建物を支えるためには基礎をしっかりと造る必要があります。
□■□疑問■□■
住宅の基礎をどうするか迷っています。基礎の違いによって建物の耐震性は大きく変わるのでしょうか。
□■□回答■□■
基礎がしっかりしていないと、いくら上部の建物を強くしても意味がありません。ただ、いくら基礎を強くしても、上部の建物がしっかりしていないと意味が無いのも同様です。
分厚いコンクリートの基礎にしたから、鋼製の杭を地中深くまで打ち込んだから、ということではなく、建物に生じる地震の力を地面まで伝達できるかどうかが大切です。力の伝達さえできれば、基礎の違いによる差はありません。
基礎の形式にはいくつか種類があり、どれを選択するかによって大きく費用が変わります。建物や地盤の状況を考慮して適切な設計を行う必要があります。基礎の種類とその特徴について見ていきましょう。
直接基礎
建物の基礎直下の地盤が固くて強い場合に採用されるのが「直接基礎」です。建物の基礎を地盤の上に直接載せるので直接基礎といいます。直接基礎にもいくつか種類があります。
独立基礎
建物の重さを支え、基礎まで伝達するのは柱の役割です。そしてその力を地盤まで伝達するために、各柱にコンクリートの基礎を設ける方式を「独立基礎」と言います。隣り合うコンクリートの基礎同士は繋がっておらず独立しており、「点」で支える構造と言えます。
柱直下の地表面近くの地盤だけで重さを支える必要があるので、あまり大きな力を支えるのには向いていません。近年の建物で独立基礎だけで建物全体を支えている例はほとんどありません。軽量な平屋の鉄骨造の工場くらいでしょうか。
住宅ではポーチの屋根を支える柱、商業施設では立体駐車場に入るための車路を支える柱、そのくらいのものが多いと思います。建物本体を支える基礎には別の形式のものを併用します。
メリットとしてはコストが低いことです。柱の周囲しか掘り返さなくてもいいので、他の基礎に比べて簡易に工事ができます。ちょっとしたものを支えるだけであれば独立基礎でもいいでしょう。
布基礎
建物の外周部や壁の位置に合わせて基礎を設ける方式を「布基礎」といいます。基礎がそれぞれ繋がって連続しており、「線」で支える構造と言えます。
基礎は「逆T字」の形状をしていることが多く、底面積を広げることで支えられる力を大きくしています。「逆T字」の「-」の部分は埋められて地面の下になるので外側からは見えません。
少し前の木造の住宅であれば大半が布基礎を採用していますし、新しい住宅であっても布基礎のものもたくさんあります。建物の重さと支えられる力のバランスがよく、一般的な木造住宅に対しては合理的な基礎形式と言えるでしょう。
ベタ基礎
建物の下部全面に基礎を設ける方式を「ベタ基礎」といいます。基礎が1枚の大きな板になり、「面」で支える構造と言えます。
『平成12年建設省告示第1347号』には地盤の強さに応じて基礎形式を変えるよう記載があります。地盤があまり強くない場合、直接基礎にするなら「布基礎」ではなく「ベタ基礎」にしなくてはなりません。
「点」や「線」に比べて地面と接する面積が大きくなるので、直接基礎の中では最も支える力を大きくすることができます。高層マンションのような重い建物で直接基礎とする場合は必ず「ベタ基礎」にします。
しかし、「面」を作るにはそれだけコンクリートが必要になります。コンクリートの使用量が増えれば、その分コストも上昇します。
杭基礎
建物の基礎直下に強い地盤が無い場合に採用されるのが「杭基礎」です。強い地盤がある深いところまで杭を設置することになるので杭基礎といいます。
杭は柱の下や重量の大きいところに設置していくので、「独立基礎」のように「点」で支えることになります。「点」であっても地中深くの強いところまで杭が達しているので、十分な耐力があります。
杭基礎にもいくつか種類がありますが、戸建住宅ではほぼ「鋼管杭」一択です。そのため、ここでは簡単な紹介にとどめます。
■場所打ちコンクリート杭
大型の機械で敷地に長い穴を掘り、そこにコンクリートを流し込むことで杭を造成する方法です。中に入って鉄筋を組むことができないので、地上で組み立てた鉄筋を落とし込むことで鉄筋コンクリートの杭にします。
支える力を大きくするため、先端部分だけ太くすることも可能です。最近は先端だけでなく、中間部分も太くする工法も開発されており、超超高層ビルを支えることも可能です。
■既成コンクリート杭
工場で製造したコンクリートの杭を設置する方法です。あまり長い杭だと運搬ができないため、いくつかに分けたものを現場で繋いでいきます。
杭の先端付近にセメントミルク(砂や砂利を混ぜていないコンクリート)を流し込むことで地盤を補強しています。
■鋼管杭
先端に羽がついた鋼製の菅を使用する方法です。この鋼管を重機で回転させ、支持地盤までねじ込むことで耐力を発揮します。回転抵抗の大小により支持地盤まで到達したかを判断します。
羽は鋼管をねじ込むのに必要であるとともに、鋼管よりも外側に広がっている分、杭の耐力を向上させることができます。
ねじ込むという施工方法の特性上、巨大な鋼管杭は少なく、小規模のものが多いです。戸建住宅程度の規模で杭が必要となれば、鋼管杭を選択することになるでしょう。
地盤改良
建物の基礎直下に強い地盤は無いが、もう少し下にはあるという場合に採用されるのが「地盤改良」です。直接基礎と別項目にしましたが、地盤改良も直接基礎の一種です。
木造住宅のような軽量な建物であれば、表面の弱い土だけを鋤取り、良質な土に置き換えるだけの改良があります。
少し建物の規模が大きくなると、建物の基礎と強い地盤の間にある弱い部分に、セメント系の固化材を混ぜ合わせることで強度を高める方法が一般的です。地盤をコンクリートの様に固めてしまおうということです。
固化すると今まで軟弱だった地盤がカチコチになります。液状化の恐れがあるような地盤であろうと、十分な強度を発揮します。掘り返すのが大変なくらいです。
もちろん工事監理はしっかりと行う必要があります。自然状態の砂を利用しているため、発現する強度には大きなばらつきが生じます。余裕度を十分見込んだ施工がされていますが、注意は必要です。
また、基本的には砂質地盤に適した方法です。粘土質地盤だと難しい場合もあるようです。
改良する範囲ですが、建物の直下全てを改良する場合もありますし、部分的に改良する場合もあります。「ベタ基礎」のようにするか「布基礎」のようにするか、ということです。
建物直下を全て改良する場合は、重機で地盤と固化材を撹拌します。全体を一度に混ぜ合わせると固化材が均一にならないので、区画を決めて丁寧に行います。
部分的に地盤と固化材を混ぜ合わせることで直径数十cmの円柱状の改良体を造成する方法もあります。この円柱をいくつも並べて線状、あるいは面状に改良を行います。
布基礎とべた基礎はどちらがいいか
「線」で支える「布基礎」よりも、「面」で支える「べた基礎」の方がいい、と主張する工務店や建築士がいます。確かに「面」で支えてくれた方が安定しそうな気がしますが、本当にそうでしょうか。
基礎の選定には地面から上がってくる湿気や、シロアリの発生等、構造以外の部分も関わってきますが、ここでは構造に限って話を進めます。
べた基礎は重い
まず、「べた基礎」にするということは大量にコンクリートを使用するということです。仮に底板の厚さを150mmとすると、それだけで360kg/m2もの重量になります。
木造住宅の重さは300kg/m2程度と言われており、鉄骨造の半分以下、鉄筋コンクリート造の1/3~1/4以下になります。せっかく軽くて地盤への影響が小さい木造住宅であったとしても、基礎によって大幅に重量が増加してしまうことになります。
建物が重くなればそれだけ沈下量が大きくなります。粘土質の地盤であれば、建物使用時にも徐々に沈下が進んでいく可能性があります。
もちろん、多少重くしてでも「べた基礎」にしないと建物の重さを支えられない場合もあるでしょう。しかし、常に「べた基礎」にするのが理に適っているとは限りません。
適切に設計された「布基礎」であれば同程度、あるいはそれ以上の性能を発揮できる場合も多々あります。
べた基礎の中央部は効いていますか?
基礎には「立ち上がり」という部分があります。1階の床面を地面からある程度離すために、地面から40cmほど高くしてある部分です。1階の土台や柱はこの上に設置されることになります。
「布基礎」ではこの「立ち上がり」の下部、地中に埋まっているところの幅を広げています。「べた基礎」では「立ち上がり」同士をコンクリートの底板で完全に繋いでしまいます。
「立ち上がり」はコンクリートの厚みが60cm程度になり、とても硬くなります。そのため、柱から伝わってきた力の大部分が「立ち上がり」周辺に作用することになります。
「立ち上がり」周辺で重さを支える「布基礎」では力がスムーズに流れますが、「立ち上がり」から離れた部分の底板にも分担させる「べた基礎」ではどうでしょうか。もしかしたら、「べた基礎」中央部はほとんど重さを負担せず、ただのオモリになってしまっているかもしれません。
「べた基礎」の底板をどの程度の厚みにすれば力を伝達できるのか、しっかりと検証されていることは少ないでしょう。「面」で支えるつもりが実は「線」でしか支えておらず、しかも真ん中に役に立たないオモリがぶら下がっている、そんな笑えない状況になっているかもしれません。
不同沈下に強いのは布基礎?べた基礎?
建物が沈下することはありがたいことではありませんが、建物全体が一様に沈下する場合にはそれほど大きな影響はありません。しかし、部分的に沈下してしまう「不同沈下」は大問題です。
■布基礎が勝る点
「不同沈下」は地盤に不均一なところがある、あるいは重さに偏りがあるときに起こります。このとき、基礎が十分に硬ければ建物を水平に保つことができ、「不同沈下」を抑制することができます。
「布基礎」では「べた基礎」よりも深いところまで基礎を埋め込んでいるので、「立ち上がり」の厚みが大きくなります。基礎の硬さはこの厚みの3乗に比例し、底板自体はそこまで大きな効果はありません。
断面係数と断面二次モーメント:梁せいの2乗・3乗に比例する理由
そのため、「布基礎」の方が「べた基礎」よりも硬い基礎と言うことができます。
■べた基礎が勝る点
底板全体で支える「べた基礎」の方が「布基礎」よりも接地面が大きくなっています。
そのため、仮に敷地内の一部の地盤が緩くなって重さを支えられなくなったとしても、接地面全体に占める緩い部分の割合は「布基礎」よりも小さくなります。
接地面が大きいことで、変動要因に対して鈍感になることができます。
■結局どっちが優れているか
「不同沈下」に対し、「布基礎」は「硬い」ことが、「べた基礎」は接地面が「大きい」ことが利点になります。どちらが優れた効果を発揮するかは、地盤の状況や建物の形状により変化するので一概には言えません。
「布基礎」の被害事例の方が多い印象ですが、古い建物に「布基礎」が多いのも理由の1つでしょう。また、「べた基礎」であれば被害を防げていたかは疑問です。
盲目的に「べた基礎」の方がいいとは思わないことです。
地震に強い基礎はどっち?
基礎は、常に作用する建物の重さを支えるのが主たる役割であり、どちらの基礎が地震に強いというわけではありません。どちらの基礎であっても、基礎底の摩擦により地震の力を地盤に伝えることができます。
しかし、遭遇する可能性は低いですが、建物直下で断層が水平にずれた場合は「べた基礎」の方が強いかもしれません。「布基礎」は平面形状が格子状ですが、「べた基礎」は面状だからです。
実際、熊本地震では建物直下の地盤がずれたにも関わらず、倒壊していない「べた基礎」の建物があります。
ただ、「布基礎」でも壊れなった可能性はあります。また、めったにあることではないので、気にするほどではないでしょう。
地面が傾けばどちらも同じ
直接基礎の設計の前提として、地震中でも地盤は重さを支持できる状態でなくてはいけません。地震によって地面が割れたり、液状化が生じたりしては前提が崩れてしまいます。地震により支持力を失うような地盤であれば、地盤改良を行うか杭を打つしかありません。
しかし実際には地震によって地面が大きく崩れ、それにより建物が壊れてしまっている例もあります。元々そのような状況を想定して基礎は設計されていないため、壊れてしまうのも仕方ありません。
こうなってしまえば「布基礎」だろうが「べた基礎」だろうが耐えられないことでは同じです。
杭基礎と地盤改良はどちらがいいか
建物を支持できる地盤がとても深い位置にしかないのであれば「杭基礎」ですし、少し基礎下から掘るだけでいいのであれば「地盤改良」です。地質調査の結果を見ながら適切な工法を選択する必要があります。
建物を支えるという意味では、適切に設計、施工されていればどちらの基礎でも問題ありません。あとは価格の問題でしょう。ただ、「液状化」に関しては若干違いがあります。
「杭基礎」の場合は地盤には一切手を付けないので、建物直下で液状化が発生する場合があります。杭は液状化層よりも下まで届いているので建物自体が沈下するわけではありませんが、建物下に隙間ができる可能性があります。
「地盤改良」であれば、建物周囲が液状化したとしても、建物直下が液状化することはありません。周囲が沈下することで、自分の家だけが盛り上がったように見えるかもしれませんが、建物下に隙間ができるようなことはありません。
あまり気にしなくてもいい気はしますが、「杭でも地盤改良でも同じくらいの値段になりますよ」と言われた場合、「地盤改良」を選んだ方がいいかもしれません。
地盤・基礎はわからない
地盤は「倍半分」
建築の構造技術者は想定の「倍」、あるいは「半分」くらいまで性能がばらつくものを「倍半分」と言います。学生時代に初めて学会でこの言葉を聞いたときは意味が分かりませんでした。そして、地盤というのはまさに「倍半分」なものです。
新入社員の時に検討したちょっとした構造物の基礎の検討において「地盤なんて倍半分なんだから、計算値の半分の場合と2倍の場合の検討もしておくこと」と上司に言われました。それくらい信用ならないものです。
沈む超高層ビル
サンフランシスコに大林組が施工した超高級マンションがあります。実はこのマンション、竣工から数十cmも沈下しているのです。確かにいくらかは沈下するのを予測していたらしいのですが、大幅に予測を超えています。
設計者は「近くで大型の工事が始まり、地下水をくみ上げたからだ」と主張しています。近隣の工事をしている業者は「それ以前からも大幅に沈下していたじゃないか」と主張しています。
どちらに非があるのかはわかりません。おそらくどちらもある程度正しいのでしょう。なんにせよ、世界トップクラスの技術者が高度な解析を行ったところでその程度の評価しかできなかったということです。
わからないこそしっかり設計、施工を行う必要があります。