バッコ博士の構造塾

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CFT構造がよくわかる:超高層ビルにはコンクリート充填鋼管構造

鋼製の柱の中にコンクリートを詰め込んだ構造をコンクリート充填鋼管構造(CFT構造:Concrete Filled steel Tube)と言います。鉄筋コンクリート造では「外側にコンクリート、内側に鉄筋」でしたが、CFT造では「外側に鋼材、内側にコンクリート」という逆の構成になっています。

 

□■□疑問■□■

鉄筋コンクリート造ではコンクリートが鉄筋を錆や熱から守るところに利点がありました。CFT構造ではコンクリートと鋼材の内と外が逆になっており、利点が生かせていないように思えます。

 

□■□回答■□■

鉄筋コンクリート造ではコンクリートが主で、コンクリートの弱点である「引張に弱い」特性を補うことが鉄筋の役割です。CFT構造では鋼材が主で、鋼材の弱点である「局部座屈」という圧縮力に対して部分的にグニャっと曲がってしまう現象をコンクリートが防いでくれます。また、圧縮力自体をコンクリートが負担してくれます。その代わり、錆や熱から鋼材を守る効果には期待していません。

鉄骨造では空洞になっている柱の中を有効活用できるので、少ない量の鋼材で、柱を細くし、耐震性を高めることができます。開放感のある空間を作るため、超高層オフィスビルのエントランス等で使用されることが多いです。

 

 

CFT構造における鋼材とコンクリートの組み合わせ効果

コンクリート、鋼材それぞれに弱点がありますが、両者を組み合わせることで補い合うことができます。同じ鉄とコンクリートの組み合わせである鉄筋コンクリート造とは構成が逆ですが、共通点もあります。

 

コンクリートのデメリット

引っ張る力に弱いというのが最も大きな欠点です。引っ張る力を負担してくれる鉄筋が無ければ建物に使用することはできません。ただ、圧縮する力だけを負担する場合には非常に高い性能を発揮します。

 

脆性的な材であることも問題となります。脆性(ぜいせい)とは「脆さ(もろさ)」のことで、損傷が生じてから破壊に至るまでの余裕が小さいことを言います。ガラスを想像してもらうとわかりやすいかもしれません。圧縮する力に対してはそうでもありませんが、せん断する力に対して壊れるまでほとんど変形せず、その後一気に壊れます。

 

他にもいくつかありますが、CFT構造とはあまり関係ありませんので、ここまでとします。鉄筋コンクリート造については別の記事でも取り上げる予定です。

 

鋼材のデメリット

コンクリートは鉄筋と組み合わせなければ建物を造れませんが、鋼材だけで鉄骨造建物は造られています。当然鋼材にも欠点はありますが、コンクリートと組み合わせなくても解決できるということです。ただ、CFT構造とすることでよりよくなる部分があります。

 

まず、圧縮する力に弱い点です。材料自体は引張も圧縮も同じだけ耐えられるのですが、薄い材料を使用すると局部的に潰れるような「局部座屈」という現象が起こってしまいます。

 

また、硬さが十分ではありません。材料自体はコンクリートの10倍近く硬いのですが、強度も大きいため細い材を使用することが多いからです。

 

鉄筋コンクリート造との違い

◆コンクリートを守るか鋼材を守るか

鉄筋コンクリート造では、建物に作用する力の大半をコンクリートが負担します。コンクリートの弱点である引っ張る力が働く場合に鉄筋がそれを負担します。

 

CFT構造では先ほどとは逆に、建物に作用する力の大半を鋼材が負担します。鋼材の弱点である圧縮する力が働く場合にコンクリートがそれを負担します。

 

コンクリートを保護するために鉄を使うのか、鉄を保護するためにコンクリートを使うのかが一番違う点です。

 

◆錆と熱

鉄筋コンクリート造では鉄筋がコンクリートの内側に入っているため、鉄筋は錆と熱から守られることになります。CFT構造では鋼材が外側のため錆止め塗装、耐火被覆と言った錆と熱に対するケアが必要になります。

 

熱に関しては、鋼材だけよりもコンクリートがある分だけ熱容量が大きくなり、火災時の鋼材の温度上昇は抑えられます。しかし、耐火被覆を無くしてしまうには手続きや設計上の工夫が必要です。

 

錆や熱については鉄骨造でもクリアされている課題なので、コンクリートとの組み合わせにより解決しなくても問題無い部分とも言えます。

 

CFT構造のメリット

◆耐力の上昇

鋼材は負担する圧縮力が小さいほど曲げに対する耐力が大きくなります。曲げの力に集中することができるからです。

 

逆にコンクリートはある程度圧縮する力を負担したほうが曲げに対する耐力が大きくなります。曲がることで部分的に引っ張られる個所が発生しますが、圧縮する力により押さえつけることができるからです。

 

CFTでは圧縮する力の大部分をコンクリートに負担させることが可能です。鋼材の負担が減り、コンクリートに適度な圧縮力が加わることで、曲げに対する強さが大幅に向上します。また、鋼材だけの場合よりもコンクリートの分だけ圧縮に対する耐力も大きくなります。その分だけ柱を細くすることも可能です。

 

曲げや引っ張る力を鉄が負担する点では鉄筋コンクリート造と同じです。

 

◆靭性の向上

靭性(じんせい)とは「粘り強さ」のことです。損傷が生じてから破壊に至るまでに十分変形能力があることを言います。「脆性」の反意語として使われます。

 

鋼材も分厚い部材を使用すれば靭性の大きい材料ですが、最終的には局部座屈を起こしてしまいます。CFT構造では柱の内部にコンクリートが密実に詰まっているため、鋼材の変形を拘束し、局部座屈を起こりにくくします。その結果靭性が向上し、建物の変形能力が向上します。

 

◆剛性の向上

剛性とは「硬さ」のことです。中が空っぽの場合よりも、コンクリートで満たした方が硬いのは明らかです。

 

ブレース(斜めの材)を使用せず、柱と梁で構成された建物(ラーメン構造)では硬さが不足することも多いです。硬さの不足を、柱を太くすることで補うのではなく、コンクリートを充填することである程度補うことができます。

 

CFT構造の施工

基本的にCFT構造は柱の内部のコンクリート以外は鉄骨造と同じです。実際、建物の上層部ではコンクリートが無くても十分なので、コンクリートを充填しない場合が多いです。

 

一部分だけ鉄骨造と違うのは、柱内にコンクリートを詰めるための通り道があることです。通常、梁に生じる力をうまく柱に伝えるため、柱と梁の接合部にはダイアフラムと呼ばれる板で補強がされています。このダイアフラムにコンクリートを充填するための孔を開けておかなくてはいけません。

 

コンクリートの充填は柱の上からでも下からでもできます。上から充填することを「落とし込み」、下から充填することを「圧入」といいます。鉄筋コンクリート造のように鉄筋や型枠を組まなくても、鋼材の柱自体がその役割を果たします。

 

コンクリートは硬化するまではドロドロ、ネバネバの物体です。柱内をこの硬化していないコンクリートで高層部まで一気に満たすと、柱の低層部にはものすごい圧がかかります。そのため超高層の建物の場合では何回かに分けて施工します。

 

この時、柱の断面が円い場合は鋼材が薄くてもほとんど問題ありません。各部に均一に力がかかるため、非常に耐力が大きくなります。しかし断面が四角い場合は注意が必要です。鋼材が薄すぎると、辺の真ん中がはらみ出してしまいます。牛乳パックも中身が詰まっていると、若干下の方が膨らんでいますが、同じ現象です。

 

CFT構造による空間の創出

柱を補足することができ、耐震性も高いことから、CFT構造は中高層ビルに使用されることがあります。ただ、コンクリートと鋼材を組み合わせた非常に大きな耐力を発揮できることから、超高層ビルへの使用が最も理に適っているでしょう。

 

超高層ビルではたくさんの来客があることから、開放的なエントランス空間が不可欠です。非常に大きな建物の重さを支えつつ開放的な空間を創出するにはCFT構造が最適です。

 

CFT構造の柱では、鋼材部分とコンクリート部分が概ね同じ程度の荷重を支えることができます。つまり、どちらか一方の材料しか使用しない場合は2倍の断面積が必要と言うことです。

 

コンクリートの場合は柱の幅が1.4倍になりますし、鋼材の場合は材の厚さを2倍にしなくてはなりません。すでに分厚い材を使用していますので、実際にはかなり難しいでしょう。柱の溶接や運搬も非常に大変になります。

 

今や超高層ビルには必須の技術と言っていいでしょう。