バッコ博士の構造塾

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免震建物を支える免震ゴム:強くて柔らかいを実現する秘密

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兵庫県南部地震以降、免震建物の建設数は格段に増え、2015年末現在でビル、戸建住宅合わせて約9000棟に達します。

 

□■□疑問■□■

免震建物は柔らかいゴムで支えられているというのは本当でしょうか。重量が何千トン、何万トンとある建物を支えられるのが不思議です。

 

□■□回答■□■

現在、免震建物の重量を支える装置としてはゴム製のものと鋼製のものの2つがあります。戸建住宅では鋼製の装置が、ビルではゴム製の装置が主流です。ゴム製の装置と言っても半分程度は鋼材でできており、ゴムと鋼の板を交互に重ね合わせたミルフィーユ状になっています。

ゴムを上から潰すと横にブニュッと膨らもうとしますが、ゴムの上下に設置された鋼の板がそれを抑えます。そのおかげで鉛直方向(重力の方向)に対して非常に硬く、強くなり、大きな重量のものでも支えることができるようになります。しかし水平方向(地震時の揺れの方向)には鋼の板の拘束が作用しないので、柔らかさを保つことができます。

 

 

免震支承の種類

免震建物の重さを支える装置を「免震支承」といいます。免震支承は大別するとゴム製の装置と鋼製の装置の2つに分けられます。

 

鋼製の免震支承

鋼製の装置は建物の重量を支えるとともに、地震の揺れがあるレベルを超えると滑り始めます。

 

水平な板の上に設置するタイプの装置では、滑ることで地震の揺れを上部の建物に伝えないようにする効果があります。傾斜のついた板の上に設置するタイプでは、地震の揺れを伝えないようにするとともに、元の場所に戻ろうとする力(復元力)が働きます。

 

どちらのタイプの装置でも滑る際の摩擦を利用して、建物が揺れるエネルギーを吸収します。また鋼材を使用しているので非常に硬く、滑り出す前は普通の建物と変わりません。台風などで建物がずれることは稀です。

 

ゴム製の免震支承

ゴム製の装置でも鋼製の装置と同様、建物の重量を支えるとともに、地震時に滑ったり、元の場所に戻る力を与えたりします。

 

基礎に固定されているタイプでは地震時にゴムが伸び縮みすることで、建物が大きく揺れてもゆっくりと元の場所に戻そうとします。基礎の上に置いただけのタイプでは、鋼製の装置同様、地震の揺れがあるレベルを超えると滑り出します。鋼製の装置と違い滑り出す前も硬くないので、小さな地震でも効果が期待できます。

 

基礎に固定するタイプのゴム製免震支承を「積層ゴム」と呼びます。ゴムの内部にエネルギーを吸収する材を設置したり、ゴム自体がエネルギーを吸収するものを使用していたりします。

 

積層ゴムの構成

「ゴム」といっても、その大部分は鋼材を使用しています。地震時に大きく変形する部分がゴムで、その他は全て鋼材でできています。そのため非常に重量が大きく、大型の装置であれば何トンもあります。

 

ゴム部分は円形のものが多いです。地震はどの方向からくるかわからないため、揺れる方向によって性質が変わらないようにするためです。四角い柱に円い積層ゴムを設置すると収まりが悪いということで、ゴム部分が四角いものもあります。スペースの節約になります。

 

積層ゴムおよびその他の免震支承は、建物と基礎の間にある「免震層」に設置されます。その構成は上(建物側)から順に

フランジ 連結鋼板 本体ゴムと中間鋼板の繰り返し 連結鋼板 フランジ

となっています。

 

まずフランジですが、これは「建物と積層ゴム」あるいは「基礎と積層ゴム」を繋ぎ合わせるための鋼製の板です。フランジにはボルト穴があいており、建物および基礎にボルトを締め付けることで取り付けます。

 

次に連結鋼板ですが、これは「フランジと本体ゴム」を繋ぎ合わせるためのものです。フランジが無い方が装置製造時の作業性がよいため、後からフランジを取り付けられるようにしています。

 

本体ゴムは積層ゴムの要となる部分で、各メーカーが工夫を凝らしているところです。ゴムの配合によって耐久性や硬さ、その他の特性が変化します。

 

理由は後述しますが、このとき1枚の厚いゴムではなく、薄いゴムと中間鋼板と呼ばれる薄い鋼製の板を交互に重ねてミルフィーユ状にします。そしてこれを「加硫接着」(接着剤を塗布し、熱と圧力を加えることで接着)することで一体化しています。

 

強くて柔らかいゴムの作り方

ゴムの特性

鉄の棒を引っ張ると当然伸びます。そして若干ですが細くなります。このとき伸びた量は細くなった分よりも大きく、体積が増えています。反対に縮めようとすれば体積が減ることになります。

 

積層ゴムに使用しているゴムの場合、この体積変化がほとんどありません。引っ張って伸びた分だけ細くなり、縮めればその分だけ太くなります。伸び縮みに応じて細る、太るが自由にできる状況であれば、ゴムは比較的簡単に変形させることができます。

 

逆の言い方をすれば、太ったり細くなったりするのを妨害すれば、ゴムは伸びたり縮んだりしにくくなるのです。

 

中間鋼板の役割

免震では建物の重量を支える強さと硬さが必要な反面、地震の揺れに対しては柔らかく変形する必要があります。

 

ゴム単体では「柔らかくて強い」ですが、「硬さ」が足りません。そこで出てくるのが中間鋼板です。

 

建物の重さによりゴムは潰され、横に広がろうとします。このとき上下に中間鋼板があるおかげで広がりが妨害されます。ゴムが薄ければ薄いほど中間鋼板に拘束される部分が増え、自由に膨らむことができる範囲が狭くなり、結果として非常に硬くなります。

 

本体ゴムは薄い板状なので、横から見ると長方形です。地震時に建物が横にずれる場合、この長方形が平行四辺形のように変形されます。長方形、平行四辺形ともに面積は「底辺の長さ×高さ」で表現されるので、変形の前後で面積の変化はありません。中間鋼板は横にずれる際の硬さに影響を与えないということです。

 

ゴムを薄くすることで建物の重さに対する硬さを大きくすることができました。ただこのままでは薄すぎて横に大きくずれることができません。そこで何枚も本体ゴムと中間鋼板を重ねることで、重さに対して硬さを保ったまま、横方向に大きくずれることが可能となります。

 

ちょっと豆知識

ゴムの厚さとゴムの直径は1:5の関係にあると安定した免震装置になります。直径が1000mmであればゴムの総厚は200mmになります。そしてこのゴム厚の4倍まではちぎれたりせずに重さを支えたまま横方向にずれることができます。直径1000mmであれば横に800mmはずれることができるということです。

 

ただ、ゴム厚の2.5~3倍以上の変形が起こるとゴムは硬化し始めます。柔らかいことで効果を発揮しているので、硬化は望ましくない場合が多いです。ですので、設計段階でこれ以上の変形を見込んでいる場合、設計者に説明を求めてみましょう。適切な回答ができない場合は設計者のレベルを疑う必要があります。