バッコ博士の構造塾

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溶接閉鎖鉄筋:購入前に知っておきたいRC造マンションの構造

コンクリートの柱には主筋と帯筋という2種類の鉄筋が配置されています。柱と平行の太い鉄筋が主筋で、この主筋を取り囲んでいる細い鉄筋が帯筋です。

 

□■□疑問■□■

マンションの広告、パンフレット等で、この帯筋が「溶接閉鎖」であると主張されていることがありますが、どのような効果があるのでしょうか。

 

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□■□回答■□■

「溶接閉鎖」されている方が建物は倒壊しにくくなります。また、大地震時に柱の損傷を抑える効果があります。ただ、その効果を数字で表現することは難しく、「溶接閉鎖」の有無が構造計算に影響を与えることはありません。

 

 

柱の鉄筋の役割

柱の役割は建物の重さを支えることと、地震時に生じる力に抵抗することです。この力によって柱が曲げられると、柱の片側が引っ張られ、もう片側が縮められます。電車が急停車すると片方の足が浮き上がり、もう片方の足に体重がかかるのと同じです。コンクリートは引っ張る力に弱いため、それを補うのが主筋です。

 

柱は伸び縮みにより曲げに抵抗するだけでなく、横方向にずらそうとする力(せん断力)にも抵抗しなくてはなりません。コンクリートだけでは耐えられる力が小さく、それを補うのが帯筋です。

 

そもそも溶接閉鎖とは?

帯筋は「主筋を取り囲んでいる」と書きましたが、元々は細い1本の棒状の鉄筋です。それを四角く曲げてから設置するのですが、両端の処理が問題となります。通常は両端を135°に曲げておき、主筋に引っかけるようにします。「溶接閉鎖」では文字通りこの両端を溶接によりくっつけてしまうことで四角形を閉じる、つまり閉鎖してしまう方法のことです。

 

鉄筋を曲げるだけの工程に溶接が加わるため、溶接閉鎖は手間がかかることになります。そのためか、分譲マンション以外の現場ではまだ見たことがありません。

 

溶接閉鎖の効果

せん断力で柱が壊れる場合、鉄筋ではなくコンクリートが原因となります。そのため、帯筋の両端の処理が135°曲げとしているか、溶接閉鎖としているかは関係ありません。その差が表れるのは大地震時に建物に大きな変形が生じたときです。

 

建物に大きな変形が生じると、柱に大きな負担がかかります。その力に耐えられず、柱の外周部のコンクリートがボロボロと崩れ落ち始めます。そうすると柱の主筋が外部に露出するのですが、次は主筋が力に耐えきれず外にはらみ出そうとします。それを食い止めるのが帯筋です。

 

最終的には帯筋がはらみ出しに耐え切れず、主筋がグニャリと曲がり、建物の重さを支えきれなくなって倒壊します。この時、帯筋が頑張れば頑張るほど建物が倒壊に至るまでの余裕度が増します。当然、端部を折り曲げただけの帯筋よりも、溶接によりしっかりと閉じた鉄筋の方が大きな力に耐えられるのです。

 

溶接閉鎖の他にも「スパイラル」や「斜め帯筋」といった配筋方法も効果的です。

 

計算上の取り扱い

上述の通り、溶接閉鎖の効果が発揮されるのは建物が倒れるかどうかという極限状態に近づいた場合です。現在の解析技術ではコンクリートの柱が破壊する過程を精度よく再現することはできません。

 

コンクリートは主としてセメント、砂、砂利、水から成り、各作業現場で型枠に流し込んで作成されるため、一般の材料に比べ品質にばらつきがあります。また、鉄筋と組み合わせることでよりその構造は複雑になります。各種パラメータを調整すれば、解析結果を実験結果にある程度適合させることは可能ですが、建物一つ一つに対してはとてもできません。

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実験により溶接閉鎖の有用性は確認されていますが、それがどの程度かという数値的な評価は難しいのが現状です。また、通常の135°に曲げた帯筋でも、構造計算で取り扱う範囲では有効に作用していると考えられます。そのため、溶接閉鎖かどうかが構造計算の結果に影響を与えることはありません。

 

解析技術や数値を過信してしまい、計算上表れない部分が疎かになっている設計もありますが、こうした工夫を行っていることは評価できます。消費者としては溶接閉鎖に固執する必要はありませんが、構造設計者の意図がくみ取れる面白い部分です。