バッコ博士の構造塾

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ミサワホームの木質パネル接着工法の耐震性について構造設計者が考察

大手ハウスメーカーであれば耐震性が高いことは最早あたりまえとなっています。実大建物を用いた振動実験により、震度7の揺れに複数回耐えられることが確認されています。

 

一般的な建売住宅の性能をはるかに超える耐震性を有しており、どこのメーカーで建てても十分安心できるのではないかと思います。しかし、どれだけ強くしても「絶対」はありません。

 

そのため、大手ハウスメーカーの中でも特に耐震性が高いところで家を建てたいという方も多いです。ただ、実際に比較するとなると高度な専門知識が必要となります。

 

ここではミサワホームの「木質パネル接着工法」について見てみましょう。

 

 

ミサワホームの「木質パネル接着工法」とは

工法

柱や梁で建物を構成する「軸組工法」ではなく、壁で構成する「枠組壁工法」です。いわゆる2×4工法と同じような造りとなっています。

 

枠組壁工法は耐力壁の量を確保しやすいため地震に強い工法と言われています。しかし、2×4工法と同じということからもわかるように、特に珍しい工法というわけではありません。地元の工務店でも取り扱っているところは多くあります。

 

木質パネル接着工法の特徴は壁の作り方にあります。工法そのものではなく、壁の特性によって差別化していると言えます。

 

接着

その名の通り、木質パネル接着工法の一番の特徴は壁を「接着」により製造しているところにあります。

 

地震の力を負担する壁のことを「耐力壁」といいますが、通常の耐力壁は合板の四周を木枠に釘で打ち付けることにより製造します。この釘を介して木枠と合板とが力を伝達します。

耐力壁

 

しかし、ミサワホームの耐力壁は釘ではなく接着剤を使用します。釘の場合は「点」による力の伝達になりますが、接着であれば「面」による力の伝達になります。

 

木材は「強い」材料ではありますが、「硬い」材料ではありません。面による力の伝達をすることで部分的な変形を防ぎ、合板の性能を最大限発揮させることができます。

「強さ」と「硬さ」の違い

 

2面張り

通常の耐力壁は木枠の片面にのみ合板を取り付けますが、ミサワホームでは両面から木枠を挟み込むように合板を取り付けています。

 

接着剤を使用しているので、釘打ちのように表面の釘と裏面の釘の干渉を気にする必要もありません。現場ではなく工場で断熱材も含めて製造してしまうからできることでしょう。

 

当然、合板1枚よりも2枚のほうが強い壁になります。壁一ヵ所あたりの性能が高くなれば壁の数を減らしても耐震性能を確保することができます。

 

木質接着パネルの性能

木質パネル接着工法の肝である木質接着パネルについて、ミサワホームのウェブサイトの情報を基に考察してみましょう。

耐力

その壁がどれくらいの大きさの力に耐えられるかを表す数値が「耐力」です。木質接着パネルは筋かいや合板を使用した普通の耐力壁の4~5倍の耐力を有しているようです。

 

壁が強ければそれでいいのかと言われるとそうではありませんが、やはり弱いよりはいいに決まっています。普通よりも強い壁を使用できるというのは大きな利点です。

 

壁の強さに応じて接合部や基礎も強くしてやれば否が応でも耐震性の高い建物になります。

 

剛性

いくら建物が強くて倒壊を免れたとしても、壁紙はビリビリになり窓ガラスが割れてしまうようでは安心して暮らすことはできません。

 

それを防ぐには建物の変形を減らす必要があります。変形を減らすには建物を硬くすればいいのですが、この硬さのことを「剛性」と言います。

 

そしてこの木質接着パネル、かなり硬いです。普通の壁よりも強いので硬さもあるのは当然言えば当然なのですが、とりわけ硬さのキープ力がすごいです。

 

壁は合板と木枠という複数の部材でできているので、力がかかるとその部分がズレようとします。釘で留めていると、どうしても釘が周囲の木材にめり込んでしまい余分に変形してしまいます。加える力が大きくなると釘の曲がりや抜け出しも相まって、どんどん最初よりも壁は柔らかくなっていきます。

 

実際に実験の結果を見てみると、筋かいや合板では10mmも変形するとすでに初期の硬さを保っていません。変形が大きくなっても力の大きさの上昇は微々たるものです。

 

その点、木質接着パネルは20mm程度の変形までは力と変形の関係がほぼ直線です。これは硬さが低下していないということです。釘ではなく接着剤を使用している利点と言えます。

 

木造の建物では複数回の地震を受けると少しずつ建物が柔らかくなっていきますが、ミサワホームの木質パネル接着工法であれば新築時とほぼ変わらない硬さを維持できるでしょう。

 

靭性

壁が強くて硬いという話をしてきました。しかし、耐震性を考える場合には「靭性(じんせい)」という指標も重要です。

 

靭性とはなにか、一言でいえば「たくさん変形できる能力」といったところでしょうか。限界を超えたときに急にバキッと壊れるか、グニーっと変形してから壊れるかの違いです。

靭性とは

 

もちろん耐震性が高いのは靭性がある、つまりたくさん変形できる方です。そして剛性(硬さ)が大きいものは靭性が低くなる傾向にあります。

 

筋かいや合板の壁が最も力を発揮するのは40mm以上変形した時なのに対し、木質接着パネルでは変形が30mmを少し超えたところです。硬い分だけ最大値に達するまでの変形が小さくなっています。

 

「柔らかくなり始めるときの変形量」と「最も力を発揮するときの変形量」を比べることで、その部材の靭性がわかります。筋かいや合板の壁は40mm/10mm=4.0なのに対し、木質接着パネルは30mm/20mm=1.5しかありません。

 

つまり、強くて硬いけれど、限界に達した後の粘り強さとしてはやや劣る壁であると言えます。

 

もちろん靭性が多少小さいからと言って特に問題はありません。靭性が小さめであるということを認識して設計すればいいだけです。

 

例えば、耐震性の高い建物としてよく挙げられる「壁式の鉄筋コンクリート造建物」に靭性はありません。その代わり、耐力と剛性が他の建物よりも非常に大きくなっています。

 

ミサワホームの木質パネル接着工法で家を建てる場合も耐力と剛性を高めに設定すればいいだけです。耐力と剛性の大きい木質接着パネルを使用するので簡単に実現できるでしょう。

 

床の構造

建物の強さは全体のバランスで決まります。強い壁を採用するのであれば、その壁につながる床や基礎も強くなくてはなりません。

剛床とは

 

壁のことばかり気にして床の強さが不十分な設計も見られます。耐震等級を取得する際は床の検証も行いますが、どんな形状の建物でも網羅できているというわけではありません。

耐震等級とは

 

特に従来よりも大幅に壁の性能を高めている木質パネル接着工法では、床の設計の重要性は相対的に高いと言えます。

 

しかし、ウェブサイトを見る限り問題はなさそうです。一般的な床とは比べものにならないほど強くて硬いものを使用しているようです。壁と違って床には靭性は必要ありません。

 

制震ダンパー:MGEO(エムジオ)

ミサワホームも他の多くの大手ハウスメーカー同様、独自の制振装置を有しています。「MGEO」というエネルギー吸収性能を高めたゴムを使用した装置で、「粘弾性ダンパー」に分類されます。

粘弾性ダンパーとは

変位増幅

建物が非常に硬い場合、地震時の変形は小さくなります。必然的に制振装置に生じる変形も小さくなるので、エネルギー吸収の効率が悪くなります。

 

そこでミサワホームではテコの原理を利用して、建物に生じる変形よりも大きな変形が制振装置に生じるようにしています。大手ゼネコンでも「制振装置に大きな変形をしょうじさせる」という工夫を行っており、制振の効率を高めるための基本です。

大成建設:TASS Flex-FRAME

飛島建設:トグル制震

 

それにより木質パネル接着工法という硬い建物であっても制振効果を発揮することができます。

 

ただ、MGEOにより耐震性能を高められるのは確かだと思いますが、個人的には「粘弾性ダンパー」と「テコ」の組み合わせはあまり理にかなっているとは思いません。機会があれば記事にしたいと思います。

 

住友ゴム工業

MGEOは住友ゴム工業との共同開発です。

 

住友ゴム工業のゴムの特徴はいくつかありますが、「非常に硬い」ことと「温度変化の影響を受けにくい」ことの2点がここでは重要です。

 

まず、建物自体が硬いので、ゴムも硬くないとあまり効果が出ません。硬いゴムを使用することで適正なサイズの装置とすることができます。

 

また、一般的にゴムは温度の影響によりエネルギー吸収性能が大きく変化します。住宅内部とはいえ、夏と冬とで効き具合が変わってしまうことになります。その点、住友ゴム工業のゴムは温度による性能の変化が相対的に小さく、安定した効果を発揮することができます。

 

住友ゴム工業は木造建物用の制振装置「ミライエ」を製造しています。住友ゴム工業のゴムについては興味がある方は以下の記事をご覧ください。

「ミライエ」をお薦めする4つの理由