バッコ博士の構造塾

建物の安全性について本当のプロが綴る構造に特化したブログ

木造住宅購入前に知っておきたい耐震性に関する3つの基本

どうせ家を買うなら地震に強い家がいい、そう考える人も多いです。

 

ただ、建物を外から眺めていても耐震性が高いかどうかはわかりません。営業担当者に聞いたところで物件のよい点しか言いませんし、本質を理解しているわけでもありません。

 

では、どうすれば地震に強いかどうかの判断を下すことができるでしょうか。

 

一番簡単なのは専門家を雇うことです。専門家であれば図面1つからでもかなりの情報を読み取ることができます。

 

専門家に頼らず自分でチェックしようと思うと、学ぶべきことが多過ぎて大変です。また、仮に全てをチェックできたとしても、完璧な物件が無いことに気が付くだけでしょう。

 

やはり大局的な判断は専門家しかできません。ただ専門家を雇うとなると、当然費用が発生します。(バッコに聞く分には無料ですが)

構造に関する相談窓口:構造設計一級建築士に相談してみませんか

 

費用を掛けずに自分で判断したいのであれば、小手先のテクニックよりももっと知るべきことがあります。

 

ここでは建物をチェックするための直接的なテクニックではなく、木造住宅の建設・設計の現状や前提となる部分をお伝えします。

 

 

建築士は構造の専門家ではない

建築士資格にはいくつか種類があります。2008年以前は「木造」「二級」「一級」の3種類でしたが、今ではその上位資格である「構造設計一級」「設備設計一級」「管理」があります。

木造・二級・一級建築士の違い:業務範囲から資格試験までを徹底比較

 

その名称からもわかるように、「構造設計一級建築士」は構造の専門家です。そして同じ建築士であっても、それ以外は構造の専門家とは呼べないでしょう。

建築士の専門分化:意匠屋さん本当に構造わかってる?

 

一般的なビルの設計においては「意匠」、「構造」、「設備」それぞれを専門とする建築士が業務を分担して設計を行います。建物の規模が大きくなると一級建築士だけでは構造設計ができず、構造設計一級建築士の関与が義務付けられています。

 

一方、木造住宅では一人の建築士が全てを設計することが多いです。構造設計一級建築士が設計に携わることは稀で、「構造が専門ではないが、木造住宅の構造なら多少わかる」というレベルの建築士が大半です。

 

もちろん構造設計一級建築士を保有していなくても、構造に対するケアが行き届いた素晴らしい設計をする建築士もいます。ただ、全員が全員そんな設計をできるわけではありません。

 

真四角な家であれば誰が設計しても大差ないでしょう。ただ、そうでないなら少し注意が必要です。

 

あなたに耐震性について説いている建築士は構造の素人かもしれない、これを頭の片隅に入れておいてください。

 

木造住宅の構造計算の精度

建物の安全性を確認するための構造計算にはいくつか種類があります。建物の規模によって適用できる計算方法は異なり、規模が大きい建物ほど詳細な計算が要求されます。

構造計算とは?真面目に計算した建物ほど弱くなる不思議

 

それぞれの計算方法は、安全性を検証するための考え方が違います。そのため、ある計算方法ではNGの結果が出たとしても、別の計算方法ではOKとなる場合もあるのです。

 

建物が地震で倒れるかどうかというのは、いくら計算したところでわかるものではありません。構造計算はあくまで建築基準法に適合しているかどうかを確認する作業に過ぎないのです。

 

その中でも、特に木造の計算精度は荒いです。

 

自然材料である木材を使っており、材料の強度自体大きくばらつきます。鉄骨やコンクリートと比べて軽いため、家具や居住者の数によって重さの変動が大きくなります。

 

「構造計算をしているから大丈夫です」というアピールは「構造計算してもわからないことがたくさんある」ということを知らない、ということかもしれません。

 

優秀な設計者ほど、よくわからないということをわかっているのです。建築士の自信満々な態度や断言には注意しましょう。

 

軟弱地盤は悪者か

土地を購入するうえで、立地以上に「軟弱地盤」かどうかを気にする人もいるかと思います。確かに、地盤の特性を気にすることは非常に重要です。

 

軟弱地盤であれば「液状化」の危険性もありますし、「地盤改良」が必要になれば建設コストも上がります。地震の揺れが増幅されやすくもあります。

軟弱地盤だと地盤改良工事が必要?切っても切れない地盤と地震の関係

 

しかし、だからと言って地盤が硬ければ硬いほどいいとは限りません。事実、熊本地震で大きな揺れが生じた益城町では「やや硬めの地盤の地域」で被害が大きかったようです。

 

建物に被害が出るかどうかは、地盤の揺れの大きさも重要ですが、それ以上に揺れの「周期」が重要になります。建物の持つ周期と地盤の周期が一致すると被害が拡大します。

共振現象の恐怖:建物と地盤の固有振動数・固有周期の関係

 

最新の基準に適合した「硬い」建物であれば、中途半端に硬質な地盤よりも、多少緩いくらいの地盤に建てた方が地震に強い家になるかもしれません。もちろん液状化や沈下対策がされている前提ではありますが。

 

地盤が硬いから大丈夫です、地盤改良がされています、杭を深くまで打ち込んでいます、営業はいろいろなことを言ってくると思います。しかしそのどれもが「だから地震に強い」とも「だから地震に弱い」とも断言できるものではありません。

 

気に入った建物なのに地盤のことがネックになって購入に踏み切れない、そんなときは「軟弱地盤はいつだって悪者なわけではない」ということを思い出してください。もちろん、注意すべきは地震時の特性だけではないことも忘れずに。