一昔前の高層マンションでは、鉄骨鉄筋コンクリート造(SRC)を採用するケースが多く見られました。近年は新築ではあまり見なくなりましたが、中古マンション市場ではいくつも出回っています。
ただ、鉄骨造(S造)や鉄筋コンクリート造(RC造)の建物に比べると、その数は非常に小さくなっています。やや特殊な構造と言っていいでしょう。
インターネット上でもSRC造に関する情報はRC造のおまけ程度にしか書かれていません。また、素人が雰囲気で書いたものや、教科書から転記したような内容が目立ちます。
構造を専門とする建築士が書いた、血肉の通った情報は非常に少ないです。
SRC造とはそもそもどういった構造なのか、なぜ近年は減少傾向にあるのか、S造やRC造と比較しながら説明していきます。
鉄骨鉄筋コンクリート造のよくある説明
・「鉄筋コンクリート造」の部材の中に「鉄骨」の芯を入れている
・「鉄骨造」と「鉄筋コンクリート造」、両者の利点を併せ持っている
・鉄骨と鉄筋をコンクリートで覆うことで「熱」と「錆」から守っている
・燃えないため耐火性がある
・工期が長く、コストが高い
・SRC造とはSteel Reinforced Concreteのことである
こうした情報は簡単に手に入ります。ただ、これだけで本当に分かったと言えるでしょうか。もう少し「なぜ?」「どうして?」を知っておいてはどうでしょうか。
鉄骨鉄筋コンクリート造の特性
SRC造の特性を知りたいなら、RC造についてよく知る必要があります。なぜなら、SRC造はS造とRC造の組み合わせと言っても、よりRC造に近い構造だからです。
RC造がよくわかる:構造設計一級建築士&コンクリート主任技士が解説
建物の重さの大部分はコンクリートの重量によるものです。鉄の密度はコンクリートの3倍以上ありますが、使用する量は圧倒的にコンクリートの方が多いです。
当然ながらひび割れも入ります。SRC造にしたからと言って、RC造に比べてひび割れが入りにくいということもありません。
鉄骨の部材は完全にコンクリートに覆われており、一度建物ができてしまえば二度と目に触れることはありません。外見からはSRCかRCかはなかなか判別がつきません。
ただ、鉄骨が入っている分だけ柱や梁が若干細くなります。そのため、若干RC造より柔らかくなる傾向があると考えられます。
しかし、SRC造とRC造とを区別していない調査も多く、詳細は不明です。SRC造の数が少ないのもその一因でしょう。
ちなみに、鉄骨とコンクリートを組み合わせた構造で、RC造よりもS造に近いものもあります。柱に用いる鋼管の中にコンクリートを充填した構造で、「CFT造」と呼ばれます。
CFT構造がよくわかる:超高層ビルにはコンクリート充填鋼管構造
鉄骨鉄筋コンクリート造の耐震性・耐久性
構造設計の大前提
「鉄骨が入っている分、RC造よりも耐震性が高いです」なんてことを言う営業もいるそうです。使用する材料で建物の強さが決まるのであれば、構造設計者はいらないですね。
何でも情報が手に入る昨今、玉虫色の回答をされるよりも、ズバッと断言してくれた方が楽なのは確かです。しかし、残念ながらどの構造が強いとは一概に言えません。強いかどうかは材料ではなく、設計によって変わります。
鉄骨がコンクリートより強いのは確かですが、細い鉄骨の柱と太いコンクリートの柱のどちらが強いかは計算しなくては分かりません。どの材料でどの太さとするかは設計者の判断です。
上述したように、SRC造ではRC造よりも部材が細くなっています。SRC造を採用する理由は、「部材を細くして空間を有効活用」するためであり、「耐震性を高める」ためではありません。
耐震性を高めたいのなら、そう指示する必要があります。柱が太くなるかもしれませんし、もちろんコストも上がります。
変形性能
構造設計によって建物の強さは変わるため、どの構造が強いとは言えないと書きました。ただ、構造計算上評価が難しい部分での差はあります。
RC造に比べ、SRC造の方が倒壊までの余裕度は大きくなる可能性が高いです。
元々鉄骨は変形性能が高いですが、コンクリートと組み合わせることでさらに性能が上がります。コンクリートが鉄骨の周囲にあることで、鉄骨が局所的にグニャっと潰れてしまうのを防ぐことができるからです。
ただ、建物を地震後も使用できるかどうかという点においてはRC造もSRC造もあまり差が無いでしょう。変形性能の差が重要になってくるのは非常に大きく変形するときなので、仮に倒れなくても補修しての再使用は難しそうです。
高度な検証を行えば、変形性能の差を数値化することもできるでしょう。ただ、各々の建物でそこまでするのは難しいというのが現状です。
また、安全な建物を提供するという意味では現行の検証でも十分です。対応できる建築士も限られていますので、経済活動を止めることになりかねません。
耐久性
耐久性に関して言えば、鉄骨が入っていることは何の影響もありません。SRC造だろうがRC造だろうが、耐久性は同じです。
SRC造は鉄骨と鉄筋コンクリートの両者が揃って初めて成立します。どちらか一方でも性能を発揮できなくなれば、用を成しません。
鉄骨はコンクリートの内部に埋め込まれているので耐久性に問題はありません。鉄筋コンクリートの耐久性によりSRC造の耐久性は決まります。
鉄筋コンクリートはもともと強アルカリですが、空気中の二酸化炭素に反応して「中性化」します。中性化が鉄筋のある位置まで進むと鉄筋に「錆」が生じ、所定の性能を発揮できなくなることで寿命を迎えます。
鉄骨鉄筋コンクリート造が減っている理由
コンクリート強度
コンクリートの強度とは、試験体を押し潰したときに耐えられる力から決まります。一般的なコンクリートは鉄骨の1/10程度の力しか耐えられません。
コンクリート強度:マンション購入前に知っておきたいRC造の基本
建物が高層になれば、当然柱が負担しなくてはならない力は大きくなります。以前は高強度のコンクリートが無かったため、鉄骨と組み合わせなければ柱が非常に太くなってしまいました。
しかし今では、鋼材に近いくらいの強度のコンクリートも製造可能になりました。スーパーゼネコンの大成建設と竹中工務店が最高強度を競い合っています。
超高強度材料は建築を変えるか:超高張力鋼と超高強度コンクリート
高強度のコンクリートを使用すれば、柱を太くせず、工期を短くし、コストを下げることができます。SRC造は鉄骨を組んだ後さらにRC造を造るようなものなので手間暇がかかり、コストも高くなってしまうのです。
これではSRC造を採用する理由がありません。
SRCのメリットとは
SRC造は本当にRC造とS造の両者の利点を併せ持っているのでしょうか。
確かにRC造よりも部材を細くできますが、S造よりは太くなります。S造よりも建物を硬くできますが、RC造よりは柔らかくなります。
これを「両者の利点を併せ持つ」とするか「どっちつかず」とするか、ということです。
オフィスビルでは柱と柱の間をできるだけ大きくし、部材を細くすることが重要です。タワーマンションでは建物を硬くし、柱と柱の間がそれほど大きくする必要はありません。
オフィスに適しているのはS造で、マンションに適しているのはRC造です。わざわざ工期を伸ばし、コストを上げてまでSRC造を採用する理由がありません。
よほど特殊な建物で、SRC造にせざるを得ない場合くらいにしか、もう出番はないかもしれません。