バッコ博士の構造塾

建物の安全性について本当のプロが綴る構造に特化したブログ

震度とは何か?よくわかる計測震度の算出方法と震度階級

大きな地震が発生すると地震速報が流れ、震源地や「震度」の分布状況がすぐにわかります。地震の大きさを表す指標はいろいろありますが、「震度」が最もわかりやすい指標だと考えられているようです。

 

震度5強くらいだと「けが人が出ただろう」、震度6弱だと「死者が出たかも」、震度6強なら「多数の死者が出たかも」と想像できます。震度7だと「えらいことが起こった」と感じるでしょう。

 

しかし、震度とは一体何なのでしょうか。観測された地震の大きさ、強さをどうやって一つの数値に置き換えるのでしょうか。

 

気象庁のホームページを参照すれば、震度に関する詳細な記載があります。ただ、一般の方にはなかなか難解な内容です。

 

そこで、構造設計一級建築士がわかりやすく解説していきます。

 

 

震度階級の始まりと変遷

地震の大きさを知るには、その地震を記録する必要があります。

 

「昨夜の地震は結構大きかったですね。」、「え、寝ていたので気づきませんでした。」、これでは震度を決めようがありませんね。

 

地震の揺れを記録するには「地震計」が必要です。日本では1872年から地震計による地震観測が始まりました。

 

そして、その8年後の1880年から「微震」「弱震」「強震」「烈震」という4段階での評価がなされ始めました。

 

その後、1898年には微震の前、微震と弱震の間、弱震と強震の間に新たな階級が追加されました。小さい方から0から6の数字が割り振られ、7段階となります。

 

細かい変更はありますが、しばらくこの7段階評価が続きます。しかし、1948年に福井地震が起こります。

 

福井地震では死者数3,769、全壊建物は36,000棟を超えました。家屋の100%が倒壊する集落もあり、震度6では被害状況を適切に表現できないことから新たな震度階が設けられることになります。

 

福井地震の翌年の1949年、震度7が設けられ、震度階は8段階になりました。それぞれ「無感」「微震」「軽震」「弱震」「中震」「強震」「烈震」「激震」という名称が与えられます。

 

そして、1995年の兵庫県南部地震において、はじめて震度7が適用されます。

 

翌年の1996年から震度5が震度5弱と震度5強に、震度6が震度6弱と震度6強に分けられ、現在の10段階になりました。

 

体感震度

今でこそ地震の直後に震度がわかるようになりましたが、平成初期には10分以上時間がかかっていました。それは、震度の判定を観測員が行っていたからです。

 

「観測員の体感」や「建物の被害の状況」を指針に当てはめることで震度を決定していました。そのため判定に時間がかかってしまいますし、観測員の主観が入ってしまうことにもなります。

 

地面の揺れと建物内の揺れは大きく異なります。また、建物が地震に強いかどうかで被害状況は大きく異なります。

 

あまり信頼性のある判定方法とは言えない状況でした。

 

計測震度の算出方法

1996年度の震度階級の改定に伴い、観測員の体感による判定から観測記録を用いた計測による震度判定に移行しました。計測記録を用いることで10段階という細かい判定ができるようになったとも言えます。

 

では、観測された地震記録からどのようにして震度を算出しているのでしょうか。わかりやすく説明していきます。

 

地震を記録する

まず、どんな地震が起こったか記録しなければ何もできません。地震計を用いて、「加速度」の記録を取ります。

 

地震時には地面は複雑な揺れ方をします。横揺れと縦揺れがありますが、横揺れには東西と南北の2方向があるため、縦揺れと合わせて3方向の揺れを記録する必要があります。

 

大抵は横軸に時間、縦軸に加速度を取ったグラフで表現されます。

 

記録を補正する

地震による被害の大きさは加速度が大きい、小さいだけでは測れません。建物に被害を出しやすい揺れ方というのがあります。

 

観測された地震がどんな揺れ方をしているかを知るために、「フーリエ変換」という処理を行います。これにより「ガタガタと速く揺れる成分」、「グラグラとゆっくり揺れる成分」、これらがどの程度含まれているかわかります。

 

極端に速く揺れたり、極端にゆっくり揺れたりしても建物には被害が出ません。そのため、そうした成分には小さい係数を乗じて影響があまり出ないようにします。

 

逆に、1秒から2秒くらいで一往復するような揺れは建物に被害を与えやすい揺れです。そのため、これらの成分には大きい係数を乗じて影響が出やすくします。

 

こうして揺れ方による影響の度合いを調整した後、「逆フーリエ変換」という処理を行います。これにより、元々記録されていたような時間と加速度のデータに戻すことができます。

 

記録を合成する

地震記録は3方向分取れていますので、補正された加速度のデータも3方向分あります。

 

縦揺れと横揺れでは建物に及ぼす影響は違います。また、同じ横揺れでも東西の揺れと南北の揺れとでは建物に及ぼす影響は違います。

 

しかし、その地震の強さを表すには各方向成分を単独で考えるよりも、合わせて考えた方が理に適っています。そこで、この3方向の揺れを合成します。

 

合成した記録から値を抜き出す

次に、合成した記録から震度を算出するための値aを抜き出します。ここが少しわかりにくいところです。

 

先ほど合成した加速度のデータには、加速度が大きい時間帯もあれば加速度が小さい時間帯もあります。

 

もし地震の継続時間が60秒だとしたら、加速度が10gal(=10cm/s2)を超えるのは10秒間だけかもしれません。50galなら2秒だけかもしれません。

 

そして、この時間が0.3秒ピッタリになる加速度が抜き出す値aです。

 

一瞬だけ大きな加速度が生じても建物に与える影響は大きくなく、建物を揺らすにはある程度の継続時間が必要だからです。当然地震が大きければ大きいほど、この抜き出す値も大きくなります。

 

計測震度への変換

さきほど抜き出した値aを計測震度の換算式に代入します。

 

計測震度:I=2log a + 0.94

 

この式により計算されたIの小数第3位を四捨五入し、小数第2位を切り捨てたものを計測震度とします。なお、この値が6.5を超える場合は全て震度7となります。

 

「log」とは対数と呼ばれるもので、代入する値が10倍になると値が1増えます。

 

つまりこの式から言えるのは、地震の継続時間や加速度が3.16倍になると震度が1増え、10倍になると震度が2増えるということです。算出方法が複雑なため、実際には違う値になりますが、概ね間違ってはいないでしょう。

 

震度7の地震

1948年の福井地震以前には震度7という階級が存在しなかったため、それ以前には震度7の地震はありません。

 

ただし、あくまでも階級が存在しなかっただけで、大きな地震が無かったわけではありません。現在の階級に当てはめれば震度7に相当する地震は発生しています。

 

以下、震度7を記録した地震です。

 

1995年 兵庫県南部地震

2004年 新潟県中越地震

2011年 東北地方太平洋沖地震

2016年 熊本地震(×2回)

2018年 北海道胆振東部地震

 

何れも計測震度は7以下となっており、最大でも6.7です。計算上はこの値が8でも9でもあり得ますが、その場合でも震度は7ということになります。

 

もしそのような地震が本当に発生すれば、大変な被害になるでしょう。