バッコ博士の構造塾

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ブレース構造がわかる:大切なのは角度と座屈と接合部

建物を構成する骨組のうち、地面と垂直な部材が「柱」、水平な部材が「梁」です。そして、垂直でも水平でもなく、斜めになっているのが「ブレース」です。

 

ブレースにより地震や風の力に抵抗する構造形式を「ブレース構造」と言います。工場や商業施設をはじめ、多くの建物に採用されています。

 

ブレースは下の階と上の階を斜めに横断するので、動線を遮ったり開口を塞いだりして建築計画に影響が出ます。それでも多くの建物に採用されているのはなぜでしょうか。

 

ここではブレース構造の力学的な特性と、メリット・デメリットについて説明します。

 

 

ブレースの力学

四角と三角

大半の建物は、柱と梁で構成された四角いフレームが積み上がって出来ています。この四角いフレームを、対角線上に分断する斜めの部材が「ブレース」です。

 

「四角」を斜めに分断することで「三角」が2つになりますが、これが非常に重要です。三角形は四角形に比べて安定した形状なのです。

 

三角形は3辺の長さを指定すると形状が決まります。そのため、形状を変えるには辺の長さを変える必要があります。

 

四角形は4辺の長さを指定しても形状が決まりません。辺の長さを変えずに長方形から平行四辺形に変形できます。

 

柱と梁でできた四角いフレームでは「伸び縮み」により変形を抑えることができないので、「曲がる」ことで抵抗します。ブレースにより三角になると、「伸び縮み」により力に抵抗できるようになります。

 

部材を曲げることは簡単ですが、伸ばすにはものすごい力が必要です。プラスチックの定規を曲げて折ることはできても、引っ張って千切ることは無理でしょう。

 

伸び縮みにより力に抵抗できるブレース構造は合理的な構造であると言えます。そのため、建築計画に影響を与えるというデメリットがあっても採用されるのです。

 

最適な角度

ブレースはその角度によって効き具合が変化します。ブレースと水平面との成す角度が極端に小さくなったり大きくなったりしないよう、配置を考える必要があります。

 

では、どのくらいの角度であれば一番効きがいいのでしょうか。

 

まず、建物が水平方向(横方向)に変形したときに、ブレースに生じる変形を考えてみます。

 

実は、建物の変形量ほどブレースには変形が生じません。建物の変形量に「ブレースと水平面が成す角度のcos成分」を乗じた変形が生じます。

 

そしてブレースには変形量に応じた力が生じます。しかしこの力はブレースの材軸方向、つまり斜め方向の力です。

 

建物を水平方向に変形させた力に抵抗するのは、ブレースに生じた力のうちの水平方向の分力であるcos成分だけです。全ての力が有効に作用しているわけではありません。

 

変形する量はcos成分、そして有効な力もcos成分ということで、ブレースの効きはcosの二乗に比例することになります。

 

ブレースと水平面が成す角度が60度なら1/4、45度なら1/2、30度なら3/4しか有効に作用しないことになります。

 

「じゃあ、できるだけ角度を小さくして水平に近づければいいのか」と言えば、そうではありません。角度を小さくすると生じる弊害があります。

 

角度が小さくなればなるほど、下の階と上の階を繋ぐためには長い部材が必要になります。長い部材ほど伸び縮みしやすくなってしまいますし、材料もたくさん必要になります。

 

結局のところ、45が最も使用する材料の体積を小さくすることができます。そのため、大半のブレースは45度に近い角度になっています。

 

なお、部材の断面積を一定とした場合に最も効率がいいのは約35度です。体積当たりの効率はやや45度に劣りますが、部材一本当たりの効率としては最高になります。

 

引張ブレースと圧縮ブレース

建物が右か左、どちらに変形するかでブレースに生じる力は変化します。ブレースが右上がりの「/」という方向についていれば、建物が右に変形すると引っ張られ、左に変形すると圧縮されることになります。

 

細長い部材を圧縮すると、「座屈」という現象が生じます。部材を引っ張った際に耐えられる力よりも大幅に小さい力で、部材が横にはらみ出して力に耐えられなくなってしまう現象です。

座屈がわかる:座屈の種類と座屈荷重・座屈長さの基本を押さえる

 

そのため、細長い材で引張力だけしか負担しないものを「引張ブレース」、太い材で圧縮力も負担できるものを「圧縮ブレース」と呼びます。

 

座屈に対する安全性を考慮して圧縮の耐力を低減するため、引張力と同じだけの圧縮力を負担できるブレースとすることはなかなか大変です。座屈を拘束するような材を設けることもありますし、座屈が生じないよう工夫が施された既製品のブレースもあります。

 

引張ブレースだろうが圧縮ブレースだろうが、全てのブレースは大小の差はあっても実際には圧縮力を負担します。座屈が絡んでくることで、柱や梁のようにわかりやすい挙動を示さない場合もあります。

 

ブレース構造では地震の力の大部分をブレースが負担していることも多いです。「よくわからない挙動をするかもしれない材」に依存した構造であることを忘れずに設計しなくてはなりません。

 

使用材料によるブレース構造の違い

木造

世の中にあるブレース構造の中で最も多いのは木造かもしれません。

 

木造で用いられる斜めの部材である「筋違い」も、立派なブレースです。最近では構造用合板を用いた「耐力壁」が多くなってきましたが、筋違いを用いたものもまだまだあります。

 

木材同士を繋ぐのは意外に難しく、筋違いが性能を発揮する前に接合部が壊れてしまうことがあります。筋違いから伝わる力に耐えきれず、柱が土台から抜けてしまい倒壊した事例もあります。

 

筋違い自身も重要ではありますが、それ以上に接合部が重要になります。

 

鉄筋コンクリート造(RC造)

コンクリートでは柱や梁のような「線」だけでなく、壁のような「面」を構築することができます。

 

「線」でできたブレースよりも、「面」でできた壁の方が強い部材になります。そのため、わざわざ壁の代わりにブレースを使用する意味がありません。

 

ただ、ブレースであればそれなりに光や風も通りますし、部分的に人が通ることも可能です。RC造においては、構造的な要求ではなくデザイン的な要求によりブレースが使用されます。

 

鉄骨造

鉄は非常に強度が大きい材料ですので、他の構造に比べて部材を細くすることができます。しかし、部材を細くすると今度は建物の剛性(硬さ)が不足することが多くなります。

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そこで建物の剛性を補うためにブレースを使用します。前述のように「伸び縮み」で力に抵抗できるブレースは、細い部材であっても大幅に建物を硬くすることができます。

 

また、ブレース構造では「曲げ」により力に抵抗する必要がないので、柱と梁の接合を簡易なものにすることができます。溶接を行う必要が無く、ボルトを締めるだけで接合できます。

実建物におけるピン接合と剛接合:構造設計における本音と建て前

 

薄い部材のみを使用した「軽量鉄骨構造」では溶接が難しいため、ブレース構造を採用することになります。

 

接合部の重要性

ブレースは柱や梁に比べて非常に硬いため、地震時には大きな力が生じます。ブレースに生じた力は接合部を介して柱や梁、そして下の階のブレースを伝って最終的に地面まで伝達されていきます。

建物の力の流れを把握する:せん断・軸・曲げによる応力の伝達

 

力が他の部材までスムーズに伝達されるには、柱や梁の中心線とブレースの中心線が一致している必要があります。もしズレがある場合、ズレた距離に応じて部材を曲げようとする力が働いてしまいます。

 

基本的には中心線を合わせますが、どうしても合わせることができない場合は補強を施すことになります。力の伝達を考慮した補強とする必要があります。

 

接合部はブレースに生じた力の通り道になるので、当然ブレースより強くなくてはなりません。ブレースが性能を発揮しきる前に接合部が壊れないよう、十分余裕を持った設計にします。

 

ブレース構造とトラス構造の違い

ここまで読まれた方の中には「ブレース構造とトラス構造は何が違うんだ」と疑問に思われた方がいるかもしれません。

 

「トラス構造」とはブレース構造同様、三角形で構成された骨組を有する構造です。「伸び縮み」により力に抵抗できて合理的なので、橋やドームなどの大スパンを構成するのに多く使用されます。

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両構造はお互いに非常に似ており、基本的な考え方は全く同じです。ただ、一点だけ異なる部分があります。

 

それは「重力」に抵抗するか、「地震力」に抵抗するか、ということです。

 

トラス構造は重力に抵抗するので、トラスが損傷すると構造物全体が崩壊する可能性があります。そのため、火災時にも性能を保持できるよう「耐火被覆」がなされています。

 

ブレース構造は地震力に抵抗するので、地震時以外にブレースは力を負担していません。ブレースを取り除いても建物は重力に抵抗して建っていることができるので、「耐火被覆」がなされておらず、鋼材がむき出しになっていることも多いです。