バッコ博士の構造塾

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火打ち梁がよくわかる:建物の重量を負担しない変わった梁

鉄骨造やコンクリート造の建物に比べ、木造の建物は細かな多数の部材で構成されています。自然材料であるため、大きな断面の部材が使いにくいことや、材料の強度が低いことが影響しています。

 

そのため、他の構造ではあまり見られないような部材が必要になることがあります。地震の力に耐えるために必要になる部材の中では、「火打ち梁」が挙げられます。

 

「梁(はり)」とは水平な部材一般を指し、建物の重量を柱まで伝達するのが主たる役割です。しかし、火打ち梁には違った役割があります。ここでは火打ち梁の役割について解説します。

梁がよくわかる:役割と種類、梁のサイズの決め方

 

 

木造の床

建物の床の大半は四角形です。そして、床の四辺は梁によって支えられています。

 

しかし、四角形とは力学的に安定した形状ではありません。角が回転しないようしっかり繋がないと、簡単に形が変わってしまうのです。

三角形の安定性

 

地震が生じると、建物の重量が集中している床面に大きな慣性力が生じます。この力を柱や壁まで伝達するには、床にもそれ相応の硬さ、強さが求められます

 

コンクリートの床であれば、梁と床は一体化します。そのため非常に硬く、強い面を構成することができます。

 

しかし、木造では部材を一本一本組み合わせていくので、一体化しているとは言えません。繋がってはいても、回転を拘束するまでにはなっていないのです。そのため、四角形のままでは十分な硬さ、強さを発揮できません。

 

もちろん木造であっても、頑丈な床板をしっかりと釘で打ち付ければ安定した面にすることは可能で、これを「剛床工法」と言います。しかし、古い家ではそうした工法を採用していません。

剛床とは?剛床仮定は構造計算・構造設計の基礎の基礎

 

では、古い家ではどうやって床の硬さ、強さを確保していたのでしょうか。ここで出てくるのが火打ち梁です。

 

火打ち梁とは

床面を補強するために、梁と梁が直交する隅の部分に設ける梁を「火打ち梁」と言います。直交する梁と梁とを繋ぐよう、梁の交点から少し離れた位置に45°に設置されます。

 

火打ち梁を設けることで、四角形の床の隅に小さな三角形ができることになります。三角形は力学的に安定しており、3つの角がそれぞれクルクルと回転する場合でも、形状を変えるには大きな力が必要です。その結果、床の硬さ、強さが向上するのです。

 

火打ち梁は、地震時の床の変形を抑え、柱や壁まで力を伝達するのが役割です。そのため、床の重さを支えてくれるわけではありませんし、大量に設けたからといって耐力壁の不足を補えるわけではありません。

 

他の部材に比べて地味な役回りですが、壁量計算や構造計算は床が十分に強いことを前提にしています。建物が計算通りの強さを発揮するには、無くてはならない部材なのです。

 

火打ち梁には90mm角以上の部材を用いることが多いですが、最近は既成品の金物もあります。重量も軽いので、既存の建物の補強を行う場合にも有効でしょう。

 

火打ち梁が追加で必要になる部分

火打ち梁とは、床面の補強するためのものです。当然床の性能が不足する部分に入れる必要があります。では、性能が不足する部分とは一体どこでしょうか。

 

吹き抜け

まず挙げられるのが、「吹き抜け」です。吹き抜けには床が無いので、最も性能が不足しやすい部分と言えるでしょう。

 

もちろん周囲に十分な量の床があればいいのですが、リビング上部の吹き抜けなどは面積が大きくなります。そうなると、吹き抜けに面した壁に力を伝えるのが難しくなります。

 

吹き抜けに火打ち梁が出っ張ってきては、折角の空間が台無しになることもあります。うまく設計すれば逆にお洒落に見える場合もありますが、事前に建築士とよく打ち合わせておいた方がいいでしょう。

 

壁の集中配置

床が強いかどうか、これは相対的なことです。力を伝えるべき壁が周囲にほとんどないのであれば、その床を介して伝わる力もほとんどないことになります。

 

逆に、壁が極端に集中して配置されている場合、その壁まで周囲の床が力を伝えなくてはなりません。少なくとも、壁よりも床が強くないと力を伝えきることができません。

 

建物の耐震性能を表す「耐震等級」という指標がありますが、建築基準法レベルである耐震等級1では床の強さの検討を行う必要がありません。下手な建築士が設計すると、壁の量は十分でも床が不十分な建物になる可能性があるということです。

耐震等級3は取れるなら取ろう:建築士が優秀じゃないかもと思ったら

 

また、極端な床の配置の場合、床の検討をルール通りにやったからといって必ずしも十分な量の床が確保されるとは限りません。あくまでも一般的な状況を想定してルールは決められており、当然ながら適用範囲があります。