建築基準法には「土台は基礎に緊結すること」と書かれています。
土台とは柱の下に水平に敷いた木の材、基礎とは建物を支える鉄筋コンクリートの部材です。通常は基礎にアンカーボルトという鋼製の部材を埋め込んでおき、これに土台を通してから締め付けます。
これで無事「緊結」されたことになります。ちゃんと土台と基礎が緊結されていないと地震時に建物がズレて落っこちてしまうことになりかねません。
しかし、古い家の中には柱が直接基礎の上に載っているだけのものが多数あります。基礎はコンクリートではなく石でできており、礎石(そせき)と呼ばれます。
このような礎石の上に柱を載せただけの基礎を「石場建て」といいます。一見危なっかしいような気もしますが、地震に対して有利に働くのではないかと言われています。実際のところはどうなのでしょうか。
石場建ての建物の築年数
昭和46(1971)年の建築基準法の改正により基礎は「一体のコンクリート造または鉄筋コンクリート造の布基礎」とすることとされました。コンクリートの基礎が普及してきたため、法律にも盛り込まれたものと思われます。
その前の改正は昭和34(1959)年ですが、その時点では基礎をコンクリート造にする必要はありません。当時コンクリートは高価だったので、特に指定がなければ石の基礎、つまり石場建てを採用していたはずです。
ただ、1971年以降もしばらくの間は石場建ての新築建物も建て続けられたのではないでしょうか。当時の遵法意識からすると、法律が施行されたからといってすぐに全ての建物がコンクリートの基礎に移行したとは思えません。
なお、現在でも石場建てを建てようと思えば建てられます。特殊な検討が必要にはなりますが、新しい建物でも法の規定を除外する方法はあります。
ということで、基本的には「石場建て=1971年以前」と言えるのですが、実際にはわかりません。あくまでも一つの目安です。
石場建てが地震に強いと考えられる理由
石場建てでは柱は礎石に固定されておらず、ただ載っているだけです。そのため地震時に横に揺すられるとズルズルと建物ごと滑ることができます。
滑るということは、滑り出すときの力以上には地面から力が伝わってこないということです。建物を滑り出す力に耐えられるようにしておけば、どんなに強い地震が起こっても建物が壊れないということになります。
建物の足元に工夫をして地震による力を小さくしようというのは、現代の最高の地震対策である「免震」と同じ考え方です。
元々は「柱が水に触れて腐ってしまわないよう、石の上に載せておこう」ということで始まったものと思われますが、結果的に地震対策にもなったのでしょう。
礎石と柱との摩擦係数
免震効果を測る一番の指標が「摩擦係数」です。建物の重さに対してどれくらいの力で滑り出すかがわかります。
では石場建ての摩擦係数は実際のところどれくらいなのでしょうか。
いくつか論文を調べてみましたが、値は大きくばらつくようです。平均的には0.4~0.5程度のようですが、小さいものでは0.2、大きいものでは0.8とその差は4倍もありました。
もちろん論文によって礎石の表面仕上げや材質にばらつきはあります。ただそれにしても大きい印象です。
1950~1971年の耐震基準では、建物重量の10%程度の力に対して設計が行われています。これは摩擦係数0.1のときの滑り出す力に相当しますが、平均的な摩擦係数にくらべかなり小さな値です。
実際には設計値に対してかなりの余裕度がありますが、滑り出す前に壊れてしまう建物もあるでしょう。仮に滑ったとしても、建物がなんの損傷もなく健全なままということもないと思われます。
ただ、筋かいなどを使用していない古い家は変形性能が非常に高いです。少しくらい損傷しても補修すれば住み続けることができるのかもしれません。
なお、一般的な免震建物の滑り出しの力は建物重量の数%程度です。石場建てよりも相当小さな力で滑り出すので、建物に作用する力はかなり小さくなります。
地震時の滑り量
摩擦係数が小さいほど小さな力で滑り出しますが、その分だけ滑る量が大きくなります。逆の言い方をすると、滑る量が小さいほど免震効果が小さいということです。
いくつか論文を見てみたところ、摩擦係数と同様に滑り量もばらつきが大きいです。大地震時に100mm前後滑るとしているものが多いようですが、小さいものでは20mm、大きいものでは300mm程度となっています。
なお、一般的な免震建物の大地震時の滑り量(変形量)は300~400mm程度です。免震に比べて地震力の低減効果が小さいにも関わらず、石場建てもかなり滑っている印象です。
なぜかというと、石場建てには元の位置に戻ってくる機構がないからです。
たいていの免震建物は柔らかいゴムで支えられています。建物が変形して元の位置からズレるほど大きな力で戻そうとします。
それに対して石場建ては平らな石の上に載っているだけなので、どれだけ動いてもその場にとどまるだけです。そのためズレが片方に寄ってしまう可能性が高くなります。
石の上に柱を置くだけというお手軽な反面、滑りを有効に使えていないと言えます。
なお、ほんの数mmしか滑らない(変形しない)免震のような装置も市販されています。採用の前に性能の良し悪しをよく見極めましょう。
現代の住宅を石場建てにしない理由
わざわざ法律に「土台は基礎に緊結すること」と書いてあるくらいですから、緊結することには意味があります。現代の住宅であれば間違いなく緊結すべきでしょう。
まず、現代の基礎は幅が15cm程度しかありません。その半分も動けば建物全体が基礎から滑り落ちてしまいます。仮に滑り落ちなかったとしても配管が切れてしまうかもしれません。
基礎の幅を薄くすれば、建物外周をぐるりと連続的に囲むことができ、地盤変状や沈下に強くなります。基礎が独立している石場建てではそうはいきません。
また、地震後に建物を元の位置に戻そうにも隣家とのスペースが十分にないと作業できません。当然滑るためのスペースも必要ですから、敷地に余裕のあるところでないと厳しいでしょう。
石場建ては「あり」か「なし」か
上記のように石場建ては地震の力を低減する効果があります。ただ、導入に際してはいろいろと課題があることも確かです。
わざわざ石場建てにしなくても地震に強い建物はつくれますので、どうしてもという人以外はやめておいたほうがいいのではないでしょうか。
もちろん、一つ一つ課題をクリアしていけば合理的な設計も可能です。そうした設計ができる構造設計者が増えると、施主の選択肢も増えることになります。