バッコ博士の構造塾

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UFO-Eの解析結果:地震力半減の効果はあったのか

基礎と建物との間に挟み込むだけで地震の力を半減できるという触れ込みの「UFO-E」という金物があります。

 

本当に効果があるのか、2記事を使って検討してみました。そして結論は「効果はあるが、限定的」というものでした。

構造設計のプロがUFO-Eの摩擦減震効果について徹底検証

減震パッキン『UFO-E』の効果を再考する

 

しかし、もっと具体的な効果を数値として知りたくなったので、実際に解析してみることにしました。地震の揺れは複雑なため、単純化した理論だけでは詳細がわからないためです。

 

一体どのような結果になったでしょうか。以下をご覧ください。

 

 

実験結果の再現解析

モデルの作成

解析をするには解析用のモデルをつくることから始めなくてはなりません。しかし、現在公開されている情報だけでは不足部分が多すぎます。

 

そこで実験結果から逆算して解析モデルをつくることにします。「UFO-E」で動画検索すると出てくる「木の箱に女性を載せて揺すっている実験の動画」です。

 

まず、木の箱部分はほとんど変形していないので一つの塊と見なすことにします。通常の建物よりもかなり硬いようなので問題無いと思われます。

 

次に、UFO-Eの摩擦係数は0.3という記載がHPにあります。UFO-Eに木の箱の重量の30%の力が作用すると滑り始めるということです。

 

UFO-Eは金属製ですので、滑り出すまではほとんど変形しないでしょう。小さい値ということで、滑り出す前に0.01mmだけ変形することにします。

 

次に、木の箱に生じる最大加速度は400galだったそうです。これは、加振装置から木の箱に木の箱の重量の約40%の力が伝わっているということです。

地震の加速度を表すガルとは?

 

摩擦による力は30%分だったので、残りの10%はアンカーボルトの効果だと思われます。

 

以前の記事で「アンカーボルトは0.7mm変形すると損傷し始める」ことは計算済みです。損傷し始めてから完全に曲がってしまうまでは少し間がありますので、ここでは1mm変形したときに完全に曲がってしまうものとします。

 

つまり木の箱と加振装置の間に以下のようなバネを設定すればいいことになります。

 

・木の箱の重量の30%の力で滑り出す。

・滑り出すときの変形は0.01mm。

・木の箱の重量の40%の力に達するとそれ以上の力を負担できなくなる。

・力が最大に達するときの変形は1mm。

・1mmを超えて変形しても力の大きさは木の箱の重量の40%を超えない。

 

地震動

どうやら兵庫県南部地震で観測された地震波を用いて実験しているようです。

 

実験では最大加速度が800gal強になっていますが、気象庁で観測された「JMA神戸」がそれに該当します。一番有名な地震波(一番強いわけではない)なのでおそらく間違っていないと思います。

 

しかしここで問題になるのが、「JMA神戸では地面の最大の揺れ幅は約20cm」という事実です。少なくとも動画では加振装置の揺れ幅が20cmに達しているようには見えません。

 

女性の身長が150~160cmだとして画面に定規を当てて測ってみたところ、±5mm~10mm程度のように思えます。

(ちなみに動画ではUFO-Eの「有り・無し」で比較をしていますが、「無し」の時の方が加振装置の揺れ幅が大きいのではないかという指摘があるようです。確かに定規を当てると2倍くらい変形しているように見えます。)

 

ということは実験に際して、「最大加速度は変えずに最大変位を変えた」ものと思われます。

ちょっとわかりづらいと思いますので説明します。

 

加速度というのは車で言うとアクセルを踏む強さのようなものです。アクセルを踏めば速度が増し、車は移動します。この時の移動量が変位に該当します。

 

「最大加速度」を変えないで「最大変位」を変えるにはどうすればいいかというと、アクセルを踏む強さを変えず、踏む時間を短くすれば済みます。アクセルを踏む時間が短ければ速度も上がらず、移動量も小さくなります。

 

速度が上がらないので、仮に事故を起こしても大したことはありません。最大加速度が変化しないので大きな地震のように思えますが、実際には元の地震に比べてかなり小さな地震になっているということです。

 

JMA神戸の最大変位の大きさを調整して解析を行うことにします。

 

解析結果

JMA神戸の最大変位を6mm程度に調整して解析を行うと、UFO-Eが約5mm動き、かつ最大加速度が約400galになりました(正確には最大変位4.75mm、最大加速度395gal)。

 

開発元のHPに載っている加速度の記録と照らしても同様の傾向が見られます。無事それなりの精度で実験結果を再現することができました。

 

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この解析モデルを使えば、別の地震に対する効果もある程度わかるはずです※。

 

※あくまでも仮定した値を用いての解析です。正しい製品の情報や性能については開発元にお問い合わせいただくことをお勧めいたします。

 

5mmの変形は十分か

最大変位を調整していない観測されたままのJMA神戸を使って解析してみました。

 

そうすると最大変形が130mm程度になってしまいました。入力する地震の変形を元の解析よりも大幅に大きくしたので予想通りの結果です。

 

しかし実際に130mm変形するとなると、土台がアンカーボルトにぶつかったり、装置の摩擦係数が切り替わったりしているはずです。解析モデルにはそこまで組み込んでいないので、この解析の精度は極めて低いです。

 

ただし、地震の力を半減させながら変形を5mmに抑えることは不可能だということは言えます。

 

5mmの変形に抑えるには

摩擦係数が0.3ではまったく変形を止めることはできませんでしたが、摩擦係数は「0.3から0.8まで滑らかに変化する」という意見もあるようです。

 

そこで摩擦係数を「0.3」から「0.3から0.8まで滑らかに変化する」に変えて再度JMA神戸を入力してみました。アンカーボルトの本数は開発元のHP上にある計算に合わせて少し量を増やしています。

 

結果は最大変形6.70mm、最大加速度940galでした。

 

変形は5mmを超えているものの、概ね許容値に近い値になりました。しかし加速度は元々の地震の最大加速度である818galを超えています。

 

建物と地面との間に余分なバネが入るため、むしろ、加速度を増幅する結果となってしまいました。

 

摩擦係数が0.8なので800gal近い加速度を生じさせる力が伝達しますし、アンカーボルトからも力がくるので、940galという数字は妥当な値だと思われます。

 

結論

いろいろと条件を仮定して解析を行ってみました。

 

JMA神戸のような大きな揺れに対して、地震力を半減したまま変形を5mm以下に抑えることは難しく、変形を5mm以下にしようとすれば地震力は小さくならない、ということがわかりました。

 

また、中地震(大地震の最大加速度はそのままで最大変位だけを小さくしたもの)に対しては実験通り「地震力が半減」しました。UFO-Eが滑り出すくらいは強いけれど、変形が5mmを超えるほどは強くない地震に関しては効果があります。

 

前2記事で予想した通りの結果と言えます。「効果はあるが、限定的」ということですね※。

 

※くり返しになりますが、これはあくまでも個人による仮定・想定における解析の結果です。この結果を鵜呑みにせず、いろいろな情報から総合的に良し悪しを判断されることをお勧めします。