知らないことがあればインターネットで検索をする。これはもう生活の一部になっていると言ってもいいでしょう。実際、ちょっとした数字や用語程度であればすぐに正しい答えが見つかります。
では、「今度家を建てることになったけど、耐震性が心配だ」というときはどうするでしょうか。きっとそんなときもインターネットで検索することでしょう。
しかし、残念ながら今度はなかなか「なるほど、これが正解か」という情報に行き当たりません。なぜなら、人によって言っていることが正反対だったり、話の最初と最後とで矛盾していたり、ということが往々にしてあるからです。
この玉石混交の情報の海からどうやれば正しい情報を見分けることができるのでしょうか。
誰が発信している情報ですか
建設業就業者数は年々減少傾向にありますが、それでも500万人近くが依然としてこの業界に携わっています。では、この中の誰が発信する情報であれば信頼できるでしょうか。
工務店の親方・職人さん
木造の住宅の多くは、工務店の職人さんたちにより建てられています。現場で木を組んだり釘を打ったりと、もっとも建物と身近に接する人たちです。まさに木造住宅の専門家と言ってもいいでしょう。
しかし、彼/彼女らは、あくまでも「建てる」ことの専門家であって、「構造」や「耐震」に関する専門家ではありません。
柱や壁をうまく組み上げて建物を形づくっていくことはできるかもしれませんが、柱の太さや壁の配置はあらかじめ図面に描かれています。どれだけ図面を忠実に再現したとしても、そもそも図面に描かれている建物の耐震性が低いのであれば意味がありません。
つまり、建物をつくっている途中に大きな地震に見舞われない限り、その建物が地震に強いか弱いかを学ぶ機会は無いのです。ですから、いくらそれっぽく耐震について語っていたとしても、誰かから聞きかじった知識である可能性が高いでしょう。
建築士
建物をつくる側ではなく、建物の図面を描く側である建築士であればどうでしょうか。柱や壁の配置を決めている張本人ですから、建物の構造に関して一番よくわかっているように思えます。
しかし、柱や壁の配置というのは、ある程度定まったルールがあります。柱は建物の角や壁と壁が交差する部分、ドアや窓の横に必要です。壁は決まった枚数を東西・南北にそれなりに数をそろえて配置しておけば法律上問題ありません。
一つひとつの柱や壁を力学的な根拠を持って配置しているのか、ただルール通りに配置しているのかで意味合いは違います。ルールを熟知しているからと言って、構造に詳しいとは言えないでしょう。
建築士には、それぞれ専門があります。少なくとも、自分で構造計算ができる建築士でなければ構造の専門家ではありません。
構造設計一級建築士の有資格者
建築の設計業務を行うことができるのは建築士に限られますが、資格としては何種類かあります。基本的に一級建築士であればどんな規模の建物でも設計が可能ですが、構造に関する部分については「構造設計一級建築士」の関与が必要になることがあります。
構造設計一級建築士は、一級建築士取得後に構造に関する実務経験を5年積むことで受験資格が得られます。比較的新しい資格で、資格者数はそれほど多くはありません。
構造設計一級建築士であれば、構造の専門家であることは間違いありません。そのため、明らかに間違った情報を発信している可能性はかなり低くなります。
ただ、構造設計一級建築士でないからと言って信頼に値しないわけではありません。
木造住宅は規模が小さく、構造設計一級建築士の資格を持っていなくても設計ができます。大規模建築を対象とした資格のため、木造住宅を専門とする建築士がわざわざ取得する必要は無いからです。
むしろ、木造一筋の建築士で、木造住宅の耐震について非常に深い見識を持っているということもあります。資格は参考にはなりますが、絶対ではないでしょう。
構造設計者のレベル
どんな分野にも一流がいれば三流もいます。できれば一流の構造設計者から情報収集したいものです。
SNSが広く普及する前は、超一流でなければ専門外の人たちの目に触れることはほとんどありませんでした。しかしいまでは、専門分野における能力よりも情報発信力がモノを言います。
一般の人たちに支持される情報というのはどういうものでしょうか。
それは、理解が簡単な基本的な情報です。専門家からすれば当たり前、というレベルの情報のほうが理解しやすいので好まれることでしょう。ネット上で有名な建築士の方々は、例外なくシンプルでわかりやすい説明をしてくれます。
しかし、法律や規準を守った「当たり前」の設計ができる、というのは最低限のレベルです。法律や規準の裏にある力学や根拠を熟知し、それを勘案したうえで施主の要望に応じた解決策を提示できるのが優れた設計者です。その能力があるのかないのか、それを見抜くことは簡単ではありません。
「当たり前」の情報は建築士であれば誰でも発信可能です。人気がある、説明がわかりやすい、という理由だけでは構造設計者のレベルは測れません。
「みんなが発信していること」に加え、「その人しか発信していないこと」がある、ということが重要でしょう。
そもそも正しい情報とは
耐震の情報には、正しいもの・間違っているもの・そのどちらでもないもの、の三つがあります。
建築基準法や日本建築学会の規準などに書かれている情報は、正しいと考えて問題無いでしょう。それらを引用しているだけであれば信頼できます。最新の知見が盛り込まれていない部分なども一部あるでしょうが、書かれていることは基本的に守らなくてはならないので、正しい情報と考えていいでしょう。
法律や規準に詳しくても、最新の論文をしっかりと読み込んでいないという構造設計者もいます。そうした構造設計者が、論文に書かれたこととは違う内容を発信していれば、それは明らかに間違った情報です。一般の人では見抜くのが難しいかもしれませんが、見る人がみればすぐにわかります。
しかし、法律や規準に書かれておらず、また、論文等で明らかにされていないこともあります。そうしたことがらについては、正しいか間違っているかは判断できません。「私はこう思う」という以上のことは言えないのです。
どちらか判断がつかないことがらについては、信頼してもしなくてもどちらでも関係ありません。どうせ誰にも答えがわからないのですから、個人の好みで判断すればいいことです。
問題なのは、間違っている情報でありながら、情報発信者が有名であったり人気があったりするという理由だけで正しい情報と見なされてしまうことです。この弊害は大きいです。
ネットではコピー&ペーストが容易ですから、間違った情報もどんどん増殖していきます。残念ながら、少数の良識のある構造設計者の正しい情報を駆逐してしまうことも多々あります。
「多数決」で正しさは測れない、ということは知っておくべきでしょう。
結局どうすればいいの?
どうすれば正しい情報を得ることができるのか、それを考えながらここまで書いてきました。
しかし、「構造設計一級建築士の資格は持っていても持っていなくてもいい」「構造設計者だからと言ってレベルはピンキリである」「間違った情報の方が市民権を得ている場合もある」という、結局どうすればいいのかさっぱりわからない情報しか提供できていません。非常に申し訳ないです。
ただ、ネット上で仕入れた情報は正しくても間違っていても、実はそれほど問題ではない、というのが私の意見です。どれだけ頑張って正しいと思われる情報をインプットしたところで、専門家にはかなわないからです。
その代わり、正否不明な情報であっても、建築士にいろいろと質問することができるようになっているはずです。そしてそれに対し、建築士が誠実に対応してくれるかどうかがカギです。
これまでたくさんの読者の相談に乗ってきましたが、家づくりがうまくいくかどうかは、結局建築士との信頼関係に大きく依存します。情報収集をすることで、あなたの耐震に対する想いをしっかりと受け止めてくれる建築士かどうかを見極められるようになっているはずです。
それでも「絶対に正しい情報がほしい」という方はお問い合わせください。どこまで期待に沿えるかはわかりませんが、自分が正しいと考えることはお伝え出来ます。