バッコ博士の構造塾

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超高層ビルの解体工事:建て方から壊し方を考える時代へ

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2014年にあべのハルカスが竣工し、日本の超高層ビルも300mに到達しました。これから先もいくつか300mを超えるようなビルの建設が計画されています。

 

日本で最初にビルの高さが100mを超えたのは1968年の霞が関ビルディング(高さ147m)です。その後、1970年代に入り多くの超高層ビルが建設され始めました。

 

建設後40年以上の古い超高層ビルが新宿を中心に多数建っています。内装はリフォームが行われているので非常にきれいな建物が多いですが、外観は歴史を感じさせます。

 

今でこそ耐用年数100年、200年と長期に渡る計画がなされていますが、当時はまだスクラップ&ビルドの時代でした。これから先、何十年も使用するのは難しいビルもあります

 

これまで建設業界は建てる技術に注力し、壊す技術に関しては開発を先送りにしてきました。ただ、超高層ビル群の寿命が間近に迫り、いくつか解体に関する新しい技術が開発されてきています。

 

 

一般的なビルの解体

街を歩いていると、ビルの解体現場に出会うことがあります。周囲は壁で囲まれていますが、隙間から中の様子をうかがい知ることができます。

 

中低層のビルであれば横から重機で順に壊していくことができます。近隣に粉塵や騒音が出ないよう、できるだけ外壁を残しながら行われることが多いです。

 

高層になると重機が建物上部まで届かなくなります。そのため建物の上にクレーンを載せ、上から順に壊していくことになります。

 

壊しやすい構造・壊しにくい構造

木造の建物は解体が最も容易です。建物の構成する各部材が小さく、強度自体も小さいからです。

 

次は鉄骨造です。鉄筋コンクリートに比べると部材が中空なため壊しやすく、重量も鉄筋コンクリートよりも軽くなります。鉄は溶融すれば再利用も可能です。

 

最も解体が大変なのは鉄筋コンクリート造です。建物全体が一体化しており、非常に堅固だからです。また、木造とは逆で部材が大きく、強度も大きいです。

 

コンクリートと鉄を組み合わせた複合材料であることも影響しています。鉄骨造のように簡単にはリサイクルができません。そのほとんどが産業廃棄物になってしまいます。

 

同じ規模、同じ高さであっても、鉄骨造の事務所ビルよりも鉄筋コンクリート造のマンションの方が断然壊すのが大変になります。

 

ダイナマイトによる解体

アメリカの高層ビルの解体ではダイナマイトが使用される場合があります。

 

ダイナマイトで柱を爆破することで、建物が重さを支える機能を奪います。そうすると、あとは重力の力で上から下まで一気に壊れてくれます。

 

重機を使うよりも早く、安く解体することができますし、安全性も高い方法です。うまく計算すれば、それほど隣接するビルとの隙間が大きくなくても実施できるようです。

 

では、なぜ日本では実施されないのでしょうか。法律が整備されていないというのもありますが、他にも理由があります。

 

それは、日本のビルはちょっとやそっとの爆破では壊れない、ということです。

 

地震大国である日本では、重力だけでなく地震の力にも耐えられるよう、諸外国に比べ建物が強くなっています。もちろん爆破で壊せないことはないでしょうが、近隣に影響が出ないよう安全に壊すのは至難の業なのです。

 

ダイナマイトによる解体で最悪なのは、建物が壊れそうで壊れなかったときです。いつ本当に壊れるかわからないので、危なくて作業ができなくなります。

 

日本のビルは壊れずに耐えてしまう可能性が高いため、実施されることは無いでしょう。

 

超高層ビルを壊せるか

高強度材料

近年、材料の高強度化が進んでいます。最高クラスの強度のコンクリートなら、従来の10倍の力にも耐えることができます。

コンクリート強度:マンション購入前に知っておきたいRC造の基本

 

超高層マンションでは1m角を超える大きな柱が高強度のコンクリートで造られています。

 

こうした高強度コンクリートを使用したマンションは、まだ建設から20年程度しか経っておらず、解体の実績がありません。

 

いざ建て替えるとなったときに、想像以上に解体費用が掛かるかもしれません。

 

CFT造

超高層のオフィスビルでは柱をできるだけ細くするために、CFT造の柱を採用しています。CFT造とは鉄骨の中にコンクリートを詰めた柱を採用した構造です。

CFT構造がよくわかる:超高層ビルにはコンクリート充填鋼管構造

 

鉄骨の肉厚は数十mm、そしてその中に高強度のコンクリートが詰められているわけです。そうそう簡単に壊せる代物ではありません。

 

100年以上の使用を想定しているビルが多いと思いますが、いくら先延ばししても解体の問題がクリアされるわけではありません。100年後の技術者の宿題ということです。

 

新しい超高層ビルの解体工法

ここ数年、スーパーゼネコン各社が超高層ビルの解体方法を開発、適用しています。その中でも鹿島建設と大成建設、両社の工法のインパクトが大きかったです。

 

鹿島建設:カットアンドダウン工法

「だるま落とし工法」と言った方が、もしかしたら通りがいいかもしれません。まさにだるま落としのように建物を解体していく工法です。

 

超高層ビルを通常の方法で上から順に壊していく場合、作業場所が地上から100m以上になります。そうすると、作業に伴う粉塵や騒音の影響が相当な広範囲までおよんでしまいます。

 

その解決方法として「下で作業する」という方法を選んだのが鹿島建設です。超高層ビルの解体でありながら、作業は下でしかしないのです。

 

建物を大量のジャッキで持ち上げ、柱を切り離し、ジャッキを下ろす。そうすることで建物の下から1階ずつ解体することができるのです。

 

従来の上から壊す方法とは全く逆のアプローチです。「すごいものをつくる」という信念が強い鹿島建設らしい技術です。「面白さ」という意味では少し清水建設っぽくもありますが。

スーパーゼネコンの違い:技術開発の方向性から会社方針を考察

 

この工法の問題点を挙げるなら、「解体工事中の耐震性」「ジャッキの容量」でしょうか。

 

当然工事中は足元がジャッキで支えられているだけの状態になります。工事中でも地震が起こる可能性はりますから、建物の重さを支えるだけでなく、地震の力にも耐えられるようにしておかなければなりません。

 

超高層ビルの足元ですから、相当大きな力が掛かることになります。かなり気を使って工事を進める必要があります。

 

また、建物を持ち上げるジャッキには限界があります。建物高さが200m、300mとどんどん高くなっていったときに、どこまで対応できるのでしょうか。

 

大成建設:テコレップシステム

「建物を建てる工程を巻き戻している」、見る人にそんな印象を与える解体工法です。いつの間にかひっそりと建物が低くなっていきます。

 

鹿島建設は「下で作業する」ことで超高層ビルの解体時に生じる問題を解決しましたが、大成建設はビルに「帽子を被せる」ことで解決しています。

 

ビルの屋上を開けっぱなしにするのではなく、帽子で蓋をしてしまおうということです。

 

建物の最上階の外壁を利用して帽子のような構造を造ります。ビル解体の進捗に合わせて少しずつ帽子をジャッキダウンすることで、帽子は常にビルの一番上にくっついてきます。

 

また、省エネにも拘った工法として知られています。解体した部材を地上まで下ろす際に、位置エネルギーを利用した発電を行っています。

 

恐らく現場だけでは工事対応ができないので、構造設計者が手伝っているでしょう。高い技術力がないとできない工法です。