バッコ博士の構造塾

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液状化現象の被害とその対策:命と資産を守るために必要なこと

土地を購入する際、地盤がよいかどうかを気にする方は多いです。地盤の良し悪しが地震時の建物被害に影響を与えることを考えれば自然なことです。

 

地盤の被害でもっとも広範囲に影響を及ぼすのが「液状化」です。日本国内のみならず、世界の地震国では液状化による被害が報告されています。

 

液状化による被害を低減するには液状化を理解すること、そしてしっかりと対策することが重要です。

 

 

最近の液状化被害

液状化が世の中の注目を集めるようになったのは1964年の新潟地震の影響が大きいものと思われます。川岸町アパートでは鉄筋コンクリートの建物が大きく傾き、最終的には68°まで傾斜が進みました。検索をかければすぐに写真が見つけられます。

 

その後も各所で液状化は観測されましたが、次に大きな注目を集めたのは1995年の兵庫県南部地震です。コンクリート製の杭に被害が多くみられました。

 

2011年の東北地方太平洋沖地震もかなり衝撃的でした。非常に広範囲に渡って被害が発生し、余震によりさらに被害が拡大しました。特に住宅地での被害が大きかったです。

 

まだ記憶に新しいですが、2018年の北海道胆振東部地震も衝撃的でした。埋め立ててから長い時間が経ったとしても地球の歴史からすればほんの一瞬で、堅固な地盤にはなりえないということがよくわかります。

 

また、海外では1964年アメリカ・アラスカ地震、1989年アメリカ・ロマプリエタ地震、1990年フィリピン・ルソン島地震、1999年トルコ・コジャエリ地震、1999年台湾・集集地震、2010年ニュージーランド・クライストチャーチ地震などで液状化被害が出ています。

 

液状化はなぜ起こる

液状化のメカニズムについては詳細な説明がされているサイトがたくさんありますので、ここではポイントだけ記載します。

 

①水があること、②緩い砂地盤であること、③揺れが加わること、この3つがそろうと液状化が起こりやすくなります。

 

まず、砂でできた地盤は隙間がたくさん空いています。そして、もし地下水位が浅ければその隙間に水が満ちています。

 

建物の重量は砂同士が押し合うことで地下深くの硬い地盤まで伝達しています。しかし地震で地盤が揺すられると、この砂同士の押し合いが緩みます。砂が緩んだ分だけ水に圧力がかかるようになります。

 

揺れが続くと水の圧力がさらに高まり、最終的に砂同士がくっついていられなくなります。砂が水中に浮いたような状態になり、建物の重さを支えることができなくなるのです。

 

その結果、砂は水より重いので沈んでいき、建物も一緒に沈みます。逆に水は砂より軽いので、泥水が噴き出すことになります。

 

なお、粘土地盤の場合は粘土の土粒子が非常に小さく、互いにくっつきあう粘着力が働きます。その結果、粘土同士がズレにくくなっています。そのため細かな粒子が多い(細粒分含有率が高い)地盤では液状化しないものとして扱われます。

 

また、礫地盤の場合は礫の土粒子が砂よりも大きいので水圧が抜けやすくなります。そのため砂地盤に比べて液状化が起こりにくく、過去に大きな被害は報告されていません。

 

液状化対策

液状化させない

地下水位が浅くて緩い砂地盤で液状化が起こりやすいわけですから、地下水位を下げたり地盤を締めたりして液状化が起こりにくいように変えてしまえば安心です。

 

地面に石の杭を無理やり造成すれば水の逃げ道をつくりつつ地盤を締め固める効果があります。巨大な重りを上から落とすのも地盤を締める効果があります。

 

他にも、セメント系材料を砂に混ぜればカチカチになりますし、地盤を格子状の壁(コンクリートや地盤改良体)で覆ってしまえば砂地盤の変形が減り水の圧力が高まりにくくなります。

 

液状化に耐える

仮に液状化が起こっても、建物の重さをしっかりと支えられるようにしておけば問題は起こりません。

 

液状化が起こらない深いところまで杭を打ったり、柱状の改良を行ったりすれば砂に頼らずに重さを支えることができます。

 

また、基礎をしっかりとつくっておけば全体的に均一に沈みます。建物が傾いたり変形したりしないので、多少地盤が沈んでも問題は起きません。

 

地盤の状況は千差万別なので、どの方法がいいとは一概に言えません。敷地の状況に合わせて適切な対策を行いましょう。

 

液状化対策の前に知っておきたいこと

再液状化

液状化が起きると隙間の水が抜け、砂が固く締まる。だから液状化はもう起こらない、なんて思っていないでしょうか。残念ながらそうではないようです。

 

実際に液状化によって締め固められる場合もあるようですが、部分的であったり、逆に緩んでしまったりすることもあるようです。同じ方向の揺れには強くなるが、揺れの方向が変わると意味がない、というような研究もあります。

 

一度液状化が起こったところは二度三度繰り返し起こると思っておいたほうがよさそうです。

 

上を守るか下を守るか

液状化により建物が傾いて使用できなくなることはありますが、その場合建物自身の損傷は小さいことが多いです。先述の川岸町アパートでは建物がそのままゴロンと倒れたような印象です。

 

ものが壊れるときは弱いところに損傷が集中しますので、地盤が弱ければ地盤ばかりが変形していきます。そして、建物が壊れると中の人に危害が及びますが、基礎より下が壊れた場合は人的被害がほとんど出ません。

 

もちろん地震後も継続して建物を使用するなら建物も基礎も健全でなければいけませんが、どうせ使用できなくなるなら人的被害が出ないほうがいいに決まっています。

 

もし耐震補強を考えているのであれば、基礎や杭の補強よりも建物の補強を優先したほうがいいでしょう。