バッコ博士の構造塾

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構造設計のプロがUFO-Eの摩擦減震効果について徹底検証

戸建て住宅では、高層ビルでは使用しないような変わった技術があります。建物規模が小さく重量が軽いこと、特例により構造計算が必要ないこと等が影響していると考えられます。

 

特徴的なものとして、「制震テープ」「エアー断震」が挙げられます。他に例を見ない技術のためか、その効果に対しては憶測による両極端な意見が目立ちます。

 

しかし専門家であれば、公開されているデータから効果の程を推し量ることは可能です。留意点はあるにせよ、どちらも面白い技術です。

制震テープの効果は?

エアー断震は免震よりも優秀か?

 

上記の他にも、極端な賛否両論がある製品として「UFO-E」があります。建物と基礎との間に小さな装置を噛ませるだけで、建物に伝わる地震の力を大幅に減じることができるという代物です。

 

今回はこのUFO-Eについて、どの程度の効果があるのか考察してみたいと思います。

 

 

UFO-Eとは

基礎と建物との間に挟み込む、直径90mmの小さな金物が「UFO-E」です。SMRC株式会社という2009年に設立された比較的新しい会社が開発したようです。

 

この金物は薄い2枚のプレートに分かれており、プレートの境界面は滑りやすくなっています。そのため大地震時にはこのプレート間で滑りが発生し、建物に伝わる力を制限することができます。

 

会社のホームページの文言を引用すると、“地震エネルギーを小さくする「摩擦減震」により木造家屋の倒壊を防ぐ建築金物“だそうです。

 

減震とは

減震を説明する前に

地震対策技術には「耐震・制振(制震)・免震」の3つがあります。基本的にこの3つの用語があれば、どの技術の効果でも説明することができます。

耐震・制振・免震

 

そのため、エアー断震の「断震」や、このUFO-Eの「減震」という言葉は、学会等の学術的な場では使用されません。現状では販売者が勝手に称しているだけということになります。

 

そのため、「減震とはこういうもの」という明確な定義があるわけではありません。専門用語ではなく、あくまでも造語です。

 

ここで取り扱うのはUFO-E開発者が言う「減震」です。他の製品でも「減震」という言葉が使われているとすれば、また違う意味を持っているかもしれません。

 

減震の意味

「減震」とは読んで字のごとく「地震の力を減ずる」ことだそうです。では、地震の力を減ずるという考えは、耐震、制振、免震のどれにあてはまるのでしょうか。

 

耐震と制振は、「建物に伝わってきた地震の力をどのように処理するか」という考えに基づく対策法です。地震ではなく建物の方に主眼が置かれています。

 

免震は、「建物に地震の力が伝わってこないようにするにはどうするか」という考えに基づく対策法です。地震の力を伝わりにくくすることで、建物に生じる地震の力を小さくしています。

 

つまり「減震」とは、考え方としては「免震」と全く同じです。「免震」という括りの中に「減震」は含まれることになります。

 

ではなぜ認知度の高い「免震」ではなく、「減震」という聞きなれない言葉をわざわざ使うのでしょうか。それにはやはり理由があります。

 

免震では大地震に限らず、比較的小さな揺れからでも効果を発揮します。まさに「地震を免れる」と言っていいでしょう。

 

しかし減震では、かなり大きな揺れからしか効果を発揮しません。小さな揺れはそのまま建物に伝わってきます。あくまでも建物に作用する地震の力の最大値を減ずるだけです。

 

免震の方が減震よりも上位の概念で、減震は免震の機能のうちの極一部しか持ち合わせていません。さすがにそれを免震と呼ぶのは厳しいので、新たに減震という言葉が作られたのでしょう。

 

減震の原理

地震力を減ずる

基礎と建物の間にUFO-E挟むだけで減震効果が付与されるわけですが、一体どういう原理で地震の力が減じられるのでしょうか。

 

実は、これは非常に単純です。難しい数式を一切使用しなくても理解することができます。

 

まず、地震は地盤を通って建物の下からやってきます。建物は基礎を介して地盤にくっついていますので、地震によって最初に基礎が揺らされ、その基礎の揺れが建物に伝わってくるわけです。

 

では、もし基礎と建物がしっかりとくっついていなかったらどうなるでしょうか。

 

実は、建物へ地震の力を伝える通り道がなくなるので、建物を揺らそうにも揺らしようがなくなってしまうのです。そのため、地震がどれだけ大きくなろうと関係ありません。

 

そして、UFO-Eが滑るということは、建物と基礎の繋がりを断つということです。滑ってしまえば、もうそれ以上地震の力が大きくなることはないのです。

 

滑り量と地震力の関係

UFO-Eが滑れば地震の力が伝わらなくなるのであれば、できるだけ装置をツルツルにして早く滑るようにすればいいかというとそうではありません。滑るからには、それだけ建物が水平方向に移動しなくてなりません。

 

スケートリンクでドンっと押されると、スーッとどこまでも滑って行ってしまいます。建物がそんな風に滑ってしまっては都合が悪いです。

 

ではどうするかというと、大きな地震の力は遮断でき、かつ滑り過ぎない適切な摩擦を設定します。摩擦によるブレーキをどの程度効かせるかが重要になります。

 

地震の力を小さくしたいならたくさん滑らせるしかありませんし、滑る量を小さくしたいなら地震の力を大きくするしかありません。

 

これはまさに車のブレーキと同じです。すぐ停車したいなら強くブレーキを踏めばいいですが、乗り心地は悪くなります。優しくブレーキを踏めば車内は快適ですが、いつまで経っても停車できません。

 

ツルツル過ぎるとどこまでも滑ってしまう、ザラザラ過ぎると地震の力が伝わってしまう、難しいところです。

 

UFO-Eによる減震の本当の効果:メリット・デメリット

滑るのは有効

非常に古い住宅では、基礎にコンクリートを使用していません。柱は礎石と呼ばれる石の上にただ載っているだけです。

 

そのため、地震があると石から滑り落ちてしまうことがあります。落ちた衝撃で損傷することもありますが、滑ることで建物が倒壊を免れるケースもあります。

 

建物の基礎の下に黒鉛の粉を撒いておくという地震対策技術が研究されています。黒鉛が地盤と基礎との間の摩擦を小さくし、地震時に建物が滑ることで地震の力を低減しようというアイデアです。

 

このように「滑る」ということは、建物に伝わる地震の力を制限する有効な手段であることがうかがえます。「滑り」を利用したUFO-Eは理に適っていると言えます。

 

免震との比較

免震建物は、「免震層」と呼ばれる地震の力を伝えにくくする専用の層を有しています。大地震時には免震層に±30cm前後の変形が生じるような設計をする場合が多いです。

免震構造の設計方法:免震層の基本的な数値を押さえよう

 

なぜそんなに大きく変形するかというと、建物に比べて免震層が非常に柔らかいからです。そして、柔らかいほど地震の力が伝わりにくくなります。

 

一方UFO-Eはというと、滑り量は±5mmに設定されています。これは、免震の数十分の一の変形量です。

 

一般的に、免震の効果により建物に伝わる揺れの強さは1/3~1/5程度になります。30cmの変形を許容することでこれだけの効果が得られます。

 

変形量に比例して地震の力が小さくなるわけではありませんが、変形量が大きいほど地震の力が弱くなるのは確かです。5mm程度のズレでは免震ほどの効果はありません。

 

摩擦係数からみる性能

UFO-Eの滑り始めの摩擦係数は0.3、変形が大きくなると0.8になる二段階の設定になっています。さらに変形が大きくなると、アンカーボルトにぶつかって止まるようです。

 

これは、建物重量の30%に相当する力が水平方向(横方向)に加わると滑り出すことを表しています。そして、変形が5mm(もしくはその手前)までくると、建物重量の80%に相当する力に達するまでは滑らないということになります。

 

建築基準法では、「建物重量の20%に相当する水平力に対して損傷しないこと」とされています。これは震度5強程度の地震に相当すると考えられます。

 

30%は20%の1.5倍ですから、震度5強の1.5倍くらいの揺れまでは効果が無いことになります。

 

また、建物重量の80%の水平力に耐えられるような住宅はほとんどありません。摩擦係数が0.8に切り替われば、建物がそれ以上滑る可能性は低いです。

 

滑っていたものが急に滑らなくなるということは、急ブレーキがかかるのと同じことです。摩擦係数が切り替わる際に建物の揺れが増幅する可能性があります。

 

実験に見る加速度低減効果

UFO-Eの効果を確認するため、振動台を用いた実験が行われています。実験により、“阪神淡路の地震波を半減する”効果が確認されたようです。

 

グラフを見ると、基礎に生じた最大加速度は1000gal(重力加速度は980gal)程度ですが、UFO-Eを介してその上に載っている土台には500gal以下の加速度しか生じていません。確かに最大加速度は半減されています。

 

摩擦係数が0.3の範囲であれば最大加速度は300gal程度になるはずです。実際には500galが生じていますので、摩擦係数が0.8に切り替わるところまで変形が生じていることが伺えます。

 

5mm程度ではあっても、滑りが発生することでエネルギー吸収が行われます。その効果により、加速度が低減したと考えられます。

 

ただ、最大値だけでは地震の揺れを評価することはできません。基礎に発生した地震の揺れと、滑りが生じた建物の土台部分の揺れとは、揺れの特性が変化しているはずです。

 

全体的に加速度が小さくなっただけであれば効果は抜群ですが、揺れの特性が変化していれば単純には評価できません。揺れの特性が一目でわかる「応答スペクトル」という図で比較してほしいものです。

 

また、公開されているグラフでは横軸の時間の値が分かりません。基礎への入力加速度も地震波にしては単調に見えますので、もう少しデータを出してほしいところです。

 

公開情報からわかること・わからないこと

建物が滑ることで地震の力が低減されることは確かです。また、滑ることでエネルギーが吸収されることも確かです。ただ、滑り量が5mmしかないということで話が複雑になります。

 

摩擦係数が変化して滑りが制限されるとき、建物の揺れが増幅される可能性は高いです。ただ、それがどの程度になるかは建物の特性によって大きく変化します。

 

滑りが生じるとき、建物自身も数cmは変形しているはずです。足元の滑り量5mmに比べて大きな数字であり、建物の揺れが足元のUFO-Eの特性だけでは決まらないことは明らかです。

 

UFO-Eが地震の力を低減できる機構を有しているのは確かです。ただ、全ての建物、全ての揺れに対して確実に効果を発揮できるのかは、現在の公開情報からだけでは断言できません。

 

熊本地震での効果から考える

熊本地震では、UFO-Eを導入した建物に被害はなかったようです。家具の転倒すら発生しなかったというのは驚きです。

 

この章の前に書いてきたことは、自身の耐震工学の知識に照らし合わせると「おそらくこうなるであろう」というただの予測に過ぎません。また、耐震工学自体まだまだわからないことも多いです。

 

熊本地震での被害状況の報告を見ると、上記で挙げた問題点はただの杞憂なのかもしれません。

 

ただ、熊本地震では“実験上での予想を超える”効果が出たとも報告されています。それはそれで素晴らしいことですが、「予想を超える」ということは「予想ができていなかった」ということでもあります。

 

なぜ予想を超えたのか、しっかり検証していただきたいです。また、データの公開もお願いしたいです。

 

やっぱり気になること

公開されている情報から予測される性能や懸念を書いてきました。そして熊本地震という限られた条件の中では、今のところ予測はいい方に外れていそうです。

 

ただ、商品の説明を見ていると、気になる点がいくつかあります。

 

ユーザーの声

商品の良さをアピールするために、ユーザーの声がホームページに載せられています。そこには“震度4や5の地震を何度か体験したが、家の中はほとんど揺れていない”と書かれています。

 

摩擦係数が0.3であるのなら震度5強の1.5倍くらいの揺れから効果を発揮するはずで、さすがに震度4でその差を感じることはできないと思います。もちろん震度と実際の揺れが必ずしも対応するわけではありませんが、気になる点です。

 

滑りが生じていない場合、1階にいる分には隣の家と差が出ようがありません。2階にいたのなら、それはUFO-Eの効果ではなく建物自身の特性です。

 

もし滑りが生じているのなら、それは摩擦係数が思った以上に低かったということになります。もっと大きい地震の際には滑り量が過大になるか、滑りを止めているアンカーボルトに損傷が出る可能性があります。

 

もちろん、UFO-Eを設置しているという安心感によって揺れを小さく感じている可能性もありますが。

 

共振はしないが応答解析は必要

「共振」とは、建物の特性と地震の特性が一致することで揺れが増幅される現象です。共振するかしないかで大違いですので、できるだけ避けたい現象です。

共振現象の恐怖

 

技術資料では“固有振動を発生する、バネ及びゴムを摩面に介在しないので、応答解析の必要な複雑な振動減衰挙動も、共振もない”と書かれています。

 

確かに、摩擦面には建物を元の位置に戻そうとするバネは入っていません。バネが無ければ、純粋な意味での共振は起こりません。

 

ただ、共振しないからといって、危険な揺れが存在しないということではありません。共振しなくても建物が倒れることはあります。

 

バネが無くても、「滑るときの力」と「滑った量」に応じて建物の特性は決まります。特性がある以上、その特性の建物を強く揺らす地震も存在します。

 

また、“応答解析の必要な複雑な振動”がないというのは変な話です。むしろ「滑って」「ぶつかる」複雑怪奇な建物です。ぜひ応答解析をしていただきたいです。

時刻歴応答解析がよくわかる

 

2019/1/16追記

バネが無いものと思っていましたが、アンカーボルトの曲げ戻しに期待しているようです。そうなると開発元の主張は矛盾しています。

 

摩擦は減震か

技術資料では、摩擦係数が0.3~0.8であるから“300〜800galの加速度を減震”するということになっています。これは、考え方が逆ではないでしょうか。

 

“熊本地震の最大加度1580~843galの基礎への地震入力に対して(中略)理論及び実験の減衰量を遥かに超えて、最大、約1000gal前後の地震加速度が減衰したと推論” されています。

 

しかし、摩擦係数は建物に入ってくる地震の力の上限値です。最大加速度が5,000galの地震であろうと10,000galの地震であろうと、300gal程度まで低減させられる可能性はあります。

 

加速度低減効果を摩擦係数の大小で語るのは不自然ではないでしょうか。この理屈で言えば、摩擦係数を上げるほど効果が増えます。しかし、実際には摩擦係数が大き過ぎると一切滑らなくなり、効果はゼロになるはずです。

 

制振は悪くない

木造住宅に関しては、耐震だけで十分な安全性を得ることができると考えています。ただ、制振、免震を組み合わせることでさらなる安全性の向上は可能です。

木造住宅なら耐震で十分である

 

製品をアピールする都合上、他の構造のデメリットを挙げることはおかしなことではありません。ただ、少し気になる表現があります。

 

“木造に制振構造を混入させてはいけない”という“先人の知恵”は聞いたことがありません。制振は素晴らしい技術だと思います。

 

また、制振部材による“ばらばら振動”とは何でしょう。骨組と装置が異なるタイミングで力を発揮することを言っているのであれば、UFO-Eも同じことになってしまいます。

制振・制震ダンパーの種類と特徴

 

熊本地震でのUFO-Eの効果は素晴らしいものがあったようですが、制振ダンパーも素晴らしい効果を発揮していることを最後に付け加えておきます。

 

『e戸建て』の疑問に対する見解・意見

2019/1/11

この記事が戸建て住宅の質問掲示板である『e戸建て』からリンクされているようです。記事に関する反論も上がっていました。

 

いろいろ議論が盛り上がるのは結構なのですが、確実に言えること、データが無いとわからないこと、これは分けて考えるべきです。

 

また、かなり前ではありますが、開発元に直接問合せもしています。その上で明快にならなかった個所を記事にしています。

 

アンカーボルトにぶつかるか

UFO-Eに滑りが生じるとアンカーボルトは曲がります。地震が大きくなると、土台はアンカーボルトにぶつかります。そう回答があったので確実です。

 

滑りが生じるまでは何も起こりません。普通の建物とほぼ同じです。アンカーボルトが曲がるのは、滑り出した後からぶつかるまでの間です。

 

アンカーボルトと土台の間には隙間が設けてあります。ただ、土台の上端でアンカーボルトと接しているので、土台が滑るといっしょに変形します。

 

アンカーボルトはUFO-Eの可動域である5mm程度なら曲げられても損傷せず(弾性範囲)、建物が元の位置に戻る力を与えるようです。

 

しかし、一緒に動くのは先端だけで、当然ながら根元が動くわけではありません。滑り量が大きくなれば、アンカーボルトの根元と土台はぶつかります。もしぶつからないのなら、限界を超えてアンカーボルトが曲がることになってしまいます。

 

このとき、土台のめり込みによるエネルギー吸収も期待できるとのことです。ただ、「木材がある速度を持って鋼材にぶつかる」という複雑な現象のため、正確に数値を算出するのは難しいでしょう。

 

エネルギー吸収について

「減震」という言葉の意味が明確でないまま使われている気がします。「エネルギー吸収」と似たような意味で使われているのでしょうか。

 

アンカーボルトがいくら曲がろうが、エネルギー吸収はしません。地震により建物に入力されたエネルギーを、一時的に位置エネルギーに置き換えているだけです。

 

アンカーボルトが真っ直ぐになろうとするときに再びエネルギーを開放するので、「減震」とやらの効果はありません。もちろん、基礎と土台の変形差を軽減する効果はありますが。

(2019/1/16追記:エネルギー吸収に関しては間違いでした。下で訂正しています。)

 

UFO-Eがエネルギー吸収をするのは、滑ることによる摩擦です。「摩擦力」に「滑った距離」を乗じたものが吸収エネルギーになります。

 

震度5以下にも効果があるか

「加速度が300galを超える地震に対して作動する」という回答を得ています。

 

一般的に、地震時の地面の加速度は震度5強だと80~100galと言われています。加速度が300galを超えるのは6強程度でしょうから、回答の文面だけでは6弱でも効かないのかと思ってしまいます。

 

実際には地面の加速度が80gal程度でも建物内で2.5倍程度に増幅すると考えて、200galくらいの力に対して設計を行います。滑り出しはその1.5倍の300galということなので、やはり震度5強以下では効果が得られる可能性は低いものと考えられます。

 

摩擦係数のばらつきについて

摩擦係数は0.3ということですが、当然ばらつきはあるでしょう。ばらつきに関するデータが無いのでわかりませんが、0.25や0.35といった製品が紛れているかもしれません。

 

「摩擦係数が小さいものは早く滑り始めるので、小さい地震でも効果がある」という主張がありますが、本当でしょうか。しかし、残念ながらその可能性は低そうです。

 

そもそも、摩擦係数にばらつきが無くても装置ごとに滑り出しのタイミングは違います。滑り出しの力は「摩擦係数」そのものの大小ではなく、「摩擦係数×装置の負担する重量」で決まるからです。そして、地震時に各装置に加わる力は装置の負担重量には依存しません。

 

負担している重量はもちろん一様ではないので、他の装置に比べて早く滑り出すものもあるでしょう。しかし、それがすなわち小さい地震でも効果がある、とはなりません。

 

なぜなら、全ての装置は土台を介して1階床面と繋がっているはずです。そして、床は上部の建物に比べて硬いのです。床を硬くしておかないと、計算の前提が成り立たなくなるからです。

 

ということは、一部の装置が力を負担しなくなったからと言って、建物が滑るわけにはいきません。床を介して、まだ滑っていない他の装置に力が作用するようになるだけです。

 

装置自体が滑り出すまでにそれなりに変形するのであれば、各装置の滑り出しのタイミングが違うことで滑らかに滑り出す効果は期待できます。しかし、滑る前に変形するという情報はどこにもありませんし、実際変形するようにも見えません。

 

床がかなり変形するというのでなければ、全ての装置がほとんど同時に滑り始めるでしょう。摩擦係数のばらつきはあまり意味がなく、結局平均値に近い値で滑り出すはずです。

 

2019/1/16追記

「床が取り付いた土台は硬い」というのは、あくまでも水平方向の変形に対してです。鉛直方向には当然床の有無に関わらず変形します。ただ、鉛直方向にいくら変形しようと装置の滑り量には影響ありませんので、反論にはなり得ません。

 

摩擦係数と可動域

動き出す直前(静止)と動き出した後(動)で摩擦係数は変化します。UFO-Eでは、動き出す前は0.3、動き出した後は0.3よりも小さくなるとのことです。

 

「免震」にも摩擦によりエネルギー吸収を行うタイプのものがあります。その場合、建物重量の概ね3%(0.03)、つまりUFO-Eよりも1ケタ小さい値で滑り出すよう設計します。そして、大地震時には30cm程度変形します。

 

建物の揺れを止めるために3%の摩擦で30cmの変形が必要だとすると、30%の摩擦だと3cm程度は変形しなくてはならないはずです。もちろんそう単純なものではありませんが、近い数値になるはずです。

 

しかも、UFO-Eの動摩擦係数は0.3より小さいようですから、3cm以上の変形量が必要になります。しかし、可動域は5mmしかありません。

 

そのため、「摩擦係数0.8によって止めるか、アンカーボルトにぶつけて止めるか」になります。そして、3cm以上移動したいものを5mmで止めるからには、相応の衝撃が生じるはずです。

 

「摩擦係数が0.3から0.8に徐々に増えていくから大丈夫」という意見もありますが、果たしてそうでしょうか。徐々にであっても、「5mmで止める」という行為は変わっていません。

 

滑らかに摩擦係数を上昇させれば、摩擦係数の急変による瞬間的な加速度の上昇は無くせるでしょう。しかし、基礎から伝わってくる地震の力をカットするという「減震」の本来の効果は消え失せてしまいます。

 

2019/1/16追記

ちなみに免震では「30cmで止める」ではなく「30cmで止まる」です。止まる分には衝撃は生じようがありませんが、「5mmで止める」のであれば大なり小なり衝撃は生じるはずです。

 

バッコのUFO-Eに対するスタンス

UFO-Eがいい製品かどうか、別にどちらでも構いません。いい製品であればもっと使われるようになればいいですし、そうでないなら使われないようになればいいだけです。

 

熊本地震では効果を発揮しているようなので、おそらくはいい製品なのでしょう。しかし、今後どんな地震が起こるかわからない以上、熊本地震だけをもって判断することはできません。

 

地震による被害は最大加速度だけで決まるわけではありません。熊本地震より小さな地震であっても、UFO-Eにとっては危険度が高い可能性があります。

 

現状公開されているデータから理屈で考えると「こんな問題が起こる可能性があるのでは?」と問題提起しているだけです。自身が常に正しいことを言っているとも思いません。

 

ただ、掲示板上の議論は力学的な視点ではなかったり、建築の基本を無視した意見だったりします。反論は大歓迎ですが、力学を無視しては議論になりません。

 

UFO-Eが本当に素晴らしいものなら、もっと普及すればいいと思います。しかしその前に、構造設計の専門家が納得できるだけの説明や証拠が必要です。

 

『e戸建て』 その2

2019/1/13

できるだけ数値を示しながら見解を示したつもりでしたが、拙い文章のため伝わっていない部分が多々あるようで反省しています。

 

この際、質問が出尽くすまで回答していくのも一興かと思います。肯定派も否定派も、最終的に「やっぱりここはわからないね、みんなで開発元に聞いてみよう」となるのが理想です。

 

1つずつ解決していき、共通認識を作っていきましょう。できるだけ問題は切り分けて考えた方がよさそうです。

 

アンカーボルトにはぶつかる

揺れが大きくなっていくと最終的に土台とアンカーボルトはぶつかる、これは揺るぎない事実でしょう。開発元がそう回答しているので間違いありません。

 

ただ、ぶつかるまでには当然ながら段階があります。

 

まず、滑る前の段階。滑り荷重に達しない中小の地震では滑りません。開発元が出している“地震対策の適応範囲”なる図には目安として、震度表記だと震度5強と震度6弱の境目、加速度表記だと300gal弱から効果を発揮するとされています。

 

次に、摩擦係数0.3の範囲で滑り出す段階。最初の滑り出し荷重である建物重量の30%に相当する力が作用すると、建物は滑り出します。滑り出した後の摩擦係数は0.3より小さくなるようです。滑っている間は滑り出しの荷重を超えて建物に力が作用することはありません

 

その次は、摩擦係数0.8の範囲で再び滑らなくなる段階。滑り量が5mm(あるいは5mm以下、詳細不明)を超えると摩擦係数が0.3から0.8に変化します。スロープに乗り上げるような形状なので、徐々に摩擦係数が変化しているという可能性は低そうです。この段階になると、「建物重量の30%以下の力しか作用しない」という効果はなくなります

 

そして、摩擦係数0.8の範囲で滑り出す段階。摩擦係数変化後の滑り出し荷重である建物重量の80%に相当する力が作用すると、建物は再度滑り出します。スロープの頂部に達するまでの変形量が「可動域5mm」なのかもしれません。

 

最後に、アンカーボルトにぶつかる段階。可動域を超え、アンカーボルトと土台の隙間以上に滑りが生じると最終段階であるアンカーボルトと接触します。土台下端とアンカーボルトのUFO-Eの直上部分があたることになるでしょう。装置の写真を見る限り隙間は10mm程度あるそうなので、可動域の5mmを超えてもすぐにはぶつからないようです。この5mmから10mmの間は何があるかは不明です。

 

寸法関係や接触直前のことは不明な点もありますが、その他のことについてはまず間違いないと思っているのですが、いかがでしょうか。

 

実際にアンカーボルトに土台がぶつかるような地震が起こるかはわかりません。少なくとも、かなり大きな地震でないとぶつからないのは確かでしょう。

 

少しでも滑れば「減震」効果はあるか

UFO-Eの負担重量に起因して、装置の滑り出しのタイミングには差があります。早めに滑る装置があれば、比較的小さな地震でもエネルギーを吸収する効果はあるでしょう。

 

しかし、その効果が「揺れの低減に十分寄与する」のか、「無視できるほど小さい」のか、量的な検証は必要です。

 

エネルギー吸収量は「摩擦力」に「滑った距離」を乗じたものです。摩擦力が小さいものから順に滑り出すのであれば、それなりに滑らないとエネルギー吸収量としては小さいのではないでしょうか。

 

滑った距離を稼ごうと思うと、滑った場所と滑っていない場所とで床に変形差ができます。「床が硬いとそれほど変形差が出ないので、滑り出すタイミングの差は揺れの低減にあまり寄与しないだろう」というのが個人的な見解です。

 

床の硬さについては後述しますが、少なくとも開発元は「小さな地震に対する効果はない」ことを認めているのではないでしょうか。“適応範囲”の図もそうですし、以前問い合わせた際の回答にもそう書いてありました。

 

別に小さな地震に効果が無いからと言ってUFO-Eの価値は下がりません。UFO-Eの真の価値・意義は大地震時の揺れの低減に置かれているのではないでしょうか。

 

ただ、「ユーザーの声(震度4でも効果があった)」と「開発元が謳う性能」に乖離があるので、違和感があるというだけです。UFO-Eを設置したことによる安心感がそうさせた、ということでも別にいいと思います。

 

「開発元が把握していないような性能があるんだ!」ということかもしれませんが、それはそれで問題ではないでしょうか。一般の方でも思いつく性能を見落とすような技術者が作った製品であれば、かなり不安になってしまいます。

 

中小地震に対する効果や滑り出しのタイミングについての議論は、もう十分ではないでしょうか。

 

床が硬いことと建物が柔らかいことは矛盾しない

構造計算を行う場合、ほとんどの場合に「剛床仮定」という計算上の仮定を行っています。

 

「剛」というのは「無限の硬さを持ち、一切変形しない」という意味です。つまり、剛床仮定とは「床は硬くて変形しないものとして構造計算をする」ということになります。

 

計算が非常に楽になるので取り入れられているわけですが、なぜそんな仮定をしてもいいかというと、実際に床が硬いからです。床の変形を考慮した場合と無視した場合とで、計算結果はほとんど変化しません。

 

建物と比べて床が十分に硬いことは構造設計の基本なのです。

 

例えば、1階の壁は、屋根、天井、2階の壁、2階の床、これらすべての重量を負担しなくてはなりません。居住空間や開口部も必要なので、壁が入れられる範囲も限定的です。しかも固定されているのは足元だけです。

 

それに対して床は、吹き抜けや階段以外の部分を全て覆いつくします。下階の壁や基礎などによって4辺を固定され、細かく仕切られています。

 

ただ、床がコンクリートでできている鉄骨造やRC造に比べると、木造では床が剛とは言い切れないような場合が多いのも確かです。その場合は剛床仮定を適用せず、床の変形を考慮した計算が必要になります。

 

とはいえ、剛と考えるには柔らかいというだけで、依然として建物に比べてかなり硬いのです。

 

なお、硬さを考えるうえで、“土台だけが硬い物”として都合よく特別扱いはしていません。土台自身は別に硬くありません。コンクリートの基礎や硬い1階の床とくっついているから硬いだけです。

 

2019/1/16追記

上述しましたが、もちろん土台が鉛直方向にも硬いとは考えていません。あくまでも水平方向の話です。混同しないよう注意してください。

 

アンカーボルトのエネルギー吸収

開発元からは「5mm変形時のアンカーボルトに生じる力はせん断強度の1/10」という回答を得ています。それを受けて深く考えずに「エネルギー吸収はしていない」と前回は書いてしまいましたが、間違っていたようです。

 

アンカーボルトの「せん断」ではなく「曲げ」に注目すると違ったことがわかりました。

 

“アンカーボルト径φ1.06cm、断面二次モーメントI=0.06194(cm4)、ヤング係数E=2100t/cm2として計算すると、1mm曲げるのに390Nの応力で済みますが、UFO-Eの最大スライド数値、5mmの曲げ応力は各アンカーボルト全てで1920Nの応力がかかることになり、UFO-Eの摩擦減震に付加されます”

 

アンカーボルトの先端を自由端、コンクリートの基礎に埋まっている側を固定端とした「片持ち梁」として算出していると考えてまず間違いないでしょう。

 

片持ち梁先端の曲げ変形の公式は次式になります。

 

δ=PL3/3EI

 

ここで、δ:先端の変形、P:先端に作用する力、L:梁の長さ、E:ヤング係数、I:断面二次モーメントです。

 

“1mm曲げるのに390Nの応力”ですから、δ=1mm、P=390Nです。EとIはすでに書かれていますので代入すると、梁の長さであるLが求まります。

 

計算の結果、L≒100mmになります。装置の写真と見比べる限り、いい数字が出ていると思います。開発元がしている計算の後追いができているのでしょう。

 

ということで、5mm変形したときに根元に生じている曲げモーメントは1,920Nに100mmを乗じた192,000Nmmです。

 

次に、アンカーボルトが耐えられる曲げモーメントの値を求めましょう。それには「断面係数」という値が必要です。

 

断面係数は「断面二次モーメントを半径で除す」だけで求まりますので、0.06194cm4を直径1.06cmの半分で割った0.1169cm3になります。これにアンカーボルトの強度を乗じれば、アンカーボルトが耐えられる曲げモーメントの値が求まります。

 

鋼材の一般的な強度である235N/mm2を使用すると、約27,500Nmmになります。

 

192,000/27,500≒7となり、5mm変形時には許容値の7倍の曲げモーメントが作用することになってしまいました。円形断面の場合、最大で許容値の1.7倍まで負担することは可能ですが、それでも4倍の値です。

 

針金を折り曲げると熱が出る、熱が出るということはエネルギー吸収をしている、ということです。そして繰り返し折り曲げると、いつかは千切れてしまいます。

 

なぜなら、鋼材がエネルギー吸収をするということは損傷するということだからです。専門的には「塑性変形」をしている、ということになります。

 

5mm/7≒0.7mm、つまり0.7mm変形すると塑性変形の領域に入るので、確かにアンカーボルトによってエネルギー吸収が行われているという計算結果になりました。私よりも、どなたかの書き込みの方が正しかったようです。

 

ただ、アンカーボルトがエネルギー吸収をするということは、アンカーボルトに損傷が生じているという意味でもあります。5mmも変形させてしまって大丈夫なのでしょうか。

 

「計算が間違っている」というのであればぜひご指摘ください。実際にはアンカーボルトに被害は出ていないようなので、計算が間違っている可能性はあります。

 

免震の効果について

免震について誤解されている方がいるかもしれないので、念のため書いておきます。

 

減震は“上の揺れをゼロにする免振とは異なります”とありますが、免震は上部構造の揺れをゼロにする効果はありません。地震により生じる力を1/3~1/5に低減する、というのが一般的な説明です。

 

ちなみに「免振」ではなく「免震」です。

 

摩擦係数が0.3の範囲に留まるのであれば、大地震時の減震による低減効果は1/2~1/3と言ったところでしょうか。

 

また、摩擦係数が0.8に切り替わった後の効果については現在議論中、ということでいいでしょうか。

 

摩擦係数切り替わり時の衝撃について

静止している状態から動き出すことを考えるのか、物体が振動しているときのことを考えるかで、最大速度を発揮するタイミングは違います。

 

物体が振動するとき、速度が最も大きくなるのは変形がゼロのときです。変形が最も大きくなったときは、振動の向きが変わる瞬間なので速度はゼロになります。

 

地震の特性によっても変わりますが、基本的には「建物の揺れは振動」と捉える方が自然ではないでしょうか。その場合、“動き始めて直ぐに止めれば速度は遅いですから衝撃は小さいです”とは言い切れないでしょう。

 

もちろん、上部建物が振動しても足元が滑っていなければ、系全体としては振動とは呼べないかもしれません。しかし、足元が一旦左側に滑って停止した後に右側に向かって滑り出すという場合は振動に近くなるでしょう。実際、滑る・止まるを繰り返すような免震建物の解析をすると、変形がゼロの付近で最大速度となります。

 

仮に振動でないとしても、摩擦係数が切り替わるまでの変形量(5mm、あるいはそれ以下)が本当に“動き始めて直ぐ”と言えるのか、具体的な数値を用いて検証してはいないでしょう。現状ではイメージの域を出ていません。

 

とはいえ、摩擦係数が切り替わる瞬間の速度が本当に速いかどうかの検証もできてはいません。数値が出てこないと水掛け論になってしまいます。

 

そこで、「衝撃」という言葉を使うのをやめます。個人的にはわかりやすいと思ったのですが、失敗でした。再度「エネルギー」という観点から考えてみます。

 

前述しましたが、免震では建物重量の3%に相当する力で建物の揺れを止めようとします。揺れを止めるために、30cm程度変形しなくてはなりません。

 

一方の減震では3%ではなく、その10倍の30%に相当する力で建物の揺れを止めます。免震と同じ量のエネルギーを吸収しないと止まらないので、免震の1/10の3cm程度変形しなくてはなりません。

 

ここまでは同意が得られるでしょうか。もちろん粗い仮定をしていますので、細かい数値は違うでしょう。ただ、大体のオーダーとしてはいいと思います。もし、「いや、それは変だ」という部分があれば教えてください。

 

とりあえず続けましょう。

 

3cm変形してエネルギー吸収すべきところを、5mmしか変形しないのであれば残り25mm分のエネルギーをどうにかして処理しなくてはなりません。25mm/30mm=0.83、つまり83%は振動のエネルギーが保持されたままです。

 

「いや、5mmよりも小さな変形で摩擦係数が0.8に切り替わるからそんなことは起こらない」という主張もあるでしょう。確かに、その場合はエネルギー吸収効率が高まり、揺れを止めるのに3cmも変形する必要はなくなります。

 

しかし、それはただ単に摩擦係数が切り替わるまでに吸収できるエネルギーの量を減らすことになるだけです。摩擦係数が切り替われば減震の効果は無くなり、普通の建物と大差なくなるはずです。

 

通常、建物重量の20%に相当する力に対して損傷しないよう建物は設計されます。損傷から倒壊までは大きな差があり、40%くらいまでなら耐えられると考えられます。実際には少し余裕を持った設計をするので、ここでは50%としましょう。

 

摩擦係数が0.8ということは、建物重量の80%に相当する力になるまで滑らないということです。50%の力にしか耐えられないのであれば、摩擦係数が切り替わったあとは滑らないことになります。

 

滑らないのであれば、吸収しきれなかった残りのエネルギーを上部の建物が処理しなくてはならなくなります。摩擦係数0.3のときの滑り出し荷重である建物重量の30%に相当する力に加え、残りのエネルギー分だけ建物に作用する力が増えることになります。

 

仮に現行の耐震基準の1.5倍の強さがある耐震等級3であっても、50%の1.5倍は75%です。80%以下なので、まだ滑り出しません。摩擦係数が切り替わったあとも滑るような建物は稀ですし、仮に滑ったとしてもかなり損傷を負っていることになります。

 

特に「衝撃」という概念を持ち出さなくても、摩擦係数が切り替わる際に地震の力が増加することが説明できているように思うのですが、いかがでしょうか。

 

摩擦係数が0.3の範囲に留まるときの低減効果は1/2~1/3程度かもしれませんが、摩擦係数が切り替わってしまえば5/6(=83%)程度にしか低減できないように思います。

 

初期の摩擦係数が 小さい状況での効果だけで「減震はすごい」と言われると違和感があります。摩擦係数が大きくなると初期ほどの効果はなくなるが、それを踏まえて「減震はすごい」と言うのであれば理解できます。

 

「いやいや、摩擦係数が上がっても効果は変わらないでしょ」というのであれば、理由を教えてください。「摩擦係数が切り替わる前にゆっくりと止まる」のなら、数値を交えて説明いただけると助かります。

 

もしアンカーボルトのエネルギー吸収を理由に反論されるなら、具体的な数値を入れていただきたいです。アンカーボルトの本数と塑性変形が生じるときの力がわかっているので、その分の寄与を数値で表すことは可能でしょう。

 

しかし、ただ単に摩擦係数を大きくしても揺れを低減できないのと同様、アンカーボルトのエネルギー吸収を加算したからと言って揺れの低減効果にさしたる改善は見られないであろう、と予め言っておきます。

 

建設的な議論ができることを望みます。

 

現時点での結論

2019/1/15

前章を追記した後、いろいろと掲示板上で議論がありました。

 

丁寧に反論いただけたので、非常にありがたかったです。言いたいことは言いましたので、あとは新しいデータが出ない限り傍観する予定です。

 

それらの議論を踏まえて、現時点でのUFO-Eの効果に関する考えを備忘録として記しておきます。考えを整理する意味もあります。まだ製品については不明点も多いので、情報が増えれば考えが変わる可能性はあります。

 

もちろんこれは個人の意見ですし、反対の意見もたくさん上がっています。両者の意見を考慮し、本当によいと思った方はぜひ導入してください。

 

ちなみに、情報量が増えることによる考えの変化はありますが、議論によって変わった部分は一切ありません。そのため、繰り返しになる部分も多いと思います。

 

中小地震には効果がない

震度5強の1.5倍程度の地震からしか効果は無いでしょう。それまでは滑りが生じないので、効果を発揮しようがありません。これは開発元も認めるところです。

 

「100個ある装置が異なるタイミングでバラバラに動き出すので、小さな揺れでも効果がある」、ということには同意できません。

 

もちろん全ての装置が同時に滑り出すわけではないでしょう。ただ、滑り出すというのは「もうそれ以上力を負担しない」ということであって、「どこまでも勝手に滑っていく」わけではありません。

 

まだ滑り出さない他の装置に床を介して力が流れるだけで、力を負担できなくなった装置もほとんど移動せずにその場に留まっているはずです。床の硬さと滑り出しの力を比べれば、理解できることです。

 

もちろん先行して滑り出した装置が一切エネルギー吸収をしないという意味ではありません。ただ、無視しても差し支えない量だということです。

 

アンカーボルトについて

滑り出すまではアンカーボルトに力は生じませんが、滑り出し以後は土台とともに水平方向に変形して力を負担し始めます。

 

0.7mmも変形すると損傷が始まるので、建物を元の位置に戻す力は損なわれるでしょう。損傷開始以降は著しく硬さが低下するので、変形が増大していった際のストッパーとしての役割もあまり期待できません。

 

また、UFO-Eの可動域である5mmまで繰り返し変形が起こるとすれば、耐久性の面でやや不安があります。さすがにすぐに折れてしまうようなことは無いと思いますが。

 

その代わり、損傷に伴うエネルギー吸収を行います。数も多いので、結構な吸収量になると思います。

 

ただ、エネルギー吸収量が増えれば建物の揺れが小さくなる、というわけではありません。免震や減震のような「地震の揺れを伝わらなくする」という目的に対しては、逆効果になります。これは後述します。

 

大地震時の効果は限定的

摩擦係数が0.3なので、建物重量の30%に相当する力が建物に作用すれば滑り出し、それ以上の力が作用しなくなります。これが減震効果でしょう。

 

設計で考慮するレベルの大地震に対して、常にこれだけの効果が発揮できるのであれば素晴らしい地震対策技術と言えるでしょう。

 

しかし、実験では300galを超えて500gal近い加速度が生じています。試験体の情報がないため正確にはわかりませんが、これは建物重量の30%を超えて50%近い力が作用している可能性があります。

 

50%というのは、普通の建物であれば倒壊の恐れがあるレベルです。当然地震が大きくなれば、さらに大きな力がかかることになります。

 

はじめは摩擦係数が0.8のところまで滑ったからかと思っていましたが、アンカーボルトによる抵抗に起因するのかもしれません。摩擦に加えて、アンカーボルトが力を伝えてしまうからです。

 

免震や減震においてエネルギー吸収能力を高めるということは、地面との繋がりを強くすることに他なりません。そのため、伝達される地震の力を大きくしてしまいます。

 

エネルギー吸収能力を高めるために摩擦係数を上げていくといつかは滑らなくなってしまう、ということを考えれば容易に理解できます。エネルギー吸収能力を上げるほど変形が小さくなる「制振」とは違うことを理解しておきましょう。

 

また、摩擦係数0.3とアンカーボルトによるエネルギー吸収だけでは、大地震時に滑り量を5mm以下に抑えることは難しいと思います。免震建物におけるエネルギー吸収量と比べるとその差は歴然です。

 

免震ではゆっくりと30cm変形する間にエネルギーを吸収して止まります。一定の力でブレーキを緩く踏んでいるイメージです。

 

減震では強めのブレーキ(摩擦係数0.3+アンカーボルト)をかけていますが、それでも5mmでは止まり切りません。さらにブレーキを踏みこんで(摩擦係数0.8)止まることになります。

 

当然免震と減震とでは建物が振動する周期が違います。免震では十分に時間をかけて止まることができます。

 

摩擦係数が仮に段階的にではなく滑らかに変化するとしても(その可能性は低いと思っていますが)、結局5mmで止まらなければならないという意味では同じです。1階床に生じる瞬間的な加速度を抑える効果はあるでしょうが、上部の建物に作用する力にはさして影響ありません。

 

摩擦係数が滑らかに変化してしまうと、「地震の力を建物重量の30%相当で頭打ちにできる」という減震の効果まで否定することになってしまいます。滑って力が増加しなくなることが重要であるのに、滑りの抵抗も同時に増えていくことで地震の力も一緒に増加してしまいます。

 

結局のところ、UFO-Eを使用することで得られる効果は「大地震時に建物に作用する力を10~30%程度低減できる可能性がある」程度ではないかと思います。

 

もしこの読みが正しいのであれば、減震よりも制振の方が効果はありそうです。同じ費用でできるのなら、個人的には制振を選びます。

 

最後に一言

自分なりに構造設計のプロとして真面目にUFO-Eについて考察してきました。実際に効果があるのかないのかは、開発者でないので確認しようがありません。

 

あくまでも、ただの個人の意見・予想です。数少ない開示データからの予測でしかありません。

 

インターネット上の情報は玉石混淆です。しっかりと反対意見やその他の意見にも耳を傾けてください。

 

さて、私の意見は「玉」でしょうか、「石」でしょうか。