東洋ゴム工業の免震ゴム、KYBの免震ダンパー、免震構造に関する不祥事が社会問題となりました。連日テレビで取り上げられる大変な事態でした。しかし、その割に免震に関する理解が十分に広がっていないように感じられます。
免震建物には「免震層」と呼ばれる柔らかい層が設置されており、この免震層によって地震の揺れが建物に伝わりにくくなっています。そのため、免震層をどのように構成するかで免震建物の性能が大きく変化します。
免震層を構成する様々な装置を「免震装置」と呼びます。そのうち、建物の重さを支えるのが「免震支承(アイソレータ)」、エネルギー吸収を行うのが「免震ダンパー」です。
免震支承も免震ダンパーもたくさんの種類があります。それぞれの装置の組み合わせ方により、建物の性能は大きく変化します。
免震支承の種類と特徴
免震ゴム(積層ゴム)
免震ゴムの方が一般には馴染みがあると思いますが、構造設計者は「積層ゴム」と呼びます。積層ゴムと一口に言っても、いくつか種類があります。
天然ゴム系積層ゴム(NRB:Natural Rubber Bearing)
最もオーソドックスな装置です。
特徴としては「変形が大きくなっても硬さが変わらない」ということです。「なんだそんなことか」と思われるかもしれませんが、30cm、40cmと変形しても性能が変わらないというのは、なかなかすごいことです。
また、「エネルギー吸収をしない」というのも重要なポイントです。
性能が変形によらず一定なため設計がしやすく、エネルギー吸収に関しても好きなダンパーを組み合わせることができるので、狙った性能を出しやすい装置です。
高減衰ゴム系積層ゴム(HRB:Hi damping Rubber Bearing)
ゴム自体がエネルギー吸収性能を有する装置です。そのため、ダンパーを併用する必要があまりありません。
エネルギー吸収をするゴムというのは複雑な特性を持っており、モデル化が非常に難しいのが特徴です。
販売しているゴムメーカー以外でモデルの中身を完全に理解している人はどれくらいいるでしょうか。理解できないものは使用したくないという構造設計者も多いです。
建物が柔らかく変形するためのバネと、エネルギー吸収をするダンパーが一体化しているので、細かい調整がしづらい部分があります。
エネルギー吸収に特化した装置に比べると、エネルギー吸収性能が劣る面もあります。
鉛プラグ入り天然ゴム系積層ゴム(LRB:Lead Rubber Bearing)
装置の中央部に鉛プラグと呼ばれる鉛製の芯を入れてあり、この芯がエネルギー吸収を行います。その他の部分は天然系積層ゴムなので、変形による性能の変化はありません。
鉛プラグ以外にも錫製や特殊合金製、ゴムと鉄粉を混ぜたようなものもあります。エネルギーを吸収する芯の違いだけで、他に違いはありません。
バネとダンパーが一体化している点では先ほどのHRBと同じですが、それぞれ別の材料を使っているため、エネルギー吸収能力も悪くありません。
ただ、芯材は微小変形時には硬く、ある変形量を超えると軟化してエネルギー吸収を行います。そのため小さい地震に対しては免震効果が薄くなる場合があります。
ペンデュラム
球面上のお皿の中にビー玉を転がすと、一定の周期で行ったり来たりをくり返します。ビー玉の重さや大きさによらず、その周期はお皿の曲率によってのみ決まります。
この原理を利用した免震装置を「滑り振り子型免震装置(FPS:Friction Pendulum System)」と言います。巨大な球面上の受け皿とその中を滑る鋼製の台でできています。
Friction(摩擦)という言葉からもわかるように、球面は完全にツルツルで摩擦が無いわけではなく、小さな揺れでは滑り出さないようになっています。鋼製ですので、滑り出すまでは非常に硬く、免震効果は一切ありません。
この装置の利点としては、建物の重さには一切関係せずに球面の曲率だけで揺れ方の特性(固有周期)が決まることです。
設計時に想定した建物の重さは建物内の家具の量や人の位置、その他諸々により変化します。この装置を使用すると、そうした変動要因を排除できるため信頼性が高いと言えます。
滑り支承
建物の固有周期をできるだけ長くしたいとき、そんなときは復元力(元の位置に戻る力)を持たない「滑り支承」を使用します。
弾性滑り支承
上述の積層ゴムと似たような構成をしています。しかし、片面は建物か基礎にしっかりくっついているのですが、もう片面はツルツル滑る板に乗っているだけです。
最初はゴムが変形するのですが、力が一定値を超えると滑り出します。ゴムによる力が増えていかないため免震層が柔らかくなり、建物をゆっくりと揺らすことが可能です。
また、この時の摩擦を利用してエネルギー吸収も行います。
直動転がり支承(CLB:Cross Liner Bearing)
十字に組んだ鋼製のレールの様な装置です。非常に摩擦が小さく、建物をゆっくりと揺らすことができます。鋼材同士が噛み合っているため、引っ張る力にもある程度耐えられます。
ゴムではちぎれてしまうようなところに設置することが多いです。
免震ダンパーの種類と特徴
免震支承にもエネルギー吸収効果がある装置も多いですが、それだけでは足りない時にダンパーを設置します。
オイルダンパー
免震層の変形ではなく、変形するときの速度によってエネルギー吸収を行います。
建物の変形だけでなく加速度を小さくすることに長けた装置で、このダンパーを使用した免震が最も性能を高めることができます。
他の免震支承や、免震ダンパーとは違い、東西、あるいは南北の一方向にしか作用しないため、両方向に設置する必要があります。
鋼材ダンパー・鉛ダンパー
「U字型」に曲げた鋼材を組み合わせたのが「鋼材ダンパー」、「く」の字のように曲げた太い鉛の塊のようなものが「鉛ダンパー」です。
どちらも変形により金属が軟化することでエネルギー吸収を行います。軟化するまではエネルギー吸収をせず硬いため、小さな地震に対する免震効果は下がってしまうことが多いです。
免震装置の耐久性・交換
鉄筋コンクリートや鋼材でできた建物とは違い、大部分の免震支承はゴムを使用しています。また、オイルダンパーなどは機構が複雑なうえ、内部にはオイルが封入されています。
そうしたことから、建物自身の耐久性に比べ、免震装置の耐久性の方が短いのではないかという指摘があります。
免震ゴムの耐久性はとりあえず60年程度と言われています。100年建築を目指す昨今の風潮から言うと、少し短い気もします。
そのため、竣工から30年以上経過した古い建物から免震ゴムを抜き出して試験を行うなど、経年変化に対する研究は進められています。建物をジャッキで持ち上げて別のゴムと交換し、試験所に持ち帰って実験を行っています。
ゴムは外部に露出しているのではなく、しっかりと保護用の被覆ゴムに包まれています。その甲斐もあってか、研究結果を見る限り今のところは心配無さそうです。
免震ダンパーについては、建物の重さを負担していないので交換は容易です。仮に性能が低下すれば、交換することになるかもしれません。