スーパーゼネコン各社のタワーマンション用の制振、免震システムの考察もとりあえず最終回となる5回目です。
□■□疑問■□■
竹中工務店の独自技術、THE制振ダブル心柱を採用したマンションの性能はどうでしょうか。
□■□回答■□■
非常にエネルギー吸収効率の高いシステムです。超高層マンション用の制振、免震技術としてはスーパーゼネコンの中で最後発のため、他社に性能で負けないようにと考えたのでしょう。独自色を高めるため、新しく開発したダンパーも取り込んだ提案となっています。まだ実際のプロジェクトへの適用はないようですが、南海トラフ地震で大きな揺れが予想される大阪エリアでのマンション需要を満たしてくれるかもしれません。
THE制振ダブル心柱とは
他のスーパーゼネコン4社の技術同様、超高層マンションの建物中央部の空間を利用した制振システムです。構成としては大林組、清水建設のシステムと似ており、建物中央部に設けた大きな壁と周囲の建物とをダンパーにより接続しています。
異なるのは、大林組、清水建設のシステムでは壁と建物を直接ダンパーで接続していますが、このTHE制振ダブル心柱では建物の頂部からも壁を下ろしてきて、壁と壁とをダンパーで接続しています。
こうすることで中央部の壁の高さ位置での建物の動きではなく、建物頂部での動きに応じてダンパーが作用します。言うなれば、中央部の壁を建物頂部まで延長したのと同等の効果が得られます。
ダンパーに生じる変形が大きいほどエネルギー吸収効率は高まりますが、最も変形が大きくなるのは建物頂部です。そのため、非常に高いエネルギー吸収効果を期待できます。
THE制振ダブル心柱の設計上の留意点を考察
大林組、清水建設のシステムと似た構成ですので、留意点も似ています。中央の壁の基礎をどうやって硬く造るかということと、中央の壁にひび割れが入らないようにするにはどうするかということです。詳細はそちらを見ていただくこととして、THE制振ダブル心柱特有の問題を挙げます。
建物頂部から下ろしてきた壁
中央部に設けた壁の設計は重要ですが、同様に重要なのが建物の頂部から吊るされた壁です。中央の壁は鉄筋コンクリートでできていますが、この吊るされた壁は鉄骨でできています。
中央の壁はその重量を直接基礎や地盤に伝えることができますが、この壁は建物頂部で支えられています。そのためできるだけ軽量化を図る必要があり、鉄骨になったものと思われます。
建物の一番下から伸ばした壁と一番上から伸ばした壁をダンパーで繋いでいるわけですが、壁の基礎部分がしっかりしていないとエネルギー吸収効率が低下してしまいます。中央の壁は地下部分や巨大な基礎梁により硬さを確保しやすいですが、吊るされた壁はそうはいきません。
まず、マンションの内廊下があるため大きな断面の部材は設置し辛いです。次に、複数層の部材を利用して硬さを確保してしまうと、建物頂部から吊るしている意味がどんどん薄れてしまいます。また、大きな力を負担する鉄骨の部材を鉄筋コンクリートに硬く固定するのは、異種材料間の接続になるため大変です。
どういう風に上側の壁を建物本体に取り付けているか、非常に興味が湧きます。
ダンパーの過度な集中
下から伸びた壁と上から伸びた壁の間にダンパーを集中的に配置しており、「制振層」と呼ばれています。この部分に設置したダンパーは全て建物頂部の動きを止めようとします。
建物頂部の動きを止めるのが建物の変形を小さくするために最も効果的ではあります。ただ、建物各階の変形を小さくするためにはダンパー量のバランスが重要です。
頂部を止めると次は中央部が膨らむような変形をしようとします。頂部を止めた次は中央部を止めるのが最も効率がいいのです。
各階の変形を制御するにはダンパー量の調整が重要になります。制振層へのダンパー設置だけでどうバランスを取るのか、気になるところです。
まとめ
壁を建物の上と下の両方から出すことでエネルギー吸収効率を最大まで高めた構法と言えるでしょう。ただ、壁の量が多くなることでコストが上昇します。しかも上側の壁は鉄骨で構成されており、コンクリートよりも高くつくでしょう。
また、制振層への過度なダンパーの集中は逆に性能の低下を招きかねません。性能を高めるためにはたくさんダンパーを設置したいところではありますが、建物中央部の変形に悪影響を与えない範囲で調整しなくてはなりません。
とはいえ、制振層のダンパーが地震による振動のエネルギーを効率よく吸収できるのは確かです。耐震性に関心がある方は、もし適用物件があればモデルルームを覗いてみることをお勧めします。
また、このシステムは免震とも相性がいいです。免震と組み合わせることでさらなる性能の向上が見込めるでしょう。
ただ、中央部の壁の分だけコストは上がっているでしょう。それだけの価値があるかどうかの判断が必要です。