バッコ博士の構造塾

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ラーメン構造がよくわかる:基本概念から耐震性まで

戸建住宅以外で最も多く適用されている構造形式、それが「ラーメン構造」です。

 

□■□疑問■□■

ラーメン構造とはどういう構造形式なのでしょうか。メリットやデメリット、耐震性について教えてください。

 

□■□回答■□■

鉄骨造のビルや、鉄筋コンクリート造の中層以上のビル、タワーマンション等では、そのほとんどがラーメン構造です。「柱と梁で構成されている」、「柱と梁が剛接合である」等、いろいろな説明はありますが、一番の特徴は「構造が非常にシンプル」になるということです。シンプルなため設計や計算、施工が楽になりますし、使い勝手もよくなります。

ラーメン構造の何がいいのか、何がシンプルなのか、基本的なことから専門的なことまで詳細に説明していきます。

 

 

ラーメン構造とは

他のサイトでのラーメン構造のよくある説明としては

 

・ラーメンとはドイツ語で「枠」、「額縁」のことである

・柱と梁で構成された構造である

・柱と梁は剛接合されている

・壁やブレースが必要なく、大きな開口を設けられる

・リフォームが行いやすい

 

といったところでしょうか。これだけでもなんとなく分かった気になるかもしれませんが、もう少し理解を深めていただきたいと思います。構造の専門家として詳しく説明していきます。

 

ラーメン構造の構成要素

「ラーメン構造」とはいくつかある建築の「構造形式」の1つです。「構造」とは建物の「骨組」部分、つまり重力や地震の力に耐える部分ということができます。この「骨組」が「」と「」で構成されている建物をラーメン構造といいます。

 

柱は説明不要だと思いますが、「梁(はり)」は聞きなれない人がいるかもしれませんので簡単に説明します。梁とは柱と柱を繋ぐ水平な構造部材で、床の重量を柱まで伝達する役割があります。また柱同士を繋ぎ合わせることで、柱単体よりも柱が曲がりにくくなり、結果として建物を硬く、強くすることができます。

 

では「壁」や「ブレース(斜めの材)」を設置したらラーメン構造でなくなるのかと言うと、そうではありません。壁やブレースのあるラーメン構造もあります。

 

壁やブレースが完全になく、柱と梁だけで構成されている構造を「純ラーメン構造」、一部に耐震壁があると「耐震壁付きラーメン構造」、ブレースがあると「ブレース付きラーメン構造」になるだけです。同じラーメン構造でも、特性はかなり違ってきます。

 

ちなみに「床」も建物を構成する重要な要素ではありますが、「骨組」ではありません。床をどれだけ強くしても、地震に対する強さにはほとんど影響ありません。床のように重力には抵抗するが、地震の力には抵抗しない部材を「二次部材」と呼ぶこともあります。

 

柱と梁が剛接合とは

ラーメン構造では柱と梁が「剛接合」になっています。「曲げを伝えられる」、「力を加えても角度が変わらない」接合方式である、というような説明がなされることもありますが、少し専門的過ぎる気がします。簡単な例を挙げてみましょう。

実建物におけるピン接合と剛接合:構造設計における本音と建て前

 

真っ直ぐな棒2本を使って考えてみます。まず、この2本の棒を「く」の字になるようにくっつけます。そして、この「く」の字になった棒の両端を持って引っ張ってみます。「く」の字の形状を保つことができれば剛接合、「く」の字が崩れて真っ直ぐに伸びてしまった場合は剛接合ではないということになります。

 

いまいちピンと来なかった方のためにもう1つ例を挙げます。手元に消しゴムがあれば、消しゴムのカバーを外してみてください。

 

消しゴムのカバーは中が空洞で、長方形の断面をしています。横に軽く押すと変形し、長方形が平行四辺形になります。長方形は全ての角が90°でしたが、平行四辺形になるということは角度が変化したということです。角度が変わってしまうのは剛接合ではありません。

 

では平行四辺形にならないよう、四隅の角度が90°を保つように変形させるにはどうしたらいいでしょうか。長方形の各辺が直線のままでは変形できません。そのため各辺が曲がることで、角度を90°に保ちながら横に変形することができます。

 

この長方形の辺が柱や梁に相当します。「曲がる」ということは「力に抵抗している」ということです。柱と梁の接合部を剛接合にすることで、柱や梁が力に抵抗できるようになります。

 

ラーメン構造の耐震性

硬さ

ラーメン構造は前述したように、柱や梁が「曲がる」ことで力に抵抗しますが、壁は「ずれる」ことで、ブレースは「伸び縮み」することで力に抵抗します。この中で「曲がる」というのが最も柔らかい、変形しやすい抵抗方法です。

柱・梁に生じる力と変形を理解する:曲げモーメント・せん断応力・軸応力

 

そのため、壁やブレースが一切ない「純ラーメン構造」は柔らかい構造ということができます。壁やブレースを追加すればするほど硬くなります。ただし、最低限必要な硬さが規定されているので、柔らかいと言ってもフニャフニャな建物と言う意味ではありません。あくまでも壁やブレースのある建物に比べての話です。

トラス構造とラーメン構造:軸力による伝達と曲げによる伝達の違い

 

通常の建物では震度5強くらいの地震に対して、高さの1/200以上変形しないように設計されています。階高4mだとすれば、1層あたり2cmということになります。

 

2cmを大きいと感じるか小さいと感じるかは人によると思いますが、1/200の傾きというのはまず目視では判別できないくらいの変形です。また、外装材やドア等に不具合が出るような変形でもありません。

 

ただし、それよりも大きな地震が起これば、構造に問題が無くても何かしら損傷が生じる可能性はあります。

 

強さ

建物が強いということは「建物を倒すのに必要なエネルギーが大きい」ということです。エネルギーとは「どのくらいの力でどのくらい変形したか」、つまり「力×変形」ということです。

 

あまり変形できない建物では大きな力に耐えられなくてはなりませんし、たくさん変形できる建物ではあまり大きな力に耐えられなくてもいいわけです。

 

ラーメン構造は柔らかい構造ですが、柔らかいということは変形能力が大きいということでもあります。しっかりと変形能力が発揮できるような設計をしてやれば、過度に柱や梁を大きくしなくても高い耐震性を確保することができます。

建物の靭性と脆性:構造設計者が靭性を重視する理由

 

兵庫県にあるE-ディフェンスという巨大な実験装置を用い、18階建ての鉄骨造・純ラーメン構造のビルが倒壊するまで繰り返し振動を与える実験が行われました。なかなか倒壊しないので、どんどんと振動を大きくしていき、最終的には基準の3.8倍まで耐えました。かなり粘り強い構造ということができます。

 

ラーメン構造はシンプル

ラーメン構造がなぜシンプルにできるのか、それは柱と梁が重力と地震の力の両方を負担するからです。

 

壁やブレースは重力には抵抗せず、地震の力だけを負担します。そのため、普段は役に立たない部材が建物内にあることになります。

 

また、地震の力が壁やブレース周辺に集まるため、その周囲の柱や梁も負担が大きくなります。そこまで力を集めるため、力の伝達役である床の補強が必要な場合もあります。

 

各部材の役割が異なることで、それに応じた設計をしなくてはならなくなるのです。

 

もちろん壁やブレースを組み合わせたラーメン構造もたくさんあります。ただ、あくまでも建築計画に支障の無い範囲で設置しているだけなので、使用者からすればその影響はほとんどありません。

 

ブレースによって開口を遮ることもありませんし、リフォームの妨げになるような位置に壁は設置されていません。建物としての最小限の骨組だけで、中身は自由に使用することができます。

 

戸建住宅にラーメン構造が少ない理由

中層以上のビルはほとんどがラーメン構造なわけですが、戸建住宅のような小規模な建物にはあまり使用されていません。それはなぜでしょうか。

 

木造住宅

まず一番大きな理由は、戸建住宅のほとんどが木造だからです。ラーメン構造は柱と梁が剛接合になっていなければなりませんが、木材を剛接合するのが難しいのです。

 

昔ながらの凸と凹を組み合わせるような接合では不十分ですし、金物で繋いでも釘が緩んでしまいます。もちろんできないわけではありませんが、一部の工法に限られてしまうというのが現状です。

 

狭小地でのビルドインガレージや、南面の大開口が欲しいという場合等、いろいろな場面で採用されてはいますが、やはり少数派です。

 

鉄筋コンクリート造(RC造)住宅

RC造の戸建住宅でもラーメン構造はあまり採用されません。

 

RC造は柱や梁の中に鉄筋を組んで入れなければいけないため、細くしようにも30cm角が限界です。30cm角の柱というのは、戸建住宅の規模で言えばかなり太くて邪魔です。

 

しかも30cmくらいだと硬さもあまり十分ではなく、壁と組み合わせないと設計が難しい場合が多いです。そうなるとわざわざラーメン構造を採用するのではなく、はじめから壁式構造を採用することになります。