バッコ博士の構造塾

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コンクリート強度:購入前に知っておきたいRC造マンションの構造

多くの分譲マンションは鉄筋コンクリート構造を採用しています。コンクリートはその見た目が同じでも、強さには非常に大きな開きがあります。

 

□■□疑問■□■
マンションの広告等で「コンクリート強度が○○MPa(または○○N/mm2)」と書かれていますが、どの程度の値が適正、あるいは強い値なのでしょうか。

 

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□■□回答■□■
最近のマンションでは24 MPa(=N/mm2)を下回ることは少なく、これは学会の仕様で「24MPa以上なら65年」大規模な改修を必要としないとなっているからです。しかし、実際の耐久性は施工精度やひび割れの有無、地震を経験するかどうかにより大幅に変化します。24MPaを下回るようであれば注意が必要ですが、そうでなければあまり気に掛ける必要はありません。

 

 

コンクリート強度の決め方

コンクリート強度とは

全ての建物は重力および地震力に対して安全なように設計されています。柱や壁などの各部材に加わる力を算定し、それに耐えられるような強さのコンクリートを選定します。

 

コンクリート強度とは、コンクリートが持つ圧縮力に対する強さを表す数値で、「圧縮強度」とも言います。せん断力や引張力など、他の力に対する強さも圧縮強度が基準になります。

 

強度の単位はMPa(メガパスカル)またはN/mm2(ニュートンパースクエアミリメートル:単に「ニュートン」と呼ばれることが多い)を使用します。24MPaであれば、1m角の柱で2400tまで重さを支えることができます。ただ、実際に重さを支えるのに使用していい範囲はその1/3なので800tとなります。

 

中低層のマンションでは柱が支える重さはそれほど大きくなく、重力よりも地震力に対する設計が重要になります。超高層マンションでは重力の影響が大きく、重さを支えるために非常に高い強度のコンクリートが求められます。

 

建築学会の仕様

日本の建築の最先端を科学する、それが日本建築学会です(当然ながらバッコも学会員で、論文を購読しています)。そして日本建築学会が発行しているJASS5というコンクリートの標準仕様書の2009年度版に「計画共用期間」なるものが記されています。

 

この計画共用期間とは「構造体の耐用年数で大規模な改修が不要な期間」のことです。これがコンクリートの強度によって決まります。

 

コンクリート強度が「18MPaで短期(30年)」、「24MPaで標準(65年)」、「30MPaで長期(100年)」、「36MPaで超長期(200年)」とされています。ただし、かぶり厚さ(鉄筋のコンクリートへの埋め込み深さ)を10mm増すと30MPaでも超長期として扱われます。

 

低層のマンションであれば18MPaや21MPaのコンクリートを使用しても設計が可能です。しかし、耐用年数が30年ではあまりにも格好がつかないため、24MPaを下限値としている場合が多いです。

 

マンションの都合

超高層マンションの場合、5階の部屋にある柱と30階にある柱とでは支えている重さが全く違います。ただ、だからと言って「30階より上は柱を少し細くする」といったことはやりません。上から下まで同じ太さの柱とすることがほとんどです。

 

マンションでは上下階で同じ間取りとすることが多いです。階ごとに微妙に間取りが変わってくると、何かと都合が悪いのでしょう。

 

そこで、上階の柱が負担する力に対して無駄に強くなり過ぎてしまわないように、上の階ほどコンクリートの強度を下げていきます。そのため○○~△△MPaといったような幅を持った値になっている場合がほとんどです。中低層のマンションでも当然同じことが言えます。

 

コンクリートの中性化

中性化とコンクリート強度

鉄筋コンクリート構造とは、まさに鉄筋とコンクリートを組み合わせた構造です。強アルカリのコンクリートが鉄筋を錆から守ることで耐久性を発揮します。

 

そのため、コンクリートが空気中の酸素と反応して中性化すると、鉄筋が錆び出すことになります。この中性化の速度がコンクリート強度によって変化します。コンクリート強度が高いほど組織が緻密になるので、中性化を食い止める効果があります。

 

コンクリートが中性化しても強度自体には変化がありません。あくまでも鉄筋を錆から守ることができなくなるだけです。鉄筋が錆びる、つまり酸素と結合すると体積が増加し、コンクリートを剥がしてしまうなど構造性能の低下を招きます。

 

かぶり厚さ+10mmとは

仮にコンクリートの中性化が進んでも、鉄筋がさらに奥深くに設置されていれば影響は出ません。そのため、かぶり厚さを標準より10mm大きくすればコンクリート強度30MPaであっても「超長期」とすることが可能です。

 

中性化のみを考慮すれば、かぶり厚さを10mm大きくすることは効果的だと言えます。ただ、鉄筋はできるだけ外側に配置したほうが効果を発揮します。部材の内側よりも外側の方が、部材が変形する際に力を多く負担するためです。

 

また、コンクリートに生じるひび割れの進展を止めるのも鉄筋の役割なのですが、コンクリートの表面に入ったひび割れを止めるのに、表面から遠いところに鉄筋を入れても効果がありません。

 

どうしても「超長期」にこだわりたい人は「30MPaとかぶり厚さ10mm」のコンビネーションではなく「36MPa」の方が良いかもしれません。ただ、耐久性100年と200年の差が、そこまで購買意欲に影響を与えるとは思えませんが。

 

低強度を侮るな

コンクリートはセメント、砂、砂利、水を混ぜ合わせ、現場で型枠に流し込むので、性能のばらつきが大きな材料です。そのため、設計図書に記載された強度を下回らないよう、かなり余裕を見た配合を行います。

 

特に低強度のコンクリートの方が設定値よりも大きな値が出やすく、18MPaのコンクリートであれば1.5倍や2倍の強度が発現することも珍しくありません。そうなると24MPaにこだわっていたのが何だったのか、という気持ちになります。

 

「設計上のコンクリート強度が18MPaになっているから、気に入ったけど購入は見送りましょう」となる前に、施工実績を確認してみるのもいいかもしれません。案外、30MPaを超えているかもしれません。

 

梁の高強度にご用心

超高層マンションでは柱に100MPaを超えるコンクリートを使っているものがザラにあります。しかし、梁に関しては48MPa程度を最高強度としている場合が多いです。

 

水が多く入った低強度のコンクリートは水が抜けることで乾燥収縮し、ひび割れが入りやすいです。しかし、高強度のコンクリートも収縮が小さくありません。

 

高強度を達成するにはセメントを多量に配合しなくてはなりません。このセメントと水が反応することで水和熱が発生するのですが、セメント量が多いと発生する熱も多くなります。結果として部材の温度が上がり、部材が膨張し、冷えていく過程で縮むことでひび割れが生じるのです。

 

また、セメントが多いとフレッシュコンクリート(固まる前のコンクリート)が粘性を増し(ネバネバになる)、施工が難しくなります。

 

柱であれば建物の重さで圧縮されており、ひび割れは入らないことが多いですが、梁は圧縮されていないためひび割れが入りやすいです。

 

まずないと思いますが、梁に60MPaを超えるようなコンクリートを使用している場合は要注意です。

 

最後に

コンクリート強度は耐久性に大きな影響を与える要素ではありますが、それ以上に施工の良し悪しが重要です。

 

施工としては、コンクリートがうまく型枠全体に回っているか、コンクリートのセメントと砂利が分離してしまっていないか、養生をしっかりとしているか。設計としては、無理に小さい梁を使用していないか、ひび割れ誘発目地の設定は適切か。こういう観点からの確認も本来なら必要です。

 

しかし、マンション購入前にそこまで確認することは専門家でも難しいです。コンクリート強度だけではなく、実績のある会社、信頼のある会社かどうかも判断材料としてください。