バッコ博士の構造塾

建物の安全性について本当のプロが綴る構造に特化したブログ

屋根をリフォームしよう:木造住宅の最も間違いのない耐震補強法

建物の最上部にあり、雨や日射から内部空間を守っているのが「屋根」です。

 

外壁と同様、屋外の過酷な環境に置かれているので、定期的なメンテナンスが必要になります。雨漏りが生じてしまえば、建物の耐久性にも悪影響を及ぼします。

 

昔は、屋根と言えば「瓦」でした。雪国の瓦は雪の重みで割れてしまわないよう、それは立派なものです。ただ、その分重量も相当なものです。

 

屋根が重たいということは、頭が重たい赤ちゃんと同じで安定性に欠けます。築年数が経っている瓦屋根の家は最新の耐震基準に適合していない場合も多く、耐震性の向上は必須です。

 

「屋根の修理、メンテナンスが必要かな」というタイミングで、軽い屋根への葺き替えを検討してみてはどうでしょうか。木造住宅を対象としていろいろな耐震補強が開発されていますが、どんな方法よりも失敗がないのは軽い屋根への葺き替えだと思います。

 

 

瓦屋根の家は耐震性が低いのか?

まず結論から言うと、屋根の材質と耐震性には関係がありません。当然ながら、瓦屋根でも地震に強い家はありますし、その他の屋根でも地震に弱い家はあります。

 

耐震性が高いかどうかは、建物の重さと強さのバランスで決まります。建物に作用する地震の力は建物の重さに比例するので、重い建物ほど強くする必要があります。

 

瓦は他の屋根材に比べて重いため、瓦屋根の建物自体も重くなる傾向にあります。その分だけ建物を強くすれば、瓦屋根であっても耐震性には何の問題もありません。

 

しかし、最新の耐震基準を満たしていない古い住宅の大半が瓦屋根を採用しています。また、同じ強さの建物であれば瓦屋根の方が耐震性は低くなります。

 

そのため、「瓦屋根の建物は耐震性が低い」という間違った認識が広がってしまっています。

 

屋根材の重量:瓦・スレート(コロニアル)・ガルバリウム鋼板

瓦は重い重いと言われますが、他の材と比べてどのくらい重たいのでしょうか。同じ材でも仕様はいろいろあるので一概には言えないですが、一般的な重量は以下のようになります。

 

瓦:50kg/m2、スレート(コロニアル):20kg/m2、ガルバリウム鋼板:7kg/m2

 

比較的新しい住宅では屋根にスレートを使用している場合が多いです。瓦屋根と比べると40%程度の重量になります。

 

ガルバリウム鋼板は最も軽い屋根材であり、スレートと比べても半分以下の重量となります。耐震性だけを考えれば、もっとも優れた屋根材と言えます。

 

屋根葺き替えによる耐震性の向上の度合い

前述したように、建物の耐震性は建物の重さと強さのバランスによって決まります。であれば、耐力壁を増設して建物の強さを高めなくても、建物を軽くすれば耐震性は向上することになります。

 

元々軽い屋根材を使用していると効果は薄いですが、重い瓦屋根の場合であれば重量の低減効果は大きくなります。では、どのくらいの効果があるのか具体的な数字を用いて見ていきましょう。

 

屋根の面積は、庇が出ている分だけ建物よりも少し大きくなります。一般的な住宅であれば60m2程度になるでしょうか。

 

瓦をスレートに葺き替えると約30kg/m2軽くなりますので、1,800kgの重量減になります。ガルバリウム鋼板に葺き替える場合は約43kg/m2軽くなりますので、2,580kgの重量減です。

 

耐震性を確認する際、建物重量の20%が地震力として作用するものと考えます。そのため、スレートにすると360kgf、ガルバリウム鋼板にすると516kgfだけ地震の力も小さくなることになります。

 

これを耐力壁に換算してみます。スレートの場合は「厚さ4.5cm以上、幅9cm以上の木材を用いた筋交い」を入れた壁一枚分、ガルバリウム鋼板の場合は一般的な構造用合板を入れた壁一枚分強です。

 

「あれ、たった一枚分?」と思われたかもしれません。ただ、これは建物全体に必要となる耐力壁の12割程度に相当します。

 

現行の耐震基準では、旧基準と比べて必要な壁の量が4割増加しています。重量が2割減れば、そのうちの半分を賄えることになります。

 

多少余裕を持った設計がされていれば、壁の追加が無くても現行の耐震基準を満たすことができます。そう考えると、それなりに効果があると言えます。

 

他の耐震補強には無い効果

軽い屋根への葺き替えによる耐震性能の向上は劇的なものではありません。それでも一押しなのは、別に理由があるからです。

 

力が集中しない

新たに部材を追加するような一般的な補強を行うと、補強を行った周辺の部材に力が集中するようになります。追加した部材に生じた力を地盤まで伝達する必要があるからです。

 

また、部材を追加するために、部分的に建物を壊す場合もあります。内壁を外したり、部材に新たに穴を開けたりする必要があります。

 

そのため下手な補強をすると、かえって耐震性が低下することすらあります。

 

しかし、重量を軽くする場合は建物全体に均等に効果が波及します。一部の部材が頑張るのではなく、全ての部材が少し楽になるのです。

 

そのため、難しいことを考えなくても、誰がやっても同じだけの効果が見込めるのです。失敗する恐れがない、間違いのない補強方法だと言えます。

 

地震の方向に関係なく効果がある

建物は地盤と言う平面の上に建っています。そのため、同じ横揺れでも東西方向、南北方向の様に、2つの方向の揺れがあります。

 

そして、地震に抵抗する耐力壁にも方向性があります。壁の面内に作用する力には抵抗できますが、壁の面外方向には力を負担できません。

 

つまり、東西にも南北にも弱い建物であれば、最低でも2枚は壁を追加する必要があります。

 

しかし、重量を軽くするのであれば、方向は関係ありません。どちらに揺れようが地震の力は重量を減らした分だけ小さくなっています。一石二鳥と言うやつです。

 

屋根を葺き替える前に

屋根を葺き替えれば即地震に強い家になるわけではありません。あくまでも耐震性を向上させる一手段です。

 

先ほど数値で示したように、耐力壁を何枚か追加したほうがよほど効果はあります。ただ、建物の内部に一切手を加えないでできるというのは魅力的だと思います。

 

現状の耐震性がどの程度のものなのか、そして自分がどの程度の耐震性を求めているのか、この2つを明確にしましょう。

 

それには構造の専門家、屋根の専門家に相談するのが一番です。大半が無料なので、まずは見積もりでも取ってみてはいかがでしょうか。