バッコ博士の構造塾

建物の安全性について本当のプロが綴る構造に特化したブログ

耐風梁がよくわかる:吹き抜けからALC受けまで

建物を構成する骨組のうち、水平な部材一般を「梁(はり)」と言います。

 

梁の主たる役割は、床などの重量を柱まで伝達することです。支える床の面積や柱間の距離に応じて梁の大きさを決定します。

梁がよくわかる

 

しかし、建物に作用する力は重力だけではありません。地震や台風のように、瞬間的に発生する力に対しても安全なよう設計する必要があります。

 

そして、この風による力に対して建物の外壁やガラスなどの外装材を守っているのが「耐風梁(たいふうはり)」です。

 

「そんな梁は聞いたことがないし、見たこともない」と思われるかもしれませんが、気を付けてみると意外にいろんなところで目にします。ここではこの耐風梁について解説します。

 

 

耐風梁の役割

読んで字のごとく、「風」の力に「耐える梁」、それが耐風梁です。特にひねりはありません。

 

しかし、風の力に対して建物が倒れないように抵抗するのは柱や壁であって、耐風梁ではありません。そもそも、耐風梁が無い建物というのはたくさんあります。

 

では一体、耐風梁は何の役に立っているのでしょうか。どういった場合に使用するのでしょうか。

 

それを理解するためには、建物に生じる力の流れを知る必要があります。

 

まず、風は建物の外側に吹き付けますので、外壁や窓ガラスに力が加わります。そこから力は床面などの周辺部材に伝わり、次に壁や柱、そして最後に基礎を介して地面まで流れていきます。

建物の力の流れを把握する

 

しかし、「外壁・窓ガラス」から直接「床面などの周辺部材」まで力を伝えられない場合があります。力を伝えられないとは、要は割れてしまうことです。

 

そこで耐風梁の登場となります。耐風梁によって外壁や窓ガラスを補強するのです。

 

つまり耐風梁とは、「外装材が風によって壊れないように、外装材に変わって周辺まで力を伝えるための梁」なのです。

 

耐風梁の使いどころ

では、実際にどんなところで耐風梁が使われているのでしょうか。

 

ALC・ECP受け

ビルの外壁が何でできているかご存知でしょうか。

 

コンクリート造の建物であっても壁がコンクリートでできているとは限りません。柱や梁などの主要な部分以外は「ALC(軽量気泡コンクリート)」「ECP(押出成形セメント板)」といった既製のパネルを張り付けていることが圧倒的に多いです。

 

既製品ですので、寸法や強度は決まった値になります。幅は300mmや600mmなどで、長さは長いものでは5mや6mもあります。

 

このパネルを下の階と上の階を繋ぐように何枚も並べて貼っていくことで外壁の下地が造られます。性能、コスト面で優れた健在です。

 

しかし、あまり階高が高過ぎると、風の力によってバキっと折れてしまいかねません。そんな時に、パネルの中間部を支えるように耐風梁を設置するのです。

 

他にも、外壁に開口がある場合に設置することもあります。

 

開口が無ければパネルは上階と下階の2点で支えられることになります。しかし、開口がある場合は上か下かどちらか1点しか支えられず、不安定になってしまいます。

 

そのため、支えられていない側の端を支える材として耐風梁が必要となります。

 

工場の壁を室内側から眺めると、柱と柱の間に架け渡してある鉄骨の部材に気が付くかもしれません。それが耐風梁です。

 

吹き抜け部

企業の本社ビルなどでは、エントランスに大きな吹き抜けを設けているものが多くあります。お客様を最初に向かい入れる場所なので、明るくてゆとりのある空間となっています。

 

吹き抜けに面する部分の外壁は、まず間違いなくガラスでできています。複数層の吹き抜けになっているので、ガラスが縦に連続した細長い形状になります。

 

ガラスは既製品のパネルよりもずっと薄いです。アルミの枠により補強されていますが、あまり強いとは言えません。

 

ということで、やはりここにも耐風梁が必要になります。大きな吹き抜けがあるところには必ずと言っていいほど耐風梁があるはずです。

 

駅・空港

たくさんの人が集うターミナル駅空港では、壁一面がガラスでできているということも少なくありません。また、階高も相当に高いです。

 

当然ガラスやアルミの枠だけでは風の力に耐えきれません。耐風梁がある可能性は高いです。

 

ただ、ガラスを縦に区切るか、横に区切るか、それは建物ごとに変わります。駅やターミナルのように横に長いガラスの場合、縦に区切る方が効率的なこともあります。

 

横に区切るには水平の部材である「梁」が必要ですが、縦に区切るには「柱」が必要です。では風に耐える柱だから「耐風柱」かというとそうではありません。建物の重量を支える大きな柱と柱の間にあるので「間柱(まばしら)」となります。

 

縦長か横長か

「梁」は水平な部材なので、重力による下向きの力によって曲げられることになります。地震や風などの横向きの力は、梁にくっついている床が支えることになります。

 

しかし、耐風梁は階と階の間にある、あるいは吹き抜けに面しているので、床に支えてもらうことができません。というより、床を設置できないからこそ耐風梁があるわけです。

 

そのため、耐風梁には下向きの力と横向きの力の両方が作用します。

 

曲がる力に抵抗するには、部材を太くするのが効果的です。逆に言うと、曲がらない方には細くしてもいいということです。

 

通常の梁は重力のみが作用するので、梁の断面を縦長にすると効率がよくなります。耐風梁は縦に作用する重力よりも横から作用する風の力の方が大きくなる場合があるので、梁の断面を横長にすることも多いです。

 

耐風梁のデザイン

ALCやECPといった外装材を支えるための耐風梁は、できるだけシンプルなものにします。誰かに見せるための部材ではないので、コストが抑えられるよう構造合理性が第一です。

 

しかし、吹き抜けや空港などでは事情が違います。無骨な部材がむき出しでは、せっかくのガラスの開放感も損なわれてしまいます。

 

できるだけ細い部材、薄い部材を用いて存在感を消してほしいというリクエストが建築士から出ます。ワイヤーと細いロッドを組み合わせた軽快な耐風梁も多いです。

 

普段は仕上げで隠れてしまいがちな構造部材ですが、ここでは空間を演出する一部材となり得ます。構造設計者の腕の見せ所と言えるでしょう。

 

今まで何気なく見ていたもの、あるいは見過ごしていたものでも、こうして知識を仕入れることで違った見方ができるようになります。極々一部ではありますが、構造設計者が街をつくるお手伝いをしていることに気づいてもらえると幸いです。