バッコ博士の構造塾

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熊本地震の被害状況から考える木造住宅の耐震性

2016年の熊本地震では二度の大きな揺れに見舞われました。特に益城町では震度7を二回記録するという、過去に例のないものでした。

 

建築基準法では二度の大きな揺れは想定していません。そのため一度目の地震には耐えられても、二度目の地震には耐えられなかったという建物が多数あります。

 

その一方、特に被害が出なかった建物も多数あります。同じ木造の住宅であっても「震度7が二回」に対して無傷から倒壊まで被害状況には大きな差があります。

 

では、一体なにが被害の差を生んだのでしょうか。

 

もちろん個々の建物には色々な差があります。しかし、多数の建物を比べることで傾向が見えてきます。

 

熊本地震における益城町の被害状況から、現行の木造住宅がどの程度の耐震性を有しているのかを見てみましょう。

 

 

建築年代による違い

建築年代と耐震基準

1950年に建築基準法が制定されましたが、地震によって大きな被害が生じるたび耐震基準は改正されてきました。建築年代によって準拠する基準が違うため、新しい建物ほど高い耐震性を有していることになります。

 

木造住宅では建築年代によって「旧耐震」「新耐震」「新・新耐震」の3つに分類できます。2000年以降に建設された建物は最新の基準を満たしていますが、それ以前の建物の場合は耐震性が劣る可能性があります。

 

「新耐震」では壁の配置バランスや、材と材とをつなぐ金物が不適切な場合があります。「旧耐震」ではそれに加えて耐力壁の量が不足している可能性が高くなります。

 

1981年以前        (旧耐震:壁量不足の可能性

1981年~2000年(新耐震:壁の配置バランス、金物に課題あり

2000年~     (新・新耐震:現行の基準

 

被害状況

建築年代によって最低限満たすべき耐震基準が違うわけですが、被害状況にはどのような差が出たのでしょうか。

 

被害を調査した際、被害の程度によって以下に示すD0からD6まで7段階の分類がされています。この分類に応じて見ていきましょう。

 

D0:無被害

D1,2:一部損壊(構造被害なし)

D3:半壊

D4:全壊(命の危険

D5,6:倒壊(命の危険

 

<無被害(D0)>

まず、無被害(D0)の建物も多数あります。これはぜひ覚えておいていただきたいです。

 

旧耐震であっても5%、新耐震で20%、そして新・新耐震であれば62%もあります。「震度7が二回」という耐震基準で想定している以上の揺れに対しても、これだけ無被害の建物があるのです。

 

基本中の基本ですが、やはり耐力壁が多いと耐震性は高まります。また壁の配置バランスも重要であることがわかります。

耐力壁

 

<一部損壊(D1,2)>

外装材の一部が剥がれるなどした状態が一部損壊です。「損壊」とはなっていますが、構造的には無被害なので耐震性の低下はほとんどありません。

 

D0の無被害も含めると、旧耐震で1/3、新耐震で2/3、新・新耐震では90%超が該当します。

 

2000年以降に建てられた住宅であれば、地震後も避難せずにそのまま留まっていられる可能性が非常に高いです。

 

<全壊(D4)、倒壊(D5,6)>

「大地震に対して命を守れればよい」というのが耐震基準の考え方です。

 

全壊(D4)とは建物が大きく傾いた状態を指します。継続使用は難しいでしょうが、人命を守ることは可能です。

 

それに対して倒壊(D5,6)は文字通り倒れてしまいますので、命の危険が高まります

 

つまり「大地震に対しては全壊してもいいが、倒壊はさせない」というのが建築基準法の基準なのです。

 

実際に全壊(D4)あるいは倒壊(D5,6)した建物は、旧耐震で46%、新耐震で19%、新・新耐震で6%に上ります。

 

しかし、命の危険がある倒壊(D5,6)については、旧耐震で26%、新耐震で8%、新・新耐震で2%に留まります。残念ながら新・新耐震でも倒壊が0%とはなっていませんが、概ね機能していると考えていいのではないでしょうか。

 

震度7が二回というのは観測史上初なわけで、今後も日本各地で頻繁に起こるかというと可能性は低いでしょう。「最低の基準を定める」のが建築基準法であり、その役目は果たしていると思います。

 

構造形式による違い

同じ木造の建物であっても、建物の構成の仕方にはいくつか種類があります。最も一般的な「在来軸組構法(工法)」、年々着工数が増えてきている「枠組壁構法(工法)(いわゆる2×4)」、古民家などに見られる「伝統構法(工法)」などです。

 

在来軸組構法:柱、梁などの「線」で建物を構成。地震には筋交いが抵抗する。

枠組壁構法 :壁、床などの「面」で建物を構成。地震には壁が抵抗する。

伝統構法  :柱、梁などの「線」で建物を構成。地震には柱・梁が抵抗する。

 

全壊、倒壊した建物の割合は伝統構法が圧倒的に高く、68%にも及びます。在来軸組構法は29%ですが、枠組壁構法ではわずか9%で、しかも倒壊は0%です。

 

しかしこの数値を見る際には注意が必要です。これらの構法は建築年代の分布が全く違っています

 

伝統構法では旧耐震が75%を占めるのに対し、枠組壁構法では旧耐震が1件もありません。また、両構法とも調査数自体が大きくありませんので、これだけで結論付けることはできません。在来軸組構法は調査数も多く、年代も新旧まんべんなくありますが、年代による差が大きいのは前述の通りです。

 

ただ、伝統構法の無被害(D0)の割合はわずか1%と小さく、新しいものであっても何かしらの被害が出ているようです。他の構法に比べて建物が柔らかいため変形しやすく、それが被害に繋がっているものと考えられます。

 

伝統構法は「古いものでは何百年も建ち続けている」「寺社仏閣は地震に強い」などと言われることがあります。しかし、強いものだけが残って、弱いものはすでになくなっただけなのかもしれません。

 

地盤による違い

地盤には同じ条件のところがありません。すぐ近所であっても地盤特性が大きく変化することもあります。

 

遠方で発生した地震の場合は地盤の深いところの影響が大きいので、表層のわずかな差はそれほど影響ありません。しかし、直下型地震のように比較的近い場所で発生した地震の場合はその影響が出やすくなります。

 

建物との相性があるため、地盤の強い・弱いがそのまま被害の大きさに比例するわけではありません。とはいえ、地盤に被害が発生するような場合には建物被害も大きくなるようです。

 

熊本地震での地盤被害は「地割れ」が一番多く、次いで「擁壁被害」「沈下」となっています。他にも「隆起」、「傾斜」、「崩落」などが生じていますが、数はそれほど多くありません。

 

街を細かいグリッドに分け、グリッド内の地盤被害の発生率を縦軸、建物の全壊率を横軸にしてプロットするとなんとなく右肩上がりの分布をします。しかしあまり明確な相関とは言えず、「まぁ、そんな風にも見えるな」という程度です。

 

地盤被害の発生率が85%でも全壊率0%の地区もあれば、地盤被害の発生率が20%でも全壊率が70%の地区もあります。もちろん全体として相関はありますが、地盤の良し悪しについて気にし過ぎない方がいいように思います。

 

方角による違い

日本の住宅は「南面に窓が多く、北面に窓が少ない」という傾向があります。窓が多くなると壁が少なくなるため、南面と北面とで壁の量がアンバランスになりやすいです。

 

それに対し、東西面は壁の量に差が出にくく、自然とバランスがよくなります。壁の量が同じであればアンバランスなものよりバランスのいいものの方が耐震性は高まります。

偏心

 

熊本地震では東西方向に倒れたものが全体の2/3を占めます。東西の揺れに抵抗するのは南北面にある壁なので、壁の量のアンバランスが被害を大きくした可能性があります。

 

ただし、南北方向よりも東西方向の方が強い揺れが観測されており、そちらの影響の方が大きかったのかもしれません。

 

階による違い

ものが損傷すると、どんどんその部分に損傷が集中するという現象がおこります。建物が倒れるときも、1階だけ、あるいは2階だけが崩れてしまうことが多いです。

 

屋根だけを支える2階に比べて、屋根と2階を支える1階の方が多くの壁を必要とします。しかし、一番面積の大きいリビングは1階にある場合が多く、上下階で壁の量がアンバランスになっている住宅は多いです。

耐震性の高い間取りとは

 

熊本地震では被害の大きい階が1階の場合が84%、2階の場合が6%、その他が10%となっています。圧倒的に1階が被害を受ける割合が大きいので、2階にいれば建物が倒壊した場合でも命が助かる可能性が高いでしょう。

 

なお、個人的なイメージではもっと2階の被害率が小さいものと思っていました。もっと勉強が必要ですね。

 

現行の木造住宅の耐震性

実被害の状況を分類しながらいくつか見てきました。結論・私見を簡単にまとめます。

 

2000年以降に建設された新・新耐震の住宅はかなりの耐震性を有している。耐力壁の量、配置バランスを考慮した間取りにするとよい。

 

在来軸組構法、枠組壁構法のどちらでも地震に強い建物にできる。○○構法だから強い、ということはない。

 

地盤は重要。ただし、絶対ではない。こだわり過ぎはよくない。

 

以上、家造りの参考になればと思います。