自然材料である木にとって湿気は天敵です。高温多湿の日本では換気が非常に重要になります。
特に、地面に近い1階の床下は湿度が高いので換気が欠かせません。
そのため、近年では床下の換気をスムーズに行えるよう「基礎パッキン」と呼ばれる材を住宅の基礎に設けることが多くなっています。
基礎パッキンにもいろいろな種類があり、その中には「耐震性向上」を売りにしている商品もあります。「換気」が主たる役割である基礎パッキンですが、本当に耐震性を向上させる効果があるのでしょうか。
基礎パッキンとは
基礎パッキンの意義
「基礎」と「土台」の間に設置し、建物と基礎との間に隙間をつくることで換気を促す部材、それが「基礎パッキン」です。「土台」とは木造建物の一番下にある部材で、コンクリートでできた基礎と接する部分になります。
昔ながらの古い住宅であれば、床下を自由に空気が通れます。石の上に置かれた束と呼ばれる短い材で支えられているだけだからです。
しかし、現代の住宅は床下がコンクリートの基礎でグルリと囲まれています。そのままでは地面から上がってきた湿気が溜まり、大変なことになってしまいます。
そこで、従来はコンクリートの基礎に「床下換気口」を設けて換気を行っていました。
しかし、いくつも換気口を作るのは手間ですし、部分的に換気口を設けるよりも外周全体に基礎パッキンにより隙間を設けた方が換気量も多くなります。
そのため、近年ではほとんどの木造住宅で基礎パッキンが使用されています。
基礎パッキンの種類
城東テクノの「JOTOキソパッキング工法」が元祖の様ですが、現在はいろいろなものが販売されています。
樹脂製のものが多いですが、ステンレスや石でできているものもあります。また、内部に金属板が入っているものもあります。
建物と基礎との間に設置するということは、基礎パッキンにより建物の重さを支えなくてはならないということです。そのため、換気用の材とはいってもかなり硬くて強いです。
厚さも様々で、薄いものは10mm程度ですが、20mm程度が主流なようです。
そして、「耐震」「制振」「免震」というように地震に対して効果があることをアピールしているものもあります。
基礎の耐震性
基礎の耐力向上
前述の様に、従来は床下の換気を行うために「床下換気口」を設けていました。少し古い住宅であれば、格子が入った小さな開口部を簡単に見つけることができると思います。
開口部は基礎を切り欠いて設けるため、基礎の弱点になり得ます。鉄筋により補強は行いますが、角からひび割れが生じているものもよく見かけます。
その点、基礎パッキンを使用すれば開口部が不要なため、弱点がなくなります。基礎の耐力が向上していると言えるでしょう。
ただ、それによって耐震性も向上するかというとそうとは限りません。
地震によって建物が倒壊するとき、基礎が壊れることはあまりありません。大抵は1階の壁が壊れます。
もちろん地盤が崩れたり液状化が生じたりすれば基礎の強さが重要になってきますが、そうでなければ基礎の強さはあまり耐震性に関係ないと言えます。
アンカーボルトの保護
コンクリートでできた「基礎」と木でできた「土台」とを繋げるために、「アンカーボルト」という鋼製の部材を用います。
基礎パッキンを使用すると「基礎」と「土台」との間に隙間ができます。基礎パッキンの厚さ分だけアンカーボルトがむき出しになることになります。
同じ太さの棒を曲げるとき、長さが長いほど簡単に曲げることができます。そのため、むき出しになる長さが短くなるよう「薄い基礎パッキン」を使用する方がよいという主張があります。
ただ、実際はアンカーボルトだけがあるのではなく、並行して基礎パッキンが設置されているわけです。基礎パッキンは建物の重さを支えられるだけの硬さと強さを持っており、アンカーボルトが地震の力に耐える必要はありません。
ですので、地震のことは気にせず、基礎パッキンの厚さは必要な換気量に合わせて選定すればいいでしょう。
制振効果・免震効果
ものによっては制振効果や免震効果を売りにしているものもあります。本当にそんな効果があるのでしょうか。
制振
「制振」とはかなり広い意味を持つ語ですが、ここでは「エネルギーを吸収することができる装置」という限定した意味で考えてみます。
地震時に建物が揺れるのは、地震によって建物にエネルギーが入力されるからです。このエネルギーを建物に代わって吸収するものがあれば、建物の揺れを小さくすることができます。
エネルギーとは「力」×「変形量」です。では基礎パッキンに生じる力と変形はどの程度でしょうか。
まず「力」ですが、これは結構大きな値になります。1階の壁が負担する力は屋根の重さと2階床の重さによって生じますが、基礎パッキンにはそれに加えて1階床の重さによる分も追加されます。
しかし「変形量」は非常に小さくなると思われます。建物は大地震時に各階が5~10cm程度変形しますので、2階建てなら屋根面が10~20cm動くことになります。基礎パッキンはせいぜい数mmではないでしょうか。
基礎パッキンには大きな力が作用するものの、変形量は建物自身と比べると非常に小さな値になります。
エネルギー吸収しないとは言いませんが、この程度では制振効果があるとは言えないのではないでしょうか。
免震
「免震」とは、大雑把に言うと「建物と地面との間に柔らかい層を挟むことで地震の力が伝わらないようにする」という考え方です。
もし建物が宙に浮いていれば、どれだけ地面が揺れても建物が揺れることはありません。しかし実際に浮かせるのは大変ですので(浮かせる技術もあります→エアー断震)、柔らかい層を挟み込むわけです。
この柔らかい層は、当然ながら地震時の地面の動きよりも可動範囲が大きくなければなりません。そうでなければぶつかって地震の力を逃がすことができなくなります。
一般的な免震建物では50cm以上動けるようにしているのが普通です。ちなみに兵庫県南部地震(阪神大震災)では20cm程度地面が動きました。
しかし、「地震力を半減できる」という触れ込みの基礎パッキンでも可動量は5mmしかないようです。これではとてもではありませんが、免震効果は期待できません。
基礎パッキンに制振効果や免震効果は期待しない方がいいでしょう。
基礎パッキンの振動実験
一部の商品で、実際に基礎パッキンがある場合と無い場合とを比較した実験動画をHPに載せているものがあります。それを見ると明らかに基礎パッキンを設置したほうが揺れは小さくなっています。
しかし、「やっぱり免震効果があるんだ」ということにはなりません。強いて言うなら、あれは「免震」でなく「防振」です。
実験動画では明らかに地面の揺れが速すぎます。機械の振動の様に小刻みに揺れており、地震とは全く性質の違う揺れです。
建物が倒れるかどうかは2階の床や屋根面がどの程度揺れるかが重要で、1階の床がどう揺れようとほとんど関係がありません。動画のような小刻みな揺れは1階の床を揺らすことはあっても、2階の床や屋根面を強く揺らすことができないのです。
洗濯機などの機械振動のような速い揺れは伝えないかもしれませんが(防振)、地震のようなゆっくりとした揺れはダイレクトに伝わってしまうのです(免震ではない)。
くり返しになりますが、基礎パッキンはあくまでも換気のためのものであり、耐震性向上には使えません。