バッコ博士の構造塾

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制振・制震ダンパーの種類と特徴:構造設計者が効果を徹底比較

制振構造はエネルギー吸収を行うダンパー(制振装置)の設置方法やその種類等によって、いろいろと分類することができます。

 

□■□疑問■□■

いろいろな種類のダンパーがあり、どれがいいのかわかりません。違いや特徴を教えてください。

 

□■□回答■□■

使用する材料による違いや、エネルギー吸収を行う機構の違いによる分類がされています。最も多く使用されているのが金属材料を使用した鋼材ダンパー、近年使用量が増加してきているのがオイルダンパーです。建物の構造や高さ、期待する効果によって適切なダンパーは変化します。1つずつ見ていきましょう。

 

 

変位依存型(履歴型)ダンパーの紹介

ダンパーの変形量である変位に応じてエネルギーを吸収するダンパーを指します。

 

鋼材ダンパーとは

単なる鋼から特殊な合金まで、金属材料を用いたダンパーを総称して鋼材ダンパーといいます。

 

金属材料に力を加えて変形させていくと、ある時点から急に柔らかくなり変形が進んでいきます。これを「降伏」といいます。ビニールなどを手で引っ張っても同じような現象が起こります。

 

降伏するまでは、力を抜くことで元の形状に戻ります。しかし、降伏以降は力を抜いても元の形状にまで戻らず、降伏以降に変形した分だけ変形が残ってしまいます。

 

金属を変形させるためにはエネルギーが必要ですが、変形が残っているということはその分だけエネルギーが金属内に留まっているということです。金属材料は「降伏」により建物の振動エネルギーを熱エネルギーに変換することでエネルギー吸収を行っています。

 

針金をグイグイと何度も繰り返し折り曲げてみたことがあるでしょうか。折り曲げているうちに曲がったところが熱を帯びてきます。これが熱エネルギーに変換したということです。

 

鋼材ダンパーでは「降伏させるのに必要な力」×「降伏以降の変形量」に応じたエネルギー吸収を行います。

 

メリット:安価、メンテナンスフリー

 

他のダンパーのように複数の材料を組み合わせたり、複雑な機構を持っていたりするわけではありません。言ってしまえば、ただの金属です。そのためメンテンナンスがほとんど不要で、値段も安いものが多いです。

 

デメリット:耐久性が高くない、微小な揺れには効果が無い

 

先ほど針金の例を挙げましたが、さらに繰り返し針金を折り曲げ続けるといつかは千切れてしまいます。金属が吸収できるエネルギーには限界があり、限界を超えると壊れてしまうのです。

 

当然これは鋼材ダンパーにもあてはまります。巨大な地震に何回も遭遇したり、台風により何時間も繰り返し変形させられたりするとダンパーの限界を超え、エネルギー吸収を行えなくなってしまう場合があります。

 

そのため、風揺れや小地震などの小さな揺れに対しては「降伏」しないようにするなど、比較的大きな揺れに対してしかエネルギー吸収しないように設定する場合が多いです。また、取り替えを想定した設計が必要な場合もあります。

 

摩擦ダンパーとは

材と材の摩擦を利用してエネルギー吸収を行うダンパーを摩擦ダンパーと言います。

 

一般的な摩擦ダンパーでは特殊な摩擦材を重ね合わせて摩擦面を構成し、ボルトにより締め付けることで摩擦面に力を導入します。摩擦係数と締め付ける力を調整することで、ダンパーの特性を変化させることができます。

 

ダンパーを引っ張る力が摩擦力、つまり「摩擦面の摩擦係数」×「締め付ける力」を超えると、摩擦面に滑りが生じます。滑って変形したあと力を抜くと、当然ダンパーは元には戻りません。滑った分だけ変形が残ります。

 

先ほどの鋼材ダンパー同様、変形が残るということはそこにエネルギーが留まっているということです。摩擦材は「滑り」により建物の振動エネルギーを熱エネルギーに変換することでエネルギー吸収を行っています。

 

最近は摩擦熱により消せるフリクションのペンが流行していますが、まったく同じ原理です。手で擦るエネルギーが熱エネルギーに変換され、インクが60℃以上になることで色が消えます。

 

摩擦ダンパーでは「滑り出すのに必要な力」×「滑り出し以降の変形量」に応じたエネルギー吸収を行います。

 

メリット:メンテナンスフリー、ダンパーの特性を自由に設定可能

 

鋼材ダンパーに比べると複雑な機構ですが、使用しているのは金属だけのためメンテナンスはほとんど必要ありません。

 

先ほども触れましたが、ボルトの締め付け具合によりダンパーの特性を変化させることができます。建物ごとに最適な摩擦力は変化するため、締め付け1つで調整できる摩擦ダンパーは使い勝手がよいです。

 

デメリット:耐久性がそれほど高くない、微小な揺れには効果が無い

 

摩擦面にはボルトの締め付けにより、非常に大きな圧がかかっています。それが何度も繰り返し滑るため、摩擦材の表面に傷がついていきます。そのため摩擦係数が変化し、想定した摩擦力を発揮しなくなる場合があります。鋼材ダンパーと比べると耐久性は高いですが、他のダンパーと比べると低いです。

 

あまり小さな揺れから滑り出すように設定すると、大きな揺れに対しては力が不足してしまいます。そのため鋼材ダンパー同様、風揺れや小地震にはエネルギー吸収させないのが一般的です。また、耐久性の面からも、あまり早期に滑り出さない方がよいです。

 

速度依存型ダンパーの紹介

ダンパーの変形する速度に応じてエネルギーを吸収するダンパーを指します。

 

粘性ダンパーとは

ドロドロ、ネバネバした液体の中を通過する際の抵抗を利用してエネルギーを吸収するダンパーを総称して粘性ダンパーといいます。

 

粘性ダンパーは、箱状、または筒状の函体に特殊なオイルが充填されており、そこに壁状、または柱状の鋼材が挿入されているという構造になっています。この壁状、柱状の鋼材が揺れによって液体中を移動することで抵抗力を発揮します。

 

ホットケーキミックスを混ぜるのと水を混ぜるのとでは、前者の方が断然疲れますね。また、ゆっくり混ぜるよりも速く混ぜる方が大変ですね。

 

粘性ダンパーでは「ネバネバ具合(粘性係数)」×「動く速さ」に応じたエネルギー吸収を行います。

 

メリット:極微小な揺れから大きな揺れまで効果を発揮する

 

どんな微細な揺れであっても、函体内のオイルに挿入された鋼材が動けばエネルギーを吸収し始めます。風揺れから大地震まで、制振効果を発揮することができます。

 

デメリット:温度の影響を受ける、可燃性、高価

 

料理をする方ならすぐにわかりますが、オイル(油)は温度によって性質が変化します。室温ではドロドロしていたものが、熱したフライパンの上ではサラサラになります。

 

つまり寒い冬場であればドロドロでしっかりエネルギー吸収をしていたものが、暑い夏場はサラサラであまりエネルギーを吸収しなくなります。また、東北地方太平洋沖地震のように揺れが長時間続く地震の場合には、吸収したエネルギーのせいでオイルの温度が上がってしまうこともあります。

 

ダンパーに使用されているオイルは可燃性のものが多いです。しっかりと火災時に火が回らないよう区画する必要があります。

 

特殊なオイルを使用し、複雑な構造をしているので高価なものが多いです。鋼材ダンパーと比べると大きな差があります。

 

オイルダンパーとは

「昔ながらの竹筒の水鉄砲のようなもの」と表現されることが多いです。水鉄砲では筒内の水がピストンに押されて飛び出すわけですが、速くピストンを動かすほど水は遠くに飛ぶ、つまりエネルギーをたくさん必要とします。

 

吸収するエネルギー量を調整するため、ダンパー内のオイルの粘性(ネバネバ具合)やオイルが通過する穴の形状、サイズ等により細かい設定がなされます。もちろん、オイルが外部に飛び出すこともありません。

 

オイルダンパーでは「オイルが穴を通過する抵抗」×「動く速さ」に応じたエネルギー吸収を行います。

 

メリット:微小な揺れから大きな揺れまで効果を発揮する

 

小さな揺れであっても、オイルが穴を通過すればエネルギーを吸収し始めます。風揺れから大地震まで、制振効果を発揮することができます。

 

デメリット:高価、極微小変形では性能が低下、オイル漏れの点検が必要

 

粘性ダンパー同様、複雑な構造をしているので高価なものが多いです。しかし最近は出荷台数が増えてきていることもあり、値段が下がってきています。

 

地震時の大きな揺れの時に比べ、風揺れ等の小さな揺れではオイルが穴を通過する抵抗が低下します。そのため粘性ダンパーに比べると、極微小変形時のエネルギー吸収性能が低い傾向にあります。

 

オイルは密閉されているものの、そこを貫通してピストンが摺動します。そのためオイルが漏れる可能性があります。「基本的にはメンテナンス不要」というメーカーもありますし、多少のオイル漏れが直ちに性能に影響を与えるわけではありませんが、定期点検は必要になってきます。

 

変位依存+速度依存型ダンパーの紹介

ダンパーの変形する量および変形する速度に応じてエネルギーを吸収するダンパーを指します。

 

粘弾性ダンパーとは

鋼材ダンパーや摩擦ダンパーのようにダンパーの変形量に応じてエネルギーを吸収する性質と、粘性ダンパーやオイルダンパーのようにダンパーの変形速度に応じてエネルギーを吸収する性質の両方を持ち合わせたダンパーを総称して粘弾性ダンパーといいます。

 

粘弾性ダンパーに使用される粘弾性体は「こんにゃく」のようなものから「ゴム」のようなもの、あるいは「グミ」のようなものまで幅広くあります。使用される材料も様々で、アクリル系、シリコン系、ゴム系、アスファルト系、その他いろいろな材料を使用しています。

 

変位依存と速度依存の2つの特性を持っているだけあって、非常に複雑な特性を持ったダンパーが多いです。どのように計算モデルに組み込むのか、というテーマでいくつも論文が書かれています。

 

粘弾性ダンパーのエネルギー吸収機構は複雑で、材料内の高分子間の摩擦やその他いろいろな作用により行われていますが、未解明な部分も多いです。

 

粘弾性ダンパーの特性は材料の配合によって決まりますが、あちらを立てればこちらが立たずで、なかなか完璧なものはできていないようです。完璧なものができないがために種類が多くなっています。

 

メリット:比較的安価、極微小な揺れから効果を発揮する

 

鋼材に粘弾性体を貼り付けただけなので、比較的安価です。

 

微細な揺れに対しても効果を発揮するため、風揺れ対策に用いられることが多いです。斜張橋のケーブルの振れ止め等、土木の世界でも使用されています。

 

デメリット:温度の影響を受ける、特性の評価が難しい、大変形対応が難しい

 

通常のゴムでも寒ければ硬く、暑ければ柔らかくなります。粘弾性ダンパーでも温度の影響が顕著です。温度変化の影響が大きい材料では夏場と冬場で2倍以上エネルギー吸収性能に変化があります。

 

先に述べたように粘弾性ダンパーのモデル化だけでいくつもの論文が書かれています。つまり論文になってしまうほど複雑で、理解が難しい材料であるということです。適切な評価を行わないと、設計時に期待したような効果を発揮しません。

 

粘弾性ダンパーの変形能力は使用する粘弾性体の厚さに依存します。厚ければ厚いほど大変形が可能になるのですが、その分硬さが低下していきます。必要な硬さと変形能力を得るには、分厚く大きな粘弾性体が必要になる場合もあり、設計が難しいことがあります。

 

全ての材は粘弾性体?

鋼材や木材等どんな材料でも純粋に変形だけに依存して力を発揮するわけでもありません。反対に、オイルを使用しているからと言って純粋に速度だけに依存して力を発揮するわけでもありません。

 

変形の影響が小さい、または速度の影響が小さいとしても、完全に0ということはありません。あくまでも理想的な状態を想定しているだけです。

 

そういう意味では全ての材料は粘弾性的な性質を持ち合わせています。その特性を大きく引き出した材料が粘弾性ダンパーに使用されているのです。

 

制振ダンパーを有する建物の特性

変位依存型(履歴型)ダンパーを有する建物

鋼材ダンパーや摩擦ダンパーはエネルギー吸収を始めるのが遅いダンパーです。風揺れや小地震に対してはただの鋼材と同じように、建物を硬くするだけの効果しかありません。建物の変形は小さくなりますが、加速度(室内の人が感じる揺れの強さ)は大きくなる傾向にあります。

 

大地震時においては柱や梁に先んじてエネルギー吸収を開始するので、建物の損傷を抑える効果があります。しかし、後揺れ時間を短くする効果はありません。また、ダンパーに変形が残る可能性があり、地震後に建物が傾かないよう手直しが必要になる場合があります。 

 

建物を倒れないようにする効果はありますが、「振動を制御」しているかといえば疑問です。部分的に建物の変形を抑えたい、建物に硬さを付加したいというときには効果がありますが、「制振」というよりは少し性能がよい「耐震」の建物と思った方がよさそうです。

 

粘弾性ダンパーを有する建物

粘弾性ダンパーはやはり風揺れなどの小さな揺れに最も効果を発揮します。居住性の改善に関しては粘弾性ダンパーが一番でしょう。しかし大地震時においては、エネルギー吸収性能が鋼材ダンパーやオイルダンパーよりも劣る傾向があります。他のダンパーと併用することで弱点を補い、微小な揺れから大きな揺れまで幅広い範囲で制振効果を発揮する建物とすることができます。

 

戸建の木造住宅に対しては、硬さと粘性の両方を同時に付加することができる粘弾性ダンパーが最も適していると考えています。硬さだけの鋼材ダンパーや、粘性だけのオイルダンパーより、バランスのよい補強になります。加速度と変形の両方を低下させることが可能です。

 

オイルダンパーも悪くはありませんが、戸建住宅ではメンテナンスに多少難があるかもしれません。その点粘弾性ダンパーでは、鋼材ダンパーほどではありませんが、あまりメンテナンスを気にしなくても大丈夫だと思われます。外気に触れるのはダンパーの極わずかな部分ですので、さほど劣化の心配はありません。

 

速度依存型ダンパーを有する建物

高層、超高層ビルでは断然オイルダンパーがいいでしょう。地震時の変形、加速度、後揺れ時間、どれをとっても最も性能がよいです。繰り返しの揺れや長時間の揺れに対しても特性の変化が最も小さいのがオイルダンパーです。

 

商業ビルであれば比較的メンテナンスも容易ですし、マンションでは共用部からメンテンナンスができる個所に限定して配置されている場合がほとんどです。実際に地震後に取り換えが必要になったという話は今のところ聞いたことがありません。

 

気になる点としては、若干他のダンパーに比べて値段が張るところでしょうか。超高層ビルともなればかなりの台数を設置する必要があり、ダンパー代だけで何億とします。近年値段が下がってきているといっても大きな金額です。

 

まとめ

建物が倒れないことを重視する場合は安価でメンテナンスも容易な鋼材ダンパー、耐震性は十分だけど風揺れが気になるビルは粘弾性ダンパー、木造の戸建住宅で硬さも粘性も欲しいというときも粘弾性ダンパー、高層ビルで性能を重視する場合はオイルダンパーといったところでしょうか。

 

もちろん建物ごとに抱える問題点は異なります。また狙っている性能も違います。納得がいくまで構造設計者に確認するのが一番でしょう。