建物の骨組の中で最も大切な部材は「柱」です。重力や地震の力に耐えるために不可欠な部材です。
では、その次に大切な部材はなんでしょうか。「鉛直(縦)」の部材である柱の次は、「水平(横)」の部材である、あれです、あれ。
そう、正解は「梁」です。柱とくれば、その次は梁ですね。すぐに思いついたでしょうか。
柱に次いで重要な部材であるにも関わらず、一般の方の認知度は低いようです。日常生活で使う漢字でもないので、「梁」を「はり」と読めない方も珍しくありません。
別に梁のことを知らなくても恥ずかしくもありませんし、特に困ることもありません。ただ、家づくりをする、マンションの下見に行く、というようなときに、少しだけ役に立つかもしれません。
梁の種類:部位による分類と力学的特性による分類
基本的に、水平に配置されている細長い材は梁です。ただ、全てが全て同じ梁ではありません。使用する部位や力学的な特性により呼称が違います。
大梁・小梁・孫梁:接続部位の違い
梁の中で最も重要なのが「大梁(おおばり)」です。柱と柱を繋ぐように配置されます。柱同士を繋ぐのが基本ですが、一端が柱で、もう一端が柱以外の部材であっても大梁と考える場合が多いです。
そして、大梁と大梁の間に架け渡すのが「小梁(こばり)」です。小梁に生じた力は大梁を経由して柱まで伝達されるので、小梁のサイズは大梁よりも小さくなるのが一般的です。
小梁に取り付くさらに小さな梁が「孫梁(まごばり)」です。大梁を「親」、それに取り付く小梁を「子」とすれば、次は「孫」というわけです。孫梁も含めて小梁とする場合もあります。
小屋梁・床梁・基礎梁:使用部位の違い
梁が何に接続しているかだけではなく、どこで使用しているかでも呼称は違います。
木造の場合は床と屋根とで使い分けます。
最上階の天井よりも上の、つまり屋根を構成している骨組を「小屋組」といい、小屋組に用いる梁を「小屋梁(こやばり)」と言います。
1階や2階の床を構成している骨組を「床組」といい、床組に用いる梁を「床梁(ゆかばり)」と言います。
鉄筋コンクリート造(RC造)や鉄骨造(S造)の場合、建物最下階、つまり建物の基礎となる部分の梁を「基礎梁(きそばり)」と言います。
単純梁・片持ち梁・両端固定梁:力学的特性の違い
どこで使用し、何に接続しているか、部材の呼称はこれで決まります。しかし、力学的な特性によっても使い分けられます。
両端が自由に回転(ピン接合)できる梁を「単純梁」と言います。机と机の間に定規をポンっと置いただけの場合がこれに相当します。鉄骨造の小梁は単純梁として扱われます。
一端が固定され、もう一端が自由になっている梁を「片持ち梁」と言います。バルコニーの先端に柱が無い場合、それを支える梁は片持ち梁になります。
両端が固定(剛接合)された梁を「両端固定梁」と言います。柱の左右に梁が付いていると、左右で力がバランスして回転しなくなるので、両端固定梁に近い状態になります。
実際には何の抵抗もなく回転できるような場合は無いですし、完全に固定されている場合もありません。あくまでも理想的な状態を仮定しているに過ぎませんが、そうすることで計算が非常に簡単になります。
梁の役割:重力・地震に抵抗
重力に抵抗
梁の基本的な役割は、床を支えることです。
床にはいろいろなものが載りますし、人も通ります。そのすべてに重力が作用しますので、梁には常に鉛直下向きに力が生じます。
梁は水平な部材なので、力の向きは部材に直交することになります。そのため、梁をずらそうとする力(せん断力)と梁を曲げようとする力(モーメント)が作用することになります。
柱・梁に生じる力と変形を理解する:曲げモーメント・せん断応力・軸応力
これらの力に対し、当然ながら梁が折れてしまうようなことは許されません。ある程度の余力を残した設計を行います。具体的には、梁に生じる力が「許容応力度」以下になるよう梁のサイズを決定します。
梁がどのくらい変形するかも重要な設計項目です。梁が折れないからと言って、梁の中央部が何cmも下がってしまっては使い勝手が悪くなります。変形を小さくするには「断面二次モーメント」という、梁の断面形状によって変化する係数を大きくする必要があります。
地震に抵抗
一部の梁は床を支えるだけでなく、地震にも抵抗します。
梁は水平な部材なので、地震によって建物に生じた地震の力を直接的に地面まで伝達することはできません。柱を補助することで間接的に抵抗するのです。
そのため、地震に抵抗できるのは柱と繋がっている「大梁」だけです。他の梁は重力にしか抵抗しません。
では、梁が柱を補助するとはどういうことでしょうか。ここでは「電柱」を例として簡単に説明していきます。
電柱は足元が固定され、頂部が自由になっている一本の柱と考えることができます。この電柱を、隣にあるもう一本の電柱と繋ぐことを考えます。
電柱に比べて「十分に硬い棒」を、電柱と電柱の頂部に架け渡します。まず、電柱と棒との接続をクルクルと自由に回転できるような状態にしておきます。
このとき、片側の電柱の頂部を横方向に押すと、棒で繋がっているもう一方の電柱も横に変形します。ただ、頂部の回転は拘束されていないので、柱の変形形状は繋ぐ前と同じままです。単純に柱2本分の強さ、硬さになるだけです。
また、硬い棒を曲げようとする力も生じません。
回転自由(左:モデル図、中:変形図、右:曲げモーメント図)
次に電柱と棒とを一体化し、回転を拘束するような状態にします。
先ほど同様、片側の電柱の頂部を横方向に押すと、棒で繋がっているもう一方の電柱も横に変形します。ただ、頂部の回転が拘束されているので、柱の頂部の動きが制限されます。
柱に比べて棒が硬いので、足元も頂部も固定された状態になります。そのため柱の変形形状は点対称となり、変形は繋ぐ前の1/4まで小さくなります。また、柱の上と下の両方で力を負担できるようになるので、柱を曲げようとする力(曲げモーメント)は半分になります。
回転拘束(左:モデル図、中:変形図、右:曲げモーメント図)
柱の回転を梁が拘束することで、建物を硬くしつつ、柱に生じる力も小さくすることができるのです。ただし、柱と梁はしっかりと一体化(剛接合)されている必要があります。
建物を硬くするためには柱を大きくしなくてはならないと考えてしまいがちですが、梁を大きくすることも効果的なことがお分かりいただけたかと思います。ただ、あくまでも梁は柱を曲がりにくくする効果があるだけです。最終的には柱がしっかりしていなくては意味がありません。
梁の設計:梁せい・梁幅の決定
梁断面の縦方向の厚みを「梁せい」、横幅を「梁幅」と言います。梁には基本的に鉛直方向(縦方向)の力しか作用しませんので、梁せいを梁幅よりも大きくした方が合理的です。
木造の梁の設計
2階建ての木造の住宅では、ほとんど「構造計算」がされていません。
ではどうやって梁の大きさを決めているのかというと、「早見表」なる便利なものがあります。梁が支える範囲に応じて表から梁のサイズを選ぶだけです。
ただ、しっかりと適用範囲内であるかどうかを確認しなくてはなりません。少し変わった建物形状になる場合に適用範囲から外れてしまい、床が傾く等の不具合に繋がることもあります。
また、耐力壁の直下に柱がなく、梁だけで支えているような場合は大きめの梁を使用する方がよいでしょう。
RC造の梁の設計
重力に対する設計では、梁せいは柱間距離の1/10程度は必要になります。柱間を10mも離しておいて、「梁せいを50cmくらいにできないか」と聞いてくるような意匠設計者は建築士失格です。
鉄筋コンクリートの梁の曲げに対する強さは、内部に組み込んだ鉄筋の量で決まります。梁せいが大きいほど鉄筋は有効に作用しますが、梁幅が小さいと十分な量の鉄筋が配置できません。力の大きさに応じて、適切な幅とせいを決定していきます。
高層マンションのように耐力壁がなく、柱間距離が概ね一定の建物であれば、電卓1つで必要な梁のサイズを決定できます。建物が耐えなくてはならない地震の力から逆算して、梁一本一本に生じる力を算出するだけです。
鉄骨造の梁の設計
RC造では柱間距離の1/10程度でしたが、鉄骨造では1/20程度は必要になります。大型のオフィスでは柱間を20m前後まで広げるので、梁せいが1mを超えることもザラにあります。
木造やRC造では梁の断面は長方形の場合が圧倒的に多いですが、鉄骨造では「H型鋼」と呼ばれる断面が「H」の形をした材を横にして「エ」の向きで使用する場合が大半です。長方形断面よりも効率が良く、同じ断面積であってもより強く、硬くすることが可能です。
「ラーメン構造」と呼ばれる柱と梁だけで構成されている構造形式とする場合、各部材に生じる力の大きさではなく、各階の変形の制限によって梁のサイズが決まります。RC造のように力の大きさだけで試算してしまうと、後で痛い目に会ってしまいます。
梁の設計全般
梁に生じる力と変形を制限値内に納まるよう設計するわけですが、構造的な合理性だけで決められるわけではありません。
梁せいの大きさは天井高に直接影響してきます。階高を高くするとコストがアップするので、階高をできるだけ抑えながら天井高を確保するには梁せいを小さくするしかありません。
梁せいを小さくする代わりに梁幅を大きくしたり、隣り合う梁の間隔を狭めたりして対応することになります。とはいえ極端に梁せいを小さくしてしまっては、次は構造部材にかかるコストが大幅に上がってしまうことになります。
結局はデザインと経済合理性の折り合いがつくところで決まっていきます。
その他の梁:火打ち梁・耐風梁
床を支える、地震時に柱を補助する、これが梁の基本的な役割でした。ただ、このどちらの役割も果たさない梁もあります。
火打ち梁
木造建物において、梁と梁が直交する隅の部分に設ける「火打ち梁」という部材があります。直交する梁と梁とを繋ぐよう45°に設置され、床を補強する役割があります。
木造建物の床は他の構造に比べて柔らかく、地震時に平行四辺形に変形してしまう場合があります。そうなると柱や壁まで地震の力を伝達できなくなってしまうため、それを防ぐために火打ち梁があります。
耐風梁
読んで字のごとく、風の力に抵抗する梁が「耐風梁」です。外壁に面して大きな吹き抜けなどがある場合に必要になります。
通常は各階の床で外壁は小さく区切られることになりますが、床が無い場合は大きな一枚の壁になります。そうするとガラスやアルミでできた壁だけでは風の力に耐えられなくなってしまうのです。
耐風梁は他の梁と違い、風による水平方向の力に耐えなくてはなりません。そのため、梁せいよりも梁幅が大きくなります。