家を建てる際、何を優先するかは人それぞれですが、予算に余裕がある人ほど「耐震性」を重視する傾向があるそうです。
地元の工務店ではなくハウスメーカーに依頼する人は予算が高い場合が多いので、結果として耐震性重視の人が多くなります。
当然ハウスメーカー各社は、耐震性を高めるための努力をしています。いろいろな工法や制振装置の開発を行い、耐震性のアピールに余念がありません。
しかし、各社が軒並み耐震性の高さをアピールしているので、とても優劣が付けられない状況になっています。耐震性については、この数値を比べれば一目瞭然、といった明確な指標がないからです。
そして、そんなときに参照されるのが「ハウスメーカーの耐震性ランキング」です。インターネットで検索すればいくらでも出てきます。
しかしこれらのランキングは、それっぽいことを書いてあるものから意味不明なものまで幅広くありますが、結局のところ何の意味もありません。専門家のバッコが判断できないのに、なぜ構造の素人がランキングを付けられるのでしょうか。
ハウスメーカーの開示情報からの比較
実大振動実験
大手各社が実施している実大の試験体を用いた試験結果からの考察があります。
柱や壁、制振装置のみの試験をいくら繰り返しても、建物全体の耐震性を把握することは難しいです。やはり建物全体で試験するのが最適です。
ただ、実大の試験体を用いれば全てわかるというものでもありません。ある限定された条件での、ある1つの答えがわかるだけです。
そしてそれらの結果を比較するには、実験の条件を揃える必要があります。入力する地震動、建物の重さ、設計目標値、コスト、その他諸々、それが違えば当然結果も違います。
各社全く違う条件で実験をしているにも関わらず、それを見て「○○ハウスが強い」、「いや□□ホームが強い」と論じることに意味はありません。
そんな前提もわかっていない人が「第3位は○○」、「一押しは□□」と言っているわけです。如何に意味が無いかがわかります。
実大振動実験からわかること、それは「このハウスメーカーは耐震性に自信がありそうだな」ということと、「実大実験をするだけの資金力があるな」ということぐらいです。
独自の耐力壁
木造住宅では、地震の力の大半を「耐力壁」が負担します。一般的な耐力壁とは違う、独自の耐力壁を開発しているハウスメーカーもあります。
建物の耐震性は耐力壁の量で大方決まります。当然耐力壁が多いほど地震に強い家になります。
耐力壁の量とは、どのくらいの「強さ」の壁が、どのくらいの「長さ」あるか、ということです。壁の強さは実験により数値が決められますし、壁の長さは設計次第です。
どれだけ強い耐力壁を開発しても長さが十分でなければ弱い建物になりますし、普通の耐力壁でも長さが十分であれば強い建物になります。壁の仕様だけを見て判断できることではありません。
では、「強さ」も「長さ」も同じであれば耐震性は同じかというと、これまた違います。「壁量計算」という建築基準法のルール上では同じですが、本当の性能は違うのです。
実験により決められた「強さ」の数値は、耐力壁の特性のある一面でしかありません。繰り返しにおける劣化の程度、壊れるまでの変形、吸収可能なエネルギー量など、これらを総合してはじめて優劣が付けられます。
論文を複数本読み、詳細な比較をする必要があるはずです。そこまでしてランキングしているなら認めましょう。
実際には、それでもわからない部分がある、それが耐震工学の現状ですが。
被害報告
熊本地震は震度7が2回発生という、過去に例がない地震でした。大手ハウスメーカーでも被害が出たところがあるようです。
被害のあった会社ではホームページ上の耐震性に関する表現が変更されたり、削除されたりしました。逆に被害のなかった会社では「半壊・全壊ゼロ」の文字が踊りました。
被害があったからNGということではありません。地震自体もものすごかったですし、耐震性よりデザイン性を重視した無理なプランだったのかもしれません。
逆に、被害がなかったからOKということでもありません。「たまたまそうだった」という可能性はあります。
ただ、実際に被害があった、なかったというのは事実です。やはり被害がなかった方の株は上がりました。
とはいえ、これをすぐさまランキングに結び付けるのは早計です。被害0と被害1を比べても統計的に優位な差とは言えないでしょう。
起こってほしくはありませんが、大手ハウスメーカーの住宅でも100棟、200棟被害を受けるような地震でなければ比較するにはデータ不足です。参考程度、というのがいいでしょう。
新工法の開発は高評価?
あるハウスメーカーでは何十年も前から同じ工法を採用し続けています。一方で、大地震後に新しい工法を大々的に発表するハウスメーカーもあります。
新しい工法を開発しないのは、努力を怠っている証拠でしょうか。あるいは、すでに十分な耐震性が得られており、開発の必要がないのでしょうか。
新しい工法を開発するのは、以前の工法がダメだった証拠でしょうか。あるいは、コストを維持しつつ性能を上げる技術革新なのでしょうか。
なかなか、外部からそれを推し量る術はありません。営業に根掘り葉掘り聞くくらいでしょうか。住宅業界内にいると噂くらいは流れてくるのかもしれません。
なんにせよ、新工法を開発したからと言って耐震性が高いことの証明にはなりません。うがった見方をすれば、実績のない工法とも言えます。
「新しい工法だからすごい」というようなランク付けでは、何の回答にもなっていないはずです。パンフレットを見て、書かれていることを復唱しているに過ぎません。
構造による違い
どのハウスメーカーの住宅が地震に強い、弱いと素人が論じることに意味がないことを書いてきました。しかし、「構造」による強さの違いはあります。
木造か鉄骨造かRC造か、在来工法か2×4か、ラーメン構造か壁式構造かブレース構造か、そこには確かに違いがあります。
ただし、あくまでも平均的な強さであって、必ず「こっちが強くてあっちが弱い」ということではありません。いつだって建物の強さを決めるのは構造設計者なのです。
そしてどの構造であっても、住宅程度の規模であれば「まぁ、まず壊れないでしょう」というレベルまで耐震性を高めることは可能です。それは各社の実大実験の結果からも明らかです。
マンションと一戸建ての耐震性能比較:本当に地震に強いのはどっち?
どれだけ耐震性に力を入れた超高層ビルでも、震度7を2、3回も経験すれば無損傷というわけにはいきません。しかし、その何倍もの回数の試験を繰り返しても損傷しない戸建て住宅は造れるのです。
インターネット上の根拠のないランキングに右往左往する必要はありません。強い家にしたいのなら、気に入ったハウスメーカーの信頼できる担当者に「強い家を造って下さい」と言うだけです。