バッコ博士の構造塾

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設計事務所とゼネコン設計部の違い:あなたはどちら向き

建物の設計を行うという意味では同じ仕事をしている「設計事務所」と「ゼネコン設計部」。では「自社ビルを建てたい」と思ったときにまず声を掛けるべきは設計事務所とゼネコンのどちらでしょうか。「設計を生涯の仕事にしたい」と思ったときに何を基準に就職先を選ぶべきでしょうか。

 

□■□疑問■□■

「設計事務所」と「ゼネコン設計部」の違いは何でしょうか。外からはその違いがよくわかりません。

 

スーパーゼネコンの違い:技術開発の方向性から会社方針を考察

 

□■□回答■□■

設計事務所は本業の設計で利益を出します。ゼネコンは設計で利益が出なくても、本業の施工で利益が出れば問題ありません。そのため設計に対するスタンスが違います。ゼネコン設計部では多少時間をかけてでも無駄な材料費を削り、施工性を高めるような設計をします。設計が主か、建設が主かという点が最も大きな違いです。

 

 

どこで儲けるか

設計事務所もゼネコン設計部も「計画を立て、設計し、監理する」ことを仕事としています。基本的な設計能力も大手同士であれば大差無いでしょう。違うのは「利益をどこで上げるか」の違いです。

 

全ての会社は社会に貢献するとともに、利益を上げなくてはなりません。設計事務所は主たる業務が設計である以上、設計を行うことで利益を上げる必要があります。一方ゼネコンでは売り上げの大部分が施工によるものであり、設計が占める割合は大きくありません。

 

設計事務所は設計費内で設計業務を終えなければ赤字です。ゼネコンは設計が赤字になっても、施工で挽回すれば会社としては黒字になります。

 

建物の建設費に応じて設計費が決まります。施主の要望が反映され、予算内で建設できる図面ができれば設計としての仕事はとりあえず終わります。設計事務所であれば、これ以上の作業は設計費を無駄にするだけです。しかしゼネコン設計部ではここからが腕の見せ所になります。

 

構造設計であれば、あまり安全性の向上に寄与していない余分な鉄筋や鉄骨を減らす作業を行います。また、梁伏図や軸組図からだけではわからない部材の接合部などの詳細図を書き足していきます。施工費を抑えるとともに、施工時に問題が発生しないよう事前の検討が重要になります。

 

当然設計部の人件費は余分にかかりますが、それ以上に施工費が低下すれば会社としては利益が増加します。そのため設計部単体では赤字のところも多いのではないかと思います。ゼネコンではあくまでも施工が主で、設計が主となることはありません。

 

設計に対するスタンス

設計事務所とゼネコン設計部もやることは基本的に同じです。ただ、そのスタンスは違います。

 

設計業務

設計事務所では「設計の内容」ではなく、「設計の数量」で報酬が変化します。仕事の密度を高めるよりも、数をこなすほうが利益に直結します。もちろん、一定水準以上のレベルに達する必要はありますが。大手になると、中堅社員でも自分自身で設計する機会は少なくなってきます。多くの外注事務所に仕事を振り、その確認と管理が業務の主要な位置を占めます。

 

ゼネコン設計部でも外注に出すことは多々ありますが、その数は相対的に少ないです。自社が施工する建物の設計しか扱わないので、最後まで面倒をみるつもりで設計に取り組みます。曖昧な部分を放っておくと自分の首を絞めることになるので、細部まで質を高めることを重視します。

 

ある大手事務所が設計を担当した現場では、鉄筋がとても納まり切らない梁がいくつかありました。比較的大きな建物でしたが、主担当は入社2年目の若手でした。数をこなすのは大変だなぁと思った記憶があります。

 

設計能力が高い低いではなく、建物1棟あたりに割ける労力の問題です。「数」重視か「質」重視かの違いです。なお、ここで言及しているのは施工者にとっての「質」であり、施主にとっての「質」ではありません。施主にとっての「質」は設計事務所の方が高い場合も多いでしょう。

 

監理業務

建物が設計図通りにできているかどうかをチェックするのが「監理」です。設計事務所でもゼネコン設計部でも大手になると専門の監理部門は抱えていますが、建物によっては設計者自身が監理を行います。

 

設計事務所は「施工者にやらせる」監理ですが、ゼネコン設計部では「施工者にやってもらう」監理です。設計事務所の方が施工者よりも施主に近い存在なので、偉いです。品質が気に入らなければ文句を言う立場です。

 

ゼネコン設計部も監理者として施主に代わって文句を言う立場ではあるのですが、そこには若干遠慮があります。譲れない一線は当然ありますが、問題が発生すれば納得できる落としどころを施工者と一緒に考えます。

 

社内だからと言って「なあなあ」な監理は厳に慎むべきですが、監理者が社内か社外かで施工者の緊張感が違ってくるのではないでしょうか。

 

会社としての違い

規模

設計だけを請け負う設計事務所と、建築の全てを請け負うゼネコンでは会社の規模が違います。売上高もゼロが1つ違ってきます。ゼネコンにおける設計部員の割合は10%前後ですが、それでも大手ゼネコンであれば大手設計事務所並みの人数になります。

 

ゼネコンであれば「設計に限界を感じた」という人でも、規模が大きい分どこか別の部署へ移りやすいです。構造設計がわかる現場マンは頼りになります。

 

役員人事

どこの会社でもお客さんに近い部門、お金に近い部門、つまり主要な部門の方が出世しやすいです。設計事務所は当然設計が主なので、意匠設計だろうが構造設計だろうが設備設計だろうが役員になれます。

 

ゼネコンでは当然施工が主です。設計ではありません。設計でも役員になれますが、お客さんに近い意匠設計が俄然有利になります。構造設計、設備設計では役員への道が閉ざされているか、非常に細くなっている場合が多いです。

 

設計事務所では図面に描けないこと

超高層ビルでは鉄骨建物であっても、柱の中にコンクリートを充填することがあります。このとき、中に詰めるコンクリートはできるだけ強度の大きいものが望ましいのですが、設計事務所の図面ではあまり大きな数値が描かれていません。

 

設計事務所は実際に自分たちが建物を造るわけではありません。図面を提供するだけで、施工者を決めるのは施主です。そのため、特定の施工者しかできないような技術を入れ込むわけにはいかないのです。

 

自社が持っている技術であれば何でも描けるゼネコンとはそこが違います。

 

お得な発注方法

設計事務所に設計を依頼すると満足のいくものはできるのですが、コストは高くなりがちです。上述したように、建設コストに関してはそこまでシビアに検討しないからです。

 

ゼネコンに設計から施工まで依頼すると競争が発生しないので、これまた高くつきます。ただ、施工中でも柔軟に設計変更に対応してもらえて便利ではあります。

 

そこでよくやる方法としては、建物の大枠を決める「基本設計」を設計事務所、実際に詳細まで検討する「実施設計」および「施工」をゼネコンに依頼するのです。

 

施主の要望を満たした図面が基本設計で作られます。そしてその図面に対してゼネコン各社が入札を行うので競争が発生します。最後の詰めの設計はゼネコンが行うので、施工と設計の連携が密になっており変更にも対応しやすいです。

 

両社のいいとこ取りをしたい場合には参考にしてみてください。