バッコ博士の構造塾

建物の安全性について本当のプロが綴る構造に特化したブログ

住宅展示場探訪:ハウスメーカーの営業に構造の説明をしてもらった

モデルハウス、モデルルームが好きです。

 

どちらかというとモデルルームの方が好きなのですが、一度にたくさんの建物を見ることができる住宅展示場は楽しいですね。

 

ついついマニアックな質問をしてしまうこともあります。

 

思ったような答えが返ってこないことも多いですが、よく勉強されていますし、基本的に「嘘」を言われたことはありません。

 

ただし、勘違いから間違ったことを教えられることもあります。ある程度は事前に知識をつけておきましょう。

 

 

コンクリート系ハウスメーカーのおじさんの場合

コンクリート系のハウスメーカーでは通常「耐震」を採用しています。

 

「免震」に変更可能なメーカーもありますが、基本的に「制振」は採用されません。

 

耐震・制振・免震:メリット・デメリット以前に知っておくべき性能の違い

 

おじさん:「制振はダンパー(建物の揺れを低減する装置)が変形して初めて効果を発揮します。剛性が大きい(=とても硬い)鉄筋コンクリート造の住宅はそもそも変形自体ほとんどしません。耐震が一番です。」

 

これは正しいです。

 

より正確を期するなら「コンクリート造の壁式の住宅」ですが、些細な差異です。

 

ダンパーを設置しても性能の上積みは小さく、コストパフォーマンスを考えれば耐震でしょう。

 

鉄骨系ハウスメーカーのおにいさんの場合

鉄骨系のハウスメーカーでは「制振」を採用している場合が多いです。

 

ダンパーの種類もオイルダンパー、粘弾性ダンパー、鋼材ダンパーと各種揃っています。「耐震」しかメニューのないメーカーはほとんどないのではないでしょうか。

制振・制震ダンパーの種類と特徴:構造設計者が効果を徹底比較

 

おにいさん:「うちの鋼材ダンパーはすごいです。このダンパーが地震のエネルギーを吸収することで、震度6クラスの揺れが震度3程度になります。」

 

鉄骨造の建物は基本的に柔らかくなりがちで、ダンパーが効果を発揮する余地が大きい建物です。

 

ただ、どれだけ優れたダンパーを使用しても、1階の床は地面の揺れとほとんど同じです。1階の床は硬いコンクリートの基礎を介して地面と繋がっているため、揺れはそのまま伝わってきます。

 

また、戸建住宅のような低層建物で2階床や屋根の揺れが地面より小さくなることはまずありえません

 

細かい部分を訂正しますと「地震のエネルギー」ではなく「地震により建物に生じたエネルギー」です。地震の莫大なエネルギーを少し吸収したところで焼け石に水です。

 

また、地面の揺れの強さを表す「震度」で建物の揺れの強さを表そうとするのは違和感たっぷりです。建物の揺れは震度3です、とは言わないです。

 

粗探しのような感じもしますが、専門家は言葉にうるさいのです。責任がありますので。

 

このお兄さんにはもう少し勉強していただきたいです。もちろん、構造以外のことについてはいろいろと知らないことを教えてもらいました。

 

木造ハウスメーカーの役員の場合

たまたま展示場の様子を見学に来ていた大手ハウスメーカーの役員にお会いしたこともあります。事前に記入したアンケートの職業欄を見て興味を持たれたようで、先方から話しかけてこられました。

 

住宅業界の動向や、デベロッパーごとのマンションの内装のグレードの差などを教えてもらいました。

 

また、社内研修として、構造に関する著書があるような建築士を招いて講演してもらう等、しっかりと社員教育をされているともおっしゃっていました。こういう話を聞くと安心します。

 

木造のハウスメーカーでも「制振」を採用しているところが多数あり、いろいろなダンパーを取り扱っています。ただ鉄骨造とは違い、「耐震」のみという場合も多いです。

 

役員:「以前は制振を推していましたが、今は耐震にしています。壁の性能が上がったので、制振にしてもあまり差がありません。震度6クラスを数回経験しないと差が出ないなら必要ないでしょう」

 

おそらく設計か研究部門からの報告書にしっかりと目を通しているのでしょう。高性能な硬い壁を使用すると建物自体がほとんど変形しなくなるため、ダンパーの活躍する余地は小さくなります。

木造住宅なら耐震で十分である:構造の専門家がたどり着いた結論

 

しかし、いくら強い壁であっても、繰り返し地震の力を受けていると歪みや緩みが生じてきます

 

ダンパーの利点の1つとして、そうした性能の低下が無い(または非常に小さい)ことが挙げられます。

木造住宅に最適な制振・制震ダンパーはどれ?価格・耐久性・耐震性を比較

 

弱い建物ではその差が早期に現れますが、強い建物では役員の発言にあるように建物の寿命内では現れない可能性もあります。

 

2016年の熊本地震では震度7の非常に強い揺れが2回発生したことは記憶に新しいでしょう。それ以降「震度7に○○回耐えた」や「繰り返しの揺れに強い」といった宣伝文句が並ぶようになりました。

 

重要な要素ではありますが、自身が適切と思う範囲で安全率を設定しましょう。

 

どのような人がいるのか

基本的に受付にいるのはパートの方です。平日の昼間にもずっと営業しているので主婦の方も多いようです。

 

受付の後出てくるのは社員の方のようですが、バックグラウンドは様々です。

 

建築学科卒に限らず文系卒、建築以外の理系卒の方ももちろんいます。一級建築士との遭遇率はあまり高くないです。

 

構造設計一級建築士にはまだ会えていません。稀に研究部門から臨時で人を出す会社があるらしく、博士を持った方が対応する場合もあるそうです。

博士になって変わること、変わらないこと:ゼネコン博士の現状

 

一級建築士の方は接客にも余裕があるように思います。専門家だという自負があるのでしょう。ただ構造に関することを断定口調で説明されたときは少し抵抗を覚えてしまいました。

 

耐震工学にはまだまだ解き明かされていないことが多いので、確たることはなかなか言えないのが現状です。なんでも断言する人がいますが、信頼できないですね。

 

アンケートの職業欄を見て建築関係者と知ると急に謙虚になる方はちょっと怪しいです。

 

全体としてとてもよく勉強されていますが、話を鵜呑みにするのではなく、と言って過度に疑うのではなく、聞きたいことを素直に聞けばいいと思います。

 

このブログで理論武装しておくと、優秀な販売員かどうかの判断のヒントになるかもしれません。