多くの人にとって人生で最も高い買い物になるであろうマンションの購入ですが、新築マンションの場合には建物の完成前に契約する場合が大半です。
事前にいろいろと比較しようにも、1つとして同じマンションはありません。結局はデベロッパーの評判やパンフレットを見比べて、自分で判断するしかないというのが現状です。
マンションのパンフレットにはいろいろな情報が盛り込まれていますが、当然ながらマンションの売りとなるいい部分しか書かれていません。商売ですから、もちろんそれはそれでいいと思います。
しかし、「そんなの当たり前だろ」ということまで「ものすごく性能が高い」かのごとく記載されており、購入者の誤解を招いている側面もあります。
「耐震性が高いマンションが欲しい」と思っている方のために、マンションのパンフレットの構造に関する記載について説明していきます。
コンクリート強度
「強度が○○MPaのコンクリートを使用しており、耐久性は□□年以上」という表現をよく目にします。
コンクリ―ト強度とは、文字通りコンクリートの強さです。コンクリートの試験体を圧縮して破壊するときに耐えられる力の大きさから決まります。
コンクリート強度:マンション購入前に知っておきたいRC造の基本
コンクリート強度が大きいほど建物の耐久性は向上します。日本建築学会の指針では、コンクリート強度が24MPa(メガパスカル)を超えていれば、65年は大規模な改修が不要とされています。
もちろんメンテンナンスや小規模な改修は必要ですが、これだけ持てばとりあえず安心と言えるでしょう。さらに強度を上げれば、100年、200年と持ちます。
しかし、コンクリート強度が大きいからと言って、耐震性も高いとは限りません。同じ大きさの柱で比べれば、コンクリート強度が大きい柱の方が強くなります。ただ、コンクリートを強くした分だけ柱や壁を小さくすれば意味がありません。
コンクリート強度だけでは耐震性を判断することはできないということです。
溶接閉鎖鉄筋
「柱の帯筋は全て溶接閉鎖にしています」という、非常に専門的な文句が書かれていることがあります。これが何を意味するか、本当に理解できる人は建築士の中でも多くありません。
コンクリートの柱の中には、縦方向に「主筋」、横方向に「帯筋」と呼ばれる鉄筋が入っています。
通常、帯筋の端部は折り曲げられており、主筋に引っかかるように取り付いています。溶接閉鎖というのは、端部を折り曲げるのではなく、溶接によってくっつけてしまうことを言います。
折り曲げているだけでも、構造計算上見込んだだけの性能を発揮することができます。しかし、計算で想定する範囲を超えて建物が変形すると、折り曲げた部分から壊れてしまうことがあります。
帯筋の端部を溶接しておけば、折り曲げ部分から壊れるといったことが起こりません。建物の変形性能を高めることができるのです。
「建物が壊れる」まではその差はほとんどありませんが、「建物が倒れる」までの余裕度は高まります。
溶接閉鎖に固執する必要はありませんが、溶接閉鎖の方が高い性能を有するのは確かです。
壁のダブル配筋
「全ての壁はダブル配筋です」と言われてもピンとくる方は少ないでしょう。
コンクリートの壁には縦と横に鉄筋が入っていますが、壁の中に縦横の1セットが配置されている場合を「シングル配筋」、2セット配置されている場合を「ダブル配筋」といいます。
壁のダブル配筋とは:マンション購入前に知っておきたいRC造の基本
鉄筋はコンクリートを補強するためにあるので、基本的には多ければ多いほど強くなります。そのため、シングル配筋よりもダブル配筋の方がいいと言えます。
しかし、実際には壁の厚さによってシングルかダブルかが決まっている側面があります。壁が厚ければ自動的にダブル配筋になるのです。
シングルかダブルかということが重要なのではなく、建築基準法を満たすギリギリの鉄筋量なのか余裕を持たせた量なのかが重要です。
ダブル配筋だからといって、耐震性に配慮した設計とは限りません。
耐震・制振・免震
最近は「耐震」だけでなく、「制振」や「免震」を採用するマンションも増えてきました。
中低層マンション
中低層のマンションでは「制振」が採用されることはまずありません。あまり効果が期待できないからです。そのため通常は「耐震」、稀に「免震」がある、という感じです。
もし気に入った条件のマンションで免震を採用している場合は「買い」だと思います。若干値段は高めに設定されているかもしれませんが、それ以上の価値があると思います。
中低層マンションに住むなら免震:コスト増でもそれだけの価値がある
高層マンション
最近の高層マンションは「制振」か「免震」を採用していることが多くなってきています。超高層に限れば、「耐震」の方が少数派になるかもしれません。
「耐震」と「制振」であれば、「制振」の方が優れていると考えがちですが、そうとは限りません。ほとんど意味の無い制振構造もたくさんあります。
耐震・制振・免震:メリット・デメリット以前に知っておくべき性能の違い
購入を予定しているマンションの制振の効果が気になる方は、パンフレットのPDFをお送りいただければすぐに判断可能です。
「制振」と「免震」であれば、「免震」の方が優れています。どんなに性能のいい制振でも、そこそこの性能の免震にも勝てません。
ただ、建物が非常に細長い場合には注意が必要です。無理をした免震になっている場合があります。その場合は優れた制振の方がいい場合もあります。
超高層マンション向けの優れた制振構造として、スーパーゼネコン各社は独自技術を有しています。これらのどれかであればかなりの効果を期待できるでしょう。
基礎の形式
建物の重さを支える基礎には、大きく分けて「直接基礎」と「杭基礎」の2つがあります。
「直接基礎」では、建物が硬い地盤の上に直接載っています。建物の底面全体を利用して建物の重さを支えます。
「杭基礎」では建物の基礎から伸びた杭が、硬い地盤に達しており、杭を介して建物の重さを地盤まで伝えています。
建物の基礎の種類と特徴:べた基礎が布基礎よりいいとは限らない
どちらの基礎がいいというわけではなく、建物の重さをしっかりと地盤まで伝えられればそれで問題ありません。しかし、「杭基礎」を採用している場合は地盤が軟弱な場合が多いです。
軟弱地盤であるから絶対にダメというわけではありません。軟弱地盤の方が建物の被害が小さくなる場合だってあり得ます。
軟弱地盤だと地盤改良工事が必要?切っても切れない地盤と地震の関係
しかし、建物の被害以外にも生活に影響する部分はあります。軟弱地盤であればどのような問題が生じる可能性があるかは事前に調べておきましょう。