バッコ博士の構造塾

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制震テープの効果は?構造設計のプロが本当の性能を徹底解説

世の中にはいろいろな種類の制振ダンパーが出回っていますが、その中でも異彩を放っているのが「制震テープ」です。

 

制震テープ単体では制振ダンパーとは呼べません。耐力壁にこのテープを貼り付けることで、ただの耐震の壁が制振の壁へと変化するのです。

 

つまり、制振ダンパーではなく「制振ダンパーの素」を売っているようなものです。そのため、従来の制振ダンパーに比べて低価格になっています。

 

検索をかけてみると、制震テープの効果について賛否両論見られます。その他の制振ダンパーも同様な状況ではあるのですが、特に制震テープではその傾向が強いように感じます。

 

あまりにも従来の制振ダンパーと形状が異なるため、その効果を見極められないでいる人が多数いるからだと思います。構造設計のプロとして、その疑問に答えていきます。

 

 

制震テープとは

開発者

防災科学研究所、東京大学、清水建設の共同開発です。

 

現在発売を行っているのは「アイディールブレーン」という会社ですが、元々は清水建設の事業化公募制度に基づき発足しています。その後しばらくして清水建設から独立しました。

 

その他の有名な製品としては「ミューソレーター」という世界一薄い免震装置を開発しています。なかなか大手の研究所ではできないような、面白い製品をたくさんつくっています。

 

制震テープ

「制震テープ」とは、木造住宅の耐震性を高めるために使用するテープです。強力な両面テープだと思っていただいて差し支えありません。

 

通常の木造建物では、柱・梁に合板を釘で打ち付けて地震に抵抗できるようにします。このとき、柱・梁と合板を直接一体化させるのではなく、間に制震テープを貼り付けることで制振効果を付与するというのがこの製品のアイディアです。

 

テープの厚さはわずか1mmしかなく、建物の設計に影響を与えることはありません。また、他の制振ダンパーのように「耐力壁の代わり」に取り付けるのではなく、「耐力壁と一緒」に使用することができます。

 

元々ある耐力壁を利用するので、頑強な部材とセットで販売する必要がありません。そのため価格もかなり抑え目です。通常の制振ダンパーであれば1階に4台設置して50~100万円程度といったところですが、この制震テープであれば20~30万円程度だということです。

 

制震テープの耐震性能

実験による検証

メーカーのホームページでは、如何に耐震性能が高いか実験データを基に示しています。

 

実験では、兵庫県南部地震を入力地震動として採用しています。地震の倍率を変えながら、複数回建物に与えています。

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比較対象となる制震テープを設置していない建物でも兵庫県南部地震数回に耐えているので、かなりしっかり設計された建物を用いて実験を行っているようです。

 

とはいえ地震を経験するたびに変形が大きくなっており、複数回の地震を想定すると耐震だけでは安心できないことがわかります。

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一方制震テープを設置した建物では、複数回の地震を経験した後でもほとんど初期の性能を保っています。繰り返しの地震に対して高い性能を発揮することがわかります。

 

ここで少し視点を変えてみます。大地震だけでなく、中規模の地震に対する効果も見てみましょう。

 

実験では地震の倍率を0.25倍、0.5倍、0.75倍、1.0倍と徐々に大きくしています。確かに1.0倍に対しては変形を大幅に低減できていますが、0.75倍以下の地震に対しては制振テープの有無による差はほとんど見られません

 

一度1.0倍の大きな地震を経験したあとでは0.5倍の中規模の地震に対しても効果が見られますが、最初はほとんど効果を発揮していないことがわかります。

 

制震テープと一般的な制振ダンパーとの違い

柱・梁と合板がずれることで、その間に挟まれている制震テープが変形し、エネルギー吸収を行います。釘がしっかりと合板を押さえ付けているうちは制震テープに変形が生じないので、制震テープの有無が変形量に差を与えないのも当然の結果です。

 

「制振は建物が変形するまで効かないから意味がない」という指摘もあながち間違いとは言い切れません。しかし、建物がたくさん変形しないと効かないのか、少し変形すれば効くのか、その差は非常に大きいです。

 

「ミライエ」に代表されるような壁内に設置する制振ダンパーは、かなり小さな変形からでも効果が見込めます。恐らく兵庫県南部地震の0.25倍程度の地震でも差が出るでしょう。

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なぜ小さな変形から効果があるのか、それは制振ダンパーが耐力壁と「並列」に設置されるからです。一方、制震テープは耐力壁と「直列」に設置されるので、効き始めが遅くなっているのです。

 

ダンパーを支持する部材がなく、耐力壁を利用することで価格を抑えているわけですが、それが性能を若干落とす結果になっています。

 

とはいえ、制震テープの効き始めがそんなに遅いのかというと、そうではありません。あくまでも「ミライエ」等と比較した場合の話です。

 

制震テープが無い状態の建物に比べ、各段に性能は向上しています。十分に効果のある製品です。

 

制震テープの本当の効果

「制振」あるいは「制震」とは、建物を硬くする、強くするという「耐震」の考え方に加え、「エネルギーを吸収する」という要素を加えたものです。

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制震テープには「粘弾性材料」が使用されており、エネルギー吸収を行うことができます。当然「制振」の要素があることになります。

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しかし、実験結果を見る限り、もっと重要な役割も担っているのではないかと思います。

 

木造住宅が倒れるとき、それは地震の力に抵抗する耐力壁が壊れるときです。では、耐力壁はどのようにして壊れるのでしょうか。

 

コンクリートの壁であれば壁板がバリバリと割れて壊れる場合が大半です。しかし、木造の壁では壁板は健全なまま、壁を止めつけている釘がダメになってしまいます。

 

何度も繰り返し変形することで、少しずつ釘が緩んできます。釘が抜け出し始め、釘が曲がり、最終的には折れるか抜けるかしてしまいます。そうすると当然壁は用を成さなくなります。

 

しかし、制震テープがあれば、この釘の損傷を大幅に防げます。非常に強力な両面テープになっており、壁板を脱落させず、いつまでも保持することができます。

 

事実、複数回の地震に対する性能が非常に高いです。通常の制振ダンパーの実験結果を見る限り、繰り返しに対する性能に関しては制震テープの方が上ではないかと思います。

 

通常の制振ダンパーでは変形自体を小さくできたとしても、壁の脱落を防ぐ効果はありません。建物を倒さないという意味では最高の製品かもしれません。

 

過剰な期待はNG

制震テープは多少の問題点はありますが、耐震性能の高さには素晴らしいものがあります。建築プランに一切影響が無いというのも魅力的です。

 

「耐震等級1+制振テープ」の方が「耐震等級3」より安全性は高いと思います。耐震等級3にこだわらなければ、設計の自由度を上げることができるでしょう。

 

ただ、制震テープが全てを解決してくれるわけではありません。残念な建築士が設計した「耐震等級1」であれば、制震テープを貼ってもフォローしきれないかもしれません。

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“家を丸ごとダンパーにする”“最大80%揺れを低減”という謳い文句ではありますが、ベースとなる建物が重要です。制震テープをうまく活用して、安全・安心な家を造って下さい。