バッコ博士の構造塾

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壁のダブル配筋とは:マンション購入前に知っておきたいRC造の基本

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コンクリートの壁には縦と横にそれぞれ鉄筋が配置されています。この縦と横の鉄筋の組が壁の中に1組配置されていることを「シングル配筋」2組配置されていることを「ダブル配筋」といいます。

 

マンションの広告やパンフレットの中には、「このマンションでは全ての壁をダブル配筋としています」というようなアピールが多々見られます。確かに「シングル」よりも「ダブル」の方がたくさん鉄筋が入っていて強そうに感じます。

 

では、全ての壁がダブル配筋のマンションと一部の壁がシングル配筋のマンションでは、どのくらい耐震性に違いがあるのでしょうか。シングル配筋の壁があるマンションは耐震性が劣るのでしょうか。

 

実は、壁の配筋がシングルなのかダブルなのかということは、直接的には耐震性に影響を与えません。そのため、他のマンションと耐震性を比較する際の指標とはなりません。

 

では、なぜ影響を与えないのか、その理由を見ていきましょう。

 

 

壁の配筋

まず、壁の中の鉄筋がどのようになっているか見てみましょう。

 

壁を正面から見ると「碁盤目状」に鉄筋が並べられています。鉄筋の間隔は200mm程度のものが多いですが、壁の負担する力が大きい場合はより密に配置します。

 

ただし、正面からの見た目が同じでも鉄筋が同じように入っているとは限りません。壁を側面から見るとそれがわかります。この「碁盤の目」の鉄筋が1組だけのもの、2組あるものがあります。

 

前述したように、1組しかない場合を「シングル配筋」、2組ある場合を「ダブル配筋」と言います。また、2組の碁盤の目を半マスずらした「千鳥配筋」というものもあります。

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強い壁・弱い壁

壁の鉄筋は多いほどいい

次に、なぜ鉄筋を入れる必要があるかを考えてみましょう。

 

鉄筋コンクリート造はRC造と表記されることが多々あります。これはReinforced Concreteのコンクリートの略で「補強されたコンクリート」という意味です。この「補強」というのが鉄筋のことです。

RC造がよくわかる:構造設計一級建築士&コンクリート主任技士が解説

 

コンクリート自体は遥か昔から建築用材料として使用されています。ローマのパンテオン等が有名ですが、これらの古い建物には鉄筋が入っていません。鉄筋コンクリートの歴史は意外に浅く、19世紀に入ってからの発明です。

 

コンクリートとは主としてセメント、砂、砂利、水を混ぜ合わせ、それらをセメントと水の水和反応により凝固させたものです。圧縮力に強く、逆に引張力に対しては非常に弱く脆性的(=脆い)な材料です。

 

そこで、引張力に強く、靭性(=粘り強さ ⇔ 脆さ)がある鉄筋と組み合わせることで短所を補っています。そのため、鉄筋を入れれば入れるほど壁は強くなります。

建物の靭性と脆性:構造設計者が靭性を重視する理由

 

ダブル配筋なら鉄筋は「多い」か?

同じ太さの鉄筋を使用すれば、ダブル配筋はシングル配筋の倍の量の鉄筋を入れることになります。

 

そのため、「鉄筋がたくさん入っている ⇒ 短所が十分に補強されている ⇒ 強い」ということが言えます。

 

しかし、本当に重要なことはシングル配筋かダブル配筋かという鉄筋の「量」の問題ではなく、壁の厚さに対してどれだけの鉄筋を入れたかという「比率」の問題です。

 

同じ配筋をしたとしても、壁の厚さが120mmと300mmではその意味が大きく異なります。120mmであればシングル配筋でも十分な補強になったとしても、300mmではダブル配筋でも足りないかもしれません。

 

鉄筋がたくさん入っていようと、壁がそれ以上に厚ければ鉄筋が不足した弱い壁になります。

 

シングル配筋かダブル配筋かは壁厚で決まる

鉄筋配置の物理的な制約 

鉄筋はサビにより劣化しないよう、強アルカリであるコンクリート内に一定の深さ以上埋め込まなくてはいけません。この埋め込み量を「かぶり厚さ」と言い、壁の仕上げの状況や設置場所(屋外か屋内か)によりこの値が変化します。

鉄筋のかぶり厚さとは?厚ければ厚いほどいいとは限らない

 

かぶり厚さを壁の標準的な値である40mmとすると、壁の表側と裏側の両方に必要となるので80mmとなります。シングル配筋の場合はこれに縦と横の鉄筋の太さが一本分ずつ加わるので、細い鉄筋を使用しても100mm以上となります。

 

縦の鉄筋同士、または横の鉄筋同士は最低でも25mm以上の隙間をあけて設置しなければなりません。隙間が小さすぎると、コンクリートがうまく流れ込まなくなるからです。

 

そのため、120mmの厚さの壁ではダブル配筋自体が不可能であることがわかります。

 

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では、300mmの厚さの壁をシングル配筋とした場合はどうなるでしょうか。壁の真ん中に鉄筋がくることになるため、表側・裏側ともに140mm程度鉄筋が無い範囲ができることになります。

 

前述したように、コンクリートは脆い性質を持っています。鉄筋の入っていない範囲が大きくなり過ぎると欠け等の不具合が生じやすくなります。そのため300mmの厚さの壁は自動的にダブル配筋となります。

 

シングル配筋とダブル配筋の境目

厚さが120mmしかない薄い壁ではシングル配筋に、厚さが300mm以上の厚い壁ではダブル配筋になります。ではその中間の厚さの壁ではどうなるでしょうか。

 

これから新築される建物の場合、厚さ180mm以上の壁であればまず間違いなく「ダブル配筋」になっていると思います。

 

厚さ150mm程度の場合は「シングル配筋」、もしくは「千鳥配筋」を採用しているかもしれません。

 

耐震性が「先」、配筋は「後」

構造設計者は、目標とする耐震安全性をできるだけ安価に達成できるよう設計を行っていきます。

 

「壁をダブル配筋にした」 → 「耐震性はこうなった」ではなく、

「目標とする耐震性を設定した」 → 「配筋はこうなった」という順番です。

 

鉄筋の量を増やせば増やすほど建設コストは上昇しますので、壁一つ一つに過不足なく適切な量の配筋を行うのが常です。

 

「全ての壁がダブル配筋になった」というのはあくまでも結果であって、高い耐震性を有する建物であることの証明にはなり得ません。

 

ダブル配筋かどうかを気にするのではなく、目標とする耐震性をどこに設定しているかを気にしてください。

 

シングル配筋で注意すべき点

壁の配筋方法が直接耐震性に影響を及ぼすわけではありませんが、マンション供給者の品質に対する意識を反映している場合があります。

 

「シングル配筋=壁が薄い」ということです。薄くすれば材料費が浮いて安くすることができます。本来は厚くすべきところまで薄くなっていないか確認が必要です。

 

屋内の立ち上がりの壁等であればシングル配筋でも差し支えないでしょう。しかし、外壁やバルコニーの手摺りのような雨風に晒される部分を薄くしてしまったがためにシングル配筋としている場合は注意が必要です。

 

耐震性に問題は無いとしても、耐久性の面で差が出るかもしれません。また、「そんなところまでケチってしまう業者」と言えるかもしれません。