バッコ博士の構造塾

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ねこ免震パッキンってどのくらい効果があるの?構造設計者が考察

建物の基礎と土台の間に設置して、地震の揺れを建物に伝えにくくする装置が開発されています。

 

ネット上でよく見かけるのが『ufo-e』と呼ばれる装置です。このブログでもいくつか考察記事を書いてきました。

構造設計のプロがUFO-Eの摩擦減震効果について徹底検証

減震パッキン『UFO-E』の効果を再考する 

UFO-Eの解析結果:地震力半減の効果はあったのか

 

同じ会社から今度は『ねこ免震パッキン』という装置が発売されています。ufo-eと同じような効果を持つ装置のようです。

 

ufo-eの効果については考察済みではありますが、このねこ免震パッキンのデータとして新しく実験データが追加されています。それを基に、少しだけ新たな考察を入れています。

 

 

ufo-eについて

まずは元の装置であるufo-eについておさらいです。

ufo-eの効果

公開されているデータはあまりないのですが、この装置の特徴は、①±5mmだけ動くことができること、②初期の摩擦係数が0.3であること、の2つです。

 

これに対し一般的な免震建物は、①建物の下部に設置した免震層が大地震時に±30-50cm程度動く、②摩擦係数は0.03~0.05程度、となっています。

 

装置が保持できるエネルギーは「建物質量×摩擦係数×可動距離」で表すことができます。可動距離がまったく違うため、ufo-eでは一般的な免震の1/10前後のエネルギーしか保持できません。

 

これは「大きな地震に対しては、すぐに可動距離を食いつぶしてしまう」=「地面の揺れがすぐに直接建物に伝わってくるようになる」ということです。

 

そのため、小さな地震であれば多少効果はあるでしょうが、大地震に対してはあまり効果が見込めないということです。

 

解析による検証

公開されている数値から何となくの効果は予想できましたが、具体的にどの程度なのか、ピンときません。そこで、これまた限られたデータを使って解析を行いました。

 

結論から言うと、ufo-eの動く距離を±5mm以下にしようとすると加速度は大きく、加速度を半減させようとすると動く距離は±5mmではまったく足りない、という結果になりました。世の中の構造設計者の常識に合致した結果です。

 

実験動画

効果の検証として、実験の様子を収めた動画があります。これを見ると、ufo-eによりものすごく揺れが小さくなったように見えます。

 

しかし、この動画、どう見ても大地震を再現したものに見えません。なんだかやけに小刻みな揺れですし、地面(実験装置)の動く量も明らかに小さいのです。

 

ということで、この動画を見ただけではとても「効果がある」とは言えない状況です。

 

ねこ免震パッキンの効果は

いよいよ本記事の主役の「ねこ免震パッキン」についてです。

 

この装置、謎の多いufo-eよりもさらに情報がありません。摩擦係数はufo-eより少し大きいようですが、どのくらい動くかの記載すらありません。

 

では何にも考察できないかというと、そうではありません。この装置のために、新たに実施した実験時のグラフがあります。

 

なんと、これまで実験のグラフの横軸(時間軸)の単位が一切不明だったのですが、今回はわかるようになっているのです。グラフの横軸は単位を入れておらず不明なままなのですが、どういった加振をしたのか文字で記載がありました。

 

それが“sin波5Hz変位2.5mm”というものです。

 

この条件であれば最大加速度は250gal程度になります。なぜかグラフでは最大加速度が800~1100galとなっているので、相変わらず信頼性は低いです。しかし、他の動画などの情報から総合的に勘案すると、5Hz自体はあっているものと思います。

 

つまり今回新しく分かった情報というのは「5Hzで加振している」ということだけです。ではここから何がわかるのでしょうか。

 

それは、建物に地震被害をおよぼさない振動数で加振している、ということです。つまりこの実験でいくら効果があろうと、そもそも建物に与える影響がほとんどない加振に対しての効果だということです。

 

住宅被害が大きくなりやすい周期帯として1~2秒がよく挙げられます。キラーパルスと呼ばれることもあります。

キラーパルスとは

 

それに対し、周期0.5秒以下は建物被害に関係無いことが知られています。5Hzというのは周期0.2秒(=1/5Hz)のことですから、まさに意味の無い実験です。

 

加速度と変形はトレードオフ

建物に伝わる揺れ(加速度)を小さくするには装置の変形を大きくするしかなく、装置の変形を小さくするには建物に伝わる揺れを大きくするしかない。

 

この加速度と変形のトレードオフの関係は、構造設計者には常識です。加速度も変形も小さいという「すごいこと」が起こっているのであれば、そこにはトリックがあります。

 

今回は「加振振動数が意味の無いものになっている」というのがそれです。他の装置では実際の地震を再現して実験していますので、見比べれば加振内容がまったく違うことがすぐにわかるはずです。

 

もっと詳しく聞いてみたい、という方はぜひ下記よりお問い合わせください。

www.bakko-hakase.com

 

※上記はあくまでも一専門家としての個人の見解です。鵜呑みにせず、いろいろな情報から総合的に良し悪しを判断されることをお勧めします。