バッコ博士の構造塾

建物の安全性について本当のプロが綴る構造に特化したブログ

兵庫県南部地震を経験して:構造設計者が振り返る阪神・淡路大震災

1995年1月17日午前5時46分、激しい揺れが神戸市周辺を襲いました。兵庫県南部地震です。

 

 

兵庫県南部地震の再体験

地震発生当時はまだ10代の前半で、ことの重大さを全くわかっていませんでした。震源から遠い震度3の地域に住んでいたため、揺れに気づくこともありませんでした。ただ、テレビを見ながら深刻な顔をしていた両親のことは今でも覚えています。

 

将来構造設計を生業にするとは夢にも思っていませんので、しばらくは「とんでもない地震があったな」程度の認識でした。しかし、建築学科に進学し、構造を専門とするようになってからは気になる存在に変化しました。

 

いつどこで発生し、マグニチュードがいくつで、震度分布がこうで、被害状況は・・・といったことは知っています。検索すれば簡単に調べることができます。しかし、「どんな揺れだったか」という感覚的なことは一向にわからないままでした。

 

そんなとき、地震体験ができる機会が数年前にありました。近所の公園に地震体験車が来る、ああいうやつです。兵庫県南部地震の東西・南北・上下の揺れを同時に、つまり当時計測された揺れそのままを体験することができました。

 

二十数年前に知ることのなかった、本当の兵庫県南部地震です。

 

構造設計者が感じた兵庫県南部地震

率直な感想としては「!?」です。こんな激しい揺れ、建物が壊れるに決まっているだろと衝撃を受けました。木造なら1階がぐちゃぐちゃに、鉄筋コンクリート造なら柱や壁がひび割れビリビリに、鉄骨造なら傾いて元に戻らない、そんなイメージが湧きました。

 

これに対して建物を倒れないようにしなくてはならないのか、構造設計は大変だと今更ながら再認識しました。普段相手にしているコンピュータが出力する数字はただの数字ではなく、実際の地震や被害状況なわけです。

 

また「中小地震に対して損傷しない、大地震に対して倒壊しない」という耐震基準にも頷けました。このレベルの地震に対して損傷しないようにするには、柱や壁を2倍や3倍にしなくてはならないでしょう。

 

損傷を許容することで地震の力を真正面から受け止めることなく、なんとかやり過ごすことができます。建物のデザイン性、豊かな住空間、経済的な建設費、これらを確保しつつ人命を保護する、良策だと思います。苦肉の策、と受け取れなくもないですが。

 

巨大な実験施設

1924年に水平震度の考え方(地震の力を考慮した設計の義務化)が取り入れられてから、耐震基準は大地震の度に改正が繰り返されてきました。地震力の想定、壊れやすい構造、細部の仕様、新しい基準に適合した建物ほど安全性は高まっています。

 

2016年の熊本地震では特に耐震基準の改正はありません。一部では「木造住宅の構造計算の義務化」や「安全率の向上」を求める声もあるようです。個人的には法律に頼るのではなく、個々の建築士が考慮すべき問題だと思います。

 

法律により一律で底上げを図る方が楽な側面はありますが、設計の自由度が下がるというマイナス面があります。しっかり設計できていない建築士のせいで、しっかり設計できている建築士が割を喰うのはいかがなものかと思います。難しい問題ではありますが。

 

いずれにせよ、耐震工学はまだまだ発展途上です。全ての建物はこの発展途上な学問に拠って設計されています。日本列島という巨大な振動台の上に載せられた試験体のようなものです。

 

地震が起こってほしくはありませんが、確実に起こります。その度に日本中の建物を対象とした大掛かりな実大実験が行われるのです。これに勝る研究はありません。壊れた建物も壊れなかった建物も新たな知見を提供します。たくさんの犠牲の上に成り立っているのが耐震工学です。

 

兵庫県南部地震で大きな被害が出たのは事実です。しかし、あれだけの激しい地震でありながら、1981年の耐震基準改正以降の建物被害が顕著に少なかったことは耐震工学の進歩を感じさせます。

 

熊本地震は法改正という形では建物の安全性に寄与しないかもしれませんが、設計者および消費者の意識を変えることには繋がりました。構造設計者の一人として、この地震、この被害の現状をしっかりと肝に銘じておかなければなりません。

 

日本の構造デザイン

「海外の建物に比べると日本の建物は柱が太くて野暮ったい」といった指摘はよくあります。「地震国だから仕方がない」といった言い訳もあります。実際、地震の度に耐震基準は厳しくなっていく一方です。

 

確かに海外の建物は「思い切ったなぁ」というものが多々あります。しかし、日本の建築士たちも頑張っていると思います。

 

耐震基準が厳しくなっていく度に建物は柱が太く、格好悪いものに変わってきたでしょうか。昭和の建物よりもむしろ開放感のある、軽やかな建物は増えてきていると思います。

 

その裏には、新しい材料、新しい構法、新しい解析方法、その他いろいろな新しい何かが貢献しています。耐震基準が厳しくなる速度よりも速く技術が進歩することで建物のデザインは洗練されてきているのです。

 

安全安心かつデザイン性に優れた建物、あるいは経済的な建物、その他優れた建物、これを目指して日々精進です。