バッコ博士の構造塾

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蟻害と耐震性の関係は:シロアリを見つけたらご用心

鉄骨造や鉄筋コンクリート造で自宅を建てた理由として「木造は耐久性が低いから」ということを挙げる方がいます。確かに、鉄やコンクリートと比べ、自然材料の木は周囲の温度や湿度の影響を受けやすいと言えます。

 

神社やお寺など、何百年と歴史のある木造建築が多数残っていますが、古い家を解体すると中からボロボロになった柱や梁が出てくるのも事実です。設計、施工、使い方やメンテナンスによって大きく差が出てしまいます。

 

ここでは木造建物の代表的な劣化要因である「蟻害(ぎがい)」、つまりシロアリに食われることにより建物の性能がどの程度低下するかを見てみましょう。

 

 

シロアリはどこを食べる?

木造建物は多数の部材でできており、それぞれが違う役割を担っています。そのため、シロアリがどの部材を食べるかは重要な問題です。

 

シロアリは外部から、そして下からやってきます。そのため、外側かつ下側の部材から先に食べられることになります。

 

耐震性に関係のある部材で一番下にあるのは「土台」です。コンクリートの基礎の上に載せる材で、建物と基礎とをつなぐ重要な役割があります。

 

この土台の上に1階の柱が載ります。柱は建物の重量を支えるとともに地震の力を基礎に伝える最も重要な部材です。

 

シロアリは、この土台と柱を食べるのです。

 

もちろん床束や大引きといったその他の部材も食べますが、耐震性に関係があるのはこの2つです。梁も重要な部材ですが、土台や柱より高い位置にあるので食べられる可能性は下がります。

 

とはいえ、地面から2mくらいの高さまで食べられることも多く、3mを超える場合もあるようです。シロアリを見つけたら上まで食い散らかされる前に早めに対処しましょう。

 

シロアリが食べるとどうなる?

シロアリに食べられた材の性能が低下するのは誰でもわかりますが、それがどのように耐震性に影響するのでしょうか。

土台

土台の最も大切な役割は、その上にある柱に生じた力を基礎まで伝えることです。柱と基礎に挟まれてつぶされるような力に耐えなくてはなりません。

 

しかし、もともとは隙間なくぎっしりと詰まった断面であったものが、シロアリに食べられるとスカスカになります。スカスカであれば容易につぶれるようになります。

 

もし土台がつぶれると、柱の足元がフラフラすることになります。そうなるともう柱は踏ん張りが効きません。

 

また、土台には「耐力壁」が取り付く場合があります。耐力壁とは地震の力を負担する壁で、合板を土台の側面に釘で打ち付けたものが多いです。

耐力壁を理解する

 

耐力壁が地震の力を負担するには、釘によって合板と土台がズレないようにしなくてはなりません。このとき、土台は釘がズレないよう、しっかりと支える必要があります。

 

しかし、この場合も土台がスカスカになっていれば釘がすぐに抜けてしまい、耐力壁がズルっと滑って力を負担できなくなってしまいます。

 

柱は建物の重さを支えていますので、常に大きな力がかかっています。そして地震の際にはさらに押したり引いたりと力がかかります。

 

そのため、最悪の場合はぐしゃっとつぶれたり、ボキっと折れたりする可能性があります。土台が壊れるよりも悪い事態になります。

 

また、柱にも耐力壁がつく場合があります。他にも、柱にはいろいろな金物がついています。

 

耐力壁、金物、どちらも釘で取り付けられているため、土台同様、シロアリによって柱がスカスカになっていれば釘がすぐに抜けてしまいます。

 

蟻害による性能劣化に関する研究

蟻害についていくつか研究が行われていますが、それほど数は多くないようです。蟻害にあった材自体がどれくらい弱くなるのか、あるいはどれくらい釘が抜けやすくなるのか、といった内容が中心です。

 

では、シロアリに食べられることで耐震性にどの程度の影響があるか、具体的に数字で表すことができるのでしょうか。

 

残念ながら、弱くなるのは確かだが、どれくらい弱くなるかは壊してみないとわからない、という感じのようです。

 

同じ蟻害を受けた材といっても、食べられ具合は様々です。スカスカのものほど性能の低下度合いは大きいものの、非常にばらつきが大きいです。

 

劣化診断の結果が同じでも実際の強さには数倍の差があるものもあります。こうなると構造計算に取り入れるのは難しいでしょう。

 

今のところ、数字で蟻害の影響を精度よく示すことはできなさそうです。平凡な結論ながら、シロアリに食べられないようにする、食べられたら補修する、これしかありません。

 

 

参考文献

川田、中島:解体調査による木造住宅の蟻害・腐朽発生状況の検証、日本建築学会大会学術講演梗概集(東海)、2012.9 など