建物の設計において、梁のサイズは構造の安全性や使用性に直結する重要な要素です。特に梁の高さ(梁せい)は天井高さや空間の印象にも影響するため、慎重に決定する必要があります。
この記事では、梁せいと梁幅の基本知識と、木造・鉄骨・鉄筋コンクリート造(RC造)それぞれの梁のサイズの決め方について、初心者でもわかりやすく解説します。
基本を押さえておくことで、格段に理解が早まるでしょう。
梁せい・梁幅とは:梁の各部名称
まず、梁の各部の呼び方から押さえておきましょう。
梁の高さ方向の寸法を「梁せい」、幅方向の寸法を「梁幅」と呼びます。
RC造の場合は梁と床が一体化しているため、床の上端までが梁せいとなります。鉄骨造と木造では、梁せいに床は含みません。
RC造や木造では梁の断面を長方形とすることがほとんどですが、鉄骨造では軽量化を図るためにH形鋼を90度傾けて「工」の状態で使用します。「工」の横の2辺を「フランジ」、縦の1辺を「ウェブ」と呼びます。

梁の力学
梁のサイズを決めるにあたって、最低限知っておかないといけない力学があります。
梁は水平に架け渡された材なので、その上に重量物が載れば曲がります。また、地震時には柱が倒れようとするので、柱に接続している梁はそれに伴って曲がります。
そのため、梁には「曲がりにくい(硬さ)」と「曲がっても折れにくい(強さ)」の2つの性能が求められます。曲がりにくさの指標を「断面二次モーメント」、曲げに対する強さの指標を「断面係数」と呼びます。
梁の断面が長方形の場合、断面二次モーメントと断面係数は梁幅に比例します。梁を2倍硬く、あるいは2倍強くしたいという場合、梁幅を2倍にすればいいことになります。
しかし、梁せいに対してはただの比例ではありません。断面二次モーメントは梁せいの3乗に比例、断面係数は梁せいの2乗に比例するのです。梁せいを2倍にすると、梁の硬さは8倍、強さは4倍にもなります。
梁せいを梁幅よりも大きくした方が合理的なことがわかります。
木造の梁の設計
梁は設計されていない?
実は、平屋や2階建ての木造の住宅では、ほとんど「構造計算」がされていません。簡易なチェックだけで建てることが可能だからです。
ではどうやって梁の大きさを決めているのかというと、「早見表」なる便利なものがあります。梁が支える範囲に応じて表から梁のサイズを選ぶだけです。
ただ、しっかりと適用範囲内であるかどうかを確認しなくてはなりません。少し変わった建物形状になる場合には適用範囲から外れてしまい、床が傾く等の不具合に繋がることもあります。
木造の梁幅
早見表の適用範囲でない場合、あるいはしっかりと構造計算を行う場合にはどうすればいいでしょうか。
まず梁幅ですが、基本的に戸建て住宅であれば105mmか120mmになります。よほど大きな空間があれば別ですが、それより幅の大きな材を使用する必然性は低いです。
また、柱の幅(105mm角か120mm角)と梁幅を合わせた方が施工も楽です。梁幅を柱の幅よりも大きくしたい場合は、見え方や納まりに気を付けましょう。
木造の梁せい
材に生じる曲げモーメントとたわみ(梁の変形量)が許容値以下となるよう梁せいを決定します。
梁が負担する床の重さと梁のスパンが分かれば、曲げモーメントとたわみは公式に当てはめるだけで計算できます。
その際、ピアノや本棚などの重量物が載るかどうかはよく確認しましょう。木造は鉄骨造やRC造に比べて建物が軽いため、相対的に家具などの積載物の影響が大きくなります。
また、木材は時間の経過とともに、少しずつ変形が大きくなっていく性質があります。たわみが新築時の2倍は大きくなるものとして計算する必要があります。
耐力壁が載る梁
基本的に木造の梁は重力に対する設計を行っておけば十分なのですが、直下に柱が無い耐力壁を支えている梁については地震時の検討も必要です。
地震によって耐力壁に力が作用すると、耐力壁に作用する力に(階の高さ÷壁の幅)を掛けた力で梁が押し込まれることになります。瞬間的な力とはいえ、重力よりも非常に大きな値となり得ます。
また、「耐力壁も梁も壊れないから問題無し」とするだけではなく、「建物が倒れるとき、耐力壁と梁のどちらが先に壊れるか」も確認しておきましょう。一般的に、耐力壁よりも梁の方が脆(もろ)い壊れ方をします。
なお、構造計算をしない場合は、少なくとも早見表のサイズよりも大きめの梁を使用する方がよいでしょう。
鉄骨造の梁の設計
H形鋼の力学
鉄骨造では梁の断面が「工」のため、長方形とは性質が異なります。
長方形と同様、断面二次モーメントと断面係数は概ね梁幅に比例しますが、梁せいに対して断面二次モーメントは概ね梁せいの2乗に比例、断面係数は概ね梁せいに比例するのです。
・断面二次モーメント → 長方形:3乗に比例、H形鋼:2乗に比例
・断面係数 → 長方形:2乗に比例、H形鋼:1乗に比例
梁せいを梁幅よりも大きくした方が合理的ではありますが、長方形のときほど大きな差はありません。梁せいが確保できなくても、梁幅を大きくすれば対応できる範囲が広いと言えます。
鉄骨造のサイズを決める要因
重力に対する設計では、梁せいは柱間距離の1/20程度は必要になります。
大型のオフィスでは柱間を20m前後まで広げるので、梁せいが1mを超えることもザラにあります。
一般的に鉄骨造では、梁に生じる力の大きさではなく、各部の変形の制限によって梁のサイズが決まります。「とりあえず力の大きさだけで梁のサイズを試算しよう」とすると、必要な梁のサイズを過小評価することになってしまいます。
RCスラブの寄与
鉄骨造であっても、床はコンクリートでできています。床と梁が別の材料でできているため、完全に一体化しているわけではありません。
ただ、まったく一体化していないかというとそういうわけでもなく、ある程度はコンクリートによって梁が補強されることになります。コンクリートの寄与分を考慮した設計が可能です。
床の厚さや梁の配置によって変わりますが、鉄骨の梁だけの場合に比べて1.5倍程度曲がりにくくなっていると考えることができます。
梁の納まり
鉄骨の梁と柱は、ボルトや溶接によって接合されています。接合部には鉄のプレートを追加して補強しなくてはなりません。
もし柱の左側に取り付く梁の梁せいが900mm、右側に取り付く梁の梁せいが850mmの場合、50mmの間に2枚の補強用のプレートが必要になります。
これは補強が面倒くさいという以前に、そもそもそんな狭いスペースに補強すること自体が不可能です。補強するには、150mm程度梁せいを変えなくてはなりません。
RC造の梁の設計
RC造の梁の曲げ
鉄骨造の梁せいは柱間距離の1/20程度でしたが、RC造では1/10程度は必要になります。
鉄筋コンクリートの梁の曲げに対する強さは、梁せいと梁内部の鉄筋の量で決まります。梁幅を大きくしたからといって、強くなるわけではありません。
ただ、梁幅が小さいと十分な量の鉄筋が配置できません。鉄筋は間を空けて配置しなくてはなりませんし、当然太さがありますから、鉄筋の納まりによって梁幅が決まります。
RC造の梁のせん断
一般的にRC造の梁は、木造や鉄骨造に比べて太くて短くなりがちです。重さの割に弱い材料のため、太くせざるを得ないからです。
細くて長い材の場合、曲げに対する検討が最も重要になります。しかし太くて短くなってくると、今度はせん断に対する検討も重要性を増してきます。
そのため、曲げではなく、せん断によって梁のサイズが決まることがあります。
せん断に対する強さや硬さは材の断面積に比例します。梁せいと梁幅の重要性が同じだということです。
鉄筋(せん断補強筋)を増やすか、梁幅を大きくすることで対応することになります。
ひび割れの制御
RC造特有の問題として「ひび割れ」が挙げられます。
コンクリートは圧縮には強いですが、引張には弱いため、力の集中しやすいところやひずみが大きくなるところではひび割れてしまいます。
鉄筋によって補強されているため、ひび割れても安全性に問題は無いのですが、美観や耐久性の面では問題があります。やはりできるだけ避けるべき現象です。
RC造の梁の曲げに対する強さは鉄筋の量で決まりますが、ひび割れるかどうかは断面係数が重要となります。鉄筋が本格的に効果を発揮するのはコンクリートがひび割れた後だからです。
そのため、鉄筋を増やしてもひび割れを防ぐ効果はあまりありません。
ひび割れ抑制によって梁のサイズが決まることもあります。
梁の設計全般
梁に生じる力と変形を制限値内に納まるよう設計するわけですが、構造的な合理性だけで決められるわけではありません。
梁せいの大きさは天井高に直接影響してきます。階高を高くするとコストがアップするので、階高をできるだけ抑えながら天井高を確保するには梁せいを小さくするしかありません。
梁せいを小さくする代わりに梁幅を大きくしたり、隣り合う梁の間隔を狭めたりして対応することになります。とはいえ極端に梁せいを小さくしてしまっては、次は構造部材にかかるコストが大幅に上がってしまうことになります。
結局はデザインと経済合理性の折り合いがつくところで決まっていきます。