耐震性の高さを売りにしているハウスメーカーは多く、大手では振動台実験の結果を用いて大々的に宣伝しています。
以前はいかに大きな地震に耐えたかがポイントでしたが、熊本地震以降は複数回の揺れに耐えられるというのが一つのトレンドになっています。
しかし、振動台実験は宣伝を目的に実施していますし、実験の条件も同じではないので比較ができません。結局「すごい」ということはわかるものの、どうすごいのかはわからないままというのが現状です。
ここでは、積極的に振動台実験の結果をアピールしている三井ホームの「プレミアム・モノコック構法」について見てみましょう。
三井ホームの「プレミアム・モノコック構法」とは
モノコック
大雑把に言うと、建物の居住空間をしっかりとした床・壁・天井(屋根)などの「面」で囲んでいる構造がモノコック構造です。
「それって当り前じゃないの」と思われたかもしれませんが、意外にそうではありません。一見すると立派な壁や床のように見えても、細い部材を組み合わせた上から化粧用の板などを貼っている場合が多いです。「面」に見えるけれど実は「線」ということです。
鉄骨の建物はもちろんのこと、木造の建物の大半もモノコックではありませんし、RC造(鉄筋コンクリート造)であっても規模が小さいものに限られます。木造であれば枠組壁構法、いわゆる「2×4(ツーバイフォー)」か、その改良版程度しかありません。
「モノコック=地震に強い」と言われますが、「線(=部分)」で力を負担するより「面(=全体)」で力を負担したほうが強いだろうというのがその根拠です。実際、過去の地震被害などを見ると、モノコック構造(枠組壁構法)の方が地震に強い傾向にあります。
プレミアム
では、通常のモノコックではない、「プレミアム」なモノコックとはどういうものでしょうか。側面・下面・上面を覆っている「面」をそれぞれ見ていきましょう。
側面(壁):2×6(ツーバイシックス)
まず、もっとも重要となる側面の壁には「2×6ウォール」が採用されています。
壁というのは柱と柱の間に構造用の合板を打ち付けることで構成されているのですが、通常の柱は断面が2インチ×4インチ(=38mm×89mm)のものを使用します。一方、三井ホームでは2インチ×6インチ(38mm×140mm)という太い断面のものを使用しています。
ただ「柱の太さが1.5倍になっているなんて強そうだ」というほどのことはありません。確かに柱の太さは重要ですが、壁の強さは合板の厚さや釘の量で決まることが多いです。
階高を大きくしたい時などは柱が曲がってしまわないよう太くする必要がありますが、通常の階高であれば2×4か2×6かというのはあまり関係ありません。柱の強さ≠壁の強さです。
4よりも6の方がなんだか強そうな印象を与えられるので耐震性についてもアピールしているようですが、2×6を採用しているメインの理由は「断熱性」です。単純に壁が分厚くなった分、たくさん断熱材を入れることができるのです。
下面(基礎):超剛性ベタ基礎「マットスラブ」
次は下面の基礎ですが、基礎にもいくつか種類があります。一昔前は「布基礎」という「線」で建物を支えるタイプの基礎が多かったのですが、最近では「面」で支える「べた基礎」が主流となっています。
三井ホームでも主流となった「べた基礎」を採用しているようですが、ただの「べた基礎」ではありません。どうやら「超剛性」な「べた基礎」とのことです。
まず、鉄筋量を従来の2倍程度に増やしているようです。鉄筋が多いほど基礎は強くなりますので、かなり強い基礎にしていることがうかがえます。
また、基礎に使用するコンクリートは従来のものよりも強度が高い24MPaのものを使用しているとアピールしています。
鉄筋が多くて強度も高い、確かに強そうな印象を受けます。しかし、耐震性にどこまで寄与しているかは疑問です。
地震時に建物より先に基礎が壊れることはそう多くはありません。そもそも壊れないのであれば、どれだけ鉄筋を増やしても壊れないという結果は同じです。
24MPaもそれほど特別だとは思えません。以前は強度が18MPaや21MPaのコンクリートで基礎をつくっていたこともありましたが、最近はかなり減ってきたのではないでしょうか。
「超剛性」という言葉も気になります。鉄筋を増やすと「強度」は上がりますが、「剛性」の増加分は限られています。なんだか名前負けの印象を受けます。
上面(屋根):ダブルシールドパネル
最後に上面の屋根ですが、これはかなり特徴的です。ウレタンを合板で挟み込んだサンドイッチ構造になっています。
中央のウレタン部分により厚みを確保することで、束や梁などの補強が必要ありません。また、非常に軽量になります。
大判の材を使用するのもポイントです。屋根面がしっかりと一体化するでしょう。
プレミアム?
屋根面以外の壁や基礎については若干ネガティブな表現をしました。しかし「じゃあ、あんまり性能は高くないの?」というとそうではありません。
壁や基礎についても一般的な建物よりはもちろん性能を向上させてあります。かなりリッチな仕様であると言えます。ただ、そこまでアピールするくらいのことかな、と感じる部分があるというだけです。
耐震性はもちろん高くなっていますが、「プレミアム」という修飾語はどちらかというと「断熱性」の方にかかっているのでしょう。
外壁仕上げ:スーパーファインクリートがすごい
ここまで読まれた方は「どうもこの記事を書いている奴は三井ホームの耐震性を高く評価していないようだ」と感じられたかもしれません。
しかしそれは違います。むしろ相当耐震性が高く、大手メーカーの中でも上位に入ると感じています。ただ、メーカーがアピールしている部分とは違うところに耐震性の高さを感じているだけです。
ずばり、三井ホームの耐震性の本当の秘密は外壁下地の「スーパーファインクリート」にあるのではないでしょうか。
三井ホームでは外壁にサイディングやタイルを使用しません。建物外周にモルタルを塗り、そこに直接仕上げを施します。
モルタルとはセメントと砂と水を混ぜたもので、コンクリートのようなもの(砂利の入っていないコンクリート)です。しかも通常よりも密度を上げて耐久性を高めた「スーパーファインクリート」という製品を使用しています。
これが建物全体を覆うわけです。しかも一般的な外壁の下地よりも厚くしています。もはや木造というよりもコンクリート造に近い硬さになっているのではないでしょうか。
もちろん建物を覆っているといってもただの下地ですから、実際のコンクリート造の建物の壁の厚さに比べると非常に薄いです。しかし、木造の建物は非常に軽いため薄くても効果は抜群です。
そして、もちろん2×6の壁はしっかりと入っています。スーパーファインクリートは構造計算には見込んでいない余裕度の部分なのです。
三井ホームのモデルハウスに行くと、自社だけでなく他社とも比較した振動台実験の動画を見せてくれます。実験の条件が同じではないため簡単には比べられませんが、明らかに三井の家は硬く、変形が小さくなっています。
全数検査:実績・アフターフォローがすごい
2022年3月時点で、震度7の地震は5回観測されています。その5つの地震に対し、三井ホームでは住宅被害状況の全棟調査を行っています。
損傷はほとんどありません、家具等の転倒も少ないです、そういった情報は他のメーカーでもありますが、震度7の地震が起こるたびに「全数」検査しているのはすごいと思います。他のメーカーも実施しているのかもしれませんが、今のところ三井ホーム以外に知りません。
また、これらの調査報告書を関係省庁や大学に提出し、一般にも公開しているとのことです。構造設計に携わる身としてはありがたいことです。