バッコ博士の構造塾

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建物の重さの話 :耐震性・安全性を計る基礎の基礎

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構造設計を行う際、建物の重さは非常に重要な指標になります。重力にせよ地震にせよ、構造部材が負担しなくてはならない力は重さに比例します。

 

□■□疑問■□■

建物が重いことはわかりますが、いったいどのくらい重たいのでしょうか。

 

□■□回答■□■

構造の種類、建物の規模、階によって大きく変化しますが、木造で300kg/㎡(屋根と2階床を合わせて)、S造(鉄骨造)で750kg/㎡程度で、RC造(鉄筋コンクリート造)では1000kg/㎡を超えます。屋上や地下階では大きくばらつきますが、大体のオーダーを掴んでいると非常に有益です。構造部材のサイズ、量が適正かどうかの当たりを付けられるようになります。

 

 

重さの取り扱い

構造部材、内外装材、家具、人、その他諸々の重さの総和が建物の重さになります。そしてその重さの大部分を床が占めます。

 

構造計算上の取り扱いが簡単になるよう、全ての重さは床に集中しているものと仮定しています。床と床の間にある柱や壁の重量は上の階と下の階に半々に分けられます。それでも解析の精度としては十分に確保されます。

 

よくポストに入っているマンションのチラシを思い出してみてください。いろいろな間取りが載っていると思いますが、柱は数m置きにあるだけで他は全て床です。人が載るのも家具が載るのも床の上です。

 

重さの80%程度、あるいはそれ以上が床に集中しています。RC造の壁式構造などでは壁の重さが大きいため、相対的に床の重さの比率は下がります。

 

吹き抜けに面した長い壁などは、自分自身の重さによる揺れを考慮する必要がある場合があります。しかしこの場合も建物全体の揺れに与える影響は小さい場合がほとんどです。

 

単位床重量

建物の1㎡当たりの重さを知っておくことは、構造設計上非常に有用です。構造設計者以外であっても知っておいて損は無い情報でしょう。新入社員研修では「建物の重さは1㎡当たり10kg、100kg、1000kg、10000kgのどれに近いと思う?」と必ず聞いています。

 

木造の重さ

他の構造に比べ非常に軽いです。木材の比重は1以下ですし、建物規模が小さく大きな部材が必要ないためです。

 

床組だけでは数十kg/㎡程度ですが、建物外周の壁と間仕切りの壁が多いのでこれも数十kg/㎡程度になります。

 

屋根の重量は使用する屋根材によって大きく変わります。瓦屋根は重く、瓦だけで50 kg/㎡、あるいはそれ以上になることもあります。

 

一般的には2階と屋根を合わせて300 kg/㎡程度と言われており、上記に水回りや家具、人が載ることで大体そのくらいになります。大雑把に分けると、屋根が100kg/㎡強、2階が200kg/㎡弱といったところでしょうか。

 

なぜ1階や基礎を含めないかというと、この数字は2階建ての建物の1階部分に作用する地震の力を算定するためのものだからです。3階建てなら3階の床の分も含める必要があります。

 

木造建物でも基礎はコンクリートなので、単位面積当たりの重量はかなり大きくなります。当然、基礎を含めた建物全体の重量は上記の数字よりももっと重たくなります。

 

RC造の重さ

構造別では一番重たい構造になります。構造部材が占める割合がかなり大きくなっています。コンクリートの比重は2.3~、鉄筋が入ると2.4~にアップします。

 

RC造は重さを拾いやすいので試しに計算してみましょう。

 

まず床の厚さを150mmとすると

0.15m×2.4t/㎥=360kg/㎡。

 

階高3.5mで6m×6mに600角の柱が1本とすれば

0.6m×0.6m×(3.5-0.15)m×2.4t/㎥/(6m×6m)=80kg/㎡。

 

柱に400×600mmの大梁が取り付くとすれば柱間の内法長さをとって

0.4m×(0.6-0.15)m×(6-0.6)m×2方向×2.4t/㎥/(6m×6m)=130kg/㎡。

 

床スラブを350×450mmの小梁が支えるとして

0.35m×(0.45-0.15)m×(6-0.4)m×2.4t/㎥/(6m×6m)=40kg/㎡。

 

床位置での重さは床と大梁と小梁を足して530kg/㎡、柱も足して610kg/㎡。これだけで木造の2倍の重さがあります。

 

事務所の場合であればOAフロアや天井、ダクト重量等を見込んで+100kg/㎡、書類棚やデスクは均すと最低でも+80kg/㎡で、先ほどの重量と合わせると790kg/㎡です。

 

計算に用いた部材のサイズはかなり小規模な建物向けにしていますので、平均的にはもっと重くなります。また、内外壁の重量やその他の建物特有の重さを合わせると大体1000kg/㎡を超えます。

 

下の階への音の影響を小さくするためマンションでは床の厚さを30cm以上にする場合もあり、もっと重たくなります。また壁式構造では壁の比率が大きくなり、こちらもかなり重たくなります。

 

S造の重さ

鉄の比重は7.85とコンクリートの3倍以上ですが、中空の部材を使用しますし、強度自体も大きいのでRC造よりも軽くなります。

 

建物規模によって構造部材の重さは大きく変化します。小規模であれば100kg/㎡程度でも可能ですし、超高層になると200kg/㎡以上ということもザラにあります。

 

やはり床に使用するコンクリートが重く、RC造同様に150mmとすれば360kg/㎡です。仕上げや積載物も同じとすれば+180kg/㎡なので、上記の総和は640~740kg/㎡です。

 

これに外壁分を加えるので、一般的には750kg/㎡程度になります。

 

超高層ビルの柱が支える重さ

最近の事務所ビルは7.2mをモジュールとして設計されていることが多いです。柱の間隔もそれに合わせて7.2mですが、事務所空間内には柱を建ててはいけません。そのため柱間の距離は高級仕様の事務所では7.2m×3=21.6mにもなります。

 

この場合、外周に建つ柱が支える範囲は7.2m×21.6m/2=78㎡です。重さを800kg/㎡とすれば1階あたり62t、40階建てであれば2500tにもなります。これが外周でなく内側の柱であれば、より支える床の面積が増えますので重さも増します。

 

超高層ビルであれば大地震時に支える重さの15%程度が横方向に作用するので約400t、この力に対してどの程度余裕があるかを確認することで適正な柱のサイズかどうかが電卓1つでわかることになります。

 

もちろん力に耐えるだけでなく、変形も重要な要素になるのでこれだけでは決まりませんが、電卓と紙と鉛筆があればかなりのことがわかります。関数電卓は構造設計者の必須アイテムです。

 

建物の重さというのは構造設計をする際に最も基本的な事項です。まずこの数値を押さえておきましょう。また、この数値を即答できない設計者は不合格です。