バッコ博士の構造塾

建物の安全性について本当のプロが綴る構造に特化したブログ

構造設計のプロが住友ゴムの「ミライエ」をお薦めする4つの理由

今一番売れている木造住宅用の「制振ダンパー」と言えば、住友ゴム工業の「ミライエ(MIRAIE)」でしょう。

 

木造住宅を手掛ける大手ハウスメーカーの大半は、独自の「制振ダンパー」を開発しています。自社の耐震性能の高さをアピールするためなので、「A社の制振ダンパーをB社の建物につける」ということはできません。

 

しかし、住友ゴムは住宅ではなくゴムを売る会社なので、ミライエは地域の工務店を通して購入・設置することができます。わざわざ大手のハウスメーカーに頼まなくても、制振構造の住宅を建てることができるのです。

 

もちろん住友ゴム以外にも一般消費者向けに制振ダンパーを販売している会社はあります。しかし、どうせ制振ダンパーを取り付けるなら性能のよいものがいいでしょう。

 

バッコの知る限り、住宅用の制振ダンパーとしてはミライエが最高です。なぜミライエをお薦めするのか、その理由を説明していきます。

 

 

ミライエとは

「ミライエ」とは住友ゴム工業が製造している木造住宅用の制振ダンパーです。住友ゴムのホームページ上では「制振」ではなく「制震」と表記されていますが、ここでは「制振」で統一します。

間違った用語「制震構造」「免振構造」

 

制振ダンパーにはいろいろな種類があり、エネルギーを吸収する機構も様々です。ミライエには振動のエネルギーを吸収するゴム材料(粘弾性材料)が使用されており、「粘弾性ダンパー」に分類されます。

制振・制震ダンパーの種類と特徴:構造設計者が効果を徹底比較

 

木造住宅用の制振ダンパーとしては供給実績がNo.1です。今後もミライエを導入する住宅は増えていくものと考えられます。

 

1.橋梁における実績

ミライエに使用されているゴムは、元々は吊り橋の揺れを止めるために使用されていました。

 

斜張橋のケーブルに雨や風が当たると振動が励起され、何も対策をしないと橋が揺れてしまうことになります。それを避けるため、ケーブルの根元にはエネルギー吸収を行うゴムが付いているのです。

 

国内の斜張橋の揺れ止めに関して、住友ゴムは非常に大きなシェアを持っています。

 

風揺れは地震の揺れとは違い頻繁に発生しますし、継続時間も非常に長いです。ゴムには繰り返しの変形に対する耐久性が要求されます。

 

また、当然ながらゴムは屋外に設置されることになります。カバーがされているとはいえ、風雨や日射、温度変化に対する耐久性が要求されます。

 

こうした厳しい使用状況でも安定した性能を発揮するゴムが、ミライエにも使用されています。製品としての信頼性が他の制振ダンパーとは違います。

 

2.制振ダンパーの実績

住友ゴムが製造しているのはミライエだけにとどまりません。柱と梁の間に45°に取り付ける「頬杖タイプ」の制振ダンパー「Mamory(マモリー)」があります。

 

また2004年に、ミサワホームとの共同研究により制振パネルを開発し、次世代耐震構造「MGEO(エムジオ)」として売り出しています。

 

他社に先駆け、かなり以前から開発に取り組んでいることがわかります。土木分野での実績に加え、建築分野でも実績があるわけです。

 

3.高硬度ゴム

木造住宅に最適な制震ダンパーは「粘弾性ダンパー」です。もちろんミライエは粘弾性ダンパーですが、ただの粘弾性ダンパーではありません。

木造住宅に最適な制振・制震ダンパーはどれ?価格・耐久性・耐震性を比較

 

粘弾性材料にはそれこそいろいろな種類があります。硬いもの、柔らかいもの、黒いもの、透明なもの、ゴム系、シリコン系、アクリル系、様々です。

 

その中でも重要なのは、「硬い」ということです。経年劣化に対する耐久性、温度変化による特性の変化、耐震性能、これらは「硬い」ものほど性能が高い傾向にあります。

 

日本建築学会のデータベースで検索をかけると、いくつも住友ゴムの制振ダンパー関連の研究が見つかります。そしてタイトルには「高硬度ゴム」という文言が入っています。

 

自ら「硬い」と称すほど「硬い」のです。実際に性能を確認してみると、確かに硬いです。そして温度変化による特性の変化が小さく、エネルギー吸収性能も非常に高いことがわかります。

 

4.制振ダンパーの構造

ここまではエネルギーを吸収する「粘弾性材料」に注目してきましたが、制振ダンパーの構造自体も優れています。

 

まず、「構造がシンプル」な点が非常によいです。アルファベットの「A」のような形状で、無駄がありません。

 

テコの作用を利用したものや、なんだか複雑なものもありますが、シンプルが一番です。制振ダンパーは数年、あるいは数十年に一度しか本格的に作動しません。

 

「いざという時にうまく作動しなかった」という事例も他の制振ダンパーでは実際にあります。シンプルな構造であればそうした心配もいりません。

 

また、「基礎との緊結」の方法も信頼性が高いです。制振ダンパーが性能を発揮するには、しっかりと基礎に固定されていなければなりません。

 

木造の土台を介さず直接コンクリートの基礎とアンカーボルトで固定されているので、十分な耐力が期待できます。

 

過大評価は危険

制振ダンパーにより耐震性能を高めるのはいいことではありますが、基本は耐力壁によって十分な耐力を確保することです。

 

壁だけで性能を確保しつつ、さらに制振ダンパーで性能を上積みするのがよいでしょう。

 

しかし、メーカーが提供する実験の結果や動画は、性能を殊更強調するようなものばかりです。商品の宣伝なので仕方ないのですが、制振ダンパーを過大評価しないようにしましょう。

 

住友ゴムのホームページでも「揺れを最大95%吸収」と書いてあります。もちろん嘘が書いてあるわけではありません。

 

しかし、ある限られた条件での比較であったり、比較すること自体が適切でなかったりします。

 

ミライエの性能が高いことは事実ですが、ミライエを設置さえすれば問題が全て解決するというようなことはありません。優秀な建築士に検討してもらうのがよいでしょう。