バッコ博士の構造塾

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軟弱地盤だと地盤改良工事が必要?切っても切れない地盤と地震の関係

世界中どこを見渡しても同じ条件の建物はありません。仮に姿かたちが同じでも、建物が建つ地盤が違います。

□■□疑問■□■
軟弱地盤に家を建てるので不安です。建物を設計する際、地盤の影響はどのくらいあるのでしょうか。

□■□回答■□■
建物に作用する地震の力は地盤の状況に応じて変化します。その関係は非常に複雑で、地盤と建物相互の特性が影響しあっており、簡単には評価できません。

設計上は地盤が軟弱なほど地震の力を割り増します。高層建物では地震の力の割り増しは大きくなりますが、住宅のような低層建物ではほとんど影響ありません。軟弱地盤だからと言って、過度に不安にならなくても大丈夫です。

ただ、地震時にも建物を支えられていられるよう、基礎はしっかりと造る必要があります。状況に応じて杭の使用や地盤改良工事を行うため、コストは増加します。また、地盤はまだまだわからないことが多くあります。高度な解析を行ったからといって精確に評価できているとは限りません。余裕を持った設計が必要です。

 

 

地盤と地震力の関係

2018年の大阪北部地震では「マグニチュードの割に震度が大きい地域が多かった」と言われています。大阪平野の地盤の緩さが原因と考えられています。断層から放出されたエネルギーが地盤を伝わって各地を揺らすわけですが、地盤が緩いとなかなかエネルギーが消散されないからです。

揺れの強さ(加速度)と地震による建物被害は比例関係にあるわけではありません。建物の周期(揺れが一往復するのにかかる時間)と揺れの周期が一致すると、揺れの強さに対して被害が大きくなります。揺れの周期は地盤の影響を大きく受け、地盤が緩いと周期は長くなり、地盤が固いと周期は短くなります。

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地盤が緩いと揺れが大きくなりやすいですが、その分周期は長くなります。住宅のような低層建物は周期が短いため、「揺れが大きくなった分(被害増)」と「揺れとの周期が離れた分(被害減)」とを考慮すると、あまり影響は無いと考えられています。これが高層建物になると「揺れが大きくなった分(被害増)」と「揺れとの周期が近づいた分(被害増)」とで、影響が顕著になります。

 

軟弱地盤における基礎の種類

基礎には「直接基礎」と「杭基礎」の2種類があります。建物の基礎を地盤の上に直接載せるのが直接基礎、基礎の下に杭を設けるのが杭基礎です。両者を併用することもありますが、基本はどちらか一方を選択します。

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軟弱地盤の場合、直接基礎にするには基礎の下部分の「地盤改良」が必要です。ある程度規模が大きい建物の場合、セメント系の固化材を建物直下の地盤に混ぜ合わせることで強度を高めるのが一般的です。固化すると、今まで軟弱だった地盤がカチコチになります。

 

建物を支持できる地盤が深い場合、杭基礎を採用します。戸建住宅程度の規模であれば「鋼管杭」と呼ばれる先端に羽がついた鋼製の菅を使用します。これを重機で支持地盤までねじ込むことで耐力を発揮します。回転抵抗の大小により支持地盤まで到達したかを判断します。

 

基礎が地震に与える影響

セメント固化材による地盤改良

セメント固化材によって「地盤改良」した場合、建物直下が地震により液状化するようなことはありません。ただ、敷地の周辺は改良がされているわけではないので液状化の可能性があります。

地盤の揺れ方は周辺の影響を受けるため、地盤改良したからと言って硬質地盤のような揺れ方になるわけではありません。周辺の軟弱地盤の揺れ方も大きく影響します。

 

もちろん部分的であれ固い地盤ができることで揺れ方は変化しますが、全体から見ると小さな範囲でしかありません。地震という地域全体に影響を及ぼすような動きが生じるので、局所的な変化がどれだけ全体に及ぼす影響かは未知数です。

 

周辺の地盤の状況、地盤改良の程度、地震動の性質、近隣の建物の状況、その他いろいろな要素が絡み合っています。正確にその効果を把握することはできないでしょう。

 

非常に高度な解析を行えば答えは出ますが、どこまでの精度があるかはわかりません。参考程度と言ったところでしょうか。

 

杭基礎

杭をいくら設置しても、液状化を防ぐ効果はほとんど期待できません。建物の平面的な大きさに比べ、杭の断面積はかなり小さいからです。

 

そのため、建物基礎直下の柔らかい地盤の動きを拘束するような効果はほとんど期待できません。杭があっても近隣と似たような揺れ方をするでしょう。地盤改良した場合に比べても、杭の有無が地震に与える影響は小さいものと言えそうです。

 

まとめ

軟弱地盤に建物を建てる場合、いくら自分の建物の直下を改良したとしても、地震の揺れの性質を変えることは難しそうです。軟弱地盤における揺れの特性を考慮して、建物を適切に設計する必要があります。

 

しかし、戸建住宅であれば軟弱地盤だからといって地震の被害が顕著に大きくなるわけではありません。あくまでも液状化等の地盤の沈下に伴う被害が主です。

 

建物の重さを支えるという基礎本来の役割を果たせるのであれば、軟弱地盤であっても地盤改良にこだわる必要はないでしょう。