バッコ博士の構造塾

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繊維補強コンクリートとは:コスト・特徴・役割・配合について

コンクリートは基本的にひび割れるものです。なので、頑張ってひび割れが入らないようにするのではなく、ひび割れが入ってもいいような設計を行うのが重要です。

コンクリートのひび割れは当たり前?

 

しかし、近年は建物に対する要求水準が上がり、ひび割れに対する許容度が下がってきています。また、設計者としてもあまりひび割れを入れたくない場所・部位というものもあります。

 

ひび割れを完全にゼロにするのは難しいですが、ひび割れを制御する方法はいくつかあります。コンクリートに特殊な混ぜ物する、常に圧縮されるよう押さえつける(プレストレスの導入)、設計時や施工時に一工夫するといったことです。

プレストレストコンクリートとは

 

近年再び注目を浴びてきた方法として「繊維により補強する」というものもあります。ひび割れを減らすだけでなく、他にも利点があります。

 

ここではコンクリートの繊維補強について見てみることにしましょう。

 

 

繊維補強とは

コンクリートを使用する場合、内部に鉄筋を入れて「鉄筋コンクリート(RC)」とすることが大半です。これにより強さと変形性能が向上します。

RC造がよくわかる

 

しかし、鉄筋だけでは性能が十分でない場合もあります。また、鉄筋を入れにくい、入れられないという場合もあります。

 

そんなとき鉄筋の補助、あるいは鉄筋の代わりとして「繊維」を使用します。コンクリートに繊維を混ぜ込んで補強したものが「繊維補強コンクリート」です。

 

組織的な研究が行われ始めたのは1960年代ですが、近年でも活発に研究が続けられています。

 

繊維単体について

種類

混ぜ込む繊維にはいろいろな種類のものがあります。鋼繊維、ガラス繊維、ポリプロピレン繊維、炭素繊維などが挙げられます。

 

繊維の種類によって性能に違いが出るので、要求性能に応じて必要なものを選定します。

 

サイズ・形状

鋼繊維は直径ゼロコンマ数mm程度ですが、ガラス繊維はμオーダーのものを束ねて使用します。

 

長さは数cm程度のものが多いです。長すぎても短すぎても効果が低下します。

 

表面はツルっとしていて、コンクリートとの付着があまりよくありません。そのため繊維自身を波打たせたり、ひねったり、端部をちょっと折り曲げたりといった工夫がされています。

 

コスト

古いデータで恐縮ですが(1978年)、1kgあたり鋼繊維が230円、ガラス繊維が1000-1200円、ポリプロピレン繊維が600-700円、炭素繊維が3-3.5万円とのことです。

 

他の繊維についてはわかりませんが、鋼繊維は現在も同程度の値段で購入できると思います。鉄の比重は約8なので、鋼繊維1Lで2000円程度になります。

 

繊維の役割

ひび割れ防止

繊維補強に期待される一番の効果はひび割れの防止です。

 

鉄筋は細いものでも直径10mmはあるので、補強繊維に比べてだいぶ太いです。また、コンクリートがちゃんと充填されるよう、ある程度の隙間空けて配置しなくてはなりません。太いものが疎に入ってもひび割れを制御しきれません。

 

それに対し補強繊維は細くて短いものが縦横自由に散らばるので、全体的に細いものが密に配置されることになります。仮にひび割れが入ってもすぐに繊維に拘束され、伸展しにくくなります。

 

実際には繊維で補強したものと補強していないものとでトータルのひび割れ幅にはあまり差はありません。太いものが数本入るのか、細いものが無数に入るのかの違いです。

 

しかし太いものがあれば目につきますし、水が浸入する経路にもなります。細ければ目立ちませんし、水も入りません。そのため繊維補強により美観・耐久性が大幅に向上します。

 

耐力上昇

一般的なコンクリートと鋼材とでは強さが10倍ほど違います。そのため繊維を入れることで強い部材にすることができます。

 

コンクリートを曲げたりずらしたりすると、限界を超えたとたんバキッと一気に壊れてしまいますが、繊維で補強すれば繊維が食い止めてくれます。強くなるだけではなく、変形性能も高めてくれます。力の負担が大きくなって損傷しやすい短い梁に使用すると効果的です。

 

また、繊維によって強くなれば、鉄筋の量を減らすことができます。鉄筋が密になるとコンクリートの充填性が低下しますし、施工も大変なので、鉄筋が減らせるのは大きなメリットです。そのため柱と梁の接合部など、鉄筋が密になりやすい部分に使用されています。

 

爆裂防止

コンクリートはある程度火災に強い材料です。燃えることはありませんし、熱に弱い鉄筋は部材の内部にあるので熱の影響を受けにくくなっています。

 

しかし、コンクリートの強度を高めていくと火災に弱くなっていきます。強度が高いコンクリートほど緻密になるので、熱せられて膨張したコンクリート内部の水分の逃げ道がなくなってしまうからです。

 

強度が低ければ圧力を逃がす空隙もあるのですが、強度が高いとどんどん圧力が高まります。そして最後はコンクリートを壊すほどになり、表面が爆裂してしまうのです。

 

そこで出てくるのがポリプロピレン繊維です。しかし、繊維が爆裂しようとする圧力を繊維の強さで無理やり抑えるわけではありません。ここでは繊維の材質が重要になります。

 

ポリプロピレンは鋼やガラスと違い、高温になれば溶けてしまいます。コンクリート全体に散らばった繊維が溶けることで、内部の蒸気の逃げ道ができるのです。

 

強度が高いほど隙間が不足するため、強度に応じて混入するポリプロピレン繊維の量を増やす必要があります。

 

繊維の配合

繊維補強による効果は、基本的に混ぜる繊維の量を増やせば増加します。繊維混入量は概ね体積の0.5~2.0%程度、最大でも3.0%程度です。

 

「なんだ、その程度しか入っていないのか」と思われるかもしれませんが、1.0%でも実際に見ると結構な量です。3.0%ともなると繊維だらけといった感じです。

 

繊維がコンクリートの流れを阻害するので、繊維の混入量が多いほど施工が大変になります。施工性の低さが課題と言えます。

 

また、コストの面でもなかなか大変です。先ほどの鋼繊維の値段で見てみると、混入量を1.0%とすると1m3あたり80kgになるので20,000円/m3材料費がアップすることになります。普通のコンクリートは12,000円/m3程度なので、材料費が3倍近くになります。

 

施工が大変でコストも高いので、繊維補強による効果の高いところに絞って使用する必要があります。

 

土木と建築

繊維補強コンクリートが土木に向いているか建築に向いているかと言われれば、圧倒的に土木です。

「建築」と「土木」の違い

 

まず、建築は土木に比べ各部材のサイズが小さく、かつ鉄筋が密になる傾向にあります。繊維補強コンクリートは流動性が低いので、施工性が非常に低くなります。

 

無理やり狭いところに流し込むと、繊維の向きが鉄筋で整えられてしまいます。繊維がばらばらに散らばっていることに意味があるので、向きがそろってしまうのはよくありません。

 

また、建築では「コンクリート造」は許されません。鉄筋を入れて「鉄筋コンクリート造」としなくてはならないからです。

 

いくら「繊維で補強したから鉄筋がなくても壊れない」と主張しても、特殊な審査を経ないと使用できません。であれば「どうせ鉄筋がいるんならわざわざ高い繊維補強コンクリートは使わなくていいか」となります。土木では建築基準法に従う必要はないので、自由に使用できます。

 

しかし、土木よりも建築のほうがデザイン性を重視することが多いので、床や梁を薄くして軽さを表現したいという要望は強いです。繊維補強コンクリートであればそれが可能です。

 

鉄筋を錆から守るため、鉄筋は一定の深さ以上コンクリートの中に入れなくてはなりません(かぶり厚さ)。そのため鉄筋を入れた途端、「表面のかぶり厚さ+鉄筋の太さ+裏面のかぶり厚さ」が最低限必要となり、80mm以下にすることは不可能です。

かぶり厚さとは

 

鉄筋の入っていない繊維補強コンクリートであればもっと薄くできます。40mm、あるいはそれ以下もできるのではないでしょうか。

 

建築でも渡り廊下や屋根などの部分的な使用はありますが、まだまだ数は少ないです。ぜひともより広範囲に使用できるようになってほしいものです。

 

 

参考文献

大岸佐吉:じん性を高めるため繊維補強コンクリートの諸問題、建築雑誌、1978.1