バッコ博士の構造塾

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「剛性」と「強度」の違い:剛性と強度のどちらが大きいと安全なの?

お客さんから建物の耐震性に関する質問を受ける機会がありますが、「剛性」と「強度」を混同してしまっている場合がチラホラあります。

 

「剛性」とは「硬さ」「強度」とは「強さ」のことで、両者は全く違う意味を持つ言葉です。しかし、剛性が大きいものほど強度も大きい傾向にあるので、混同してしまう気持ちもよくわかります。

 

硬さとは何か、強さとは何か。一度その違いがわかってしまえば大したことではないので、この機会にしっかりと理解してみてはいかがでしょうか。

 

「耐震性が高い家に住みたい」と思っているのなら、その違いを知っておいて損はありません。

 

安全・安心な建物にするには、「硬い」だけでも「強い」だけでも十分ではありません。また「硬過ぎる」ことが弊害となることもあります。

 

硬さと強さのバランスが重要ですが、インナーガレージ(ビルトインガレージ)や大開口を設ける等、特徴的な建物の場合は特に注意が必要です。

 

 

硬い(剛性)と強い(強度)の違い

 「剛性」や「強度」はあまり日常生活で使わないでしょうが、「硬い」と「強い」であればよく使うと思います。

 

しかし、よく使うはずの言葉であっても、混同されてしまっている方が見受けられます。

 

硬さ:ある量を変形させるために必要な力、ある力を加えた時の変形のしにくさ

強さ:ある物体が壊れるまでに耐えられる力

 

確かに硬いものほど強い傾向がありますが、硬くても弱いもの、柔らかくても強いものもあります。

 

「硬くて弱い」材料の代表としてはダイヤモンドが挙げられます。

 

ダイヤモンドを鉄のハンマーで思い切り叩くとどうなるでしょうか。

 

おそらくダイヤモンドは砕け散りますが、ハンマーが砕けるようなことはないでしょう。表面に少し傷が付く程度だと思います。

 

これはダイヤモンドの方が鉄よりも「硬いが弱かった」ということです。

 

身近なところでは、ガラスも硬くて弱い材料です。「硬い」だけでは急に崩れてしまうような脆い建物になる危険性があります。

 

「柔らかくて強い」材料としてはメガネのフレーム等に使われている形状記憶合金が挙げられます。

 

グイッと指で簡単に曲げられるほど柔らかいですが、手を離せば元に戻る強さ、しなやかさを持ち合わせています。

  

「硬い建物」と「柔らかい建物」の地震時の揺れ方

 戸建住宅と超高層ビルを比べた場合、戸建住宅はガタガタッと揺れる「硬い建物」超高層ビルはグ~ラグ~ラと揺れる「柔らかい建物」ということができます。

 

そして「硬い建物」である戸建住宅の中にも「硬い」と「柔らかい」の差があります。構造に十分配慮された最新の家は相対的に「硬く」、重い瓦屋根の古民家は「柔らかい」と言えます。

 

こでは「硬い建物」の中での「硬い」と「柔らかい」の差について説明します。

 

硬い建物における地震時の揺れの強さは

地面の揺れ ≒ 1階床 < 2階床 < 屋根

というような関係になります。

 

上階へ行くほど地面の揺れが増幅されていくわけです。この時、建物が硬ければ硬いほど揺れの増幅の程度が小さくなります。

 

建物が十分に硬い場合では屋根の揺れは地面の1.5倍程度、柔らかい場合には2~3倍程度となります。

 

いくら強い建物であっても、硬さが十分でなければ居住者の安全・安心は確保されません。建物の倒壊は免れても、揺れが増幅することで家具の転倒や壁紙の破れ等を誘発します。

 

また、地震を受けることにより柱や壁に損傷(ずれ、歪み、緩み、割れ等)が生じると、建物はどんどん柔らかくなっていきます。

 

小さい地震を数回経験することで目に見えない損傷が蓄積し、次の大地震では大きく揺れてしまうということもあります。

 

硬さ(剛性)と強さ(強度)のバランスが大事

戸建て住宅なら壁を増やす

木造住宅では地震の力に抵抗するのは壁です。

 

鉄筋コンクリート造や鉄骨造でも、戸建住宅の場合は「ラーメン構造」(柱と梁で地震の力に抵抗する構造)を採用することは少ないため、壁またはブレースが主役となります。

ラーメン構造がよくわかる:基本概念から耐震性まで

 

壁の強さと硬さは相関があるため、戸建住宅では「硬くて弱い」建物や「柔らかくて強い」建物となる可能性は低く、建築基準法を満足することで適切な硬さと強さを有する建物になります。

 

さらに安全性を高めるには、壁の量を増やしていけばよいです。ただ、単純に増やせば増やすほどよいという意味ではありません。

 

悪い壁の増やし方

建築基準法に則って適切に設計された建物に対し、まだ不安があるので補強するとしましょう。

 

「1階はリビングがあり壁を新たに設置できるところは少ないので元の3割増し、2階はまだまだ壁を設置できるところが残っていたので元の2倍にしてください。」は意味があるでしょうか。

 

ほとんどの木造住宅で行われている簡易な検証法である「壁量計算」(壁の量で判断)では約3割安全性が向上します。

壁量計算がよくわかる:4分割法の意味と構造計算との違い

 

小規模なビルで行われている「許容応力度計算」(各部に生じる力の大きさで判断)でも約3割安全性が向上します。

構造計算とは?真面目に計算した建物ほど弱くなる不思議

 

これは2階の壁の割り増しを2倍でなく3割にしても同じです。結局、建物の1階と2階の弱い方で決定されるためです。

 

2階にだけ(あるいは1階にだけ)多く壁を設置しても効果はありません

 

「規定上や計算上ではそうかもしれないが、実際には硬い建物ほど揺れの増幅が小さくなるという話しだった。そうであれば、2階に3割よりも壁を多く設置して硬くすることに意味はあるのではないか。」

 

と反論できるかもしれません。しかし、実際にはそうではありません。

 

適切な設計がなされていれば、建物全体で地震に抵抗します。1階と2階が共に変形することで地震の揺れをやり過ごすわけです。

 

2階を極端に硬くすると、建物全体としては揺れが小さくなるかもしれません。

 

しかし、ほとんど1階だけで地震の揺れをやり過ごさなければならなくなり、1階に過大な変形が生じることになります。

 

結局のところ3割安全性が向上するどころか、場合によってはマイナスの作用をすることさえあります。

 

バランスが崩れやすい建物

壁が非常に重要な要素ですので、壁をバランスよく配置できないプランは設計が難しくなります。

 

南側が窓だらけの家や、 インナーガレージ(ビルトインガレージ)があるとバランスが崩れやすいと言えます。

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もちろん、どんなプランであれ構造設計者の工夫により安全性を高めることは可能です。ただ、建物ごとに対応を変える必要があり、「こうすれば大丈夫」といったお決まりの解決方法があるわけではありません

 

やはり知識を持った建築士、できれば構造を専門とする建築士の関与が非常に大切です。

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