バッコ博士の構造塾

建物の安全性について本当のプロが綴る構造に特化したブログ

どちらが安全?戸建住宅の「硬い」と「強い」の話

 「がっしり」という言葉には、「堅牢」「たくましい」「安定」といった意味が含まれています。「硬くて強くて壊れにくい」と言い換えてもいいかもしれません。「がっしりとした家」であれば、地震や台風などの自然災害に対して安全・安心に暮らせそうです。

 

□■□疑問■□■

「がっしり」を実現するために重要なことは「硬い」ことと「強い」ことのどちらでしょうか。あるいは「硬くて強い」必要があるのでしょうか。

 

□■□回答■□■

「硬い」だけでも「強い」だけでも十分ではありません。また「硬過ぎる」ことが弊害となることもあります。硬さと強さのバランスが重要ですが、インナーガレージ(ビルトインガレージ)や大開口を設ける等、特徴的な建物の場合は特に注意が必要です。

 

 

「硬い」と「強い」の違い

 日常生活でもよく使うこの二つの言葉「硬い」と「強い」ですが、時折混同されてしまっている方が見受けられます。確かに硬いものほど強い傾向がありますが、硬くても弱いもの、柔らかくても強いものもあります。

 

硬さ:「ある量を変形させるために必要な力」、あるいは「ある力を加えた時の変形のしにくさ」

強さ:「ある物体が壊れるまでに耐えられる力」

 

「硬くて弱い」材料の代表としてはダイヤモンドが挙げられます。ダイヤモンドを鉄のハンマーで思い切り叩くとどうなるでしょうか。おそらくダイヤモンドは砕け散りますが、ハンマーが砕けるようなことはないでしょう。表面に少し傷が付く程度だと思います。これはダイヤモンドの方が鉄よりも「硬いが弱かった」ということです。

 

身近なところでは、ガラスも硬くて弱い材料です。「硬い」だけでは急に崩れてしまうような脆い建物になる危険性があります。

 

「柔らかくて強い」材料としてはメガネのフレーム等に使われている合金が挙げられます。グイッと指で簡単に曲げられるほど柔らかいですが、手を離せば元に戻る強さ、しなやかさを持ち合わせています。

  

「硬い建物」と「柔らかい建物」の地震時の揺れ方

 戸建住宅と超高層ビルを比べた場合、戸建住宅はガタガタッと揺れる「硬い建物」、超高層ビルはグ~ラグ~ラと揺れる「柔らかい建物」ということができます。そして「硬い建物」である戸建住宅の中にも「硬い」と「柔らかい」の差があります。

 

構造に十分配慮された最新の家と、重い瓦屋根の古民家を比べるとその差は歴然です。ここでは「硬い建物」の中での「硬い」と「柔らかい」の差について説明します。

 

硬い建物における地震時の揺れの強さは

地面の揺れ ≒ 1階床 < 2階床 < 屋根

というような関係になります。上階へ行くほど地面の揺れが増幅されていくわけです。

 

この時、建物が硬ければ硬いほど揺れの増幅の程度が小さくなります。建物が十分に硬い場合では屋根の揺れは地面の1.5倍程度、柔らかい場合には2~3倍程度となります。いくら強い建物であっても、硬さが十分でなければ居住者の安全・安心は確保されません。建物の倒壊は免れても、揺れが増幅することで家具の転倒や壁紙の破れ等を誘発します。

 

また、地震を受けることにより柱や壁に損傷(ずれ、歪み、緩み、割れ等)が生じると、建物はどんどん柔らかくなっていきます。小さい地震を数回経験することで目に見えない損傷が蓄積し、次の大地震では大きく揺れてしまうということもあります。

 

「硬さ」と「強さ」のバランスが大事

 木造住宅では地震の力に抵抗するのは壁です。鉄筋コンクリート造や鉄骨造でも、戸建住宅の場合はラーメン構造(柱と梁で地震の力に抵抗する構造)を採用することは少ないため、壁またはブレースが主役となります。

 

壁の強さと硬さは相関があるため、戸建住宅では「硬くて弱い」建物や「柔らかくて強い」建物となる可能性は低く、建築基準法を満たすことで適切な硬さと強さを有する建物になります。さらに安全性を高めるには、壁の量を増やしていけばよいです。ただ、単純に増やせば増やすほどよいという意味ではありません。

 

建築基準法に則って適切に設計された建物に対し、まだ不安があるので補強するとしましょう。

「1階はリビングがあり壁を新たに設置できるところは少ないので元の3割増し、2階はまだまだ壁を設置できるところが残っていたので元の2倍にしてください。」

は意味があるでしょうか。

 

木造の規定上(壁の量で判断)は約3割安全性が向上します。通常の構造計算(各部に生じる力の大きさで判断)でも約3割安全性が向上します。これは2階の壁の割り増しを2倍でなく3割にしても同じです。結局、建物の1階と2階の弱い方で決定されるためです。2階にだけ(あるいは1階にだけ)多く壁を設置しても効果はありません。

 

「規定上や計算上ではそうかもしれないが、実際には硬い建物ほど揺れの増幅が小さくなるという話しだった。そうであれば、2階に3割よりも壁を多く設置して硬くすることに意味はあるのではないか。」と反論できるかもしれません。しかし、実際にはそうではありません。

 

適切な設計がなされていれば、建物全体で地震に抵抗します。1階と2階が共に変形することで地震の揺れをやり過ごすわけです。もし2階を極端に硬くしてしまうと、建物全体としては揺れが小さくなるかもしれません。

 

しかし、ほとんど1階だけで地震の揺れをやり過ごさなければならなくなり、1階に過大な変形が生じることになります。結局のところ3割安全性が向上するどころか、場合によってはマイナスの作用をすることさえあります。

 

バランスが崩れやすい建物

壁が非常に重要な要素ですので、壁をバランスよく配置できないプランは設計が難しくなります。とはいえ、こだわりたいポイントはあると思います。耐震性が建物の全てではありません。リビングの南側には大きな窓を作って解放感を高めたいかもしれません。インナーガレージ(ビルトインガレージ)を絶対に作ると決めているかもしれません。

こんな家住みたくない:構造設計一級建築士が避ける建物

 

もちろんこれらが悪いわけではありませんし、いくらでも安全性を高めることは可能です。ただ、建物ごとに対応を変える必要があり、「こうすれば大丈夫」といったお決まりの解決方法があるわけではありません。やはり知識を持った建築士、できれば構造を専門とする建築士の関与が非常に大切です。