バッコ博士の構造塾

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軽量鉄骨造ブレース構造建物の耐震性:木造との比較、ハウスメーカーによる違い

家を新築したいと思ったとき、決めなくてはならないことがたくさんあります。

 

中でも「どんな構造の家にするか」というのは大きなポイントです。採用する構造によって、できること・できないことがある程度決まってしまいます。

 

まずは建物の骨組をどんな材料でつくるかから始まります。基本的には、「木・コンクリート・鉄」の中から選ぶことになります。

 

そして材料の次は構法です。例えば鉄骨造の場合、大きな部材でつくる「重量鉄骨造」とするか、小さな部材でつくる「軽量鉄骨造」とするかを選びます。

 

しかし、まだ終わりではありません。軽量鉄骨造を選んだ場合、さらに「ブレース構造」「ラーメン構造」を選ばなくてはなりません。

ブレース構造ラーメン構造

 

いくつも枝分かれがあり選ぶだけでも大変ですが、それぞれの特徴を知っておいて損はありません。ここでは軽量鉄骨造のブレース構造について見てみましょう。

 

 

軽量鉄骨造ブレース構造とは

軽量鉄骨・重量鉄骨

「軽量鉄骨」というと「普通の鉄と比べて軽量な特殊な金属」と思われる方もいますが、そういうわけではありません。

 

軽量鉄骨だろうが重量鉄骨だろうが、使用しているのは同じ材料です。体積が同じであれば軽量鉄骨も重量鉄骨も同じ重さになります。

 

では何が違うかというと、材の肉厚が違います。厚さ6mm以上のものを重量鉄骨、厚さ6mm未満のものを軽量鉄骨といいます。

 

分厚い材で柱や梁をつくれば重たく(重量)なりますし、逆に薄い材でつくれば軽く(軽量)なるというだけです。戸建て住宅のような小規模な建物では分厚くて大きな部材は不要なので、軽量鉄骨で十分な場合が多いです。

 

ブレース構造・ラーメン構造

ブレース構造とは、「/」や「×」のように斜めの材によって地震の力を負担する構造です。「/」の材を横から押すと、グッと突っ張ろうとします。これは材が伸び縮みすることで力に抵抗するということです。

ブレース構造

 

一方ラーメン構造とは、「-」や「l」のように真っすぐな材(鉛直・水平)によって地震の力を負担する構造です。「l」の材を横から押すと、グニッと曲がります。これは材が曲がることで力に抵抗するということです。

ラーメン構造

 

プラスチック製の定規は手で簡単に曲げられますが、目に見えて伸び縮みさせることはできません。伸び縮みを利用したブレース構造のほうが小さな部材でも建物を硬くすることが可能です。

軸力による伝達と曲げによる伝達の違い

 

小さくて軽い部材を使用する軽量鉄骨造はブレース構造と相性がいいと言えます。

 

複数回の地震に対する耐震性

どんな構造を採用しても地震に強い建物をつくることは可能です。しかし、複数回の揺れを考慮した場合は性能に差が出やすくなります。

中規模の地震について

近年の建物は全て震度5強程度の地震に対して構造体に損傷が出ないよう設計されています。そのため、この規模の地震が何度起こっても基本的には問題ありません。

 

ただし、耐震性がまったく低下していないかというと、そうではありません。

 

木造住宅では耐力壁や筋かいによって地震に抵抗しますが、どちらも釘によって留められています。そして繰返し力を受けると、少しずつ釘穴が広がり緩んでしまうのです。耐力壁や筋かい自体には問題がないので「損傷していない」という扱いになっています。

耐力壁を理解する

 

しかし、釘が緩んでしまうと建物は変形しやすくなります。次に大きな地震が起きたときに、新築時に想定していたよりも建物が大きく変形してしまう可能性があります。

 

鉄筋コンクリート造でも同じです。多少のひび割れなどは損傷として扱われませんが、実際には建物を変形しやすくしてしまいます。

 

その点、鉄骨にはそうした心配がなく、繰返し力を受けても耐震性は変化しません。常に力を受け続ける機械などとは違い、疲労破壊の危険性もありません。

 

「軽量鉄骨だから」だとか、「ブレース構造」だから、といったことに関係なく、鉄骨造全般に言えます。

 

大規模の地震について

では大地震に対してはどうでしょうか。

 

基本的に、一度きりであれば震度6強程度の地震に対して建物が倒壊する可能性はかなり低いです。しかし、構造体に損傷が生じてしまう可能性はあり、そうなると耐震性は低下してしまいます。

 

そして軽量鉄骨造のブレース構造は、損傷によって最も耐震性が低下しやすい構造であると言えます。

 

住宅に使用するブレースは直径が1~2cm程度の細い材です。引っ張る分にはいいですが、圧縮されると横に曲がってしまう「座屈」という現象が起こるので力を負担しません。

座屈とは

 

ブレースの損傷とは、ブレースが強く引っ張られることで元の長さよりも長くなってしまうことを言います。ブレースが長くなったということは、建物が変形していないときはブレースが少したるんでいるという状態です。

 

ブレースは引っ張らないと意味がないので、ブレースのたるみが解消されるまで建物が変形しないと力を発揮できなくなったということです。当然建物は変形しやすくなります。

 

木造や鉄筋コンクリート造でも釘のゆるみやひび割れの影響で似たような現象は起こりますが、ブレースほど顕著ではありません。

 

大手ハウスメーカーの場合

大手ハウスメーカーでも軽量鉄骨造のブレース構造を採用しているところはあります。特に有名なところでは、積水ハウスやヘーベルハウス、パナソニックホームズなどがあります。

ヘーベルハウスの耐震性

 

こうしたメーカーではブレースの代わりに、あるいはブレースに加えて「制振ダンパー」を設置しています。制振ダンパーはブレースと違い、地震後も性能が低下しません。

制振ダンパーの種類と特徴

 

制振ダンパーのみ

へーベルハウスやパナソニックホームズでは鋼製の制振ダンパー(鋼材ダンパー)を使用しています。普通のブレースは一切なく、すべてが制振ダンパーに置き換わっています。

鋼材ダンパー

 

ブレースがないので、地震後も耐震性は低下しません。ただ、制振ダンパーに生じた変形が地震後も元に戻り切らず、わずかに建物が傾いた状態になる可能性があります。

残留変位とは

 

とはいえ、実際に使用上の支障があるような変形が残る可能性は低いです。また、多少変形が残っていたとしても耐震性に影響はありません。

 

制振ダンパー+ブレース

積水ハウスではゴム製の制振ダンパー(粘弾性ダンパー)を使用しています。また、普通のブレースもあり、制振ダンパーとの併用になっています。

粘弾性ダンパー

 

ブレースを全てなくしてしまうと、ゴムだけで地震に耐えることになります。実際にはそれでも耐震性は確保できるのでしょうが、建築基準法上の問題があるためブレースも設置されているものと思われます。

 

粘弾性ダンパーは大きく変形しても最終的には元の長さに戻るので、制振ダンパーのせいで建物に変形が残ってしまうということはありません。また、小さな揺れからエネルギーを吸収するという効果もあります。

 

その代わり、併用しているブレースが損傷して多少耐震性が低下する可能性はあります。

 

どちらの耐震性が高いか

鋼材ダンパーと粘弾性ダンパー、どちらも一長一短であり、一概にどちらが強いとは言えません。しかし、ブレースのみの建物に比べれば明らかに性能は上がっています。

 

そもそも大手ハウスメーカーの建物は性能の最低ラインの設定が高いため、どちらを選んだところで十分な性能があります。完璧な建物や制振ダンパーというものはありませんが、大手ハウスメーカーの軽量鉄骨造ブレース構造であれば安心して暮らすことができるでしょう。