バッコ博士の構造塾

建物の安全性について本当のプロが綴る構造に特化したブログ

構造設計者の三種の神器:関数電卓・フリクションペン・方眼紙

コンピュータの計算能力が上がり、数万m2の巨大な施設や超超高層ビルでも構造計算が可能になりました。恐らく人間の手では一生かかっても正確な計算ができないでしょう。

 

□■□疑問■□■

構造計算は全て構造計算ソフトがやってくれます。構造設計にはパソコン一台あれば事足りるのでしょうか。

 

□■□回答■□■

最終的な確認はコンピュータに頼らないとできなくなってしまいました。申請用の計算書は解析ソフトの出力ですし、客先説明用の資料も大半はパソコンで作成します。しかしコンピュータも万能ではありませんし、構造設計の仕事は計算だけではありません。アナログな作業もかなりあり、むしろ大切なのはそちらです。構造設計者が手放せない重要なアイテムを3つ紹介します。

 

 

関数電卓:これが無いと仕事にならない

構造設計者の必須アイテム

社内、社外問わず、どんな打ち合わせ、どんな会合でも構造設計者が絶対に持参するもの、それが「関数電卓」です。「武士にとっての刀」とまで言うと言い過ぎでしょうが、それくらい重要なものです。

 

関数電卓1つで一体何ができるでしょうか。まず、建物の概要を聞けば、建物の重さを計算することができます。重さが分かれば、地震の力もわかります。地震の力がわかれば柱や壁の大体のサイズを算出できます。お客さん、あるいは意匠設計者と雑談しながら、3分もあればこのくらいは計算できてしまいます。

構造設計の基本を押さえる:建物の重さの話

 

経験を積んだ構造設計者なら電卓を叩くまでもないことではありますが、初めて担当するような規模のものでも対応可能になります。もちろん精度は粗目ですが、その場で打ち合わせする分には何の問題もありません。

 

他にも「この柱を無くすことはできるか」、「この梁を小さくできるか」、「鉄骨造から鉄筋コンクリート造に変えても大丈夫か」等、いろいろな質問が飛んできます。経験と勘に頼りつつ、要所では電卓で数字を確認しながら対応することになります。

 

構造設計者の覚えていること

電卓を使うには、いろいろな数字や式を覚えておく必要があります。片持ち梁や単純梁の曲げモーメントやたわみの公式、鉄筋の断面積、建物の平均的な重さ、よく使うH形鋼の断面性能、その他諸々、これらが必要に応じて反射的に出てきます。

 

会話をしながらパチパチと電卓を叩く先輩社員を初めて見たときは衝撃的でしたが、意外にすぐできるようになるものです。同期の意匠設計者と打ち合わせしたときは「この公式ってこういう時使うんだ」と感心されました。

 

もちろん公式がぴったりと当てはまる簡単な状況だけではありませんし、正確さに欠ける場合もあります。自分が今計算している値はどのくらいの精度を持っているか、常に意識しておく必要があります。

 

電卓に必要な機能

構造設計の実務で使用する機能は非常に少なく、関数電卓が持つ機能のほとんどを使えていないような気もします。ただ普通の電卓では対応できないのも事実です。

 

一番使用するのは2乗、3乗、4乗の計算です。部材の性能や変形を計算するには必須の機能です。

 

その逆の1/2乗、1/3乗もよく使います。部材に必要な断面積の1/2乗から正方形断面の1辺の長さを求めることはしょっちゅうありますし、建物の固有周期を計算するのにも使用します。コンクリートの硬さの計算は1/3乗が無ければできません。

 

斜めの部材であればsin(サイン)、cos(コサイン)を使用して応力を求めます。図面には角度の記載はなく、縦と横の比率はわかっているので、実際には三角関数を使うまでもない場合が多いです。

 

はっきり言って、それ以外の機能は使いません。もしかしたら使っている人がいるかもしれませんが、まだお目にかかったことがありません。

 

構造設計者は電卓に愛着がある

誰でもそうだと思いますが、長く使用するものには愛着が湧きます。バッコは学生時代に購入したCASIOの関数電卓を今でも使用しています。定年間近の人の中には、店頭では見たこともないような旧式の電卓を使用している人もいます。

 

知り合いの公認会計士と電卓の話で1時間ほど盛り上がったことがあります。あちらは巨大なただの電卓ですが、構造設計者同様、あれがなければただの人です。

 

まだ使い慣れていないという学生や新入社員も、いつか大事な相棒になるでしょう。

 


バッコと同型の関数電卓

 

フリクションペン:いろんなことが楽になりました

PILOTの「こすると消えるフリクションのペン」は今やほとんどの人が使用しているのではないでしょうか。消せるペン、発売される前は別に困っていなかったのですが、使い始めると手放せないアイテムに変わりました。

 

まず、図面のチェックには欠かせません。間違っている個所には指摘文や正しい数値を書き込むわけですが、図を描くことも多くあります。以前のように修正液で消しているとどんどん図面が汚くなっていきますし、消されて元の図が見えなくなりもします。これには大助かりです。

 

CADによる作図依頼のための下絵の作成にも威力を発揮します。コンクリートの配筋詳細などは線が密になりがちなので、指示がわかりやすいよう2色、3色と使用することもあります。消せないペンや鉛筆だけではかなり手間でした。

 

なお、計算書のチェックに関しては、あまり消せることの利点はありません。普通のペンよりもインクの減りが激しいように思うので、使用を制限したほうがいい気もします。でもなぜか使ってしまいます。恐ろしいほどの中毒性です。

 

方眼紙:何を書くにもこれがいい

現場指示用の作図にしても手書きの検討書にしても、「方眼紙」が最高です。会社には山積みで置いてありますが、気づくとかなり消費されています。そしてまた気づくと補充され山積みになっています。

 

1/20や1/10の詳細図を描くにも、マス目を利用することできれいに早く作図できます。手書きの検討書も、高さや幅を揃えられ、白紙に書くより断然きれいで楽です。

 

構造計画にも使用しますし、手書きのメモ用としても使用します。アイディアを練る時にも手放せません。方眼紙のおかげで一体いくつのアイディアが生まれたことかわかりません。

 

いくつか種類がありますが、個人的にはオキナ株式会社のプロジェクトペーパー一択です。ほどよい濃さの水色の線、よく見ないと気が付かないくらいの控えめなセンター表示。グッドデザイン賞受賞も納得の製品です。値段が結構するのは仕方ないですかね。 


オキナ プロジェクトペーパー A4 10mm方眼 100枚

 

これからの構造設計にコンピュータの力が不可欠なのは言うまでもありませんが、それ以外のアナログなアイテムもまだまだ最前線で活躍しています。