バッコ博士の構造塾

建物の安全性について本当のプロが綴る構造に特化したブログ

減震パッキン『UFO-E』の効果を再考する

基礎と建物との間に挟み込む、直径90mmの小さな「UFO-E」という金物があります。この金物を設置するだけで、建物に伝わる地震の力を大幅に減じることができるということです。

 

もし本当に素晴らしい効果があるのであれば、画期的な商品です。非常に興味を引かれたので、力学的な検証を行い記事として取り上げました。

 

しかし、公開されているデータから到達できる結論としては、「効果はあるが、限定的」というものでした。そして、「もっと詳細なデータがあれば自身の考えが検証できるので、ぜひデータの公開をお願いしたい」と締めています。

 

もちろん、あくまでも個人的な予想ですし、絶対に自身の結論が合っているとも思っていません。実際、『e戸建て』という掲示板上で反論もいくつかいただきました。

 

どうせならとことん議論して正解に辿り着きたいと思ったのですが、残念ながら議論には乗っていただけないようです。ただ、「反論に反論できていない」という指摘もありましたので、過去に頂いた指摘を遡ってこの場で反論してみようと思います。

 

 

議論を始める前に

「効果」は「理論」があってこそ

2016年の熊本地震では、UFO-Eを導入した建物で揺れを低減する効果があったようです。それはそれで素晴らしいことなのですが、なぜ効果があったのかを理解しきれていません。

 

滑るから効果があるのはわかります。摩擦でエネルギーを吸収するのもわかります。構成が理に適っているのもわかります。ただ、私の中ではまだ全ての「なんで?」が解消されていません。

 

「あなたの疑問はこういう理論で説明できる」と反論頂いているわけですが、「でもその理論にはこう反論できる」というのが現状です。

 

耐震工学にはまだまだわからない点があることは理解していますが、わかっている範囲の中ではしっかり矛盾の無い理論で説明をしていただきたいものです。

 

理論に矛盾があるうちは「素晴らしい効果がある」ということに納得できそうもありません。

 

技術者は本当のことを知りたい

建物を地震に強くするにはどうすればいいか、そんなことを毎日考えながら生きています。みんながみんなではないかもしれませんが、多かれ少なかれ構造設計者とはそういうものです。

 

素晴らしい技術があれば積極的に取り入れます。しかし、その前にはなぜ素晴らしいのかをとことん追求します。疑問点があっては設計に取り入れられません

 

中途半端に投げ出してしまっては後味が悪いです。自分一人であろうと、もう少しこの商品について考えてみようと思います。

 

今回はまず反論の中で矛盾していると思われる点を挙げていきます。

 

UFO-Eの仕様:真の性能を議論する前に

まず、議論の前提となる仕様について擦り合わせておきたいです。ここが違えば、後の議論は意味を成しません。

 

摩擦係数

UFO-Eの摩擦係数は滑り出すまでが0.3、滑り出した後は少し小さくなり、その後0.8まで大きくなる、これは公開されている情報で間違いないはずです。ただ、この摩擦係数がどう切り替わるかの議論がありました。

 

私は、摩擦係数は滑らかに変化せず、滑り量に応じて切り替わると考えています。途中からスロープに乗り上げるような形状になっているので、そう推測できます。

 

スロープに乗り上げているので「摩擦係数」という表現はおかしいですが、水平面から斜面に移動すれば抵抗が急に上がります。位置エネルギーを増加させる分だけ滑らせるのに大きな力が必要になり、見かけの摩擦係数が上昇するからです。

 

“形状で0.3から0.8に穏やかに歪摩擦が増えるようにするのは簡単な事です、必要が無いから今の形になってると思います”

 

最初は摩擦係数が急に変わるという見解に同意されていたようです。

 

“摩擦係数は0.3と0.3-αと0.8に段階的に変化する訳では有りません”

“滑らかに0.3と0.3-αと0.8に変化してると思います、場合によれば1.0迄行って止まる”

 

しかし、なぜか途中で主張が変わってしまいました。句読点の使い方から同一の方だと思うのですが、一体どちらなのでしょうか。一貫性が無いと、話が噛み合わなくなります。

 

“どちらにしても段差ではなく滑らかな山ですから急には変化しません。”

 

上述のように、直線状のスロープであれば摩擦抵抗は一気に変化します。図を見る限り曲面状にはなっていないので、滑らかに変化する理由は無いと思われます。

 

実際のところ、別に摩擦係数が滑らかに変化しようが急に変化しようが、それほど上部の建物の揺れには影響しません。しかし、もし摩擦やスロープの抵抗に関して誤解があるのでしたら、解消してほしいと思います。

 

アンカーボルト

最初は開発元の情報を鵜呑みにして、「アンカーボルトは5mm滑っても無損傷」と考えていました。

 

鋼材がエネルギー吸収をするということは、損傷することとイコールです。そのため、アンカーボルトによるエネルギー吸収も無いものと考えていました。

 

“アンカーボルトの曲がりも同じ、曲がれば熱が出る、力を吸収してる減振に寄与してる”

 

それに対して上記のような反論がありました。実際に数字を追ってみると「アンカーボルトは0.7mm程度の滑りで損傷」するという結果になりました。確かにアンカーボルトは損傷し、エネルギーを吸収しているようです。

 

“曲がったボルトのバネ力でほぼ元の位置に戻る”

 

しかし、損傷するということは元に戻る力を失うことでもあります。0.7mmまでであれば戻す効果はありますが、滑り量5mmに比べて小さく、とても元の位置に戻るとは言えないのではないでしょうか。

 

“アンカーボルトの曲がりは減震にはほぼ関係無い、元の位置に戻る事には寄与してると推測出来る。”

 

そしていつの間にかエネルギー吸収に関する見解が変化しました。無損傷であればこの主張が正しいのですが、アンカーボルトが損傷することに関する反論も特にありません。

 

反論を見る限り、鋼材の復元力特性に関する誤解があるように見受けられるのですが、いかがでしょうか。

 

UFO-Eがバラバラに滑ることについて

各装置が負担する重量が違うので、各装置が滑り出す力の大きさはバラバラです。そのため、比較的小さな揺れからでもいくつかの装置は滑り出し、中小地震にも効果があると主張されています。

 

これに対し、「土台や床は水平方向には硬いので、一部の装置だけが大きく滑ることは無い。結局全体としては建物重量×摩擦係数に達するまで滑らないので、小さな揺れからは効果を発揮しない。」というのが私の主張です。

 

まず、床がどれくらい変形すると考えているのか、そしてなぜ床がそれだけ変形をするのか、ぜひ数字を交えて説明していただきたいものです。

 

仮に上記質問に回答が得られたとすると、次の疑問が湧きます。床が変形することで装置ごとに滑り方が変わった場合、滑り量が大きい装置はどうなるのでしょうか。早々に稼働域の5mmに達した後は、ストッパーとして作用してしまう気がします。

 

一部の装置が止まってしまっても、他の装置が滑っているから問題ないとは言えないでしょう。止まるからには力が集中します。

 

装置が負担している建物の重量が小さくても、直上に耐力壁がないとは限りません。床が変形するくらい柔らかいのであれば、真上の耐力壁から来た力は床を伝わらずそのまま下の装置に流れます。

 

下の装置は摩擦係数が0.3を超えていますから、かなり大きな力まで負担してしまいます。建物と基礎とを直接つなぐことになってしまい、折角の滑りの効果が台無しではないでしょうか。それともさらに滑って、アンカーボルトにぶつかってしまうのでしょうか。

 

中小地震にも効果があると主張することで、かえって性能が悪いように感じられてしまいます。床面に生じた慣性力が壁を伝って基礎までいくという一連の力の流れについて誤解されている可能性はありませんでしょうか。

 

大地震時の性能について

熊本地震では予想を超えた?

メーカーのHPには、熊本地震において予想を超える成果が出たと書かれています。300~800galの低減効果しかないはずが、1000gal以上加速度が小さくなったようです。

 

これに対して、「なぜ」予想を超えたのか知りたいのですが、“予想を超えたことは説明されている”と反論されました。予想を超えたこと自体は言及がありますが、「なぜ」かは言及されていないように思います。ぜひ説明していただきたいです。

 

私としては、低減効果の拠り所としている数式が間違っているように感じるのですが、いかがでしょうか。

 

「摩擦力=摩擦係数×重量」「慣性力=加速度×重量」の両式から「地震の力=(加速度-摩擦係数)×重量」という式がどうして導かれるのかが理解できていません。

 

もしこの数式が正しいのであれば、摩擦係数を上げれば上げるほど地震の力を低減できることになります。しかし、実際には摩擦が大きくなり過ぎると滑りが生じないので、低減効果はゼロになってしまいます。

 

建物の揺れと摩擦係数の関係を誤解されていませんでしょうか。

 

エネルギー吸収について

地震時に建物に入力されるエネルギー量は、建物の周期によってそれほど大きく変化しません。耐震でも免震でも大差ないのであれば、減震でも同じはずです。

 

そのため、免震建物が「建物重量の3%に相当する摩擦力で30cm変形する」のであれば、減震建物が「建物重量の30%に相当する摩擦力で3cm変形する」と考えても差し支えないでしょう。概算のためのオーダーとしてはいいのではないかと思います。

 

減震では5mmしか可動域が無いので、足りない25mm分はどうするのかという議論です。

 

“摩擦距離も強調してますが、ゲンシンパッキンはたくさん使用する利点が有ります。 5mmの摩擦距離も約100セット使用すれば5mmx100=500mmの摩擦距離になります。”

“各々の距離は短いが約100個の数で大きな吸収量になってる。”

 

一つ一つの滑り量は少なくとも、いくつも装置を使用すればトータルでは大きな滑り量になるということでしょうか。

 

“一個の滑り距離だけが要なら数はどのように作用する事になるのかが疑問。

摩擦ゲンシンパッキン一個の平均摩擦力(地震力)=摩擦係数x抗力(1個にかかる平均重さ)

住宅全体での減衰量=一個の平均摩擦力x移動距離片側5mmx摩擦ゲンシンパッキンの使用数100個程度”

 

どうも装置の数を増やすと荷重を分散できると考えているようですが、数は一切関係ありません。

 

エネルギー吸収量は「力」×「距離」ですが、「力」が大きくなると建物に揺れが伝わるようになってしまいます。できるだけ「力」は小さい方がいいのです。

 

確かにエネルギー吸収量は「1個分の摩擦×100個×5mm」です。これは間違っていません。

 

しかし、このときの力が「1個分の摩擦」で、距離が「100個×5mm=500mm」というのが違います。力が「1個分の摩擦×100個=100個分の摩擦」で、距離が「5mm」です。

 

結局これでは装置の数をいくら増やしても力の総量は変わらないので、建物に揺れが伝わるという事実は変化しません。「滑り量が重要」というのは、まさにこのことです。

 

エネルギー吸収の式における「力」と「距離」の意味について誤解していませんでしょうか。

 

振動論

縦揺れと滑り出し

建物重量を利用してエネルギー吸収を行う「摩擦系」の装置を使う場合、縦揺れの影響が気になるものです。しかし、実際には縦揺れの影響を考慮した実験や解析をしても、ほとんど影響ないことが分かっています。

 

なぜなら、縦揺れと横揺れとでは揺れの周期が全く違うからです。縦揺れの方が断然周期が短く、ゆっくり揺れる横揺れに対しては瞬間的な出来事に過ぎないのです。

 

“実際の地震は最初に縦揺れが来ますから摩擦力が減り、震度5以下でも動き減震してる可能性が高い。”

 

確かに、縦揺れによって瞬間的に建物が軽くなるタイミングはあります。しかし、すぐそのあとに建物が重くなるタイミングがくるはずです。結局平均するとゼロに近くなります。

 

軽くなるタイミングのことだけを取り上げ、重くなるタイミングのことを無視してしまっていないでしょうか。

 

摩擦力は揺れの特性を決める非常に重要な要素です。縦揺れの影響を受けるようなシステムでは、怖くて採用できません。

 

地面の揺れと建物の揺れ

“300ガルを超えてる時の時間は0.16秒間/回程度、1サイクルで0.32秒間。”

 

地面の変形量と建物の滑り量を関連付けて検討しているようですが、大事な視点が抜け落ちていないでしょうか。装置の上に載っている建物は、一切変形しない剛なものではありません。

 

摩擦係数が0.3であるとは、「建物重量の30%に相当する力で滑り出す」ことを意味します。そして、「地面の加速度が300galに達すると滑り出す」ということとは全く違います。

 

震度5強では地面の加速度が80gal程度、建物内で2.5倍程度に増幅されるので、建物重量の20%に相当する力が作用するとして設計します。

 

つまり、300gal以上の動きだけを追っていても意味がありません。極端な話、共振すれば20galくらいでも滑りが生じる可能性はあります。地面の動きが5mm以下かどうかは関係ないのです。

 

議論を単純化するために上部構造を変形しないものとして考えたのかもしれませんが、滑り量を算出するという目的に対しては意味の無い仮定ではないでしょうか。

 

建物の揺れと地面の揺れの関係を誤解していませんでしょうか。

 

新日鉄住金エンジニアリングの球面滑り支承

“摩擦ゲンシンパッキンと似た免振装置を見つけた。

中心からずれる程建物を押し上げる力が働き反力で荷重が増え摩擦力が増えて行くのは同じ。“

 

確かに似ていますね。摩擦によりエネルギー吸収を行う点、変形が大きくなると摩擦が増加する点、金属系の装置である点、そっくりです。もっと摩擦係数を上げていけば、両者はかなり似たような性能になるでしょう。

 

しかし、特に驚くようなことではありません。免震のパラメータを調整すれば減震になる、というだけのことです。

 

別に通常の免震建物に使用する「積層ゴム」「鋼材ダンパー」を使用しても同じような性能は出せます。球面滑り支承の利点は「重量の変動」や「軽量建物」に対応しやすいということであって、それ以外の性能は普通の免震建物と同じです。

 

結局揺れ方を左右するのは「どのくらいの力で滑らせる(柔らかくする)か」、「どのくらい変形を許容するか」だけです。そして、普通の免震も球面滑り支承も、その値は変わりません。

 

摩擦係数が十倍近く違い、滑り量は数十倍違う、これは最早まったくの別物です。見た目だけは似ているというのなら、ある程度は同意できます。

 

見た目と本質を混同してしまっているのではないでしょうか。

 

ちょっと一息

反論に対する反論を挙げてみました。

 

まだいくつか回答できていないものもありますが、長くなったので一旦ここまでとしておきます。この場での議論には乗ってきていただけないようですが、誰かの参考にはなるかもしれません。

 

私としてはいつでも議論・反論ウェルカムなので、お待ちしております。

 

終息でしょうか

2019/1/26

摩擦係数やアンカーボルトの件は些末な点です。議論の前提を確認しているだけで、本質ではありません。間違いを認めていただけたのは結構ですが、実はどちらでもいい話です。

 

結局肝心な部分の反論には回答いただけていません。再反論が必要な反論もないようです。どうやら、熊本地震での効果をご自身では理論的に説明できない、ということに本心では気づいていただけたようです。

 

理論を放棄したいま、「熊本地震での効果がすごかった」というのが唯一の拠り所だと思います。しかし、熊本の全ての地域でものすごい揺れが起こったわけではありません。

 

滑り量が5mm以下になる揺れは、UFO-Eが最も得意とする範囲です。この範囲であれば制振よりも高い効果が得られる可能性があります。これは他の方も認めるところでしょう。

 

では、熊本地震の際、UFO-Eを導入した建物の隣の家が倒壊でもしているのでしょうか。「昨日は結構揺れたね」というレベルでは、効果が出ても不思議はありません。

 

「データが無いとこれ以上はわからない」と私が書いた意味をこれで理解いただけたと思います。これは「屁理屈」でもなければ「逃げ」でもないと思うのですが、どうでしょう。

 

2記事に渡って長々と書いてきましたが、どうやら終息に至ることができたように思います。「e戸建て」掲示板および当記事をお読みいただいた皆様、お付き合いいただきありがとうございました。

 

他にも何か面白い技術があれば、ぜひバッコまでお知らせください。専門家として真面目に考察させていただきます。