに効果がある方法がいいでしょう。

 

個人的にお薦めなのが「仕口ダンパー」と呼ばれる小さな装置の設置です。金属片の間に「粘弾性体」という振動のエネルギー吸収をするゴムのような材を貼り付けたもので、比較的簡単に取り付けられます。

制振・制震ダンパーの種類と特徴:構造設計者が効果を徹底比較

 

もちろん壁の増設に比べると一箇所当たりの効果は限定的ですが、建物全体に万遍なく設置すれば十分な効果を発揮します。全壊を半壊に、半壊を軽微な損傷に、軽微な損傷を無被害にすることも可能です。

 

また、小型の装置の分散配置になるため、力が集中して既存の建物を傷めつけるようなことはありません。鉄や木に比べて粘弾性体は柔らかく、これも建物の負担を小さくすることに繋がります。

 

微小な振動からエネルギーを吸収するので、地震時だけでなく強風の揺れなども軽減されます。強風による軋み音が気になるという方にもいいかもしれません。

 

いくつか製品化されたものがありますが、下図のような左右対称のタイプの方がいいでしょう。柱と梁の中心からずれて取り付ける偏心したタイプもありますが、中心を合わせる方が理にかなっています。

 


カネソウ 仕口ダンパーQMタイプ

 

耐震補強しなくても命は守れる

大金をかけて耐震補強するだけが家族や自身の命を守る方法ではありません。家具の固定だけでもかなり効果があります。

 

また、大抵の人は日中学校や仕事に出ており、家で過ごす時間はそれほど長いものではありません。家にいる時間の大半が睡眠時間という人も多いでしょう。寝ているときの安全さえ確保できるなら、家屋倒壊による人的被害は大幅に低減できます。

 

起こるかどうかわからない地震に備えて耐震補強に大金はかけられないという人は、下記の方法を試してみてはどうでしょうか。

 

2階で寝る

最も簡単で最も安上がりな方法が2階で寝ることです。地震被害の写真を検索してもらえばわかりますが、ほとんどの倒壊家屋は1階部分がつぶれてしまっています。2階部分は健全なまま、その上に載っているのが大半です。

 

1階は2階の重量と屋根の重量の両方を負担するため、2階よりたくさん壁が必要になります。しかし古い家では1階に大きな居間を取っているため、十分な壁が確保されていない場合が多々あります。

 

どんなものでも、壊れるときは弱い部分に変形が集中します。その結果、2階は問題無いけれど1階はぺったんこという状況が起こります。

 

こうなると1階に寝ている人は潰されますし、2階に寝ている人はびっくりするかもしれませんが、大して危険はありません。2階で寝れば劇的に危険度は下がります。

 

シェルターベッド

古い大きな一軒家におばあちゃんが一人で住んでいる、田舎ではよくあることだと思います。

 

こうした家では、「耐震性が低く耐震補強は急務だけれど、建物自体が大きいため補強には余分にお金がかかる」、「おばあちゃんが亡くなったあとは誰も住む予定がない」といった理由で耐震補強されない場合がほとんどです。

 

2階で寝ようにも足腰が悪くて大変だし、どうしたものかといったところです。しかし、そういうときにも安心して眠りにつけるベッドが販売されています。

 

それが「シェルターベッド」です。頑丈な屋根がベッドについており、家屋が倒壊しても寝ている人が守られる構造になっています。防災品を備蓄して置ける棚もついており、最悪の状況でも「命を守る」ことができます。

 


耐震ベッドシェルター「ウッドラック」

 

「建物を守る」ためには耐震補強が不可欠ですが、「命を守る」だけであればもっと手軽にできることもあります。自分が納得のいくお金の使い方ができるよう、どういう選択肢があるのか知っておくことは重要です。